第45話 突然の再会
白聖連団の街を、ゲーム時代の名残から 帝都 と呼ぶ。
帝都の中心には、ギルドマスター 白蓮が住む山のように聳え立つ巨大な居城が建造され帝都の何処からでも、その存在感を示している。
この巨大な居城こそが現在の白聖のギルドホールなのだ。
居城に続く石造りの道は、ゲーム時代の帝都を再現した造りになっており、商店街、住宅地、工業地帯へと続いている。その途中、大きな噴水のある公園があり、家族連れやご老人達の憩いの場として人気がある。
公園から居城に続く道の途中に俺と睦美は居た。
『凄い懸賞金額じゃな。』
『ああ、それだけ白蓮が俺達クロノフィリアを警戒しているということだろうさ。』
クロノフィリアの手配書が並ぶ一角。俺は男の姿、睦美は成人した20歳前後の姿が手配書に写っている。
今の俺は女の姿、睦美は幼女。外見的に見付かることはないだろうが…。
『このフードを被った女の手配書は…お主ではないか?。』
クロノフィリアの手配書には…生死は問わずと書かれているのに対し、その横に綺麗に飾り付けまでされている手配書には、生け捕り無傷でのみと書かれている女の俺が写っていた。
『ああ、俺に惚れたどっかのチビデブがいてな…求婚してきやがった。』
『ほう。ああ、もしかして水鏡のヤツが言っておったアレか?。』
『そうだ。あの辺りの管理を任せれていた坊っちゃんだな。』
『哀れにも化け物に食われたという…。』
『まあ、自業自得だな。コントロール出来ない存在を自分の力だと勘違いしていたしな。』
『やれやれじゃのぉ。どこの組織にも1人はいるものじゃしな…。』
『まったくだ。』
その場を離れ公園内を歩いていく。
『おお、噴水じゃの!水しぶきがキラキラと輝いておる!。』
公園の中心にある巨大な噴水を見て興奮する睦美。そのまま、ゆっくりと近付いていく…と、タイミングよく地面に設置された噴出口から水が吹き出した。
『きゃははははは。気持ちぃのぉ!。』
『楽しそうだな。』
『ああ。ほれ、くらえ!。』
『わぷっ!?。』
睦美が俺の顔に水をかけて来やがった。
『おい!やめろ!Tシャツが透けるじゃねぇか!。』
『おっ。そうじゃったな。すまんすまん。ブラを着けてなかったのじゃったな。』
その言葉に周囲の男どもの視線が俺に集まるのを感じた。
『お前…ワザとだろ?。』
『何のことかのぉ。』
『ったく。』
俺が睨むと蜘蛛の子を散らすよう男どもが散り散りになっていく。
『それより、アレを見ろ!。』
『あれ?。』
『アイスクリーム屋さんじゃ!一緒に食べようぞ!。』
『ああ、懐かしいな。こんな世界になってからは、あんまり食べる機会がなかったしな。良いぜ。』
『やったーなのじゃ!。』
俺はチョコレート。睦美はバニラを買った。
『美味しいのぉ。』
『ああ、甘いな。』
2人で公園のベンチに座りアイスクリームを食べる。
女の姿になっている間は、甘いものが男の姿の時よりも美味しく感じる。味覚の違いなのだろうか?。
隣でアイスクリームを美味しそうに頬張る睦美は外見そのままに幼く見える。
『おっ?。どうした?。』
『いや。睦美って本来の年齢はどれくらいなんだろうと思ってな。』
『む?レディに年齢を聞くとは失礼な!。』
『まあ、俺も今は女だし良いんじゃねぇか?。』
『まあ、良い。ワシの実年齢はゲームが終了した時が14歳じゃったからな、2年経って16歳じゃ。』
『ああ、やっぱり年下なんだな。』
