第8話
第8話
確定間違い無しだとしても、ただの中二病カップルでしたとか、一縷の望みを賭けジル子に二人のプロフィール画像を見せた結果。
「間違いなくリバ子とアーサー王ですね。こんなあざとい姿に化身してぇ! まだまだ売れる気満々じゃないですか、妬まし……いえ、ブリテン魂の欠片も見えませんよ! まったく!」
「やっぱりそうか。って、ブリテン魂ってなんだよ。俺からすればジル子もこの二人とどっこいなんだが」
なんにせよ俺の願いは無残に打ち砕かれた。
「フフッ、今回のわたしは運がいいです。こんなに早く二人を発見できましたっ」
「なぁジル子。アーサーの若さも気になるところだが、エクスカリバーはなんで人間態なんだ?」
ジル子は偶然フギュアと同化してこの姿を得た。では聖剣の美少女形態や千年以上前の王様がイケメン十代ってのはどういった経緯なのだろう。
「この国では『擬人化』とか『美少女』がウケると知って、芸風を変えたからだと思います」
日本でも数百年すれば日用品に魂が宿るって話もあるしな。つくも神的な解釈としておこう。トリオ中、ひとりは人間だけども。
「地元で鉄板ネタが飽きられてから、あの子達は場所や時代によってよく芸風を変えて活動していたみたいですし」
アーサー王伝説が諸説あるのはそういうことろなのかなぁ。
「幸い過去の活動が時と共に美化されて伝承されたようで、この国でもわたしの鉄板ネタを知る人たちがいると知ったときは嬉しかったです」
アーサー王とエクスカリバーだけ突出してるとは言い出せない。
「確かにこのビジュアルなら武器以上の破壊力だもんな。ピンでもやっていけそうだもの。ジル子も時代と場所に合わせて臨機応変に芸風とやらを模索したらどうだ?」
「やーですよぅ。大衆に迎合するなんて、わたしのプライドが許しません! 引き抜かせるネタ一本でここまで上り詰めたんですよ?」
おおぅ、謎のプライド。
「言っちゃなんだが、抜いた側ばかりが有名になってる気がするぞ」
「ハッ、どうせわたしは新人育成のカタパルトですよぅ。ハッ」
カタパルトは自覚してるんだな。そして謎のプライドどこいった?
「ま、まぁ無理するなよ。どうやらアーサー王とエクスカリバーは共通の敵みたいだから、二人で見返してやろうぜ」
「そうですね、あるとさんのせいで時代が求める姿にされた責任は取ってもらいませんとね!」
「お前、その割には嬉しそうだよな。実はカタパルト人生重荷だったんだろう? 事故とはいえ時代に迎合できてラッキーとか思ってんじゃね?」
「な、なに言ってるです?」
顔をそむけたジル子は似合わないアヒル口で、およそ口笛とは呼べない音色をプヒプヒ奏でごまかしはじめる。
「まぁ、ここは発想の転換だ。二人を探す手間も省けたし、お前から解放される日もグッと縮まったと考えよう」
あとはこの地味な石粉粘土がメジャーデビューさえ果たせば解放条件クリアだ。が、それが難題だよなぁ……
思いつきでユーチューバーをやらせようとしていたけど、実際どうなんだ? コイツのスペック。ポンコツ臭プンプンする。
「あーっ! また彼女さん連れ込んでるぅ」
「うわ、吉尾さん」
俺のあとを追ってきたのか。まぁ、彼女もプレハブ寮の住人だから帰り着く場所は同じだ。
「誤解してるようだけど、コイツ彼女じゃありません。なぁ? ジル子」
「そうですよ? わたしの方が先住者ですし、あるとさんは『びじねすぱーとなー』です」
確かに床下から生えていた先住者? 岩? だな。
「ウソだぁ。私の吉尾ちゃんファイルには、あなたのデータがないもの」
さすがYP警察。
「吉尾、私が説明しよう」
変なタイミングで今度は峰倉かよ。問答無用でヅカヅカ上がりこむと、勝手に簡易テーブルを引っ張り出し、くつろぐ先生。つられて俺達もテーブル中心に腰を下ろす。
「これは先生からの入学祝いだ。好きに飲んでくれ」
どかと置かれたコンビニ袋の中はペットボトルと駄菓子の山。やっすい入学祝いだな!
