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七十二話「久しぶりの登校」

 アクエリアとイグニスは姿を消した。というより、どうにも表現が難しいのだが空間の裏側に姿をしまいこみ、一応僕の跡をつけているという感じだ。

 魔物と契約して魔術を使うようになる、というのは向側ではよくあることらしい……と、イグニスが妙に早口で説明するがほとんどに耳に入らなかった。けど、ある言葉が急に感覚を鋭敏に。

「最近この街に一人の魔術師がさまよいこんだという情報をご存じですか?」

 イグニスが急に深刻そうな声で。

「魔術師? ……何だったっけ」

 最初はどう返事をすればいいか、きょとんとしていたが、すぐに思い当たる。

 アレクサンデルとエリアーデが玄関に立って、僕に話しかけた時。


 ◇


「どうもこの街にもう一人魔術師が忍びこんでるらしいっす」

「何でも、高い位にある魔術師に違いないっす。自分たちの存在も知ってるはずっす!」


「もう一人の魔術師?」


「王国政府によってこの世界に渡ることはずっと難しくなっているはずなのに、勝手に渡っちゃう不届者がいるらしいの」


「恐らく、その魔術師は相当な身分の人間で間違いないっす!」

「この世界の存在を知っている人間はわずかしかいないし、知ってるとしてもその技術を使ってこの世界に行ける奴は限られてるっす。ただの一般人とは思えないっす」


「まあ、最後まで聴きなさい。実際、本国にどうも数ヶ月前に失踪した魔術師がいるの。魔法学会に所属してる人でね、名前は忘れちゃったんだけど、確かマギア・ユスティシアとも面識があったわよね?」


「あったっす。世界融合の技術を知る魔王を探して、見つけ出すはずっす」


 ◇


「確かエリアーデさんから聴いたな。そういう人の話」

「私たちが翔吾様の元を訪れたのは、彼の正体をつきとめ、捕えることでもあるのです」

「マギアと面識があるそうだな。多分相当厄介な奴なんだと思うよ」

 アクエリアが動揺した表情を見せる。

「そりゃ本当か? おい、もっと教えやがれ――」

「アクエリア、私たちがエリアーデ様よりも前に奉仕おつかえしていた魔術師様が姿をくらましてしまったのです……恐らくあの方ではないと存じますが」

 あきれ顔を半分隠す水の精霊。

「最近のアルカディアはやけに失踪が多いな! 危機管理はどうなってやがんだ?」

 精霊たちにもそれなりの事情がある。ますます精神が錯乱こんがらかってくる。


「すまないが、僕は学校の連中がどんな顔をして俟ってるか心配でならないんだよ……」

 こっちの事情を持ちだして黙らせる。この点では、二流以下の話術しか持ってはいない。



 僕はかなりためらいながら廊下を進んだ。恥ずかしい感情がどうしても付随つきまとうが、もう人目を気にするべき時じゃない。

「あ……翔吾!」

 視線が相互たがい混交いりまじっていた大家みんなが、この時点で僕を観返してきた。

 中でも咲が真先に立ち上がり、僕に肩をつかんで詰問。

「マギアはどうしたの? 不登校になったの!?」

 それは僕が訊きたいことだ。マギアの失踪を報せに二人は訪れたのだから。

 大体学校の勉強にどう追いつきゃいいんだ。このままじゃ危機的じゃないか。

「マギア、は……」

 けれど彼らにとって一番の問題はそれだ。そんなこと言われる口ごもってしまう。


「知らない。何も知らないんだ」

 心なしか、ややとげのある口調になったかもしれない。

「そっか……」

 咲は僕の目つきにやはりただならぬ気配を感じたらしく、静かに引きさがる。けど、今度は

「知らない、ですって!?」

 小坂が気色ばんだ顔でにらみつける。

「私たちはマギアも翔吾くんも全然音沙汰がないから心配してたんだよ!? そんな雑な説明じゃ誰も納得しないよ!?」

「ねえ、マギアはどうしたの!?」

 小坂は依然として僕を責める。険しい空気。

 誰もが本気でマギアの心配をしている。だからマギアを守れなかった責任が僕に向けられる。

「マギアとあんなに一緒だったと言うのに……何か教えてくれるでしょ?」


 そんな中、僕はある一人の顔に目が留まり、釘付。

 朱音だ。どこか懇願している顔に見えるのだ。

 言ってやって欲しい、と。今までにない、辛そうな表情。まるで、僕に頼っているとしか思えない。そこに、表現しようのない違和感。

 みんながあの野郎になびく中、お前だけは変わらなかった。その不愛想そっけなさ狡猾ずるさが――なぜ今では欠如してるんだ?


