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五十一話「音楽部の部長、魔王の内心を暴露す」

「君たち二年二組は変人ぞろいってうわさみたいだけど、実際どうなんだ?」

 音楽部の先輩は、何か後ろめたそうに訊いてくる。

 ああ……これは……いいイメージ持たれてないわ。冷汗かく僕。

「我輩の野望はじゃな、お主らの心をこの手に収めることにある!」

 まるで自分が正気まともであるかのように堂々と胸を張り、腰に手の魔王。

「そりゃ一体どういう意味なんだ? つまり僕らの迷惑を返見みないで自分の命令に従わせたいってことか?」

 この人には冗談が通用しないようだ。

 やけに冷静な声におびえた僕は、魔王の前に立って弁明を試みる。

「いや、魔王はただ協力してほしいというだけで……」

「何、我輩の意思を曲解させるつもりか!」

 若干本気で気色ばむのだから手に負えない。

「じゃなくて、お前はそういう語調ものいいで誤解まねいてんだよ!」


 先輩はそこで、僕にも疑念を向ける。


「ええと、君は確か『勇者』と呼ばれる子だよね」

「は、はい」

 どうやら僕の存在さえ外には変に言われてたらしい。

「後輩の朱音がしょっちゅう『二年二組は変人の巣窟』と言うもんだからさ、どんな奴かと思ったら……案外普通だな」

「普通!? やった!」

 そう言われたことで、急に歓喜の爆発。

 しかし魔王が腕をつかんできて、青筋立てつつ論駁する。

「普通ではない! こやつはな、我が命を前世において奪った大悪人なのじゃ!」

「いつの間に設定(もど)ってるし!?」


「前世がどうの大悪人がどうのと、知らないが」

 そんな茶番に、先輩はあくまでも馬耳東風。

 むしろ、返事はもっと重いもの。

「確か、君は……合宿の時行方不明になった同級生を助けたそうだね」

「う、うむ」

 深刻な話題に面食らった魔王は、さっきの戯言ざれごとを悔い、目を下げる。

「非凡なことは認めるよ……だけど、それが君の無理な要求に理由にはならない。何より、君の非常識な行動の数々が両親に来てもらおうかって話になったそうだからね」

「我輩の何が非常識なのじゃ?」


 目の前の人間がマギア。


「まず、髪を染めていること、名前を呼ばせないこと、ホームルームの授業をのっとっていることってのを聴いたぞ」

 全部、朱音から教えられたことなのだろう。見事に、事実に

「ち、違う、髪を染めていることは……」

 マギアは何か反論しようとして、口ごもり、黙りこむ。

 反論のしようがないというよりは、まるでそれより恐ろしいことが脳裏を走ったみたいに、目が留まっていた。

「言いかえせないなら、やっぱり君は学校の規律を好勝手に乱しているって讒謗そしりをまぬがれないようだが?」

 何かがおかしい。どこかずれている。

 ……そうじゃない。マギアは好きで魔王を演じているわけでは――

龍造寺りゅうぞうじ先輩!」

 ここにいる誰とも違う叫びと踏鳴らす音。

春風はるかぜ……」

 ちょっと背が高い端麗な少女で、先ほど先輩と一緒に魔王を足らっていた子だ。

「さっきも会いましたよね、この子……」

「どうにかしてくれ。これからのライブの予定がいっぱいあるのに、勝手に協力を求めてはばからないんだ」

 魔王はいよいよ大胆に自分の『野望』を告げてやまない。

「我輩の教室もな、今回の文化祭ではいい出物が見つからぬのでのう。だからだからお主らの力が必要なのじゃ! だからお主らに我が望みを」

 収拾がつかない。僕はとうとうマギアの柔らかい、骨のすぐ近い腕をにぎり、

「マギア! もういい加減ここで中止きりあげようぜ」

「ま、待て! まだ話は半分も終わっておらぬぞ!」

 後輩らしい少女、春風はマギアの焦る顔をじっと見つめ、

「何だか、魔王って威厳の全然ない感じだね。それでクラスからいじられたりしない?」

 魔王は顔を赤らめ、大きい声を荒げつつ、

「馬鹿な、我輩はクラス中から尊崇を受けておるのじゃぞ、信じよ」

 いや、多分いじられてると思うぞ。三茅とか咲はともかく、吉田とかその気配が濃厚にある。

 無論、魔王がそれを察していないはずはないと思うのだが、教室以外の連中に侮られるのを何より怖れているのだろう。

「なあ勇者、我輩はクラス中から敬意を払われておる。左様じゃろ?」

 腹いせに、

「全然」

 瞳がどんどん小さくなっていくマギア。

「はう!?」

「勇者だなんて馬鹿にして呼んでるからだね」

 冷淡に判断を下す竜造寺先輩。


 春風はそこに、もっと人聞の悪い邪推を付加えてみせる。

「つまり、勇者と魔王という設定で本心をごまかしているということかしら。つまり恋愛関係にあるってわけね」

「な!? ななななー!!」

 魔王は顔を赤くし、僕は限りなくどきまぎする。こんな関係だと指摘されることを、誰かに許した覚えはない。


「全く……素晴らしい青春を送ってるわけだ。こっちなんて練習に継ぐ練習で泥臭い日々だよ」

 先輩はどこまでも、僕らの関係を明快に捉えているのだった。

 そんな先輩の読みの深さにすっかり愧じた魔王は逆に僕の体を強く引いて、

「ゆ、勇者よ! ここは一旦退散するぞ」

「おい、お前が勝手に巻きこんだんだろうが!」



 八当だと理性では分かってても、とにかく怒鳴らずにはいられなかった。

「お前のせいで僕まで変な風評が立っちまったじゃないか!!」

「うるさい! 我輩はあくまで己の道を貫いたまで!」

「なんて言いながら、恋愛について最初に切出したのはお前だったぞ?」

 差人指をつきつけると、腕をすくめ、

「いや、あれはただの戯言ざれごと……」

 決まりの悪い表情。忘れてほしくてたまらなさそうに。

「とりあえず、お前が音楽部に協力を求めているのはわかった。でも、単刀直入にお願いするのは無理だよ」

「朱音に頼むか」

「朱音がとても認めてくれるとは思わないけどな」

「ふむう……」

 僕は魔王の無理筋に付き合わなければいけない音楽部に同情せざるを得ない。

 すると、向こう側から吉田がやって来た。

「よう、もう次の授業が始まるぞ」

 先ほどの後味わるい会話の余韻が伝わらないよう、あえて手を脇腹につけて立つ。

「どうも、いきがっている様子だが、何かあったのか?」

 魔王は僕の意図を察したのか、何も言いだすことはなく。

 僕からの返事がないと分かると、吉田はさらに新しい情報を告げた。

「所で、岩井がどうしてもお前らに話したいことがあるんだってさ」

「話したいこと……?」

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