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勇者とオーク、包囲される

少し情報をまとめよう。


まず俺は「トリニティ」をプレイ中に、この名前も分からない惑星に勇者として召喚された。

召喚したのは隷属状態からの独立を求めるオーク達と、オーク達が崇める?神の「国無き神」。

オークは国の憲兵隊と、その国が召喚した勇者に追われている。オーク達はこいつらを何とかするよう俺に求めている。

迫っている憲兵隊と勇者についての情報は聞いていない。要確認。

そして俺は「トリニティ」プレイ時のまま、つまり自艦隊をこの惑星の衛星軌道上に待機させたまま、惑星地表にある儀式塚に、オーク達と一緒にいる。


それじゃ次は「何とかする」手だが……


「あー、ええと、グルフさん?」

「グルフでいいよ」

「じゃあグルフ、憲兵隊ってどんな武器持ってるんですか?」

「普段は棍棒と小さな盾だね。後は革鎧を着てるぐらいかな」

「飛び道具の類は?」

「あまり使わないけれど、時々弩を持っているね。大きな盾と合わせて使ってるのを見たことがある」


今回は恐らく飛び道具ありだろうなあ。撃ってくるかどうかは別として。


「一緒に来ている勇者については分かりますか?」

「知らないよ。自分で確かめとくれ」


んな無責任な。


「神様は何かご存じですか?」

「知らぬわ。うぬが目で確かめよ」


全く同じ答えが返ってきた。手を抜くなモップお化け。


儀式塚を取り囲む石の円柱の間から顔を突き出し、宵闇の広がる中に点々と輝く松明の光をもう一度見る。

大まかに言えば、儀式塚のある丘から一定距離を置いて半円形に取り囲むように松明が並んでいる。裏側に回ってみると、若干タイミングがずれてはいるが、こちらでも包囲するように松明の光が動いている。

松明の光が囲んでいるラインから儀式塚のあたりまでは枯れ木が数本立っているだけ、身を隠せる障害物は一切無し。詰みだ。


……いや待て、そもそも何でオーク達はこんな詰んだ状況に陥ってんだ?……


「聞け、オークの謀反者ども!お前達は完全に包囲されている!」


突然響く男の声。とりとめの無い考えを打ち切って声の方を見ると、拡声器らしき物を手にした大柄な男が、ぐるりと包囲する憲兵隊の輪の中から怒鳴っている。

理由はどうあれ憲兵隊の言葉も分かるのは助かる。何の解決にもならないが。


「お前達の罪は神・オーランナの玉体への侵害を筆頭に、主人ホセ・ラグランへの反逆及び逃亡、正体不明の神体の強奪、異神への帰依、ラグラン農場およびナイラの野を枯らし、更に儀式塚を不法に占拠し無許可で発動させ、あまつさえ勇者召喚の儀に及んだこと!全て人の身ならぬ従族ごときが犯すことは到底許されざる重罪ばかりである!」


視線を下げると、宵闇の中、揺らぐ松明のわずかな光に照らされて、緩やかな丘の斜面に並ぶ顔、顔、顔。

子を抱く母親の目が、疲れ切った老人の目が、埃にまみれた子供たちの目が、全て俺に向けられている。

ファンタジー物の悪役レギュラーな連中の、俺に向ける目が訴える。

頼るよすがを求める全員の目が、助けてくれと訴えている。


「だが、奪った神体と首謀者どもの首、そして召喚した勇者を大人しく差し出せば、残りの者には恩赦を与えると神・オーランナはのたまっておられる!寛大な処置を受けられる間に投降せよ!返答を待つ!」


一通り言い終えると、拡声器を持った男は憲兵隊の輪の中に引っ込む。


「……オーランナとかって神様は慈悲深いんですか?」

「まさか!神が従族にまで慈悲を払うなんて馬鹿な話があるかい!第一、神・オーランナがそんなに早く再顕現できる訳ゃないはずさ」


グルフが鼻を鳴らす。


「あれは決まり文句だよ。何かあった時に、『最初に罪人にも救いの道を示したのだ』って言い訳できるようにね」

「つまり、私が投降したところでまともな扱いは期待できない、と」

「当たり前じゃないか。それにどうせラグランなら、『逃亡したブタどもは見せしめのため捕らえ次第死罪にしろ』ぐらい言ってるだろうしね」


グルフの言葉も俺の予想を裏付けてくれる。

何か出来る事は無いか、出来ることは……


「勇者フェットチーネ、うぬの船はみな虚仮かや?」


「国無き神」が俺の左手首にはめたホロリーダーに真っ暗な瞳を向ける。


「きゃつらの頭鉢へ落としてみい、さぞ肝を潰そうて」


頭に落とす、肝を潰す、か……


……あ、まともな事言えたんだ、このモップお化け。

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