第66話 VSクティナ(偽) 閃の神具
『第10の魔弾!!!。ついでに、竜皇閃砲神光!!!。』
『…!?。』
両手から別々の神技を発動。豊華さんと基汐の神技。
山脈すら軽く消し去る2つの砲撃がクティナへ命中する。【浮遊】のスキルで浮いていてくれているお陰で、周囲の被害を気にせず上に放つだけで良いのだ。
『これで、17発目…。多重結界も後1つだな。』
クティナの周囲に展開されていたスキル【多重結界】。
多くの防御結界は、今まで続け様に放った仲間達の神技によって破壊されていった。そして、残りは1つだけ。
『続けて行くぜ?…呪血黒爪赤牙!!五聖獣極転炎!!黒食掻抉蛇咬!!。』
矢志路、睦美、神無の神技を同時に発動。最後の結界は破壊され防御結界は無効化された。
これで合計20の神技を、仲間20人の能力を発動した。
俺の後ろにある巨大な歯車時計型の神具【時刻法神】に組み込まれた各々のNo.が刻まれた小型の歯車時計。神具を使用したメンバーのNo.が光を放つ。
『そして、接触崩壊を無効にする!黒雷呪万雷喝災!!!』
『…!?。』
白の神技。
黒い稲妻が周囲に落雷となって降り注ぐ。絶え間ない落雷に巻き込まれ浮遊していたクティナが地面に落下する。
落雷の直撃はクティナの動きを封じ、スキル【接触崩壊】のダメージ許容量を超えたようだ。
『!!!。』
突然、クティナの周囲に七大罪の獣が現れクティナの肉体を取り囲んでいく。そして、1体の獣へと姿を変える。全ての獣の特徴を集約したその姿の中心に上半身だけが露出したクティナが俺を見下ろしていた。
クティナのスキル【獣神化】。全ての獣のスキルを使用可能な状態となった。
『知っている。だから、既に次の準備は終わらしている!神技!氷獄乱華!炎天陽光!』
智鳴と氷姫の神技。
極大の炎と氷の合わせ技。凍らせ燃やす。周囲を巻き込んだ2つの神技は、クティナを中心に地獄と化した。
怠惰のバリアも憤怒の強化もさせないままクティナを纏う獣の外装は剥がれ消滅する。
これで22人。俺以外の全員の神技を発動した。
背後の神具、【時刻法神】は時計の頂点、 0時 の部分のみを残して光を放ち輝きを増していた。
これで、準備は完了だ。
大抵の敵は、1つ2つの神技で決着がつく。
全ての神技を受けて尚、立ち上がるクティナ。偽者だとしても、クティナの名に恥じない強さだった。
『神具…発動。』
ゴーーーーーン!。ゴーーーーーン!。
ゴーーーーーン!。ゴーーーーーン!。
時計の鐘が鳴り響く。
歯車時計が砕け散り中から一振の刀が出現する。
『これを使うのも久し振りだな。』
この刀は、魔力消費が激しすぎて数秒しか使えない。しかも、発動条件が【時刻法神】を出現させ、自分以外の全てのメンバーの神技を使用すること。
神技を使用するのに殆どの魔力を持っていかれた状態で使うこととなるのだ。使い勝手が悪すぎる。
『神具…刻斬ノ太刀。』
『…!?。』
手に取った刀。
鍔の部位に小さな時計が埋め込まれている特徴的な外見をした、鞘に納められている刀。
それを、鞘から抜く…。
『くっ!?。やっぱり、スゲェな…。』
全身の魔力が急激に吸われていく感覚。
身体全体を襲う脱力感と倦怠感。内から感じる際限無く減っていく魔力量の残数。
そう…この刀は、抜き身になっている間、常時俺の魔力を吸い続ける刀なのだ。
その吸収力は凄まじく、少しでも油断すれば気を失ってしまう程だ。
『だが、効果は絶大だ。まあ、お前は何も見えないし聞こえないだろうがな。』
今現在、この世界で動いているのは俺だけだ。
目の前のクティナ、周囲にいる仲間達は勿論、世界の全てが 停止 した。
持ち主を時間の狭間へ入刻させる刀。それがこの神具の効果。
『終わりだ。』
刀を振りクティナの首を斬り落とした。
『ふぅ。しんどいな…。』
刀を鞘に戻した時、世界は動き始める。
その瞬間、クティナの首が落ちる。崩れ落ちるように小さな結晶になったクティナは1つのアイテムをドロップしていった。
『これは?。くっ…。』
神具を消しアイテムを拾った途端、全身の力は抜け俺はその場に座り込んだ。
はぁ、暫く動けないぞ…殆どの魔力を持っていかれた…。
