第9話
貴族街の宝石店に、真珠のネックレスを持ち込んでみた。
「あっ!貴方は!」
どうやら、公開処刑を見ていた人らしかった。
「これはこれは。お安くしておきますよ」
いや、安くされたら困るんだが。
「コレを見て欲しいんだが」
そう言って、白の大珠の真珠のネックレスを、収めた紫色の箱を開いて見せた。
「コレは、買い取り希望という事ですかな?」
「ああ、その通りだ。
だから、お安くされると困るんだが」
「お値打ち価格を保証致せばよろしいですかな?」
「お幾らになりますか?」
「うーん………」
安くは無い筈だ。と、信じたい。
「金貨10枚。いや、20枚!」
お話にならなかった。
「お手数を掛けて申し訳ございません。
その価格では売れません」
「なっ!!」
いやだって、元の真珠が、4つで金貨1枚だったんだぜ?
ソレを96個も、ズルい手段を使ったとはいえ、均一の質の物を揃えて、金貨20枚?
確実に、足もとを見られている。
最初のワンセットに関しては、手間暇も掛けているんだからな!
「少々お待ち願います。
今、上の者を呼んで参りますので」
「いや、そこまでお手間を取らす真似は出来ませんので」
「そこをどうか、お願い致します。必ずや、ご納得のいただける価格を示してご覧に入れますので」
「うーん………あなたの顔を立てて、一度だけチャンスを与えましょう」
「ありがたく存じます。
少々、お待ち願います」
ありゃ。椅子を用意されて座らされ、お茶まで出していただいたよ。まだ、お茶って高いのに。
「いただいても構わないのでしょうか?」
「良いんじゃない?」
遠慮無く、一口いただく。まさか、毒は仕込むまい。客商売だ、悪い噂が流れたら、致命的なダメージになる筈だ。
「お待た致しました、店長のエイトと申します」
「話は粗方?」
「ええ、聞き及んでおります」
「で、商品がコレなんですが」
商品を見やすく紫色の箱に入れたまま差し出す。
「失礼致します」
白い手袋を填めて彼女はネックレスに触れた。
「ほぅ………見事に揃っておりますね」
「そうなるように作りましたので」
「確かに、コレを金貨20枚は安いですね。しかし、仕入れ値としては、安過ぎはしないかと思いますが」
「ハハハハ、まさか!」
俺は、相手の弱みに付け込む。
「わざわざこの貴族街の店に持ち込んだんだ、間違い無く、貴族ならば金貨100枚を出してでも欲しがる筈だ!」
「──!!」
「サービスしようか。
コチラの、ピンクの真珠と黒の真珠、共に大玉で形も綺麗だ。
この3点セットで金貨100枚では如何か?」
「少々、考えさせていただけますか?」
恐らくは、買い取る筈だ。俺には用意出来なかったが、あの部品さえあれば、全部、2つに増やせる筈だ。
銀細工用のであればあったのだが、俺にはその部品で見栄え良く仕上げる自信が無かった。
「考え中のところ、申し訳無い。
この店ならば、このネックレスを、端と端とで止めて、2つに作り変える事が可能なのでは?」
一本に繋がっているから、頭の通るサイズが必要だった。
でも、宝石店の技術であれば、直接首に巻いて、後ろに留め金でも付ければ、48玉でも、首の細い人ならば身に着けられる筈だ。そして、首の細い貴族ならば、美しさを美徳としている筈だ。多少値は張っても、買い求める筈だ。
「それも考えていたのですが、48玉では少々小さ過ぎるかと」
「必ずしも一周に揃える必要は無いのでは?」
「ですが、それでは贅沢感が無いのではないかと」
「フゥ………」
一旦、息を吐いて覚悟を決めた。
「3セットで金貨280枚。
………そちらに支払い能力はありますか?」
「………現物を見てからの交渉に移りたいのですが」
「では、コチラを」
箱ごとコピペして作ったネックレスを、3色3セット並べて見せた。
「これは………お見事」
「お如何かな?」
「支払いましょう、金貨280枚!」
かくして、俺の所持金が多少多くても誤魔化せる言い分がついた。