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魔王軍幹部の弟子の使い走り  作者: あおいあお
第三章 帝国消滅編
64/183

64:勇者VS悪魔100体



 赤竜は強かった。

 決して油断できる相手ではない。

 だが予想外に張り合い甲斐のある前衛が増え、思ったよりずっと楽に倒せてしまったのは事実だ。

 苦戦はした。

 最強の次元と呼ばれるだけの相手ではあったさ。

 だがどうやら、俺も最強の次元に踏み込んだ存在になっていたらしい。


 とは言え、それらは祝福により駆け上げて来たハリボテの物である事もしっかりと戒めなければならない。

 レベルは90になったみたいだが、まだ師匠には追いついていないと思う。

 やはり祝福もなくあの強さだった師匠とは自力が違う。

 祝福故の経験の浅さは時間を掛けて埋めていくしかない。


 祝福でも誤魔化し様が無い、本物の格上が居た場合、“格上が勝つ”という極自然的な回帰により負けるべくして負ける。

 それを昔から師匠という本物の格上から叩きこまれている。師匠自身、目の前で死にゆく先代勇者様を見てそれが分かっていたから、そこら辺は厳しかったんだと思う。

 そして俺もまた、それを長い事酷く恐れていた。

 スフィル殿から先代勇者様が俺の前世であると言う様な話を聞き、俺の中で漸くそれが腑に落ちた。


 きっと、俺は前世で魔王軍幹部と相打ちになった事がトラウマになっていた。

 そりゃそうだろう。だって死んでんだもん。

 仲間も失い、自分も死ぬ。師匠は先代勇者様の事を神格視している節があるが、前世の自分であると知った今じゃ案外大した奴じゃなかったんじゃないかとも思ってしまう。

 でもきっと……


 辛かっただろう。


 そう思う。

 仲間を失った挙句、自分も死んで仲間を一人置いていくことになるなんて。

 完全には分かってあげられないが、俺も仲間を大勢失ている。

 俺は先代勇者の唯一の理解者と成りえる。例えそれがなんの力や利益に繋がらなくとも、俺は先代勇者を、前世の俺を理解してあげたい。


 きっと、先代勇者が前世の俺であると言うのは本当だ。

 何となくだが、そう思う。


「それが俺が戦う理由だ。もちろん人々を救うって事が一番だが、今はそんな思いもあってより厳しい相手を選んでいる」


 俺は討伐した赤竜を背に、そんな事をアレンに向けて語った。

 アレンは案外大人しく聞いていた。


「いや、ちょっと違うな。俺は既に前世の想いを理解と言うか、無意識に実行してる面はあるんだと思う。前世で仲間と自身を犠牲に本物の格上を討った最後、それゆえの格上に対する恐怖と、それを上回る対抗心。多分、前者は前世で植えつけられ、後者は反省を踏まえて今世で獲得した。昔の俺って結構無鉄砲だったんだぜ? 大分師匠に矯正されたんだけどな」