クティナがドロップしたアイテムを見る。
それは小さな結晶。
アイテム名【クティナの肉体】。
クティナの…肉体…か。つまりは、今し方戦ったクティナの身体は本物だったということ。
クティナの本体…本来の意思が、この現実世界に実在する可能性も出てきた訳だ。
色々、調べねぇといけないことが増えてきたな。どうしたら、わかんだよ!。
…それにしても。
『硬すぎだろぉぉ。クティナよぉ!神技全部喰らって生きてるとか…化け物かよぉぉおお!!!。』
その場に寝転がり取り敢えずバタバタと暴れてみた。
『はぁ…。駄目だ。疲れた…。』
魔力を使い果たし体力も底をついた。
『あっ!?旦那様!ご無事ですか!!!。』
倒れている俺を見つけた幼い姿に戻った睦美が炎の翼をバタつかせ飛んで来る。
ああ、神技でも使ったのか。睦美の神技は自分の生命力をエネルギーに変換するからな。
『睦美、お疲れ~。』
『旦那様!どうしたのですか?倒れてしまって!?どこかお怪我を?私が治します!どこですか!?どこにお怪我を!?。』
俺の身体をペチペチと触り怪我がないかを調べる睦美を撫でて止める。
『ありがとう。でも、大丈夫だ。久し振りに神具使って魔力が切れただけだから。』
『あっ…そうでしたか!今、私の魔力を分けますね!転炎光!!。』
全身から優しい白い光の魔力が、俺の身体を抱き締める睦美から流れ込んでくる。
睦美の【転炎光】は、傷を治すこと以外にも、触れた対象を綺麗な状態に戻す、そして、魔力や体力を対象に分け与えるなど様々な応用法があるスキルだ。
『ありがとう。睦美。』
『はい!旦那様がご無事で安心しました。』
炎の翼を消した睦美が嬉しそうに笑う。そんなに心配してくれたのか…若干涙目だし…。
『主様。御無事で!。』
『お疲れ~。神無。』
影の中から現れる神無。
それから続々とメンバーが集まってきた。
『お疲れ~旦那~。』
『アニキ!お疲れ様です!。』
『流石の閃もクティナ相手だとバテているな!。』
『お疲れ様、閃君。』
『あの…お疲れ様です!。』
『ぉ疲れ…』
『皆様、御無事で何よりです。』
何とか終わったみたいだな。
矢志路を連れて帰る筈の目的がクティナ討伐に変わるなんてなぁ。予想外すぎる。
『今回の件はいったい何だったんだろうね?僕達の危険性を感じた青法が送り付けてきたと見るのが良いのかな?。』
『多分な。だが、今回のクティナは偽者だ。何せクティナ本体に 攻撃用のスキル が1つもない状態で攻めてきたんだ。余程慌ててたのかねぇ…。』
『確かに…。』
『だが、防御スキルは本物だった。俺達全員の神技を受けきる程に…レベルも恐らく…150…か、それに近いレベルだろうな。』
『どうも…あやふやだな。』
『主様。私で良ければ偵察してきますが?。』
『いや、後で良い。それより皆ここから離れよう。いつまでも此処に居たら、また戦闘になっちまう。』
『そうですねアニキ。それに、そろそろ夜が明ける。俺達の力が落ちてしまう。』
『旦那~まだダルいだろ?俺が運んでやろうか?。』
『駄目じゃ!お前!閃の身体を堪能するつもりじゃろ!そんなことさせんぞ!。』
『チッ!。』
『舌打ち!?』
そんな話を繰り返した後、俺は賢磨さんと豊華さんに支えてもらうこととなり、全員でその場を後にした。
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塔の上から戦いを見下ろしていた青嵐。
彼の心境は穏やかではない。
クロノフィリアの侵入を許したばかりか、兵士達はほぼ全滅。矢志路という男を捕えていた建物内の兵士や、監視を任せていた時雨は洗脳され傀儡状態。
偽りの神 クティナを差し向けても相手にならず…やられ放題…。
打つ手がない…。
その考えに至らされたクロノフィリアに憎悪の視線を送り付けるも、逃げていくアイツ等を此処で指をくわえて見ているしかないという現状に苛立ちを抑えられないでいた。
『くそっ!!。クティナでも歯が立たないだと!?やはり、偽者の神など信じられん!早く我が信仰する神をこの世界に呼び出すしかない…ということか…。』
青嵐の信仰する神 リスティナ。
