第34話
それから俺たちは、取り憑かれたかのように、一層、より一層と、厳しい魔獣へと立ち向かい、ギリギリの戦いを繰り広げていった。
「ちょっ、ちょっと待って下さい!」
最初に異変に気付いたのは、ナナさんだった。
「ゼロさん、幾ら何でも、無茶過ぎませんか?」
「このくらいの魔獣を狩らないと、俺たちはもう、強くはなれない」
「でも!このままだと、誰かが死んでしまいます!
下手したら、ゼロさんが亡くなるかも知れません!」
「………それがどうした?」
「ゼロさん!」
バチンッ!
いきなり、ナナさんからビンタを張られた。
「正気に戻って下さい。
今のゼロさんは、何かに取り憑かれているようにしか見えません!」
「………それがどうした?」
「これより先に進めば、死人が出ます。
引き返しましょう」
「俺は覚悟は出来ている!」
「ダメです………!
ゼロさん、私たちの為に、引き返して下さい!」
「お前たちの為に………?」
俺は、皆の顔を見渡した。
疲労困憊、余力も無く、無理を通している事は一目瞭然。
確かに、これより先に進めば、犠牲は出るだろう。例え、今までに勝てた相手が獲物だとしても。
「しかし………」
反論しかけて、俺はハッと気付いた。
──コイツらは、ココで死ぬ覚悟をしていないんだ………!
「引き返そう」
俺はそう指示を出しながらも。
「さあ、帰りだからと、気を抜くなよ!」
俺は、こう決断した。即ち──
一人で、死地に向かおう、と。
無事に宿まで帰って、俺はまずワンさんとナインさんを呼び出した。
「御用でしょうか、ゼロさん」
「うん」
俺は、テーブルに金貨100枚を積んだ。
「今までご苦労だった。
2人を奴隷から解放する。
この金は、当面の生活費と、生計を立てる目処を付ける為の資金にしてくれ」
「しかし………!」
「メソッドを展開。インスタンス、俺。引数、ワン&ナイン。
『パーフェクト・ヒーリング』」
慌てて左手の甲を確認する2人。奴隷紋は、もう無い。
「じゃあ、お幸せに〜♪」
そう、俺が奴隷を買った以上は、幸せになって貰いたい。
そう思い、俺は2人を手放した。
次は、ヨンさんとイチさんだ。
概ね、同様のやり取りをして決別した。
残るは、ナナさんとロクちゃんだ。
迷いはある。
あの4人は、責任を取れる男と十分な金がある。
あとは、各々の責任だ。
だが、ナナさんとロクちゃんには、そういった依存出来る相手が居ない。
だから、俺は2人には、云うべき言葉を変えた。
「ナナさん、ロクちゃん」
2人を呼び出しておいて。
「──俺と、心中してくれないか?」
「──は?」
ナナさんは、心底呆れた声で云った。
「ゼロさん、全く心中する理由が無いですよね?」
「でも、幕引きは必要だ」
「ゼロさんは、あの公開処刑をも生き延びました。
それはつまり、神様的な存在から、『生きる事を許された』と言い換える事も出来るのではないですか?」
「生きる………事を、許された………?」
「はい。
人は、どれだけの業を積み重ねても、生きる事だけは、許して下さるのではないですか?」
「しかし、俺は、取り返しのつかない過ちを犯してしまった………」
「本当に神様が許せない罪をゼロさんが犯したとするならば、その時、ゼロさんは天罰で亡くなるのではないですか?」
「………天罰は、下っていたんだ………!」
「………え?」
そう、天罰で、俺は下っていたんだ。
下らないと云えば、確かに下らない事ではあるが、確かに下っていたんだ!
世界の成り立ちが分かった気がして、自由自在のつもりでいたんだ!
でも、結局は一発屋にすら成れていない。
諦めるなと人は云うが、状況的にはもうすぐ終焉が来ることは、間違い無い。
人為的な要素を排除しても、恐らくは無理だ。
何としても回避したいが、不可能だ。
そう、不可能だ。
不可能だ。
そう、その呪いがずっと俺に掛けられていたのだ。
バッドエンドのフラグは立てておきながら、グッドエンドのフラグは立てて居なかったのだ。
何たる愚かな事か。自分でも呆れ果てる。
だが、ちょっと待って欲しい。
世の中のありとあらゆる概念が、俺にとって縁起の悪い物の塊のようなこの状況下で、精神的に死んでいた時期にまるで不運にワザと向かうかのような行いをしていた事が、致命的になるまで気付かず、手遅れになってから、ようやく『開眼』したというこの事実。
『開眼』する前は、ただ周囲に流されていたんだ!
自己を確かに持つまでに、周囲から徹底的にイジメ尽くされ、左端にまで至らしめられたんだ!
気付かない方が悪い?気付いた途端にこんなにもの災難が降り掛かって来たのに?
むしろ、気付く前に亡くなっていた方がマシのような状態だ。
世界を支配していた事にも気付いていなかった。
俺が、そんなに重要人物とは気付いていなかった。
アイツは気付いているのだろうな。何せ、大国のトップだ。
怒れば怒る程、イジメられるという事実には気付いていないらしいが。
アイツが『666』という数値に触れた時が楽しみだ。尤も、既に触れている可能性は高いが。
恐らくは、アイツがラスボスだ。
そして、恐らくウク◯イナに蝿の王が居る。
俺が、間違えてベルゼブブに加護を与えてしまったが故に、情報はベルゼブブに筒抜けだ。
ウク◯イナの次は北◯道をターゲットにしているようだが、ソコまで手を出せば、間違い無くハルマゲドンが起こる。
核の飛び交う、破滅的な戦争になるだろう。
いっそのこと、アイツの脳の血管がプッチンして、亡くなってくれると助かるのだが、神はその天罰を下すだろうか?
いや、やはりせいぜいが下るだけだろう。死までは至るまい。
ナ◯スを随分と意識しているようだが、アイツ自身の方がヒ◯ラーの尻尾になってしまっている事には、気付いていないようだ。
おっと、閑話休題だった。
「4人は手放してしまったし、これでは狩りにも行けないな」
「………いえ、行ってみましょう!」
「………は?」
この時、俺は意識していなかったが、少し後に、俺は自業自得の意味を確かに知るのだった。




