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戦闘とはパンツに似ている

「あ――」


 フッ――と、先輩の目から生気が消えていく。


 ペンキのようにぶちまけられた真っ赤な血だまりのせいか、はたまた部屋に漂う血と腐敗雑じる『死の』匂いのせいか。

 それとも――、その両方のせいか、彼女の脳みそは、気絶を選んだようだ。


「おっと」


 膝から崩れ落ちるように倒れる先輩を、腕で支える。

 死体なんてものは現代人には見慣れないものだろう、それも、頼みの綱だった警察が死んでいるときてる。

 相当なショックを受けても仕方が無いだろう。


 とりあえず、僕は先輩のパンツを抜き取り、口に含む。


「んぐ……さぁて、気合いを入れなおす必要があるようだ」


ポケットからスマホを取り出す。

 警察……は嫌いだから頼りたくない、それに、この警官が四人も殺されている惨状を見る限り、あまり当てにならなそうだ。


(てことはやっぱり……白黒と茶児に電話をしよう)


 そう考え、スマホの画面を電話画面に切り替える。

 電話帳には、五人しか名前は入っていないから二人の名前はすぐに見つかった。白黒と書かれた箇所をタップする。


 タップした瞬間、突如後方から飛来した黒刀にスマホを射抜かれた。


「ぐっ……!?」


 ビィイイイインっと、まるでダーツのようにスマホ諸共壁に突き刺さる黒刀。

 刀が後ろから飛んできたということは、投擲した誰かが後ろにいるということだ。


 僕は反射的に後ろを振り向く。


 そして、目を見開いた。


 何か、凄いものを見たからではなく。

 何もなかったから、目を見開いた。


 交番の前を通る通行人も、周りにある車道にも、誰一人いない。


「っ――やられた・・・・!」


 片手で抱えたままだった先輩を、椅子に座らせる。


 そして、が逃げられないように、あるいは、逃げ場を無くすように、交番の扉を閉じた。


 ジロリと、そいつを睨む。


 壁に突き刺さったまま、微動だにしない、そいつを。


『……久しぶりね、道化師アカサカ。ずいぶん可愛らしい格好してるじゃない』

「……やっぱりか、渡り歩く魔剣――!」


 音も立てずに黒刀は壁から独りでに抜き出て、切っ先をこっちに向ける。

 見間違えようがなく、確かにこいつは完全自律行動が可能な魔剣――『渡り歩く魔剣』だ!


『慌てて交番を出ようとしたところを後ろから殺そうと思ってたのに……気づいちゃった?』

「なめんなや、それで、今回追加された能力はどんな能力だ? 分身か?」

『そんな恒例行事みたいに聞かないでよ……それに、前回は自慢げにぺらぺら喋ったせいで負けたからね、そうはいかないわよ』

「ちぇ……どうして僕だと分かった? 男だとわかんない程度には可愛い格好してるつもりなんだけど」

『魔力を探れるのが君たちだけだと思うなよ?』

「あー……」


 そりゃそうか。長い平和生活のせいで失念してたわ。

 釣るつもりが、逆に釣られクマーってか。


「そっちの魔力を感じ取れなかったのは、宿主がいるにも関わらず、おまえが単独行動してたからかな?」

『そうよ』

「【単独行動】に、【剣の分身】に、僕の推理ではあと一つ……かな? 凄いな、どんなやつを宿主にしたんだ?」


 正直、こっちの世界はあっちほど悪意や憎悪に塗れてないと思うんだが。


 そう言うと、渡り歩く魔剣は笑った。

 自慢げに、笑った。


 いや、刀だから表情とかは分かんないんだけど、なんとなくそんな気がしたのだ。


『道化師アカサカ、君はこの世界の住人な癖してそんな分かり切ったことを訊いちゃうの? 負のエネルギーの総量で言えば、こっちの世界のほうが多いくらいだわ』

「へ? そうなのか?」

『不幸や不運は主観的なもの……、あっちの世界には自身が不幸で不運で可哀想なんて知らない、その日を生きるのに必死な人間が多いのよ』

「ああ……成る程ね、そうなると、僕はわりと勘違いをしていたらしい」

『それに比べて、こっちの世界の人間はたいした不幸でも無いのにそれで憎悪を撒き散らす。悪意を積もらせる。実に愉快ね』

「…………」

『今の宿主は、飛びぬけて愉快でね、えふえっくす? とかいうやつでアリガネ? を溶かしただけで桁違いの負のエネルギーを生み出していたわよ。はっはっは! 愉快、愉快だわ!』

