勇者、召喚事故扱いされる
改めて周囲を確認。
まず目の前にグルフ……神官、だっけ?がいる。苛々しながら回答待ちの状態。
頭一つ分は俺よりデカい上にこちらを睨みつけている。圧迫感半端ねぇ。
今いる場所は「儀式塚」とか言っていたか、直径1m・高さ5~6mはある石の円柱がぐるりと取り囲む空間で、柱の間から垣間見える遠景からすると小高い丘の上にあるようだ。
足元は円柱と同じ材質の石が敷かれていて、魔法陣というよりは回路図を思わせる溝が刻まれている。
最初の時に俺を取り囲んでいたオーク達は一隅で頭を寄せ合い、紙束をめくりつつ何やら言い合っている。
「術式が間違ってたのか?それとも儀式の手順か?」
「いや、儀式魔法は場と術式さえ合っていれば神や様式を問わないはずだ」
「儀式塚の魔術回流が神の魔術回流と適合しなかったとしか……」
「魔力不足の可能性は?」
「勇者召喚そのものは成功している、それはない」
「もっとこう、分かりやすく勇者らしい勇者を召喚できるものだと思っていたんだがな」
「頭から術式を見直してみるか……」
何かこう見慣れた光景だと思ったらアレだ、失敗の原因を現場で慌てて議論してるんだな。
自分の左手に目をやる。「トリニティ」で使っているアバターと同じ船内服の袖に、いつも目にする腕輪型ホロリーダー。
側面のボタンを押して起動すると、艦隊一覧画面がホログラフで表示される。
「ん?それが勇者の武器かい?」
グルフがホログラフを覗き込む。
「何だか帳面みたいだねえ」
まあそうでしょうねえ、ステータス表示ばかりですからねえ。
流し読みすると、さっきまで泣きながら再集結させていた艦隊がそのまま表示されている。
旗艦、要塞艦「パンタグリュエル」、小破。
直衛砲艦、エクスキャリバー級「#303」、大破、自律航行不能。
直衛戦艦、インヴィンシブル級「#201」、中破。
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もしかして。
ホロリーダーを口元に少し近づけ、音声コマンドを入力する。
「『パンタグリュエル』、マップ、中心は旗艦停泊中の惑星、最大直径3光秒」
ホログラフの表示が切り替わり、惑星を中心とした衛星軌道の立体模式図に変わる。
惑星の赤道を斜めに巡る軌道に、旗艦「パンタグリュエル」と僚艦を示す赤い光点の塊。
その惑星の地表、赤い光点の塊の真下に、俺の今いる場所を示す紫の光点。
ここがどこであれ、俺は「トリニティ」をプレイ中のまま、自分の艦隊と一緒に、ここにいる。
オークを守る勇者として召喚されて。
……もう訳わかんねぇ。