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エピローグ

 セルドランス伯爵領時刻1240――惑星軌道上


 空が黒く星々がはっきりと見える高空。そこに円盤状の物体が浮遊しており、外周部には6個の円筒形の物体が取り付けられていた。

 軌道降下用牽引船及び大気圏突入用降下ポッドである


 周囲に取り付けられた6基の大気圏突入用降下ポッド内部には人型兵器である【ハウンドⅡ】が1機ずつ格納されている。

 1番機、リリア機。2番機、イベリス機。そして3~6番の無人機である。

無人機はリリア及びイベリスの簡易コントロール及び震電のサポートによりそれぞれ1、2番機の補佐をすることになっている。もともと無人機と言うことでそこまで複雑なことを行えないこともあるが、それ以上に本作戦においてそれで十分な戦果を引き出せると予想した結果である。


「準備はよろしくて」

『イエス、お嬢様(レディ)。オペレーション【ヘッドショット】を開始します。降下シークエンスを開始。降下までカウント30』

「リリア様……本当にやるんですか」


 2番機からいまだ不安そうな声が聞こえてくる。

 コックピット内は慣性制御により常に1Gの状態が保たれているため高機動による人体への負荷という物は存在しない。それがリリアと言う体の弱い貴族令嬢がこの機体を動かせるが所以だ。


『……3……2……1……ブースター起動、降下開始』

「さあ、敵の度肝を抜いてやりますわ」

「度肝を抜かれるのは敵だけではないと思いますが……ああ、なんでこんなことに」


 軌道降下用牽引船の保持ロックが外れるとともに、大気圏突入ポッドに搭載されたロケットエンジンが点火。6基のポッドが大気圏への突入、そしてセルドランス伯爵領への降下を開始した。


 オペレーション【ヘッドショット】――敵陣地のど真ん中に強襲降下し速やかに敵指揮官を無力化し指揮系統を破壊する作戦。それが開始された。



◇ ◇ ◇



 セルドランス伯爵領――春


 長年の友好国であった隣国が突如として宣戦を布告。セルドランス伯爵領に攻め入ってきた。上層部およびセルドランス伯爵は友好国であった隣国の突然の凶行に対して、議会を招集するもののこの行動を疑問視する者も少なくなく、初動が遅れることとなる。

 結果、セルドランス伯爵が自前の領軍を組織し敵の遅滞を行っている間に、正式に国軍を組織し派遣することとなる。


 国境線に隣接する領地であるとは言え隣国は友好国であったため、伯爵軍は質、量ともに小規模になっており苦しい戦いを強いられることとなる。


 セルドランス伯爵領は国境近くにある2つの街を放棄し、その後方にある平野部で開戦を行う事となる。



 セルドランス伯爵軍500に対して敵は正規軍2万を持って侵攻してきていた。


「さすがにこうも数が違うとどうにもならないでしょう……」

「しかし我々の任務は国軍が来るまでの時間稼ぎです。無理に戦う必要はありません」

「なんだ、口喧嘩で時間を稼ぐか、臆病者め!」

「ここはやはり纏まって突撃させるほかないでしょう。」


 伯爵軍司令テント内では各部隊長が口々に戦闘をどう進めるかを言い合っていた。それを静観するのは現総司令官であるセルドランス伯爵だ。


(さすがにこの戦力差ではどうにもならんな。遅滞と言う事であるがすり潰されて終わりか……最後に一目子供たちに会いたかったものだ)


 目をつぶって自身の思考にふけっていたセルドランス伯爵であったが、再び開かれた眼には決意の光が宿っていた。


「皆の物、色々と意見はあるとは思うが、……我々はこれより敵に対し遅滞戦闘を行う。部隊を分けると各個撃破される恐れがあるため、今回は500の兵をまとめて敵と正面からぶつかることとする。皆、国のために覚悟を決めてほしい。」

「「「はっ! 了解しました!」」」


 この指揮官の決意に部下たちも決意を新たにする。自分たちが国を守る。その礎となるのだと。生きて帰れる望みは無い。それでも皆の士気は高かった。


「全部隊に伝令、我々はこれより――」

「失礼いたします!」


 セルドランス伯爵が皆に突撃の旨を伝えようとした時だった。一人の伝令があわてた様子で司令テントに入ってきた。


「何事だ!」

「はっ、こちらを……セルドランス伯爵のお嬢様より預かってきました」

「リリアから?」


 伝令の兵は手にした紙をセルドランス伯爵に渡す。そこには――


~~~~~

 お父様へ


 敵国への攻撃ですが、私が13時ピッタリに攻撃を行いますので部下を引かせておいてくださいな。できれば5㎞以上離れていてくれるとうれしいですわ。出ないと命の保証ができませんので。それに乱戦になっていると見方を殺してしまいますわ。


 私を信じてくださいませ。


 金ランク冒険者、リリアより

~~~~~


「…………何だこれは?」


 セルドランス伯爵は訳が分からないという顔をする。

金ランク冒険者と言うのは冒険者ギルドの最高ランクだったはずである。クリアする基準が厳しく国に10人もいないとされているが……


「……もしかしてご存じないのですか? リリア様は貴族のご令嬢でありながら冒険者ギルドに金ランクを認められているのですよ?」


 伝令が、不思議そうな顔をして問いかけてくる伯爵に答えを返す。


「初耳だぞ!」


 そんな答えに伯爵はつい大声を出してしまった。リリアは生まれつき体が弱く冒険者などとは全くと言っていいほど縁がなかったはずだ。


「それでですね、そのリリア様がなんと本戦において先陣を切られるというのです! 他の兵は足手まといになるため離れてみているようにセルドランス伯爵にお願いしてほしいと言われています。」