『こんな能力だし、この2年ずっと老婆じゃったからのぉ。言葉遣いも、それっぽく練習したのじゃが逆に癖になってしまってのぉ。』
『成程なぁ。』
『おっ。ししし。子供は閃のようじゃな。ほっぺにアイスが付いておるぞ?。』
『あ?。どこだ?。』
『これ。動くでない。ワシが取ってやる。』
座っている俺の身体を登ってくるように近付く睦美。
可愛い顔が一瞬、何かを決意したような表情になると…。
ぺろんっ。と頬を舐めた。
『ししし。取れたぞ。チョコも美味しいのぉ。』
『おい!わざわざ舐め取る必要があったか?。』
『大有りじゃ!。お主の事を好きな…おなごが、ここにも居たということじゃ。覚えとれ!。』
顔を真っ赤にし照れ隠しに大きな声で仁王立ちして言い放つ睦美。
ちょっと、可愛く。いや。普通に可愛いのだが…ここまで堂々と言い切られるとこっちも照れるな…。
『お前…さっきの氷姫に感化されたな?。』
『ギクッ!ドキッ!。』
『効果音を口で言うほどテンパってるじゃないか…。』
『いやな…ワシには唇と唇は流石にまだ早いというか…照れるというか…でも、羨ましかったのじゃ!。』
『そうか。』
『なぁ、閃よ。』
『何だ?急に真剣な顔になって。』
『ワシはお主が愛してくれるなら何番目の女でも良いぞ。皆、歳もとらぬしな。だから、いつかでいい。結論が出たら…。』
『ああ。この状況が落ち着いたらな。必ず答えは出すさ。それまで、悪いが待っていてくれ。』
俺は睦美の頭を撫でた。
『お、おう…。まさか、真っ直ぐ返球してくるとは思わなかったぞ…。』
『俺だって。色々考えてるんだぞ?。まあ、最低な野郎にならないように頑張るさ。』
『ハーレムエンドでも皆、納得すると思うぞ?。何せ皆、元はゲーマーじゃからな。そういう趣向的な考え方も知ってるし。理解もあると思う。ワシ自身も一向に構わん、クロノフィリアは全員が家族じゃからな。』
『男としては、そそられる案だな。考えてみるよ。』
『ああ、気長に待っとるわ。』
お互いに笑い合い、アイスクリームを完食した。
そろそろ、出発ということで舗装された道路を歩いていく。
『閃。今のワシは小さいじゃろ?。』
『ああ、今は6歳くらいか?』
『7じゃ。失礼な!。』
『大した変わらないな。で?小さいからどうしたんだよ?。』
『肩車して欲しいのじゃ!。』
『マジか?。』
『マジじゃ。』
『そんな目を輝かせて言われてもなぁ…。』
キラキラの瞳が俺を見つめている。
はぁ…。断れなかった。
『おお!。高いのぉ!これが閃の目線の高さか!。』
『いや、もっと高いだろう…。』
『閃~。』
『こらこら。頭に抱きつくな!。前が見えん。』
『と、言いつつ落ちないように、然り気無く支えてくれているとな。』
『そういうのは言葉にするな…。』
『ししし。楽しいのぉ。』
商店街…住宅地…工業地帯…を抜けると古びたビル街に出る。流石に人通りが少なくなっているな。空気も何処か薄暗く重い感じだ。こういう雰囲気の場所にはお約束が付きまとうモノだが…。
『閃…気付いておるか?。』
『ああ。つけられてるな…。数は5…いや、6か。』
『どうするのじゃ?。』
『取り敢えず、誘い出してみるか。周囲も裏路地とか結構ありそうだし。』
俺は建物の間の細い路地へと入っていく。案の定、後を追って入ってくる6人。
『今、使い魔を飛ばして調べたが、この先は行き止まりのようじゃよ。』
『誘い込むには都合が良いな。』
追手と絶妙な距離を保ちつつ裏道を進んでいく。
『ここが行き止まりか。』
