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第9話 竜鬼と銀虎

 ゲーム エンパシスウィザメントには、様々な武器、武装が存在した。

 現実世界に現存するモノは勿論のこと、映画や小説、漫画やアニメの中に存在していたモノ、SFやファンタジー世界にあるようなモノ。

 そして、プレイヤーオリジナルのモノまで。

 武器の製造方法や入手方法は幾つかあり、ショップでの購入、イベントの報酬、鍛冶スキル持ちによる生成、モンスタードロップ、合成など様々であった。

 全てのプレイヤーは、最初から武器のスロットが1つ与えられる。このスロット数はゲームの数少ないルールでありスロット数が増えることは原則としてない。

 そして、スキル同様にレベルが上昇すると、己の扱いたい武器と能力を入力する画面が現れ、必要なレベル、ポイント、素材などが提示される。

 また、武器の通称はギルドによって様々でクロノ・フィリアメンバーは自分たちの武器のことを 神具(シング) と呼んでいる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 クロノ・フィリアメンバーが各々の持ち場で待機して30分が過ぎた。

 仁が構える店から真っ直ぐ100メートル程行くと少し開けた広場がある。

 そこを持ち場として与えられたのが基汐と光歌だった。


『ねー、ダーリン、ヒマだね』

『そうだな。もう灯月ちゃんと氷姫は敵を迎撃したらしい。』

『え!そうなの?やっぱキてるんだねぇ。テキ。』

『ああ。それは間違いない。まあ、俺たちが守っているのが仁さんの店の真っ直ぐ正面だ。流石に敵も正面突破とか馬鹿な考えの奴はいないらしい。』


 退屈なのか横たわるドラム缶の上に座り携帯端末をいじりながらガムを噛む光歌と廃材に寄りかかり腕を組む体制で瞑想する基汐。

 そんな時間が10分程経過すると。


『ねぇ。ダーリン。』

『ん?』

『キたみたい。バカが。』

『む…。』


 体制を整え広場の入り口を見る基汐。

 つまらなそうに携帯端末から視線を離さない光歌が言う。


『光歌の空間認識には、いつも驚かされるな。俺も今気が付いたぞ。』

『えへへ。ダーリンにホめられちゃった。』


 ドラム缶の上から飛び降りた光歌は基汐の腕に抱き付く。


『あれ?でも、カズ、スクないじゃん。3ニンしかいないよ?』

『ああ。あの真ん中にいる奴がリーダーようだな。後ろの2人は部下だろうが…部隊って聞いてたんだがな。』

『フクヘイってイうんだっけ?マワりにテキのケハイはないみたいだよ。』

『なら、少数精鋭の実力主義の正面突破ってとこか。いいね。燃えてきた。』

『ウチはパスね。ダーリンのことオウエンするのガンバるから。』

『ああ。構わない。』

『でも、キブンでウゴくかもだからオコらないでね。ダーリン。』

『…まあ、程々にな。』


 再びドラム缶の上に戻る光歌。携帯端末を再び取り出し、新しいガムを噛み始めた。


『さて、やりますか。取り敢えず会話してみるか。』


 基汐が前に歩み出る。


『よぉ。お疲れ。あんた等が侵入者?』


 余りにも気軽い声に後ろに控えていた2人が戸惑っている。


『そうだ。お前たちがクロノ・フィリアのメンバーで間違いないか?』


 真ん中の男が話す。


『おっ。会話してくれるんだな?いい感じだぜ。おうさ。クロノ・フィリア No.Ⅷ 基汐だ。宜しくな。で、こっちが恋人のNo.ⅩⅩⅡ 光歌だ。』

『どーもー。』


 携帯端末から視線を離さず声だけの対応。

 予想通りの反応に苦笑いの基汐。


『俺は、緑龍絶栄の特殊部隊隊長 威神だ。レベルは110!肉体強化中心に能力を組んでいる!』


 堂々と言い放つ威神に嬉しそうに反応する基汐。


『おお。お前、いいな。行動に迷いがない。そういうの好きだぜ。』

『また、ダーリンのワルいクセがハジまった。』

『光歌。やっぱ邪魔すんなよ。コイツとマジで殺り合いたくなった。』

『はいはい。ガンバってね。』


 手をヒラヒラさせる光歌。


『でだ。改めて聞くが何しに此処に来た?』

『力を試すために。』

『力を?』

『お前たちクロノ・フィリアのゲーム時代の伝説は耳にしている。数々の伝説級のイベントミッションを圧倒的スピードでトップクリアし、ラスボスを最初にクリアしたのもお前たちだ。』

『ああ、懐かしいねぇ。』

『お前たちクロノ・フィリアは全員がレベル120と聞く。この、モンスターもミッションもイベントもない現実の世界では、もうレベルを上げることは出来ない。だから、俺は試すのさ。』

『試す?』

『今の俺自身の実力でどこまで行けるのかを。それを知るにはクロノ・フィリアに挑むことが手っ取り早いだろう。』

『なるほどねぇ。確かに俺たちは強いぜ?しかもお宅等は侵入者だ。リーダーからも場合によっては殺しても構わないって言われてるが、それでもやるのかい?』

『無論だ。正直な話、緑龍絶栄にも興味はない。ただ、どこかの組織に属していた方が強い奴と戦えるからだ。ここで、お前たちと戦えるなら組織の任務などもうどうでもいい。』