「いやそれは死と同等かそれ以上の不幸だよ!?」

『え』


 最悪にして最凶の魔剣シリーズの一つ、渡り歩く魔剣は、どうやらまだこの世界に馴染みきってないようだ。


「……で、今回も――」

『……んん? ……貴方そんな喋るやつだったかしら? 昔はもっと血気盛んな……』

「……こっちの世界は平和だからね、そりゃ、丸くもなるさ」

『いや、違うわね……もしかして時間稼ぎ? 勇者シロクロが来るまでの』

「――っ」


 ちぇ、ばれたか。

 連絡は取れなかったにしろ、通話ボタンを押すことはできたから、あいつの携帯には着信履歴が残っているはずだ。


 白黒の勘の鋭さを考えれば、増援は期待できないことはない。


「さぁて、何のことだか。それよりさ、パンツの種類について小一時間ほど――」

『語りは終わりだわ』


 がらり、という音が後ろから聞こえた。


 閉めていた扉が開いた音だろう。

 誰だ? と、後ろを振り向くと。


「え――」


 どす黒い刀を、振りかぶる、男の姿が、そこにはあった。


「シネ」

「うぉおおおおおお!?」


 振り下ろされた刀を紙一重で避け、男の腹を蹴ってその反動で距離を取る。


 机に手を付き、バク転の要領でくるりと回って着地。

 机の上に立つのは行儀が悪いが、今はそんなことを言ってる場合ではないだろう。


 僕を切ろうとした男は、さっき路地裏で会った男とはまた別人だった。


 彫が深く、外国人みたいな顔つきの、髪の毛が無い禿のおっちゃんだ。


 ……って、そんなこと悠長に人物像を描写している暇は無い!