それが、全てを握る 鍵 だということを知る者は少ない。
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青法のエリアから少し離れた林の中で、俺は光歌に貰った通信機で拠点にいる仁さんと話、情報を共有していた。
睦美のお陰で僅かに回復した魔力での通信なので時間が限られているが、早急に情報共有をする必要があると思い今に至る。
初めは無凱のおっさんに掛けたのだが通じず仕方なく仁さんに掛けた。
仁さんの話では、リスティナの宝石がこの世界に7つ存在し、それは俺達クロノフィリアにとって、とても大事なモノなのだと言う。
無凱のおっさんも黄のエリア内にある宝石を探しに行っているらしい。
だから、通信に出なかったのか。
『成程。偽者のクティナがね…。』
『はい。奴等は俺達がまだ知らない情報を持っているのは確かですね。青は白と繋がっているのは確定。白のギルドマスター 白蓮が何をしようとしているのかを早急に突き止める必要があると思う。』
『そうだね。それで、こっちの情報と照らし合わせると次に僕達がするべきことは…。』
『リスティナの宝石集めですね。』
『そう。白ちゃんの話では宝石は7つ。赤のエリアのモノは白ちゃん達が回収したらしい。』
『あと6つの宝石か…。』
『そこからなら、緑のエリアが近いんだけど。緑には宝石が2つあるらしい。閃君には、そのまま緑龍のエリアに向かって欲しいんだけど頼めるかい?。』
『はい。そう言うことなら任せて下さい。』
『ありがとう。で、もう1つ頼みたいんだけど。緑のエリアには、僕達の仲間、最後の1人が居るみたいなんだ。』
『機美姉か。』
『そう。彼女のこともお願い出きるかい?。』
『はい。最初から仲間探しの為にここまで来たんですから。けど、矢志路と新入りのメンバー3人、あと賢磨さんと豊華さんは魔力が回復次第、箱を使ってそっちに送るから準備をしておいて下さい。』
『ああ。了解。こっちのことは心配しないで大丈夫だよ。』
『じゃあ、魔力も限界なんで切ります。』
『ああ。連絡ありがとう。身体に気を付けてね。』
『はい。』
俺は通信を切った。
『…アニキ…すまねぇ。太陽はやっぱ駄目だ…。』
『ごめんなさい。私達も…駄目みたいです…。』
『…だるぃ…。』
『申し訳ありません。このような姿を…お見せしてしまって…。』
朝日が昇り。
矢志路と黒璃、暗、聖愛の4人がその場に座り込む。
矢志路は吸血種族であるが故に太陽の光で、その能力が低下する。そして、彼女達も矢志路と血の契約を交わしたことで半吸血種族になっている為、矢志路程では無いにしても太陽の光の下では本来のポテンシャルを発揮出来なくなってしまっている。
『気にするな。お前達は俺が拠点に送ってやるから。賢磨さんと豊華さんも一緒で良いか?。』
再会した時から感じている豊華さんの違和感。賢磨さんは何かあったように言っていたからな。休息が必要だろう。
『おう!つつ美が呼んでいるんだったな!帰ったら、すぐ会いに行ってやるぞ!。』
『大丈夫だ。閃君。豊華さんのことは僕に任せてくれ。』
『ああ。』
『あと、さっき話に出たリスティナの宝石だけど黒のエリアにあったモノは僕達が回収したよ。』
『え!?そうなのか?。』
『ああ。これだね。』
賢磨さんがアイテムBOXから取り出した1つの宝石。
確かに見覚えがあった。
裏ボス リスティナの身に付いていた7つの宝石の1つ。
これを集めるってことか。
『OKだ。それは、賢磨さんが拠点に持ち帰ってくれ。』
『分かった。』
宝石をアイテムBOXに入れる賢磨さん。
『神無と煌真と睦美は、このまま俺と一緒に緑龍のエリアに向かって欲しい。』
『おう!任せろって旦那!機美のヤロウも見つけ出して引っ張り出してやるからよ!。』
『御意!。…やっと…姉さんに会えるわね。』
『勿論じゃ!…旦那様と一緒なら何処までも…ついていきます。』
3人が頷く。
その後、俺は無凱のおっさんの能力 箱 を開き6人を拠点へ送る。
さて、新しい目的が出来た。
最後のメンバーと宝石を求めて、俺、神無、睦美、煌真の4人は緑龍絶栄のエリアへ向かう。
新たな旅が始まるのだった。