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13.告白

 ライル様は、重苦しい空気に耐えられなくなったのか、話を変えた。


 「そういえば、よくソフィアのいる場所が分かったね?」


 ……とうとう話す時が来てしまった。

 頭のおかしい奴だと思われないだろうか。

 不安で息が詰まる。


 「そ、それについてなんですけど……」


 「ん?」


 「その場所が分かったのは、私の記憶が関係してて……」


 「……記憶?」


 ライル様の眉間に皺が刻まれる。


 「ちょっと信じられないような話なんですけど……

 聞いてくれますか?」


 「もちろん」


 私はおずおずと話し出す。


 「えっと……その……

 私には……おそらく前世だと思われる記憶があるんです!」


 ライル様の目が大きく開かれる。


 「信じられないでしょうが、本当なんです。

 前世の私は、日本という国に住む桜庭杏奈という名前の女の子でした」


 「さくらば……あんな……」


 ライル様が呆然と呟くように私の名前を呼ぶ。

 すると、すぐにライル様は神妙な表情で、私に尋ねた。


 「どこまで?」


 「え?」


 どこまで……とはどういうことだろう?


 「……前世がどのように終わったのか覚えている?」


 ライル様の表情は真剣で……少し焦ってるようにも見えた。


 「……い、いえ。

 十三歳の途中までしか思い出せていないんです」


 「……そう」


 ライル様はどこかホッとしたように見えた。

 ……先ほどから一体どうしたというのだろうか?


 ライル様が深く聞いてこないので、私から話し始める。


 「実は、この世界は私が前世でやっていたゲーム……えーと、私が前世で知った物語と同じ世界観なんです」


 「そのゲームはどんなもの?」


 ライル様の順応性が高くて驚く。頭のいい人は、こんなぶっ飛んだ話にもすぐに慣れるものなのだろうか。いや……流石のジョシュア様だってなかなか理解できないような顔をしていたのに。


 予想外の質問に私は慌てて答えた。


 「は? え……と……、恋愛ゲームというもので、ヒロインが学園の男性陣と恋をしていくものです。攻略対象は、ライル様とジョシュア様、ルフト先生とウィルガ。そして、隠しキャラがいるみたいです」


 「いる、みたい?」


 ライル様は険しい顔をする。


 「それが最後までやっていないので、分からないんです。そういうキャラクターがいるとゲームを教えてくれた人から聞いただけで」


 ライル様は何か考えながら「そう……」とだけ呟いた。

 いろんなことを考えているようで机上の一点だけを見つめている。


 少し経つと、今度は顔を上げて、私に質問する。


 「ついでに各キャラクターのシナリオ通りに物語は進んでいるのかな?」


 「いえ、ゲームが始まる前提からして色々と違います。だいたい物語では学園が始まる前に私……アンナ・クウェスは死んでいるのです」


 ライル様がガタンと立ち上がった。

 その驚きように私の身体がビクッと跳ねる。


 「死んでるだって?!」


 「……は、はい」


 ただならぬライル様の様子に少し不安を感じる。

 先ほどから様子がおかしい。


 その時、ぽそっとライル様がつぶやいた。


 「くそ……っ、そんな内容だったなんて……」


 「はい?」


 「……すまない、取り乱した。続けてくれるかい?」


 ライル様に先を急かされ、話し始める。


 「ゲームでは私がいないので、公爵家の後継はウィルガになっていますし、ライル様の婚約者はソフィアです」


 「そう。ついでにそのゲームの主人公は誰?」


 「リィナです」


 「あいつか……そういうことね。では、彼女も転生者で、その上ゲーム内容を熟知しているのか? だから、彼女は本来知らないことを多く知っている、と」


 「……ライル様、すごいですね」


 本当にすごい。これだけしか話してないのに、なぜこんなにもあっさりと受け入れられるのだろう。私はライル様の頭脳に感嘆した。……まるで杏奈の生きていた世界のことを知っているようなーー


 しかし、私の考えを打ち消すかのようにライル様は言った。


 「あぁ。色々なことから推測すれば、簡単に分かるさ」


 「そうなんですね」


 きっと王子であるライル様のところには驚くような話が届いたり、普通は知り得ない伝説の話なども知っているから、似たような話を聞いたことがあるのかも……と、自分を納得させた。


 ライル様が神妙な顔つきになる。


 「では、アンナ、そのゲームの内容を出来るだけ細かく最初から教えてくれる?」


 「は、はい!」


 私は、ライル様、ジョシュア様、ルフト先生ルートの話をした。


 「ーーと、私が覚えているのがここまでです。」


 「ありがとう。


 ただ……正直あの女と結ばれる話など物語でも聞いていて気持ち良いものではないね」


 そう言ってライル様は苦笑した。


 「ゲームの中のリィナと、実際のリィナは随分と性格が違いますからね」


 「そうだね。

 でも、魔宝のことやリィナの秘密が分かったのは、大きな収穫だよ。アンナ……ありがとう」


 ライル様はそう言って、目を細めた。


 「本当はウィルガや隠しキャラルートも分かったら良かったんですけど……。もう一回、ジョシュア様に頼んでーー」


 「駄目だっ!!」


 ライル様が机上に置いてあった私の手を痛いくらいに掴んだ。


 「お願いだから……もう危険を犯すのはやめてくれ。

 今回はたまたま運が良かっただけかもしれない。

 次は目覚めなかったらどうする?


 ……それに取り戻す記憶が良いことばかりとは限らないだろう? ゲームの続きもやっていない可能性だってある」


 ライル様の瞳が揺れる。


 私の身体を……心を……心配してくれているのかもしれない。


 確かにこうやって記憶を取り戻していけば、いつか杏奈が死ぬ場面の記憶を取り戻すことになるかもしれない。それが事故だとか悲惨な死に方だったりすれば、今の私の心に傷を負わせる可能性も否定できなかった。


 でも、もしもの時はーー


 私は本当の気持ちを隠して、微笑んだ。


 「そうですね。もうやめておきます。

 あれ、すっっっごく痛いので、もう嫌です」


 「うん。そうして欲しいな」


 ライル様は今度は優しく私の手を握った。


 「……ところで、前世ではーー

 す、好きな奴とかいなかったのか?」


 少し顔を赤らめて、ライル様が尋ねる。

 

 「ふふっ。いたら、どうなんです? やきもちですか?」


 「い、いやっ! 流石にそこまでは……」


 「思い出してる記憶の限りは、いなかったですよ。

 仲の良い幼馴染はいましたけど……そういう目で見たことは無かったかなぁ」


 「……ふーん」


 ライル様はどこかいじけたように、頬杖をついている。


 「あ、侑李って言うんです! ……ライル様が火事から助けてくれた時に私が呼んでいたのも『侑李』だったんですよ」


 不思議そうな顔をしたライル様が尋ねる。


 「なんで、この世界にいない奴のことを呼んだんだ?」


 あの時のことを思い出す……


 「声が聞こえた気がしたんです。

 『大丈夫』『煙は吸わないように』って」


 「そうなんだ……その続きは?」


 ライル様は真っ直ぐに……どこか熱っぽくこちらを見つめる。

 でも、何のことを言っているのか、さっぱり分からない。


 「その続き……?」


 「……そんなの、ない……か。

 ごめんね、変なことを聞いた」


 そう言って、少し寂しそうに笑った。


 ……ライル様の笑顔の裏には何かが隠されているような気がした。





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