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魔王軍幹部の弟子の使い走り  作者: あおいあお
第三章 帝国消滅編
62/183

62:聖人へと至った騎士



『種族名:人間

 レベル:31

 魔力適正:10 魔力総量:396

 闘気適正:11 闘気総量:551

 状態:正常』


 そんな事が書かれた紙を俺は眺めていた。

 さすがは全能神様からの祝福だ。

 いつ見てもレベルに対して大幅なステータスの補正が掛かっている。

 ステータスだけ見ればCランク帯の中でもトップレベルだ。

 特に適正はずば抜けている。Bランク帯でも通用する高さだ。


 レベルも祝福のお陰で30を超えた。15以下は上がりやすいとは言え、齢19にして30を超えるなど普通はありえない。

 『全能の祝福』に経験値の補正はないが、格上を倒した時に得られる経験値の量が通常より多いのはこの世の法則の一つだ。

 経験値の量が決まる要因は正確には三つあると言われる。レベル差、物理的距離、心理的距離の三つである。

 これらが作用し合い、経験値の量は決まる。


 俺はレベル差的格上を倒し続けた。

 その結果は非常に効率の良いレベリングが出来ていた。

 技量も既にカンストしてる様なもの。

 苦戦など経験も無く、ここまで来てしまった。


 物理的距離の観点からも得物は片手剣を愛用している。

 時間が経てば分かるようになるらしいが、弓はもちろん剣と槍でも物理的距離が違う為、経験値効率に差がでるのだ。

 武器が発達した今の時代で未だに拳闘士の職があるのはその為だ。

 相手を素手で殺すのは経験値効率の物理的距離の部分で最も効率が良い。


「ふーん。相変わらず理論立てて小難しい話するのが好きね。研究者の方が向いてるんじゃない?」


「世が世ならそうしたかもね」


 幼馴染であるリタにそう返事する。

 皇宮の客室にてそれぞれのステータスを確認していた。

 帝国は実力主義だ。リタは産まれに見合う実力を発揮し、皇太子殿下の近衛隊に抜擢されている。

 つまりは俺の護衛だ。


「そんな事考えなくても感覚的に分かるじゃない」


「天才は言う事が違うな」


 それにむーとリタは頬を膨らませる。


「なんだよ。祝福も無くここまで上り詰めたリタを天才と言わずして何と言うんだ。俺は主のお力で強くなったに過ぎない」


 俺のその言葉にリタは肩を竦める。

 俺が人を下手に褒めると嫌味に聞こえかねないから面倒だ。

 確かに幼少の頃からの精神の成熟と意識の高さにより長年の努力を積み上げて来てはいるが、それでも俺より強い人は何人も要る。

 特に一生を掛けても追いつけすらしないと思える者も、一人要る。


「入れ」


 と、その時扉がノックされたので俺は応じた。


「失礼いたします」


「スフィルか」


 噂をすれば、と言うやつか。恐らく俺どころかこの国で最も強い男が現れた。

 青年の様に若々しい見た目。くせのある赤毛で茶色の瞳。

 帝国の守護神。長年裏で帝国を守り続ける騎士スフィルだ。

 人間の上位種である“聖人”に至っており、単騎にして帝国の最高戦力である。


「ふむ。成長なさりましたね。レル=ン様」


 俺を見て言うスフィル。

 見ただけで俺のレベルを感じ取ったのだろう。


 その後スフィルも交えてステータスの確認を行う。

 確認とは敵のそれも含まれる。

 勇者ヘルンのパーティに新たに加わったとされる魔術士ハル。その者の『全知の祝福』の効果により、魔王軍の幾人かのステータスが判明している。

 その中でも危険視されているのが、“碧眼の上鬼”、“地獄の悪魔”、“紫髪モーブの魔女”、“赤髪の悪鬼”だ。

 当然だが魔術士ハルが視認した者に限られる。

 危険視されている個体なら他にも大勢要るが、それに劣らぬ実力があるのがこの個体だ。


「参考までに、“紫髪モーブの魔女”並びに“道化師”との交戦のあった“銀月の騎士”レフトのステータスがこちらです。帝国の諜報員の裏どりもあってかなり信憑性は高いかと」


「ふむ」


 俺はスフィルの言葉に用紙のページを捲る。


『種族名:人間

 レベル:86

 魔力適正:15 魔力総量:1490

 闘気適正:19 闘気総量:3150

 状態:正常』


「凄まじいな」


 俺はそれを見て思わず呟く。

 レベルから算出されるステータスを優に超えている。

 これはAランクでも通用する様な次元だ。

 更に適正の高さや『月下の祝福』の能力も合わせると、騎士レフトの実力はA+に届いていても不思議はない。

 そして俺もそうだが祝福や加護は機械での測定ができないので、状態は『正常』で合っている。


「彼には期待していたんですがね。あのまま成長し続けていれば“聖人”に至っても不思議ではありませんでした。まぁ、さすがに相手が悪かったでしょう。勝負は一瞬でついたとの事ですが、相手が“水銀の魔女”であるならそれも納得です」