「oh……」


 伯爵は天を仰いだ。



◇ ◇ ◇



 セルドランス伯爵領平野部――敵陣地


 それはある一人の兵士が感じた違和感だった。


「進めー!! あのような小軍など恐れるに足りぬ、蹴散らしてしまえ!!」


 指揮官が大声を張り上げて2万にも上る大軍が地響きをあげながら進んで行く。


「なんだ、あれ?」


 空に6つの点が見えるそれは流れ星のように輝きながら空を移動している。しかし変だ。何故昼間に流れ星が見えるのだろうか? しかもこっちに向かってきているようにも見える。

 周囲の兵も気づき始めたようで次第にざわつき始める。しかしその疑問が解決することは永遠になかった。



◇ ◇ ◇



 大気圏突入用の耐熱装甲板が剥がれて吹き飛ばされていく。すでにかなりの低高度にまで降下しており、大気圏突入用降下ポッドは減速を開始する。


『安全高度への降下を確認、格納ハッチを開きます』


 ポッドのハッチが開き、格納されていた【ハウンドⅡ】6機が現れる。


『ポッドからの距離が安全圏に達しました。姿勢制御を開始……安定。スラスターをミリタリー推力に……減速を開始します。』


 ポッドから解放され距離をとった6機は姿勢制御を行い安定させるとスラスターを噴射させ着陸態勢に入る。


 と同時に、空になった降下ポッドはロケットエンジンを再始動、再度加速し始める。これらはその質量と速度を持って地上への簡易爆撃を行うことになっている。


 地上では敵軍が何か騒いでいるようだが、時すでに遅く今からたとえ逃げようとも間に合わない。

 そして――


 轟音が鳴り響く


 降下ポッド6基が質量弾と化して敵軍に襲いかかる。着弾した場所は大規模な爆炎と土煙が舞い、衝撃波が人体を粉々にする。


「ギャァァァ――!!!!」

「な、何だぁぁぁぁ――!!」


 この攻撃により密集していた敵中央約1万の兵が即死することとなった。


 その後6基の影が火を噴きながら地上に降り立つ。

 運悪く真下にいた敵兵がスラスターの噴射炎に炙られ骨すら残さず焼失した。


『スラスター推力カット、接地確認。機体姿勢、システムとも問題なし』

「さあ、行きますわよ!」


 地上に降り立った全高15mの人型兵器、それは敵にとって死を告げる巨人である。


 全機体とも今回は対人戦闘のため35㎜カービン銃をメインウエポンとし、20㎜サブマシンガンを装備している。


「無人機は周囲の敵兵を蹴散らしなさい、イベリス、私たちは大将旗を狙いますわよ!」

「……わかりました。前方2時方向距離500に敵大将旗を確認。指揮官用テントかと思います」

「あ、あれですわね。射撃開始ですわ!」


 機体を駆って駈け出すとともに、銃口を敵指揮官のいると思われる場所に向け引き金を引く。


 ダダララァァァァァ――


 フルオートで吐き出される弾は司令官用天幕及び周囲に隣接している高級士官用の天幕をまとめて細切れにして吹き飛ばしていく。


「3~6番機、敵は棒立ちです。排除しなさい。」


 イベリスの指示と共に、周囲のいまだ混乱から立ち直っていない――いや、何が起こったのかすら理解できていない敵兵の集団に向け、無人機が射撃を開始した。


「ギャァァァ――!!」

「た、助け――」


 周囲は35㎜弾の威力により人間と地面が耕されて行く。


「敵将は何処ですか! このリリア=フォン=セルドランスが首をとって差し上げますわ!」


 機体のセンサーで確認した敵兵を片っ端から薙ぎ払っていく。


 ドドッドド――という轟音と共に土煙が巻き上げられて人体のパーツが飛んでいく

 …………そうして、


「アハハハハ――……あら?」

お嬢様(レディ)、周辺に移動体無し。敵兵は全滅したと思われます。』


 景気よく弾をばらまいていたリリアだが、穴ぼこの大地と動かなくなった人間だったもの(・・・・・)しかなくなっていた。


「て、敵将は何処ですの?」

「多分あの辺かと」


 1番機から不思議そうな声が聞こえ、2番機が地面と肉片とその他布やら金属やらが混ざった辺りを指でさしていた。



◇ ◇ ◇



 セルドランス伯爵領に侵攻した敵兵は兵力2万人のうち1万5千以上の死者を出し、生き残った者の中で健常だったものは司令部から最も遠い場所――部隊端にいてさらに真っ先に逃げ出した500名以下であった。


 後に周辺国において“セルドランスの悪夢”と呼ばれる隣国との戦闘はリリアとイベリスの参戦により一方的な戦闘によって幕を閉じた。

 なおセルドランス伯爵は自陣の天幕にて魂の抜けたようなアホ面をさらしていた。





 なおこの件により、リリアとイベリスは国より勲章と報奨金、そして“戦乙女(ヴァルキリー)”の称号を与えられることとなる。





 この物語はリリア=フォン=セルドランス、そして侍女イベリスの戦火の記録である。




 ――だから違うって!


 震電『お嬢様(レディ)、私の事も忘れないでください……』

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