プロローグ
プロローグ
――仮想世界。
巨大な魔物が咆哮を上げる。その背後で、一人のアサシンが気配を消し、音もなく地面を蹴った。
敵が振り返るより早く死角へ潜り込む。仕掛けておいた罠、事前に蓄積させた毒、残りHP、敵の行動パターン――すべて計算済みだ。
「――ここ」
短剣が急所を切り裂く。巨大な魔物のHPがゼロになり、その身体が光の粒子となって崩れていった。
目の前に表示される討伐成功の文字。
「……よし。やっぱり、このルートが一番早い」
九重 白音は小さく拳を握った。
これは、意識そのものを仮想世界へ接続するダイブ型VRMMO。
白音がこのゲームを始めて、もう十年近くになる。メインストーリーはもちろん、隠しクエスト、重要NPC、裏ボス、隠しマップ、レアアイテム、特殊な職業――暇さえあれば攻略情報を調べ、気になることがあれば自分で試した。
中でも一番使い込んだ職業は、アサシン。
そして白音は、基本的にソロプレイヤーだった。
別に誰かと遊べないわけじゃない。ただ、パーティーを組めば時間を合わせたり、役割を相談したり、相手に気を遣ったりしなければならない。
それが――面倒だった。
一人なら、好きなときに潜れる。好きな場所へ行けるし、失敗しても誰にも迷惑をかけない。
何より、自分で考えた攻略法を好きなだけ試せる。
シロネ:「ソロでできるなら、ソロでよくない?」
それが白音の基本姿勢だった。
正面から倒す必要なんてない。罠が効くなら罠を使う。
毒が効くなら毒を使う。戦わずに済むなら、そもそも戦わない。
パーティーが必要なら組む。でも、一人で攻略できるなら一人でやる。
使えるものは全部使って、一番効率のいい方法で攻略する。
**効率重視、ソロプレイ中心、そして少々ぼっち気質。**
それが、九重白音というプレイヤーだった。
◆
シロネ:「……今日はここまでかな」
白音はメニューを開き、ログアウトを選択する。仮想世界が光に包まれ、意識がゆっくりと現実へ引き戻されていく。
目を開けると、そこはいつもの自分の部屋だった。
――そして、その日。
九重 白音の人生は、突然終わった。
何が起きたのか。その瞬間のことは、もうよく覚えていない。
音が遠くなり、視界がぼやけていく。身体から力が抜けていく感覚だけがあった。
――あ。
私、死ぬんだ。
そんなときでさえ、頭に浮かんだのは十年近く遊び続けた、あの世界だった。
まだ試していない攻略法がある。まだ見つけていないものだって、きっとある。
次は、あの隠しクエストを調べようと思っていた。もっと強い敵とも戦ってみたかった。
まだまだ、やりたいことがあったのに。
シロネ:「……あぁ。もっと……遊びたかったなぁ……」
それが――九重 白音の最後の言葉だった。
だが、このときの彼女はまだ知らない。
その願いが、思いもよらない形で叶うことを。
プロローグ 完




