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4.失踪

 魔法学が終わり、グラウンドからソフィアが待つルフト先生の研究室へ戻る。ルフト先生は少し用事があるらしく、グラウンドに残るとのことだった。


 ライル様とリィナとウィルガは、三人揃って、講義棟へ戻って行った。


 研究室までの間、ジョシュア様とユーリと話しながら帰る。


 「ユーリ、リィナの様子はどうだった?」


 ユーリは頭の後ろで手を組みながら、歩いている。


 「んー、いつもと変わんなかったかなぁ。あーでも、少し機嫌良かったような気もするな……。

 いつも俺と組まされる時は怖い顔してんのに、今日は時々何かを思い出したように笑ってた」


 「なんだか不安ね……また何か企んでるような気がしちゃうわ」


 私の意見にジョシュア様も頷く。


 「本当だな」


 「ウィルガはどうなんだ?」


 ユーリがウィルガについて尋ねれば、ジョシュア様は深く考える素振りもなく、首を横に振った。


 「普通だった。特に私に敵対心を抱いている様子はなかったし、淡々と課題をこなしていただけだ。リィナにひっついている以外は、至って真面目で優秀な奴なんだよな。

 ところでーー

 アンナは、随分と楽しそうだったな?」


 「……え、いや、ライル様と直接話せるのも久しぶりだったので……」


 ユーリが隣でうんうんと頷いている。


 「だよなぁ~。ジョシュア先輩は毎日のようにアンナと話してるのに、ライルは殆ど話せないなんてあんまりだぜ」


 「それを言うなら、ユーリの方が長い時間アンナといるだろう!?」


 ジョシュア様が少し声を荒げる。……全く何を競っているのか。


 「俺はいいの、友達だから。なっ、アンナ?」


 そう言ってユーリは私の顔を覗き込んだ。

 私もそれに応えるように笑顔で返す。


 「えぇ。ユーリは私のもう一人の親友よ」


 「ほらな」


 ユーリは、ジョシュア様に笑いかける。

 ……ほらな、って何を言っているんだろう?


 それをジョシュア様は神妙な顔つきで受け取った。


 「……いいのか、それで」


 「あぁ。俺にはここが丁度いいみたいでな!

 とっくに納得してる」


 ユーリがニカッと笑ったのを見て、ジョシュア様は「そうか」と言っただけだった。……どうしたんだろう、二人とも。


 「ほら、もう一人の親友と可愛い妹が待ってるぜ。

 急ぐぞ」


 「うん!」


 ユーリに急かされ、私たちは足早に研究室へ向かう。最近は嫌がらせもかなり落ち着いてはいるが、未だにリィナの取り巻きはいるので、ソフィアや私は一人にならないようにしている。


 ただ魔法学だけは参加できないので、最近はルフト先生の研究室で待たせてもらっているのだ。先生の研究室なら、先生が結界を張ってくれる。人が入ればルフト先生に知らせが飛ぶし、侵入者には攻撃を行う。ソフィアの安全は、国一番の魔法士に守られているから、心配することはないとは分かっているのだが、やっぱり離れていると不安になる。


 私は勢いよく研究室の扉を開ける。


 「ソフィアー、おまたせー!

 ……ソフィア? どこなの?」


 ソフィアの姿が見えない。

 後ろから入ってきたジョシュア様も、ユーリも顔を顰めた。


 「ソフィア? どこだ?」


 ジョシュア様の険しい声が研究室に響く。


 「おい、これ……」


 いち早くソフィアの座っていた席に行き、座席下を確認したユーリが顔を青くしている。


 私とジョシュア様もその場所に行く。


 机の上にはノートとペン……。ノートは真っ白で、何も書いていなかった。しかし、水が落ちて乾いた後のように波打っていた。

 座席下には鞄が残されて、割れたコップの破片と、その中に入っていたであろうコーヒーが散乱していた。


 ジョシュア様がグッと唇を噛む。


 「……ソフィアが拐われたかもしれない。鞄を残して、何処かに行くことは考えられないし、大体ソフィアは無駄に心配をかける行動はしたりしない。

 コップは抵抗した時にぶつかって割れたのかもしれない」


 「ソフィアが……?!」


 一番恐れていた事態が起きてしまった。

 目の前が真っ白になる。


 ソフィアに危害を加えられたらどうしよう。脅されたり、怪我をさせられたり、最悪な事態が起こってたらーー


 想像して、身体が震える。上手く、呼吸が出来ない。涙がボロボロと出て来て、止まらなかった。


 ソフィア、ソフィア、ソフィア……っ!!


 さっきまで今日が幸せだと思っていた自分を殴ってやりたかった。


 足に力が入らない私をジョシュア様が近くの椅子に座らせてくれる。フラフラと倒れるようになんとか椅子に座った。


 「くそっ!!」


 ドゴォンっと低い音が響く。

 ユーリが机を殴ったようだった。


 「ユーリ。今は当たり散らすよりソフィアを探し出すのが先決だ。


 急いでルフト先生の所へ走り、至急ここに戻るよう言ってくれ。俺は風魔法で校内の探索と空中からの探索を行う。念のため、屋敷にも戻ってないか確認する」


 「分かった」


 ユーリは、急いで研究室を出て行った。


 「グスッ……ジョシュア様……、私もーー」


 「アンナはソフィアの無事を祈ってくれ。

 それが一番重要だ」


 ジョシュア様は私の頭に手を置いて微笑むと、廊下に出た。


 前に私にダンスを見せてくれた風の妖精さん達に指示を出し、動かしていく。しかし、あの時よりずっと数多く使役をしているようで、ここから僅かに見えるジョシュア様の横顔は苦しそうで、脂汗が滲んでいる。


 ……私には何も出来ない。また視界が涙で歪んでいく。

 泣いてる場合じゃない。ソフィアを一刻も早く助け出さないと!


