勇者、神と対面する
とりあえず自己紹介しとかんといかんな。
「あー、ええと、済まない。私は……」
と、俺の背中の方でごそり、と何かが動く音がすると、
「よう来た、勇者フェットチーネ」
喉が乾き切ってザラザラになったような金切声がする。
振り向くと何だかモップの化け物みたいなのが、床に這いつくばってこっちを見上げていた。
「我の勇者として、存分に働いてくれや?」
「うひぇい!」
変な悲鳴と共に後ずさる。
「おいおい、仮にもお前を召喚した神なんだ、もっと敬意を払うもんだよ」
呆れたように言うと、グルフはモップの化け物の隣に膝をついて座る……って正座だよ。
「こちらが『国無き神』、あたし達の神さ」
「苦しゅうない、勇者フェットチーネ、はよう我が民を守りや。けぎゃきゃしゃしゃしゃ」
モップの化け物、もとい「国無き神」は黒板を引っ掻いたような笑い声を上げる……
……って何でこの神様とやらが俺の(適当に付けた)プレイヤーネームを知ってるんだ?
「知らいでか。うぬは我が手の内ぞ。逃れえぬと悟るがよい、勇者フェットチーネ」
え、こいつ俺の心を読むの?
「読むとも読むとも、ようくな」
「さて、自己紹介は済んだね?じゃあ早速頼むよ」
グルフが立ち上がり、儀式塚に立ち並ぶ石柱の合間から一方を指差す。
いや、俺まだ自己紹介らしい事を何一つ言ってないんスけど。
「あの松明の列が見えるかい?こっちに向かっているオーランナ領国の憲兵隊だ。数は見積もっておよそ300」
グルフのぶっとい指が示す先を見ると、夕闇に包まれた野原の中に一列に並んだ灯りが波打つように連なり、こちらへ向かっている。個人個人の見分けは付かないが、灯りの列を見る限りかなりの人数がいるのは分かる。
「で、守ってほしいのはあたしの仲間、オーク57人」
グルフの視線を追うと、丘の斜面一杯に密集してオーク達が座っていた。女子供や老人と思しき者も少なくない。
「方法は任せるよ。憲兵隊を追い払ってほしい。ただ勇者も一緒に来ているらしいから、油断するんじゃないよ」
「勇者?勇者って沢山いるんですか?私だけじゃなくて?」
「そりゃそうさ。オーランナだけじゃない、ジメ、カリオー、ミトゥリア…領国なら勇者の一人や二人は抱えてるはずだよ」
「何のために?」
「そりゃもちろん、戦わせるためさ」
色々とぶっ込んでくるもんだ。
神はあのモップお化け以外にも一杯いて、そいつらが全部勇者を召喚していて、時と場合によっては互いに敵対するのか。
で、俺にその勇者プラス300人の兵隊と戦え、と。
俺の意思が入る余地もなく。
どうしろってんだよ。
「是非はないぞえ、勇者フェットチーネ。民が死に、神が死ねば、うぬも死ぬだけじゃ。きひゃぎゃぎゃきゃひゃ」
「『国無き神』の言った通りさ。あたし達が死ねば『国無き神』は魔力の源を失って権能を失う。神の権能が失せれば、その神が召喚した勇者もまた力を失って死ぬ。すまないとは思うけどね、生きるために、戦ってもらうしかないんだよ」
口調とは裏腹に、グルフの目は「ごちゃごちゃ言わんとあたしのために死んでこい」と言っている。
何でこんな所ばっかり人間臭いんだよぉ、このオーク。別の意味で怖い。
ただ聞くべき事は聞いておかないとならんよなあ。
「ええと、一つお尋ねしてもいいですかね?」
「何だい?」「何じゃ?」
「何で憲兵隊に追われてるんですか?」
「決まっておろうが。我が権能に恐れをなしよったでな。ぎぎゃきゃひゃひゃひゃ」
モップお化け……「国無き神」は何か誇らしげな様子で、例の黒板を引っ掻く笑い声を上げる。
一方でグルフは憲兵隊の松明の列を睨みつける。
「あたし達オークは『神無き民』として、自分達の神も国も無いまま、長い間従族として虐げられてきたんだ。
そんなオークの神になると、『国無き神』は言った。オークだって神を戴けばオークの国を作れる、と。
オークが誰にも従うことなく自由に生きられる国。そんな未来のために、あたし達は立ち上がったんだ。
それがオーランナ領国に、いや、エスペランザ王国に楯突くことになるとしても、あたし達はやらなきゃならないんだ」
……ええと。
今の俺の立場は「たまたまそこにいたという理由だけで革命ゲリラに強制徴用された外国人」と理解すればいいんでしょうか。