 その言葉に、後ろの部下たちも驚いているようだ。


『威神さん。それは、上に報告させて貰いますが宜しいですか?』

『ああ、構わない。お前たちが俺を疑い上から命令された監視であることも理解している。俺の目的は今叶ったのだ。お前たちも本部に戻って上に指示に従うが良い。』

『ここで生き残ったとしても、おそらく本部は貴方を危険と判断しますよ。レベル110を野放しには出来ませんから。』

『構わない。』

『了解しました。ですが、私たちにも既に出されている任務がありますので、本部に帰るのはその後です。』

『何!?』


 その言葉に、威神が反応するが一瞬間に合わず細い紐状の何かに縛られた。


『くっ。』

『貴方も知っての通り私たちは監視だ。ついでに貴方が裏切った場合も捕縛、もしくは殺害の許可も得ているのです。』


 威神が捕縛から逃れようと力を入れる。


『ちっ』

『無駄ですよ。これは、捕縛した対象の魔力を吸収することで動きを封じる効果があります。スキルすらも封じられた貴方では到底振りほどくことなど出来ませんよ。』


 そう言うと男の一人がナイフを取り出す。


『せめて苦しまないように殺してあげます。』


 静かに近づくナイフを持った男。ナイフに纏わせた魔力は、魔力を封じられている威神を一撃で屠るだけの威力を持っていた。


『覚悟!』

『そうはさせねぇよ。』


 ガキン!という音が響き、男の持っていたナイフが刃を折られ弾き飛んだ。

 ナイフを弾き返したのは鋼鉄以上の硬度を持つ竜の鱗に覆われた基汐の腕だった。


『なっ!?その腕は…がっ!?』


 ナイフが弾かれたことに驚いたのも束の間、間髪いれずに男二人の眉間に風穴が空いた。


『お前…何故俺を助けた?』


 ナイフを弾き返した基汐に威神が問う。


『助けたって言うか。俺がお前と戦いたくなったからだな。てか、後ろの2人を殺ったのは俺の彼女だ。』

『…』


 威神が光歌の方を見る。ドラム缶の上で銃を構えていた光歌が静かに銃を下げた。余りにも可憐な少女には不釣り合いなゴツく黒い銃だった。


『ベツにアンタのためじゃないよ。ダーリンのため。あとソコのクズどもにちょっとムカついた。』


 携帯端末に視線を戻す光歌。


『ああ。ついでにアンタをカンシしてるっぽいコバエがトんでたんでハッキングして、アンタ、コロされたエイゾウにスリカエといたから。アンタ、シんだことになったとオモうよ。』

『なんだと。』

『ははは、すげぇだろ?俺の彼女。』

『にゃん。ダーリンにホめられたぁ。』

『光歌、耳としっぽ出てるぞ。』

『にゃっ!?』


 基汐に誉められたことで気が緩んだのかデレ顔の光歌の頭と尻に銀色の耳と尻尾が生える。が、慌ててそれを引っ込めた。


『…ミた?』


 いつの間にかドラム缶の上にいた筈の光歌が威神の前に立ち額に銃を突き付けていた。全く見えなかった動きと途轍もない殺気に首を横に振るしかなかった威神。


『わりぃな。コイツ今の見られるの死ぬほど嫌がるんだ。見なかったことにしてやってくれ。』


 耳元で基汐が小さな声で教えてくれる。


『こら。光歌、それ引っ込めろ。』

『あっ!?うん。ごめんね。ダーリン。』

『謝るのは俺じゃなくこっち。』

『…ごめん…』


 これが、クロノ・フィリアか。こんな奴らが10人以上いるのか。と威神は思った。


『ははははは。』


 突然、笑い出す威神。


『えっ?ナニ?キモいんだけど。』

『おう。どうした急に?』

『いや。緑龍はとんでもない奴らに喧嘩を売ったんだなと思ったら可笑しくてな。お前らを見ていたら勝てるわけがないと改めて思い知った。』

『ははは、俺らなんかでビビってたら他のメンバー見たら気絶するかもな。何せ俺らの力なんてクロノ・フィリアの中なら下から数えた方が早いからな。』

『そうなのか?』

『ああ、たぶんワースト1と2かもな。』

『…』

『あと、ついでに言っておくとお前、出会ったのが俺らで良かったぜ?他のメンバーに当たった奴らほぼ全滅したとさ。』

『…』


 そうか、確かに侵入した俺たちでは相手にならないだろう。


『さて、じゃあ、やるか?』

『む?』

『安心しなよ。俺はお前を気に入ったからな。だから、殺さねぇよ。相手してやる。全力で掛かってきな。お前の全力を受け止めてやる!。』

『いいのか?』

『お前もそのつもりで侵入してきたんだろ?じゃあ、俺らはもう仲間みたいなもんだろ?光歌のお陰でお前は死んだことになったみたいだしな。クロノ・フィリアで保護してやる。』


 チラリと威神が光歌の方を見ると再びドラム缶の上で携帯端末を見ていた。


『わかった。助かる。』

『よし、話は決まったし掛かってこい。』

『ああ。』


 その後、この一件が解決するまで2人の戦いは続いたのだった。

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