変態+変態+変人+悪魔
体の中に溢れていた感情が抜けていく。
それと同時に体に取り込んだ闇も体外に放出されていった。
俺の体を包んでいる鎧も崩れ始め、崩れたそばから霧散して消えていった。
この鎧、自分の見える範囲だけだとプレートアーマーって感じだったけど、実際はどういう風に見えてたのかな?
維持するのはそれほど難しくないけど、作るのに闇を取り込まないといけない。
闇を取り込むと雑多な感情が心に入ってくるから、戦闘以外で取り込むのは嫌だね。
とりあえず、何とか2体の悪魔を倒すことができた。これで、残りは2体。
そのうちの1体はマコトだけど、現状で勝てるかな? マコトは今までの相手とは違う。
今までは直線的な戦いしかなかった。互いが力をぶつけ合うだけの戦い。
それに対し、マコトは技巧派だ。どんな魔法を使うのか、どんな攻撃を使うのか、手の内をさらさないように戦っている。
今までのマコトの行動から瞬間移動ではないかと思っていたが、それも考えを誘導されているような気がする。
本当の魔法は何なのか。でも、そう思い迷わせること自体があいつの思惑かもしれない。
つまり、よく分からん。
強いのは分かっているんだけどね。底が見えなくて怖い気持ちはある。
もう1体に関しては何の情報もないけど、今までの3体からして、まともな奴ではないはず。
……悪魔にまともな奴なんていないか。
そんなことを考えていると、俺の周りを包んでいた黒牢も少しずつ薄れてきた。
『あら~、マコちゃんと大分お楽しみだったみたいね~? 羨ましいわぁ~』
『うをぉ!?』
いきなり後ろから声をかけられて思わず声を上げてしまった。いや、変態が急に後ろに現れたら誰だって驚くよね?
『そんなに驚かなくても大丈夫よ~? もう満足したから、御子さんを王として認めて、あ・げ・る』
……悪魔の体なのに寒気がする。あの気持ち悪さ、もはや凶器だ。
というか、さっきまで動転しすぎてちゃんと見ていなかったけど、意外にチコってイケメンなんだよね。
イケメンが化粧してるのは需要あるのかな? そいつがレオタード着てお姉言葉で話しているのは、女性には受け入れられるのかな? 少なくとも、男の俺には無理。
『満足って、一撃しか入れてないけど?』
『一撃しかって~、……私の初めてを奪っておいて、ひどいんじゃない~?』
『なんの初めてだよ!? 誤解を招く言い方すんなよ!』
『あら? 何チコちゃんとだけイチャイチャしているのよ? 私も混ぜてよ』
『イチャイチャしてねぇよ! って、ええ!? もう目覚めたの!?』
だからなんで変態は後から急に現れるんだ!? 振り向くと、そこには艶っぽい表情をしたマコがいた。
よく見ると、体はごついが顔は女性っぽい。あれ、チコにはある下半身の膨らみが、マコにはない?
……なるほど、すでに取り外し済みか。
『御子ちゃんのおかげでいい夢見れたわ! もう、あんなに刺激的なの、初めてよ! おかげで目覚めスッキリ!』
『マコちゃんだけずるい~。御子ちゃん~。私にも、お願い~』
何この2体!? 1体でも精神的に持たないのに、2体まとめては無理だって! 認めるって言っといて、まだ俺への攻撃続いているの? この精神攻撃いつになったら終わるの!? もう不安とか迷いとか色んなもの吹っ飛んだから、とっとと次の戦いに移ってくれ!!
『って、マコトどこ行った!? いつまでも隠れてないで、出てこいやぁ!』
『……どこのプロレスラーっすか。すでにここにいますよ』
『マコト、てめぇこの野郎! とっとと次の戦い始めるぞ! だからこの変態2体をとっとと遠くにやってくれ!』
『いや、気持ちはものすごい分かるんすけど。もう痛いくらい分かるんすけど。そうはいかないんすよ。認めた悪魔5体を連れて最下層に行かないといけないんで、同伴は必須っすよ』
『ふざけんな! この2体と一緒って、最下層につく前に俺の精神が果てるわ!』
『……いいんすよ、御子さん。自分知っているんで。御子さんがマコさんと一線を越えたっていうのは。だから、自分はなるべく2体っきりになれるよう努力するんで! 安心してイチャイチャしてくださいっす!』
『よくわからんけど、とりあえず死ね!』
『……御子ちゃんとマコトちゃん、さっきから、大分失礼なこと言ってない?』
『これは、お仕置きが必要みたいね~』
変態2体と変人1体と俺の混沌とした状況がしばらく続き、閑話休題。
『……御子さん、そろそろこんな不毛な争い止めて、次に行かないっすか?』
『奇遇だね、俺もそう思っていた』
チコとマコから何とか距離をとることができ、2体きりで話すことができた。
『次の相手は、お前か?』
『……それも有りっすね。正直、御子さんの成長速度は予想以上っす。今のままでも、面白い勝負ができると思うっす』
『それって、つまりはまだお前には勝てないってことだよね?』
『それは、勝負してみないとわかんないっすよ』
マコトは笑って俺にそう言うが、これは明らかに嘘だろう。俺ですらそう思う。こうして向かい合えば、やはり今までの相手とは一線を画す。
『でも次は自分ではないっす。もう1体と戦ってもらうっすよ』
『……それは、何でだ?』
『サトリさんからの指示っすよ』
サトリは最下層に向かったはずだが、一体どうやって連絡しているんだ?
まぁ、マコトとの戦いが先延ばしになったのは願ったり叶ったりだね。
問題は、最後の1体がどんな奴なのかっていうことか。
『最後の1体は、どんな奴なんだ?』
『……』
マコトは少し躊躇いを見せたが、重い口を開いて最後の1体を告げた。
『名はスクイ。自称、悪魔の救世主っす』
 