 「なにか……私にも出来ること……っ!」


 ズズッと鼻を啜り、必死に頭を動かすが、何も思いつかない。私が使えるのはマッチ程度の火魔法だけだし、剣も使えない。本当に役立たずだ。自分の無力さが憎らしくて、痛いくらいに唇を噛む。


 でもーー


 足で探すことはできる……!


 私は椅子から立ち上がる。

 扉の前で精霊さん達を使役するジョシュア様の横を通り抜ける。


 「アンナ! どこへ?!」


 「講義棟の中、隅々まで探してきます!」


 「危ない! 戻れ!」


 「ごめんなさい! でも、じっとなんてしていられないんです!」


 「アンナ!!」


 ジョシュア様、ごめんなさい。私が動くと、それだけで心配事が増えるって分かってるけど……ただ祈りを捧げるなんて無理。祈るだけじゃ何も解決しないもの……っ!


 講義棟への廊下を全速力で走る。

 周りの生徒は何事かと目を丸くして私を見ているし、きっと教師に会えば怒られるだろう。


 けれど、そんなことは関係ない。


 だって、私の大事なソフィアが……何よりも大事なソフィアが……!


 二階は資料保管庫が多く、普段使われていないから、拐って、ここに閉じ込めている可能性もあるはず。そう思って、ドアを片っ端から開けていく。


 しかし、そんな私の考えはむなしく、二階には誰もいなかった。


 「そうだ!ライル様なら……!!」


 今は私たちの関係を勘繰られることのないよう、普段はライル様との接触はしないようにしている。けれど今は緊急事態だ、そんなことも言っていられない。ライル様なら魔法も使えるし、何か知ってるかもしれない。


 この時間なら、まだ講義棟にいるはず。

 二年の講義は三階に集まっているから、上に上がればーー


 勢いよく階段を走り上る。

 まだランニングを続けていて良かった。


 上りきって、曲がろうとした所で、人にぶつかりそうになる。


 「っ……すみません」


 走っていた私が悪い。相手の方に謝り、顔を上げると、そこには微笑みを浮かべるリィナがいた。


 「ふふっ。私、今、すごく気分が良いので、許して差し上げます」


 「……リィナ」


 憎たらしく微笑みを浮かべるその顔を思い切り睨みつける。


 「どうしたんですか? そんなにこわぁーい顔して」


 「貴女なんでしょ!? ソフィアを何処にやったの!?」


 リィナはコテンと首を傾げる。

 一体いつまでヒロイン気取りなのか。

 ゲームのリィナと違って優しさのかけらも無いくせに。


 「さぁ、何のことです? 私、さっきまでアンナ様たちと一緒に授業を受けてたじゃないですかぁ?」


 「耳飾りの力で操った人達を使ったんでしょう?!

 早くソフィアをどこにやったのか、言いなさい!!


 言わなきゃ貴女を……絶対に、許さない……!!」


 私の言葉を受けて、クスクスとリィナは笑い声を漏らした。


 「別にいいですよ? だって、アンナ様にはなーんにも手出し出来ないもの」


 「なんですって……?」


 「どうやったって、アンナ様には見つけられないですよ。ライルルートだけしかやってない人に、あの部屋は」


 今ほどゲームをやっていないのを後悔したことは無かった。


 「教えなさい……!」


 鼻の奥がツンとなり、目が潤む。声も、震える。


 「そんな風に頼んで教えると思いますぅ?」


 そう言うとリィナは、手を組んで、自分より少し背の低い私を見下すように一歩前に出た。その態度は横柄で、偉そうで…この状況を楽しんでいた。


 「……どう頼んだって教える気なんてないくせに」


 絞り出すようにそう答えると、リィナは両手で口を隠した。


 「あはっ! バレちゃいましたぁ? ふふっ♪」


 「もう貴女には聞かない、どいて!」


 リィナと話しても時間の無駄だ。

 今は一秒でも早くリィナを助け出さないと……!


 「あ。ライル様に頼ろうとしてるなら、無駄ですよ。今日は公務で帰りました。大体アンナ様なんか協力しないと思いますけどね。

 ライル様、クールを装ってますけど、本当は私に夢中なんですよ。二人きりになると本当に情熱的で、私身体が持たなくってぇーー」


 私は踵を返す。ダラダラと話し続けるリィナは無視だ。


 研究室へ戻って、ジョシュア様に一度相談しよう。

 ルフト先生も戻っていたら、力を貸してくれるだろう。


 リィナがああやって言うなら、普通の場所ではないはず。

 ゲームの記憶が戻れば……!


 その時、一つあることを思い出した。


 私は、必死に廊下を走った。





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