「峰倉先生、この彼女さんと知り合いですか?」
だから彼女じゃないって。まずソイツの頭見て? 頭。すっごいの刺さってるから。
「その娘は『隠しキャラ』だ。転校生って設定でお前たちのクラスメイトになる」
「なんだその急展開! 初耳だぞ」
吉尾さんもポカンとしてるじゃねーか。
「私も初耳です、何言ってるんですか先生!」
ほら、さすがの吉尾さんもお怒りですよ。
「隠しキャラなのに主人公の麻生クンに隠せてないじゃないですか!」
「怒るとこソコじゃないよ吉尾さーん」
「よく考えろ吉尾。ウチのエースはこの麻生だ。このご面相なら選択肢の手札は多いに越したことはないと思うが?」
なんだろう、すごくバカにされてる気がする。
「確かに……出来レースとはいえ、相手が彼女さんならウソの告白にはならない……上手くルールの盲点をつきましたね先生」
だから彼女じゃねぇって。俺を無視してなんの話をしているんだ。
「俺にもわかるようにプリーズ」
「来月のエキシビション、ひいては麻生の卒業にも関わる話だ」
あ~、卒業までに女子から告白されることが卒業条件ってやつか。半分冗談だと思ってた。
「それって、コイツと卒業まで一緒に過ごすってこと? 救済キャラと思ってるようだけど、ホントに彼女じゃないから無理ですって」
「三年もあればいけるだろ。少々ユルそうな娘っぽいし」
「私も一緒に卒業したいからね、キューピッドとしてがんばるよぉ」
駄菓子で餌付けする峰倉先生に乗っかり再びエア腕まくりをする吉尾さん。やる気満々だ。
「なんか俺がジル子と付き合うみたいな流れになってますけど、冷静に考えてeスポーツ関係ないですよね?」
「話を混ぜ返すな麻生。ギャルゲーだって立派なeスポーツ? だ?」
「なんで関係者が疑問系なんだよ! 俺が聞きたいんですけど」
ザマスフレームに手を添えて顔を逸らすんじゃねぇ、こっち見ろ。
「そもそもジル子は了解してるんですか? ヌケてる割りにゴネそうですけど……」
極上の笑顔で重そうな頭を左右に揺らし、駄菓子をぱくついてるジル子に目で聞いてみる。
「なんですかぁ、あるとさん。そんな目で見てもあげませんよ?」
だめだ、聞いちゃいねぇ。
「お前の食い意地はどうでもいい。ジル子がここの生徒になるってハナシは聞いているか?」
「はい。今朝あるとさんに置いていかれたあと、学園長さんが来てお話ししました」
ん? 待て待て。
「てことは『の方』状態のジル子と話したのか!?」
「あるとさんっ、その言い方傷つきます!」
お前、両手に菓子持って楽しそうだな。説得力ねぇよ。
「麻生クン『の方』状態ってなんのことぉ?」
ああ、吉尾さんにどう説明したらいいのやら。とは言え、よく考えてみたらごまかす必要もないし、正直にジル子のことをオープンにしてしまうのもアリか。
「話せば長いんですが実はコイツ、こう見えて人間じゃないんです」
「確かに彼女さん、画面から飛び出してきましたって感じの美少女だもんねぇ」
良くも悪くも無駄に精巧なフィギュアのクオリティが、虚構である事を疑わせてしまうのだろう。
「そうだなぁ、まずこいつのココ見て、ココ。ルックルック、そう。さっきから吉尾さんがチラチラ見てる物騒なパーツ。どう思いますよコレ」
「ずいぶん主張の激しいカチューシャだなぁーって思ってたよぉ」
無理がある、無理があるよ吉尾さん! 目が泳いでますもん。
「吉尾さんがカチューシャと思ってるコレをですね……こう!」
腹を括った俺は未だニコニコと菓子を頬張るジル子の背後に立ち、頭に刺さっている剣を引き抜いた。




