4ー10 黒い魔物4
空中にナイフを投げようとするとアルクは魔力を探知した。
「その方向は……まずい!」
アルクが魔力を探知した場所は聖女シエラとセイラが避難していた施設であった。その施設は遠目から見ても崩壊していたのが直ぐに分かる程だった。
アルクは急いでその施設へナイフを投げワープをした。
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アルクがシエラとセイラの所へ辿り着くとまずは状況の確認をした。
(黒い魔物に対峙するように剣を構えるセイラ。つまり敵は黒い魔物)
状況を確認したアルクはセイラへ振り下ろされる黒い魔物の腕に向かってナイフを投げた。
「誰だ!」
黒い魔物はナイフが投げられた方向を向き、魔力を飛ばしアルクが隠れている瓦礫をどかした。
「アルクくん……」
「なんだ?貴様は……その魔力は……」
セイラは東城門にいるはずのアルクに驚き、黒い魔物は何故か動揺をしていた。アルクは黒い魔物の動揺を突き、刀を縦に振り下ろし黒い魔物の右腕を切り落とした。
[炎魔法・炎の渦]
[水魔法・水の渦]
アルクは炎魔法を放ったが、黒い魔物は瞬時に水魔法を放ち炎魔法を打ち消そうとする。だが、黒い魔物の魔法はアルクを魔法を打ち消す事が出来ずに炎の渦に飲み込まれる。
「ほう……水魔法を打ち消すほどの炎魔法。素晴らしい!」
「話してる暇はあるのか?」
[雷魔法・落雷]
アルクは炎の渦に囚われている黒い魔物に向かってさらに雷魔法を放つ。
「素晴らしい魔法だ。だが俺を殺すのにはまだ……足りない!」
黒い魔物は魔力を解放し、自身を閉じ込めている炎の渦を消した。
「これぐらいの魔法でお前を殺さないなんて知っているさ」
アルクは黒い魔物との距離を詰め心臓があるはずの場所に刀を刺した。
[内部爆発]
アルクは黒い魔物を完全に殺そうと刀から炎を出し爆発させた。死んだと判断したアルクは黒い魔物から刀を引き抜きセイラとシエラの所は向こうとした。
すると左脇腹に悪寒を感じ刀を左脇腹に急いで備えた。アルクの予想通り左脇腹に重い衝撃を感じ、アルクは吹っ飛んだ。
「嘘だろ?なんで生きてんの?」
「アルクくん!そいつは死なない!一度胴体を切断したが、胴体をくっ付けた!」
アルクはセイラの言っている事が分からなかった。
(死なない?そんなはずはない。この世に生きている限り必ず死ぬ……けど黒い魔物の内部を爆発しても死ななかった)
「体を再生するなら体ごと消せばいいか」
アルクはそう呟くと刀を構えた。
アルクは黒い魔物との距離を詰めようとしたが、一足先に黒い魔物がアルクとの距離を詰める黒い魔物は自身の腕に[付与魔法・雷]を纏わせた状態でアルクを殴る。
アルクは黒い魔物の繰り出す拳を全て捌き、その間にも刀で黒い魔物を斬りつけた。
[雷魔法・雷龍のアギト]
黒い魔物に纏わせている雷をそのまま龍の頭に変形させ、アルクを噛み付けた。
[我流剣術・魔斬]
アルクは黒い魔物の放った魔法を切り、そのまま黒い魔物に斬撃を飛ばした。至近距離で放たれる斬撃に、黒い魔物は回避する事が出来なかった。
「くっ……」
黒い魔物はアルクの放った斬撃を捌く事が出来ずに片目を切った。
[付与魔法・火炎]
アルクは刀に炎を纏わせ、黒い魔物を斬りつけ傷口を焼き再生をさせないようにした。
「おのれ……いいだろう!全力をだしてやろう……」
黒い魔物はアルクの攻撃を掻い潜り、アルクの脇腹を蹴飛ばし、アルクとの距離をとった。
[汎用魔法・身体強化]
アルクは起き上がり黒い魔物に向かって炎の斬撃を飛ばした。
「はぁぁ!!」
黒い魔物は空中を殴り、黒い魔物へ迫っている炎の斬撃を掻き消した。
「?……っぐ?!」
アルクは何も無い筈の空間から鈍い衝撃を食らった。
(あいつ!ただ空中を殴るだけで炎の斬撃だけでなく、俺に届く程の衝撃を発生させている?)
アルクは黒い魔物の拳から放たれる衝撃を全て避け、黒い魔物との距離を詰め袈裟斬りをしようとする。
だが黒い魔物は袈裟斬りにする際に生じる隙を狙い、アルクの鳩尾を殴った。
「ぐぅぅ……」
鳩尾を殴られたアルクはあまりの痛さに目の前が真っ白になったが、奥歯を噛み締めて気絶するのを防いだ。
[我流剣術・次元斬り]
アルクは空間を切り不可視の刃を飛ばす。
だが黒い魔物はアルクの放った[次元斬り]を避け、自身の両腕を剣に変形させアルクを斬りつけた。
アルクは刀と拳を使い全て捌いた。
[炎魔法・爆弾]
黒い魔物は攻防の間に自身の左腕の剣を解き、アルクに近距離で魔法を放ち爆発させた。
「かっ……は……」
アルクは黒い魔物の放った魔法を防ぐ事が出来ずに食らってしまい、アルクは膝をついてしまった。
「はぁ!」
黒い魔物は膝をついたアルクの左側頭部を蹴り飛ばした。
「アルクー!」
「…………」
セイラはアルクに声を掛けたが気絶したようで声を掛けても返事をしなかった。
「くそ……ッ!」
セイラはそう呟き再び剣を構えた。
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『クソ……早く起きないとまずいぞ……にしてもここは……』
アルクは周囲を見渡したがあたり一面黒い霞がかかっていた。
『久しぶりにここへ来たな。アルク』
突然声が聞こえアルクは声の聞こえた方を向いた。
『お前は……アレス』
アルクがそう言うと黒い霞の向こうから一人の青年が出てきた。
『なんだ?戦いの最中に気絶でもしたか?』
アルクがアレスと言った青年は黒髪黒目をしていた。顔はアルクと瓜二つだが、何よりも違うのは身に纏う雰囲気だ。
『アレス。なんで俺をここに呼んだ?』
『なんでって。そりゃあ俺と同じ闇の魔物と戦っていたからだよ』
『闇の魔物……それって』
『そうだ。さっきお前が戦っていた魔物だよ』
『あいつが闇の魔物……』
『もしかしてお前……忘れたのか?』
『忘れたって何がだ?』
『10年前にも同じ闇の魔物と殺し合いをしてたんだぞ』
アレスがそう言いアルクは記憶の中から闇の魔物についての記憶を思い出そうとしていた。
『まさか……あいつと同じ?』
『そうだ』
その瞬間、アルクから大量の魔力が放たれた。アルクの友人や両親は闇の魔物によって殺されていた。
『じゃあ「あれ」を使うしか無いってか?』
『そう言う事だな』
『そうか……出来れば人前では「あれ」を使いたく無いんだよ』
『そんな事を言っていたらあの女死んじまうぞ』
『分かってる……そんじゃあ行ってくる』
『あっちょっ待て!』
アレスがアルクを呼びかけたがそこにはもうアルクは居なかった。
『クッソ……まぁまだ「あれ」で勝てたらいいか』
アレスはそう呟くと再び黒い霞の向こうへ姿を消した。




