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魔王軍幹部の弟子の使い走り  作者: あおいあお
第四章 神殺し編
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97:ティータイムとお知らせ



「っていう事があったんですよねぇ。なんか怖いから逃げて来ちゃいましたわ」


 とある迷宮の内部、あっしは目の前の女性へとそう愚痴を零した。

 ごつごつした岩肌には似つかわしくない白の円形のテーブルと白の椅子。

 本来テラスにある様なその席に着き、テーブルの上には菓子類が用意されている。

 そしてその女性、スカーレットはティーカップに紅茶を注ぎつつも、あっしの方を怪訝な表情で見つめ。


「いや誰だよ!」


 そうツッコんだ。


「いやぁ、だからアドラーですって」


 あっしは何度目かも知らぬそれに応じた。


「いや知らんわ! お前みたいなやつ! いつもの悪趣味な服はどうした! 仮面はどうした! 髪色はどうした! 体型も違うし!」


「だからこれが本来ですってぇ~。あ、どうも」


 紅茶を差し出されて礼を言う。

 今の恰好は割と普通だ。仮面も被っていない。

 いや、支給された軍服を私服扱いで着ている訳だが、これっておかしいのかな?

 丈夫だし、せっかく貰ったから着ているが、普通な恰好ってのがやっぱよく分からないな。


 ともかく完全に別人な見た目なのだが、それにしたってスカーレットが驚くのも無理はない。

 フレシア様曰く、あの仮面には相手の認識を妨害する効果があるらしい。

 つまりはあの仮面単体でも、正体を分かり難くする魔法的効果があった様なのだ。

 十数年越しの新事実である。

 姐さんがあっしに気づかなかったもの無理ない訳である。

 アウラ様なら当然に分かっていただろうが、まぁあの人は興味のない事は完全にスルーするからな。


 仮面の良い効果は呪いが消し飛んだ時に一緒に消えてしまい、被ると髪が変色すると言う副作用だけが残っていたのだが、そう思っていただけで実際は認識阻害の効果もあった上に残っていた様だ。

 多分、呪いの対となる効果があの『良い効果』だったんだろうな。

 あれは破格だったし。


「まぁ、いいや。にしても良い髪色だな! お揃いだぞ!」


 と言って、スカーレットは頭を揺らして自身の深紅の髪を強調した。


「わぁお。ほんとだー」


「反応薄くね?」


「すみません。お世辞が苦手で」


「いろいろと酷い」


 肩を落としつつ、スカーレットは席に着いていた。

 人間相手に何を褒めればいいのか、まだよく分からない。


「ところで、アリシア様は? ここに来れば会えると思ったんですが」


「なんだ。あいつに会いに来たのか。あいつなら奥に居るぞ」


 と、スカーレットは後ろを振り返る。

 何もない岩肌だったが、それが意思を持った様に動いて奥の空間を晒した。

 おお、さすがダンジョンマスターだ。

 彼女にとっては体の一部の様な物だろう。


「おいアリシアー。お客だぞー……って、だらしねぇ」


「あははははっ。ん? 何ー?」


 と、生活感のあるその部屋の奥にアリシア様は居た。

 ネット状のハンモックに寝て、人間社会の雑誌を読んでいる様だった。


「お前に客だ」


「あー、はいはい。いやー、今行こうと思ってたんだよ? ほんとだよ?」


 と、スカーレットに応じつつ、アリシア様はこちらへとやって来た。


「先日はどうも。アリシア様。本日は改めてお礼を言いに馳せ参じました」


「わぁーお。アドラー君ってば気が利くぅ~」


「ははっ。どうも」


 あっしは持って来ていた土産を渡す。

 常識ってやつを勉強して真似してみたのだが、喜んでもらえて良かった。


「何かあったの?」


「彼のとある部隊への編入について、魔王さんに後押しといたのさ。まぁ、私は必要ないと思ったんだけどね」


「買い被りですよ」


 そんな会話をしつつ、アリシア様も席に着く。

 って、いつ間に椅子を用意したんだ?

