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五十八話「魔術練習、そして魔王の泣声」

 公部川に沿って広がる白いコンクリートの道路。

 エリアーデと例の石で連絡やりとりをした場所で、今度は金髪女と実際に顔を合わせて立っていた。

「心が足りない! もっと強く念じなさい!」

 僕は以前持っていた杖と一見よく似た奴を水面に向け、魔法を撃とうとしていた。

 他の人から見られたら、多分失笑を買いそうな光景だろうが、今の僕にとっては笑事ではない。何しろ僕の腕をつかんでちぎれそうな位ぐいぐいと伸ばさせるのは、本物の魔法使なのだから。

「顕現せよ、電撃の霊!」

 エリアーデと共に唱えた瞬間。杖から光の柱が一瞬ほとばしって無数の枝を散らしつつ、溶ける。

 僕一人でやった時とは断然、威力が違う。

「これでも十分手加減してるつもりなのよ。何しろ本気出したら多分野次馬が聞きつけてくるだろうからね……」

 魔力が僕の体内――というか、周囲から湧出す感覚は鮮明になってきた。

 こんな力が使えるのも世界の融合が進んでるからか、と思えばあまり成長したとかうれしいとか喜ぶわけにはいかないな、とひそかに考えつつ、

「いや、でも魔術を撃つコツは結構つかめてきましたよ」

 エリアーデにあまり不安がらせたくないので言訳しながら、

「魔法の流に浸っているような気がします。何しろ最初は魔術を使った時のあの気配も感知できませんでしたから」


 少なくともエリアーデのいる世界では、魔法と言うのはよくあるゲームの設定みたいに、一部の人間しか使えない技ではないらしい。そもそも魔法とはある特殊な道具を介して現出させるものと相場が決まっている。

 米倉清助が魔王たちを操る時に使った指輪もこの杖と同じで、魔術を現出させる時に必要不可欠な装置。

 エリアーデによれば、米倉のそれは精神に作用する魔術であって、ロデリックが僕を殺そうとした時みたいな、所謂『黒魔術』に分類されるものとは別とかなんとか。

「魔法はね、別に使うのが大変なものじゃないの。だからこそ、強い魔術が使える奴が脅威なのよ」

 とはいえロデリックが襲いかかってきた時、対処できるかどうかやはり不安。だからこそ僕の側にはエリアーデが僕の自宅の戦士アレクサンデルが常駐している。


「でもやっぱり、疑問ですよ」

 魔術に詳しくない僕は、さっさと例のあいつについて話しだす。

「魔王があんな、暗い過去を持ってる人間とは思えないです。僕の知ってる魔王と言うのは」

 エリアーデは、人差指できつく僕をねらい、論破しようとばかりにまくし立てた。

「あれが魔王じゃなかったら、何者なの!?」

「それは――」

「あんな女狐を真似するような奴なんているわけでしょ! そんなのよほどの変態以外に可有ありえないわ。だって私たちの部隊を二度も壊滅させたんだから!」

 金髪が風で乱れ、威嚇する蛇みたいに。

「何が見つけて反射炉の在処ありか聴取ききだしなさいよ! あの女八裂にしてやりたい位よ!」

 そこまで言った途端、エリアーデは眉をひそめて口ごもり、僕は彼女が体制に加担する人間と思い知らされ陰惨な気分。

「反射炉があれば世界が救われるんですよね?」

「そうよ! だから勇者様が反射炉を探してるんだって私は信じてるの!」

「……その勇者って、どこから来た名前なんですか?」

 何を今さら、といぶかしみ、かつ一体何を話したいのだと蔑む眼で見下してくる。

「決まってるじゃない。魔王を征伐した功績のために、アルカディア王から贈られた称号」


 何てこった……僕らは共通の話題を欠いている。仕方がない。結局は、世界の危機を知っているというほどの共通点しか持っていないのだから。

 僕は、彼女のぴりぴりした様子にすっかり何を言えばいいのか分からず、黙込んでしまう。エリアーデの方でも、やけに騒過ぎたと反省したか、会話を続けようとこう。


「あんたの学校で何か変わったことはない?」

「魔王の『友達』(どういう言葉で示せばいいのか、つかない結論)が一人いなくなって、それっきりなんです」

「学校に来てないってわけ?」

「……はい」

「私の世界だったら、多分首に札かけられて、晒者にされるわね……」

 向側に生まれなくてよかった。

「でも、こっちじゃそのまま家に引きこもりがちでみんなの説得にも応じない」

「じゃあ、扉をぶち壊して引きずり出すしかない」

「そんな横暴な!」

 しかし予想を遥に越える回答が出る。

「横暴? 私なんて上官に反抗するために士官学校の寮に数日こもってたら、いきなり独房に連れこまれて脱がされたんだから!!」

 ため息しか出ない。

 やはりあっちの世界の人間には品がない。野蛮だ。

 大体僕らの世界が危機に陥ってるのも、逆行さかのぼればお前らのせいなんだからな。


 するとかばんにはめている電話が鳴りだした。

 直感でさとる。

「魔王からだ……」

「あの女の言葉なんて無視しなさい。全てはあなたを惑わすためなんだから」

「でも、僕の大切な……」

 会話がまた途切れてしまうのに、電話はなり続ける。

「分かったわ、じゃあ『恋人』ってことで」

 面倒くさそうにしめる。エリアーデにしてみれば苦々しげな返答だろうけど。

 僕は魔王に簡潔に要点を訊く。何をしているか知られたくはない。

「大変じゃ、勇者。咲が……消えた」

 急にエリアーデが僕から端末を取上げ、わめく。

「マギア・ユスティシア! あなたの仕業でしょう!?」

 エリアーデが無茶な思いこみをつきつけるその時、僕は二重の意味で驚いた。

 エリアーデが先ほど発した恋人と言う言葉の意味を、その時理解してしまったから。

「ちょ、エリアーデさん!? まずいですよ! ちょっとほんとに――」

 意地でも、端末から手を離さず続ける絶叫。

「正体を現しなさい、マギア・ユスティシア!!」

「わあっ……助けよ……勇者……!」

 魔王も声をはりあげて、エリアーデに応えるのだった。

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