「……みんな目が死んでるなぁ」

『言葉も聞き取り辛くなるのがネックだけどね、便利なものだわ。我ながら怖いくらい』

「【単独行動】、【分身】、そして【洗脳】ってか?」

『その通り』


 ぞろぞろ、ぞろぞろと、黒刀を持ち、目の死んだ人間が警察署に入ってきた。


 中には機動隊や警察らしき人間も数人いるようだ。

 成る程、連続殺人犯が捕まらないわけだよ。


「さっきの黒尽くめもこいつらの中の一体ってことか」


 えーっと、ひいふうみい。

 大体十人ちょいってとこか。


「こんな可愛い男の娘殺すためだけに、随分大人数じゃねえか」

『ほざくなよ化け物、この程度じゃうろたえもしないか』

「いやぁ、結構一杯一杯さ、早く白黒助けに来てくれねえかなぁ」

『助けが来る前に、決着付けさせてもらうわよ』


 目の死んだ集団の先頭に居た男性三人が、剣を振りかぶりながら迫ってくる。


 僕は大きくバックステップして、部屋の隅へと飛び込んだ。


 そこには、警察官の死体が一つ。


『どうしたの? 洗脳されているとはいえ、一般人に暴力は振るえない?』

「いや別に? 僕は物語の中の勇者じゃないし、正々堂々が信条の拳法家でもない、ただ万能なだけの道化師だ、その辺にこだわりはないよ」


 警察官の腰についているホルダーから拳銃を取り出し、防犯用のスプリングチェーンを腹に突き刺さった黒刀で切り裂く。


「だから、こういうのも使わせてもらおう」


 セーフティロックを手際よく外し、構える。


『? 何それ?』

「拳銃っていうの、知らないの?」


 引き金を引く。

 銃声が鳴り響き、放たれた銃弾は追撃をかけようとしていた洗脳集団の先頭男性の右手を正確に貫いた。


 がしゃん、と音を立ててその手から刀が落ちる。

 途端に彼は意識を失い、倒れこんだ。


 よし。

刀を落とせば行動不能になることが分かった。


これなら何とかなるかもしれぬ。


『ちょ、何それずるい!』

「封印しか対処法が無いてめえのがよっぽどずるいわ」


 続けざまに二発、三発、四発五発と撃ち込み、洗脳された人々から刀を撃ち落していく。


「装填数五発か……警察の拳銃って思ってたより小さいんだな……」


 引き金を引いても弾が出なくなった拳銃を捨て、詠唱を唱える。


「シュトルム・ビュン・ソニッキ……!」

「シネェエエエエエエエエエエ!」


「……中級加速魔法シュトライム!」


 机を足場に大ジャンプ斬りを繰り出してきた女子高生っぽい子の横を超速で通り過ぎ、その子のパンツを口に咥えながら後方にいた目の死んだおっさんの頭を踏んづけた。


 そのままの勢いで、開きっぱなしの扉から外に出――『待てぇええええええええ!』


「っう!?」


 反射的に身体を捻ると、黒い魔力で覆われた黒刀が肩を掠めた。


 『渡り歩く魔剣』、渾身のたいあたりである。

 形状が刀なだけに、普通に殺傷力あるから油断ならねえ。


「あっぶね……! でも……外には出られた! このまま白黒の家まで……!」

『させない!』


 そう魔剣が叫ぶと同時に、魔剣から黒く薄い膜状の魔力が広がっていく。


 それは僕と魔剣を包み、隙間なしのドームを作り出した。


「【結界】……!? こんなことまで……!」

『魔力所有者を遮断する特製結界。貴方には抜けられないわよ!』

「……随分と能力増えたなぁ、FXの絶望恐るべしってか」

『ふふふ、これでようやく貴方に勝てる、……貴方たちに勝てる』


ぞろぞろと、背後から結界を物ともせずに洗脳集団が現れた。


 そうか、こいつらは魔力を持ってないから結界は関係ないのか。


「しつこいぜ全く……3回も負けたんだから潔く諦めてくれよ」

『まだ負けてないよ……なぜなら私はまだ壊されても封印されてもいないんだからね』

「だからって異世界まで追っかけてくんなよなもう……」


 言いつつ、僕はスカートのポケットから催涙スプレーを取り出した。


 それを、ゾンビみたいな動きをしている洗脳集団に向ける。


「お前らいい加減うざいよ!」


 ノズルの先から煙が噴きだした。

 ゆっくりとこちらに歩いていた洗脳集団を煙はあっという間に包み込み、容赦なく霧状の薬は彼らの目や鼻、口から体内に侵入する!


『なんだいそれ?』

「催涙スプレー、昔食らったことあるけど、滅茶苦茶痛いはずなんだよね、これ」


 中身を半分ほど使い切ったところで、これ以上は無意味だと悟って、缶を捨てる。


 目から大量の涙を流し、鼻からはだらだらと鼻血を流し、涎を恥ずかしげも無く垂らす彼らは、激痛なんて気にも留めてないようだ。


「痛覚ないの? あいつら」

『あるわよ、あるけど操作はこっちでしてるからね、痛がったりはしないわ』

「えぐいなぁ……」

『貴方に言われたくないわよ化け物』


 ついっと渡り歩く魔剣が刀身を上に向けた。


 それを合図に、一斉に洗脳集団が襲い掛かる!


「化け物扱いは……ひどいなぁっ!」


 逆袈裟斬りをしてきた先頭の男を、突き飛ばす。

 後ろの数人を巻き込みながら倒れこむ男のサイドから、ポニテの剣道部っぽい子と、ツインテのツンデレっぽい子が現れた。


「シィネ!」

「キエロ!」

「洗脳されるとボキャブラリが乏しくなんのかな?」


 二人の間を抜けるように走り、彼女らのパンツを口に咥えながら倒れた男の右手を蹴り上げた。


 刀が宙を舞い、地面に突き刺さる。

 倒れた男の瞳は色を失い、意識を失ったようだ。


(よし、あと4人)

……と、少し気を緩めた僕の肩に、刀が突き刺さった。


「ぐぁ……っ!?」


 僕がさっき突き飛ばした男に巻き込まれて倒れた男女二人。

 その二人が、腕を伸ばして剣を僕に突き刺したのだった。


「こんのっ……」


 刀身を掴み、手の甲や指に蹴りをそれぞれ数発ずつお見舞いした。

 痛みが効かなくても、骨を折れば物理的に刀は持てなくなるだろう。


 目論見通り、刀を二人の手から引き離すことに成功した。

 途端、糸が切れたように倒れる二人を見て、【洗脳】というより、【傀儡化】じゃないのか? と思った。


 まあどっちでも、同じことか。


「あと……ふたっり!?」


 右の太ももから、刀が突き出る。

 後ろを振り向くと、そこには刀を僕の太ももに突き刺すポニテ少女の姿が。


「このアマ……!」

「シネ」


 さっきの要領でポニテを吹き飛ばしてやろうと、刀身を掴む。


 瞬間、僕の瞳に少女が映った。

 僕の太ももに刀を突き刺したポニテ少女じゃない、もう一人。

 ――刀を振りかざし、僕の頭を割ろうとしている、ツインテ少女の姿が。


 あ、やばい、これ、死ぬ。


 そんな台詞が頭を過ぎったその瞬間、ツインテの少女は腰をくの字に折って吹き飛んでいった。

 バウンドもせずに、45度くらいの角度を保ちながら結界外へとひとっ飛び。


 さらについでとばかりにポニテ少女も吹き飛んだ。

 何が起こったのかよく分からない、というか、飛んでいくツインテ少女を見ていたから見てなかったが、とにかく吹き飛んだのだ。


 ……人間ってスマ○ラみたいに吹っ飛ぶんだなぁ……。


「……おいおいおい、何してんだツッくんおい」


 そいつは――茶児は、にやにやと、うれしそうに僕の傍に立った。

 蹴りを放った足から上がる煙を振り払い、宙に浮かぶ魔剣を見据え、言う。


「随分楽しそうなこと一人でやってんじゃねーか」


 茶児、参戦。

 もう完全に勝利を確信する僕であった。


主人公油断しすぎの巻。

でも実際平和ボケで異世界冒険編のころより弱体化はしている。

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