 召喚をしたのだろうが、手並みが鮮やか過ぎて知覚すらできなかった。

 やっぱ幹部クラスは次元が違うな。


「にしてもアドラー君。君ってば勇者と戦ったそうだねぇ。いやぁ、生きてて良かった良かった」


「え? そうなのか? あんまり危ない橋渡るなよな」


「ははっ。まぁ、いろいろありまして」


 アリシア様に知られてるって事は、結構広まってそうだな。

 帝国との戦争でフレシア様の存在も公となった事だし、それと一緒に居たあっしもやはり目立ってしまっている。

 嫌だなぁ。もうアウラ様のところに住んでしまいたい。

 元々自立した姿を見せたくて出てっただけだし、そうしてしまおうかな。

 まぁ、今は姐さんがいつ爆発するのか分からなくて、堪らず逃げて来た訳だけど。


「ん? 誰か来たみたいだね。シューちゃんか。幹部会でもあるんじゃない?」


 と、いろいろと雑談してたのだが、唐突に表れた気配にアリシア様がそう言った。

 隠す気の無い巨大な気配だ。

 それは視認できる位置まで来ると気配を収めた。

 ピンクの髪をした給仕姿の悪魔。シュー様だ。


「突然の訪問申し訳ありません。本日は大幹部会の開催の報せと共に、その招待状を届けに参りました。どうぞお受け取り下さい」


「うん。ありがとう~。ご苦労様」


「身に余るお言葉でございます」


 そんなやり取りをして招待状を受け取るアリシア様。

 必要最低限の挨拶だけしてシュー様は去って行った。

 大幹部会とは。今までの事を考えると随分早い頻度だな。

 それだけ今が時代の転換期と言う事だろう。


「って、明日じゃないか。急だなぁ」


 招待状を見て呟くアリシア様。

 スカーレットも体を傾けてそれを覗く。


「アドラー君も戻った方がいいんじゃない?」


「ん? いえ、うちには他にも適任者が居るので」


 無論、姐さんの事だ。あっしが居なくてもあの人がアウラ様の従者としてついて行ってくれる。

 ここからアトリエまではかなり遠い。国を跨ぐレベルだ。

 正直移動が億劫である。


「あ、でも今頃またお使いに行ってる可能性も……」


 あっしの療養中、姐さんはなるべくあっしを優先してくれたので、お使いが溜まってる可能性は高い。

 となると、アウラ様が一人っきりで参加する可能性もある。

 それはならぬ。億劫など言ってられん。


「良かったら明日一緒に魔王城へ行ってみる? 今日はここに泊ってさぁ。ちょっと早めに出るくらいしてもいいよ」


「おお。それは大変ありがたいですな」


 と、アリシア様の提案に乗るあっしだった。











 全く、何も黙って出て行く事ないのに。


 私は一通り探した回った師匠のアトリエにて、そう思うのだった。

 紅茶でも飲もうと、梯子を使わずに地下から一階へと浮遊して移動する。

 一階の居間では師匠のタイプライターを打つ音がしきりに聞こえていた。

 きっとまた論文でも書いてるのだろう。


 まぁ、アドラの事は元気な証拠と見ておこう。無理してないといいけど。

 なんて思っていながらポットに水を入れていると、巨大な気配が突如として現れた。

 ちょっとびっくりしつつも、これはシュー様の物だとさすがに私も慣れていた。


「私が出ますよ」


「ん。ありがとう」


 集中している様子の師匠に代わって扉を開いた。

 端麗でスタイルの良い給仕姿の悪魔が来る。

 どうやら大幹部会の開催の報せで来た様だった。


師匠ししょー。招待状です」


「ん。ありがとう。……んんっ、ふぅ~」


 と、集中を乱してしまったか、背伸びする師匠。


「紅茶淹れますけど、師匠も要ります?」


「ええ。お願い」


 その返事を聞いて紅茶を作りに戻る。

 そろそろお使いの再開しなくちゃかなぁ~と考えながら、マッチでガスコンロに火を点す。


「あら、明日だって。アルラも来るでしょう?」


「行きます!」


 取り合えず頷いておく。

 返事した後に大幹部会の事だと理解したが、返事は変らない。


「ふんふん~。師匠と~、お出かけ~♪」


「ふふっ。楽しそうね」


「えっへへ~」


 言いながら出来上がった紅茶を持って来た。


「あら、今気づいたけど、あなたってば魔力適性が上がってるわね」


「あれ? そうなんですか?」


「ええ。日頃の努力の賜物ね」


「へへ~。やったぁ~」


「レベル92で適性20はかなり高い方よ」


「へぇ~。って、いつの間にかレベルも上がってたのかぁ」


 帝国との戦い、結構私も頑張ったもんね。

 師匠はありのままを受け入れてくれるから、意外と褒めてくれる事は少ない。

 だからこうやって成長や努力を褒められるとすごく嬉しい。


「ふふーんっ。なんだか最近キテる感じがするんですよねー」


「あらそう。恋路に進展があった様ね」


「ぼっふ!」


 流れる様に言われたそれに紅茶を噴き出してしまう。


「きゅ、急に何ですか!」


「あら、違うの?」


「いや、あの……は、恥ずかしいので……秘密です」


 私は両手で持ったティーカップで顔を隠す。


「ふふっ。アルラったら、なんだか私に似て来たわね」


「師匠に? ハッ、もしかして師匠も私の事を……す、き?」


「え? ごめんなさい。どこからそうなったのかしら?」


「師匠大好き! これって相思相愛って事ですよね!」


「えぇーと……私も好きよ。家族として愛してるわ」


 ですよねー。

 師匠がど~~してもと言うのなら、こちらも真剣に考えなくもないのだけれど。

 やぶさかでもないのだけれど。


「ふふっ。私は婚約者フィアンセが居るからダメよ」


 その時絶句した。

 頭が真っ白になる。

 この時私は悟ったのだ。

 きっと絶望とは黒色ではなく、白色なのだろうと。


「あっ……なんか、嫌だ。頭痛い」


「アルラ? 大丈夫?」


 頭を抱えて外界からの情報を拒絶する。


「あ、あぁ……あああ、ああ、ああああああああああっ!」


「アルラー!?」


 その後一晩うなされ寝込む事にはなったが、翌日予定通り魔王城へと向かった。



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