「お前らこそ、マギアがいなくなる場所を視たってのか?」

 朱音から若干目をそらし、小坂の視線に耐えながら、僕はみんなに尋ねる。

「僕は見たんだ。マギアが夕暮の闇のもとに、『自分はマギア・ユスティシアじゃない』って叫びながら逃げていくのを……」

 数秒間、ざわめき。


「確か怪しい叫声が聞こえて、化物が現れて……」「逃げるしかなかった……だからマギアも……」「あれほどの騒ぎだったんだからそりゃ意気消沈する」

 ロデリックの乱入に真正面から立向かえたのは僕らだけだったから、みんな実際の現場は目撃していないわけだ。

 マギアの失踪をよく知っているのはこの僕だけ。


「僕はあいつのことを誰より知ってるんだ……だが、安心してくれ」

 吉田の顔に気づいた。面白くなさそうな顔。

「マギアは必ず帰ってくる。前より数倍も元気になってな」

 こんな嘘を堂々とついて、よくも正気でいられる。実際、アクエリアがぼそぼそと悪口を放ち続けていた。


 小口先生が静かにつぶやいた。


「翔吾君、変わったね」

「別に、大して変わってませんよ」


 とにかく、僕はマギアの行方を調べなければならない。そして、目前の目標である学校生活を送らなきゃいけないのだ。世界の危機に立向かうためには、日常を軽視してはいけない。

 僕は周囲の夢から覚めたみたいな表情にかこまれ、ようやく着席した。隣は、空席。

 

「何だよ……前と変わらないじゃないか……」

 僕は腹いせに言った。

「前と?」 小坂の険しいつぶやき。

「やめてよ、小坂」

 咲がたしなめようとする。どうやらここ数日の間、小坂はだいぶ神経質になっているらしい。

「翔吾が絶対帰ってくるって言ってるのよ。だからその言葉を信じて……」

「私はマギアがまだ見つかってないのが苦しいの!」

 あたかもマギアの代理になったように、威勢のいい口調。

「私だってあの時、何もできなかったのを悔いてるの! せめてマギアの側にいてやれたら良かったのに! でも……実際には会場の外側にいて……」


「彼らの間でも相当な名声があったようですね」

 イグニスが虚空を通して語りかける。

 アクエリアががさつに続ける。

「こいつらが数日前までマギアと身近に話し合ってたって? やけに微弱ひよわな奴らばっかじゃねえか」

「ああ、僕だって最初はあいつがただの変人だと思ってたよ。でも今は……」

 うっかり、口に出してしゃべってしまう。

 するとまたもや妙な物を見る視線が集中。

「今、誰と話してたの?」

 まず咲に問われた。

「いや、誰とも……」

 僕は答えあぐねた。魔物があり、魔術があることを知ってる奴が数人いるとしても、いまだに異世界の存在はみんなに知られてない。まして僕が魔物と契約したなんてどう説明したものか。

「てめえ、私たちのことを教えやがったな?」

 アクエリアが妙に怒った声。

「こいつらに無責任な噂の種にされるほど精霊は安上がりな生物じゃねえぞ……」

 アルカディア人に外れず、妙にプライドが高い。


「翔吾ならそれであってもおかしくないな……」

 吉田がぼそりと。

「あ、ああ……翔吾なら何をやってもおかしくない。だって魔法を使えるんだからな」

 岩井が口を閉ざす。そう言えばこいつは一番早く魔法の存在を知った奴だ。僕の異常さを誰よりもよく勘づいている。

 朱音が、その声を継ぐようにして言う。

「あなたったら、本当に変人よね。学校に急に現れなくなったと思ったら、けろっとした顔を見せてくるし」

「か、空元気だよ空元気!」

 僕は別に、強い奴じゃなんて思われたいわけじゃない。今だってただ、みんなが僕を頼りにしてるからそんな風を装ってるだけ。


「それより、文化祭の後はどうなったんだ?」

「ああ。後片付けが大変だったよ。誰か知らないが、いきなり変な奴が現れて、挙句に校内に炎が出てきたもんだから逃げるしかなかった……」

「お前は何か知ってるのか?」

「簡単に言える空気ではないようですね……」

 とイグニス。


「言えない」

 誰も、答えさせようとはしなかった。


 ◇


 朱音の席の前に立つ。びくっとする朱音。

「僕を視てたのか?」

「……何それ? 視てなんかないし」

「いや、視線が集中してた気がしてさ」

 意外だった。朱音の眼に弱気がほの見えたから。こんな臆病さのある朱音は、初めてで戸惑ってしまう。

「いや、お前の様子が何だか変だったから、つい見つめずにはいられなかったんだ」

「それは……何? 口説いてるわけ?」

 急に笑出す。やはり、活力が欠けている。

 僕は何とかして、朱音から理由を導こうと言葉を探す。

 すると唐突に横槍。


「翔吾、そいつと話さないで」

 急に朱音の机に手を叩きつけ、小坂が割って入る。

「どういうことなんだよ、小坂?」

「いい? 魔王様の心配をしてるのはこの私なの! 私は今、魔王様がいないことで本当に気苦労してる! それなのに、この女と来たら!」

 朱音は苦虫を噛み潰した顔でその言葉を聞流す。

「魔王様の心配を全然してない! それ所か、ますます落着いた風でいるの! 非常識だと思わないない?」

 僕はついかっとなった。

 確かに朱音は魔王をたびたび陥れた主謀ではある。岩井と小坂を山奥に連れ出したのは決して許されないような悪だ。けれど小坂がそれを報復しかえしする必要があるのか?

 また、教室に分裂を起こせってのか。

「君だって元は朱音に組していたじゃないか」

「確かに私は前は朱音に従ってたよ。でもあの時知ったの……魔王様こそが本当に良い人だってことを!」

 小坂はそして宣告する。

「だから私は、高島朱音を許さないの!」

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