『そうじゃ。』
高い建物の塀に囲まれた場所。
『さて、どんなヤツが俺達を追っていたのかねぇ。』
『楽しそうじゃのぉ。』
『お約束だからな。』
『ししし。確かにのぉ。』
ぞろぞろと現れる5人の男達。
白聖の騎士ではないな…。みすぼらしい服装だし強さも感じない。
スキル 情報看破 発動。
レベルは…80、50、55、62、73…雑魚だな。
所属は…あっ。一応、白聖連団になってる。
『おお!コイツは聞いた通りの上玉だぜ。まさに絶世の美女ってヤツか?。顔も良けりゃ、身体も、ひゅ~~。最高じゃねぇか!。』
レベル80男が俺を上機嫌で舐め回すように見てきやがる。ふと、あのチビデブを思い出しちまった。レベルが1番高いし、多分…コイツがリーダーかな?。
『上の、ガキもなかなか高く売れそうですよ!兄貴!けけけ。コイツは当たりですねぇ!。』
レベル50の明らかに下っ端の男。コイツ…俺の仲間にガキで売るだぁ?。殺してやろうか?。
『良いかな?お嬢さん。随分な美人さんだけど、こんな場所で何をしてるんだい?。』
レベル73の男。この中で一番顔が整っている。如何にも女慣れしてそうな態度がイラつくな。
『てめぇ等に話すことなんて、ねぇよ。』
俺の言葉遣いに驚く男共。
『まじか、この女…あの見た目で生意気の強気女かよ!?。』
『へへへ。これは調教のしがいがありますなぁ。』
レベル55と62の男…何か世紀末にいそう…。
『なぁ、姉ちゃん。大人しく俺等の言うことを聞けば悪いようにはしねぇ。どうだ?。俺達の所に来ねぇか?。』
すげぇ。異世界とかでもないのに、それっぽい台詞が飛び出した。
ドヤ顔で言い放つリーダーの男。
へへへ。ケケケ。ヒヒヒ。コココ。
三下っぽい笑い方の三下共…鳥っぽい…。
『嫌なこった。バーカ。』
『…ははははは。言うじゃねぇか。俺の言うことを聞いておけば痛い思いしないで済んだのによぉ。ヤメだ!壊れるまで俺等で遊んでやら
ぁ!てめぇ等!準備は良いか!。』
『はい!。』『おう!。』『キキキ!。』『ケケケ!。』
『待ちたまえっ!。その女性は君達がどうこう出来る人じゃないよ!。』
『はっ?誰だ?てめ…え!?。あっ!?貴方様は…!?。』
5人の男達を止めた、もう1人の男。俺達を追っていたのは全部で6人。最後の1人は、このバカ共の少し後ろを付いて来てた。
『樺緒楽様。どうして、ここに…。』
『やぁ。昨日ぶりだね。セレナさん?。』
バカ男達を無視して俺に話し掛けてくる。そう言えば俺…咄嗟にセレナって名乗ったんだった。
おう。セレナよ。言い名前じゃな。お似合いじゃぞ?。
うるせぇ。その名前で呼ぶんじゃねぇぞ。
ししし、皆に広めようかのぉ。
おい!?止めろよ?。
ししし、弱みゲットじゃ。
おいおい…勘弁しろ…。
睦美とのアイコンタクト会話。
『あっ?股間はもう大丈夫か?。』
『股間!?』
俺はNo.16のスキルを発動。裏是流の能力を宿した神剣。能力は幻想獣の召喚。
俺の周囲を守るように現れる蛇のようなモンスター。
『おお!久しいな、クミシャルナ…だったか?』
『きゅぅぅぅううううう。』
俺の幻想獣の1体、クミシャルナの頭を撫でる睦美。クミシャルナも嬉しそうだ。
『ひぃぃいいい。』
そして、クミシャルナを見て怯える樺緒楽。
『そうだ!ソイツだ!ソイツのせいで…。』
樺緒楽は剣を取り出す。
『殺してやる!。セレナさん!その化け物を差し出して頂きたい!ソイツのせいで僕の象徴が…。』