 水銀の魔女、か。

 魔王軍に加担する謎多き魔女だ。

 魔王軍の捕虜からも今一核心的な情報を掴めない。

 だが存在は確かで、特にアスラ王都陥落時に頭角を現している。

 一瞬の登場にして、強烈な印象を与えた魔女である。


「なんか、知ったような口ぶりじゃない?」


「左様でしたか?」


 と、リタの言葉にスフィルが返す。

 まぁ、隣国で活躍する騎士を他人事に思えないのは当然だろう。


「勇者ヘルン様、並びに聖女ミティア様、魔術士ハル様がお見えになりました」


 その時、そう給仕が知らせに来た。

 この会合には勇者も呼んでいる。

 会うのは初めてだ。


「通せ」


 いずれ部屋に入って来る勇者一行。

 金髪の青年。青髪の少女。黒髪の少女。


「お初にお目にかかります。レル=ン殿下」


「む?」


 勇者は思ったよりもずっと礼儀正しい態度であった。


「この場での一切の無礼を許す。忌憚なき意見を聞かせてくれ」


「……了解」


「ふっ」


 話の分かる奴め。

 勇者ヘルンか。気に入った。


「懐かしいなぁ」


 と、スフィルがヘルンを見て呟いていた。

 どちらかと言うと独り言だ。


「会った事があるのか?」


「いえ……恐らく、彼の前世となら」


「何?」


 スフィルの言葉につい疑問気なままヘルンの方を見るが、彼も話が分かっていないようだった。

 曰く、スフィルは先代勇者のレットと面識があり、一時期稽古を付けてやっていたそうだ。

 そして当時の彼の魂の輝きと、今の勇者ヘルンの魂の輝きはそっくりであるようだ。


「同じ女神ハウリア様を主神とする祝福である為、よもやとは思っていましたがね。いやはや懐かしい」


「お、俺が、先代勇者様の……」


「ええ。祝福の影響でしょうかね。彼も金髪でしたよ」


 そう会話するスフィルとヘルン。

 尊敬していた相手が自分の前世であるなど、一体どんな気持ちだろうな。

 良いか悪いかは別として、相当な衝撃だろう。


「とりあえず座ったら?」


 と、リタの言葉にタイミングを失ってしまっていたそれを促し、勇者一行は席へと着いた。









「一応これは、国家機密級の事なのですがね」


 と言ってスフィルが今しがた測定した自身のステータスが載った紙を差し出した。


『種族名:聖人

 レベル:119

 魔力適正:15 魔力総量:1690

 闘気適正:24 闘気総量:8980

 状態:正常』


「なっ」


「す、すごい」


 言葉を失くすヘルンと、零すミティアだった。

 ハルは反応を示さない。『全知の祝福』により一足先に知っていたからだろう。

 先ほどから緊張してるのかと思ったが、スフィルのステータスを垣間見ての緊張だったのかもしれない。

 そして驚愕したのはヘルン達だけではない。


(な、何なんだこのステータスは!?)


 俺もだ。

 声に出さなかったのは偏に平民を前にする皇族としてのプライドだ。

 スフィルは時の皇帝のみに使える騎士で、ステータスを知るのは本人と歴代の皇帝のみなどと言われる。

 故に俺はまだ知らなかった。


「何よこのステータス!? 印刷ミスじゃないの!?」


 うぉぉい、リタ! お前も公爵家として威厳ある態度を保て!

 まぁ、正直無理もないとは思うが。


「紛れもない私のステータスですよ。どちらにせよハル殿には知られてしまったようだったので、ここで共有してしまう事にしました。皇帝陛下にはご内密にお願い致します」


 なるほど。ヘルンの『己の更なる鍛錬と昇華の参考にしたい』という熱い思いに応えての事かと思ったが、そういう事か。


「行き詰っているのでしょう? 高レベルになると自身に見合う敵が居なくなりますからね」


「そうなのです! 大悪魔バランを討って大幅なレベルアップはしたものの、それ以降はまったく……。一体、この状態からどうやってレベル100を越える程の経験値を?」


「簡単な事です。場合によっては今までと変わりません。同格や格上を倒すのですよ。ただし単騎でね」


 ヘルンはスフィルの言葉に目を丸くする。


「格上を倒した際の経験値取得効率は三倍以上などと言われる。更に一人で経験値を独占する事もまた、その効率は三倍以上と言われる。九倍になった効率の上、貴方には『聖杯の祝福』がある。凄まじい経験値取得効率となるでしょうね」


 なるほど。普通は死ぬそのやり方で生き抜き続けた者が本物の強者となる訳だ。


「ちょうど南の方に赤竜が移り住んだとの話です。奇しくもそこは先代勇者、いえあなたの前世で赤竜退治の伝説のある地です。前世であり先代勇者の軌跡を辿るように、ここは単騎で赤竜討伐に挑むのも良いかもしれませんね。つまりは――」


 一拍置き、スフィルは告げた。


「現勇者の赤竜退治として」


 胸躍る伝説の開幕を。



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