第27話 <隣国旅行>
アシュガがローズへの執着をより深めたことなど、まったく気付いていないローズ。
そんな彼女はたった今、アシュガとの"約束"に顔を引き攣らせている。
「えっ、隣国のパーティーですか……?」
「そうだよ。父上が私に行けと言ってきてね……。ローズも将来の王太子妃なのだから、一緒に行こうね。もちろん、私としては来てくれなくても……」
「いえ、行かせていただきますわ!!」
ニコニコとして言うアシュガ様だが、目は笑っていない。
目は口程に物を言うとはまさにこのこと。来なければどうなるかわかってるよね?と言っている。……ああ、あの風魔法使いの命が灯火が消えてしまう……。
「……一つお聞きしたいのですが」
「なんだい?」
「……パーティーとは……」
「もちろん、隣国、ヤグルマの皇宮が開催するパーティーだよ」
ですよねええええええええ!!
ヤグルマ皇国では、年に一度大規模なパーティーが開かれる。
そこに招待されるのは、皇国内でも一部の貴族、そしてその他の国の王族や筆頭貴族などの、その国のトップクラスの人物のみである。
お父様やお母様は毎年参加しているはずだが、私でもまだその場に踏み入ったことはない。
そんなパーティーに、私が……。
「……タ、楽シミニシテマス」
「そうは見えないけれど」
「オホホ、ソ、ソンナマサカー」
ローズが死んだ目で言ってから、暫くして。
本来の予定であれば、今頃アシュガと共に船に乗っている時間……のはずだが。
「リリー……船って、こんなにも酔うのね……」
「耐えてください」
「ひ、ひどい!!」
どうしてこんなことに……と、ローズは数日前を思い出していた。
☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+
学園祭が終わり、あっという間に残りの数日は過ぎて行った。
「リリー、とうとう明日から夏休みなのよ!」
「そうですか、頑張ってください」
「……聞いてる?」
リリーは私が学園に行っている間に荷造りをしていたらしく、部屋からは少し物が減っている。
荷造りとは言っても、部屋から減るのはお気に入りの普段着を数着、アシュガ様から頂いたもの、それから課題に使う教科書くらいなのだが。
向かう先は実家なので、大抵のものは揃っている。
それに、休み中もこの部屋の掃除は定期的に行ってくれることになっている。
「聞いていますよ」
「その割には返事が嚙み合ってないし、私のクッキーをむしゃむしゃ食べてるわよね!?」
そう言うと、リリーは優雅にクッキーを皿に置き、
「ローズ様。私は『むしゃむしゃ』食べたりはしていません」
「いやだとしても食べてはいるわよね」
「それに、返事も間違っていません。ローズ様が夏休みに頑張らなくてはいけないのは何も間違いではないです。それに巻き込まれて私も――」
「あーーーー、それに関しては私も不本意なのよ!!」
リリーがいつもよりほのかにひんやりとした声音で言い……切る前に、ローズは顔をしかめた。
「でも、こうしないとほんとにあの子が殺されそうだったんだもの」
「殺してしまえば良かったと思います」
「リリーまで!? だめに決まってるわよ!?」
あの子とは、シャンデリア事件の犯人である。
事故なんだし、私にもなんともなかったのだから、みんなして怒りすぎだと思う。
「……とにかく、アシュガ殿下は上手に立ち回ったということですね」
「…………それにまんまと乗せられた私は……」
「いつも通りです」
一刀両断である。
いや、なんとなく、気付いては……いたけど……!!
溜め息を吐きつつも、ローズは夏休みに心躍らせていた。
(理由はどうあれ、アシュガ様と旅行だもの)
ローズとて恋する乙女なのだ。
愛する婚約者との旅行は、ドキドキもワクワクもする。
……そう、ローズだってドキドキワクワクしていた。
「リリー、アシュガ様が先に行ってるなんて聞いてないぃ……」
「仕方ありません」
すぐに会えると思っていたのに、アシュガ様は早めに行かなくてはいけなくなってしまったらしい。
おまけにこの船酔い。……船酔いは怖い。馬車酔いは降りれば休憩できるが、船酔いは降りれば海だ。
「リ、リリーは平気なの……?」
「もちろんです」
――嘘だ。
実は、リリーも今直ぐにでも陸に降りたいと思っている。
それを一切表情に出さないのは流石というべきか。
(……できることなら、空でも飛んで帰りたいですね)
そんな瀕死の二人だが、まだ船に乗ってからまだ少ししか経っていない。
それに、この船はもうすぐ港に着くのである。
この程度でここまでの船酔いを起こす人間はそう多くないだろう……が、今の二人にそんなことを言ってはならない。
少しの間だったとしても、船酔いは辛いのだ。
☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+
「ローズ! 待っていたよ」
「アシュガ様!? どうしてこちらに?」
短い時間ではあったが、二人にとってはようやくヤグルマ皇国の港に着くと、居るはずのないアシュガ様とリコラスが居た。
予定では、皇宮で落ち合うはずだったのに。
「うん、思ったより早く前の予定が片付いてね。ローズを迎えに来た」
「……お前が無理矢理終わらせたんだろ。」
「何か言ったかい?リコラス」
キラッキラな笑顔でリコラスを見るアシュガ様。
――そのエフェクトが、真っ黒に見えるのは気のせいでしょうか、アシュガ様。
「とにかく、皇宮に行くよ。疲れただろう?大丈夫かい?」
「は、はい……。大丈夫ですわ、アシュガ様……」
「……大丈夫には見えないけれど」
パーティーの参加者……特に王族などの国のトップは、皇宮で泊まることになっている。
今までローズが両親に付き添ってきたときは皇宮ではなく別の場所に泊まっていたため、ローズにとっては始めてだ。
なんて、考えていたのだが。
「やぁ、アシュガ君」
どこか聞き覚えのある、穏やかで、けれども少し冷たさを感じる声が飛んできた。
???「やぁ、アシュガ君。次回は」
アシュガ「おい、やめろ!」
???「なんだ、声を荒げて……。未定だよ、次回は。」
アシュガ「おい。今回こそ俺が言うつもりだったんだが」
リコラス「……多分3日後くらいに投稿予定だ。そしてこれ以上主に近付くな」
アシュガ「リコラス!!お前わざとやってるな!?」