『バカが!そんなことするわけねぇだろうが!』
『セレナさん…そうですか…では、実力で排除し…がっ!?。なっ…に!?。』
『樺緒楽様!?』
ええ?。何か樺緒楽の胸から刀が飛び出たんだけど?。心臓に一突き…致命傷だ…。
『やいやいやーい!か弱い女性を襲うなんて最低の男がやることッス!そんな悪いヤツは!この白様が容赦しないッスよ!。』
あっ…聞き覚えのある声とテンション。
建物の隙間へ射し込む光をバックに立つ見覚えのある小柄な鬼の少女。
クロノフィリア No.19 白だ。
『呪伸刀!。これで終わりッス!。』
『ぎゃぁぁぁああああああああ!!!。』
刃が伸びる刀で横一閃。
男共含め樺緒楽を真っ二つ。
そして…その刀で斬られた者は呪いの効果で蝕まれ腐れ落ちる。
『悪は滅びるッス!。さぁ、お嬢さん方!もう大丈夫ですよ。悪い男達は、この白が退治しましたよ!…って、あれ?。』
近付いてきた白が俺達に気付いたようだ。
『閃先輩に。睦美先輩じゃないッスか?。全然か弱くないッス!。』
『はっ?どう言う意味だ?おらっ!。』
白の頭に軽くチョップ。
『痛いッス!先輩!。』
『ししし、変わらぬな。お主も。』
『きゅぅぅぅううううう!。』
『あっ!クミシャルナちゃんじゃないッスか!やっぱり可愛いッスね。』
クミシャルナを撫でる白。撫でられ満足したのかクミシャルナは姿を消した。
『それにしても…こんな場所で何してるんスか?。』
『それはこっちの台詞だ。今まで顔も見せないでお前こそ何してた?。』
『白は、代刃っちと春瀬っち一緒に悪いヤツを倒して回ってたッス!。世直しの旅ッス!。』
『何、代刃の野郎も来てんのか?あの野郎…いつまで隠れてんだって思ってたんだがな。で、今あの野郎は何処にいるんだ?。』
『あれ?。先輩は代刃っちに会って…。』
『待て待て、待つんじゃ白よ?。』
俺の肩に居た睦美が炎の羽を広げ白の元に飛ぶ。
ん?なんスか?睦美先輩?て言うか何でそんな喋り方なんスか?お年寄りみたいッス。
それは気にするでない。2年間、婆さんじゃったんだ。癖よ。
あっ。そうだったんッスね。大変だったんスね。
まぁの。て、そんなことはどうでも良い。代刃のことじゃ。
代刃っちスか?。
あやつはまだ、自分が女だと閃に明かしてはおらんようなのじゃ。
あっ。そうなんッスね。だから昨日も顔を真っ赤にして戻って来たッスね。
あやつが自分の口から言うまで待ってやってくれ。
もちろんッスよ。親友の恋愛ッス!応援するッスよ!。
ああ、助かる。
『おい!いつまで、ひそひそ話してんだ?。』
『な!何でもないッス!。』
『おう!少し近況報告をな。』
『そうか…で?代刃の野郎は今何処にいるんだ?。』
『残念ッスが今は別行動中ッス。』
『別行動?。そう言えばお前はここで何してるんだ?。』
『ここって言うか。この先にある森の中の洞窟ッス。』
『洞窟?。そこに何があるんだ?。』
『分からないッス。でも、そこに行った人の話では化け物?がいたらしいッスよ。』
『化け物?。』
化け物…。俺の脳裏に蘇る地下の化け物。もしかしたら…。あれが…まだ?
『その…洞窟…俺も行って良いか?。』
『え?良いんッスか?心強いッス!。』
『おお!もちろんワシも行くぞ!。』
『睦美先輩…。助かるッス!。』
嬉しそうに飛び跳ねる白。
『じゃあ、早速案内してもらおうか!その洞窟とやらに!。』
『はいッス!。』
『いざ!行かん!。』
突然の再会は俺達を新たな戦いに誘うのであった。