「へぇ」


 隣のアレンも同じく赤竜に背を預け、そう応じた。

 最後だけ少し面白そうに口角が上がっていた。

 先ほどの戦闘はアレンの存在もあって少し荒っぽくなっていた。

 こいつの事だ。きっと無鉄砲な俺の方が面白そうだとか思ってるんだろう。


「で、お前の方は? 何故戦う」


「あ? んなの楽しいからに決まってんだろ」


 想像通り過ぎて俺は少し呆れる。


「ついでに食い扶持にも繋がって、しかも感謝までされるんだぜ? やらねぇ理由なんてねぇだろ」


 その言葉を聞いて、俺は少し思い出す。

 道を極めた者は、それがどんな分野どんな過程であろうと、必ず以下の二種に分類される。

 信念のある者と、それが好きな者だ。

 努力をしてるようじゃ、好きでしてる奴には一生かけても追いつけない。


 ――ヘルン。ワシは戦いが好きな訳ではない。信念も弟子の育成に注いでしまっている。故、一つの極みには立てんだろう……


 嘗て、師匠が不意にそう零したのを印象深くて覚えている。

 師匠程の者がそう零す理由が当時の俺にはよく分からなかったが、今なら分かる気がする。

 きっと、師匠の言う極みとはスフィル殿の様な人間の上位存在の事だ。

 確かに、師匠が俺なんかに構う事なく己の道を極めていたのなら、“仙人”と言う伝説の存在になっていても不思議ではない。


 そして多分、師匠の言いたい事には続きがあった様に思う。

 つまり、そんな道を極めた者の集まりである魔王軍幹部の連中もまた、きっと信念がある者か元々戦いが好きな者であろう、と。

 多分……そう言いたかったんじゃないかな。

 正直自信はないな。


 と、俺は不意に思った。

 ――魔王は、一体どっちなんだろう……? と。

 魔王が戦場に出た例は無いが、もしかして戦闘が好きな訳ではなく、何かしらの信念があって極まった存在なのだろうか。

 ……。


「多分、俺の主神であるアレスの影響もあると思うんだよな。元々競うのは好きだが、何か気持ちが伝わって来る気がするんだよ。『戦え。戦え』ってな」


「なんだよそれ」


「いや、マジなんだって!」


 と、アレンの言葉に俺の思考は掻き消える。

 主の御心が伝わって来る、ね。

 確かに単純な主従関係で測れないくらい、アレンとアレス様は通じ合う部分がありそうだしな。

 その点俺はハウリア様の事は全く分かっていないな。

 そのお声もお姿も。何を思って俺に祝福を授けてくださったかも。何も……


「おい、あれ」


 と、アレンの声に顔を上げる。

 空中を浮遊してこちらに向かう集団があった。









 目の前を埋め尽くす悪魔の群れに、さすがの勇者も顔を引きつらせていた。

 仇討ちとは言ったものの、常識的に考えればこちらが一方的に絡んでるだけだよな。

 ま、細か事はいいか。


「そ、そのお姿は! ラミリア王女! 一体何故っ」


 と、ミランの姿を見て叫ぶ勇者。


「そうか……! お前等が!」


 怒気を漂わせて俺達を見る勇者。

 バランの奴は討たれた後も面倒事を置き土産にくれたらしい。


「なるほど。一応、俺にとっても亡き君主の仇……って訳だ」


 同じく“アレスの戦士”もそう呟く。

 その目は鋭くこちらを睥睨する。


「何だ。お互い、思った以上に因縁がありそうだな。『インフェルノ』」


 俺は挨拶代わりの得意の魔法を放つ。

 不意打ちのつもりはない。ただ更なる練度となったその魔法は、結果的にそう見えてしまう程に意の向くまま発動された。

 とは言え二人はさすがだ。魔法の発動と同時に範囲外へと避けていた。

 だが二人に距離ができ、こちらとしては好都合だ。


「俺の直轄だったミラン達は戦士の方をやれ。その方が嫌がらせになりそうだしな。残りのバラン派共は俺に続け! 勇者を狩るぞ!」


 ミラン達数名の悪魔は“アレスの戦士”に向かい。

 残りの100体近い悪魔と俺は勇者に向かう。


 今更口上は要らない。戦いは火蓋を切った。









 冷静に考えて、絶対絶命の状況であり、ヘルン達にとっては逃げるべき場面であった。

 赤竜を討伐した後の彼らに、いや万全の状態であったとしても、この状況は絶望的だ。


「おいヘルン! より多くの悪魔を倒した方の勝ちな!」


「いいんだなそれで! 後から雑魚はノーカンとか言うなよ!」


 だがこの場に冷静な者など居ない。

 その会話もおかしい。この場に雑魚とされる様な悪魔など居ないから。

 だがヘルンは光を宿す聖剣を携えて、悪魔の群れへと斬り込んでいく。

 体に反動が来ない程度に調整し、神聖力の伴った斬撃を見舞う。


 今のヘルンはレベル90。レベル相応の攻撃を引き出してくれるだけで十分だ。

 何なら手加減をしたくらいで雑魚と言い切った悪魔達を斬り棄てていく。

 一応はCランク代の悪魔達。受肉した者も多い。本来なら致命傷足り得ない傷も、神聖な力によって存在を削られる様な苦痛とダメージが伴う。


「おいおい。レベル差が開き過ぎると戦闘にならないのは分かるが……まさかこんなに成長していたとはねぇ」


 そう言って爪でヘルンの剣を受け止めたアラン。

 神聖力の余波が迸り、アランの頬を傷つけた。


「チッ……てぇなこれ」


 血の滲む頬を撫でたアラン。

 ヘルンはそれに何故か既視感を覚える。


 と、アランを巻き込む形だろうが関係なく、他の悪魔達からの魔法の追撃が来る。

 彼らに主従関係などない。悪魔らしい薄情さで魔法を放つ。

 その戦い方に慣れないヘルン。まるで数が変わっていないのではないかと思えて来る悪魔達の集中攻撃。


「『インフェルノ』」


 更には同じく巻き込むことを厭わないアランによる魔法で、ヘルンの足元は地の底から来るような灼熱と化す。

 堪らず翻るヘルン。


「逃がすかよ!」


 それを空中で観察していたアランは空間転移にて、ヘルンの目の前へと移動した。

 魔法、土煙が飛び交い視界も悪い中、予備動作も見届けられずに移動時間0秒のそれをヘルンは避け切れない。


 ――不味い……!


 思考に体が追いつかない。

 そしてヘルンの腹部を悪魔の爪が貫いた。



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