17 ブカブカの居候と、理性の限界注文 4
「あれから、考えたんだけどさ……」
弁当の蓋を開けながら、あおいはポツリと話し出した。
「もし、高山が救急車呼んで病院行ってたら、僕……どうなってたかな……」
「……え?あ、あん時、俺のスマホの電池切れてたんだわ……だから……」
「助かったよ……もしそうだったら、周りがきっとパニックになってたと思うな。濡れた(見た目)女の子が、サイズの合わないトランクスとランニング着てたら……」
「確かにな……明らかに事件性を疑われるか……若しくは、異常趣味(変態)……ってか?」
「や、僕にはそういう趣味はないぞ……僕はれっきとした男だったんだから!」
「……男……ねえ……見えねえけどな……」
「……」
まほろも、分かったような、分からないような顔をした。
それから二人で簡単にコンビニの弁当で食事を済ませた後、二人は再び注文を始めた。
「よおし、後は服だな。これから梅雨に入るし、ジメジメして蒸し暑い日も多くなるからさ……」
まほろがコーラの缶をテーブルに置き、再びスマホの画面をあおいに向けた。高校二年生の初夏を控えたこの季節。男の子だった頃は学校の制服かジャージのままか、あるいは適当なTシャツにハーフパンツにサンダルさえあれば殆どそれでいけたのだ。
しかし今のあおいは165cmぐらい?のスラリと手足の長い『女の子』なのだ。
まほろは『ユニーク』のレディースの画面を開くと、ニヤニヤしながらあおいの顔の前に突き付けた。
「なあ、水瀬。これとかどうだ?女の子っぽくて、梅雨のジメジメも吹き飛びそうじゃん」
画面に映し出されたのは、美しいフレアラインの淡いミントグリーンやパステルピンクの爽やかなワンピースだった。
「初夏にピッタリって感じじゃん」
「ばっ、馬鹿言うなっ!……僕がそんなの着られるわけないだろっ!!」
大声を上げ、あおいは顔を真っ赤にして猛烈に首を振った。
「なんでだよ。若い女の子って、普通こういうの着てるだろ。せっかくならそれっぽいの一枚買っとけよ」
「僕は……中身は男なんだぞ⁉生まれてこの方、そんな着たこともないひらひらの服なんか絶対嫌だ。スカートなんて精神的に無理!」
あおいの必死の形相に、まほろはチッと舌打ちをしながら画面をスクロールする。
「ジーンズならずっと穿いていたし、それならいいかも」
「ズボンな……それなら……」
まほろがレディースの『スキニーデニム』の画像を出した途端、あおいの動きがピタリと止まった。
「……おいっ、待て!高山。これ……太ももとかお尻のラインがピッチリ出過ぎるだろ!ダメだ、これも嫌だ!」
「はっ、めんどくせえ野郎だな!ジーンズだろ?何がダメなんだよ」
「レディースのスキニ―はダメ。身体の線がまともに出るじゃないかっ。こんなの恥ずかし過ぎて、外を歩けないよ」
男のプライドと今の女の子の身体の現実。その狭間で、あおいは必死に「女らしいシルエット」を拒絶しようとしていた。なんとか外見だけでも、男物に近いシルエットにしがみつこうと必死に画面を検索する。
「これがいい……このワイドストレートのイージーパンツ。これならゆったりしているし、体型も出ない。夏でも涼しそうだし……」
「お前なぁ……せっかく脚が長くてスタイル良いのに、なんでそんなブカブカのばっかり選ぶんだよ。上のTシャツも色のない無地……いいのか?」
「いいんだよっ、目立ちたくないんだから。兎に角、身体のラインが出ないやつね!」
あおいの頑なな抵抗により、カートに入れたのは、メンズライクなネイビーのイージーパンツと無地のTシャツ。パステルブルーのフルジップパーカーを一枚。どれも女の子らしさからは程遠い、ベーシックでカジュアルなものばかりだ。男女兼用でもいけるものだ。
さらに画面の進んだ白と黒のシンプルな靴下セット。まほろは迷わず、自分用の「28cm」とあおいの「25cm」をカートに入れた。
「……ああ、25センチ、か……」
あおいは自分の新しくなったサイズ表記を画面で見つめ、少し複雑そうに呟いた。かつての自分からすれば、信じられないほどの小さな数字だ。
「気にすんな……これでひとまずは大丈夫だろ」
まほろはあおいの寂しげな視線を振り払いようにぶっきらぼうに言い、親から預かっているカードで決済を済ませてスマホをテーブルに置いた。数日すればこの部屋には、服が届くはずだ。
「……有難う、高山。本当に助かった……お金はそのうちなんとか……」
「……うん、まあ、その話は今度だ……これからどうすっか考えようぜ。……お前、本当に行くとこ無いんだろ?」
「……うん……」
家に帰りたい気もあるが、不安も一杯のあおいである。あおいはソファに深く身体を鎮め、小さく息を吐いた。まほろには大きな借りが出来てしまったが、親にバレないようにこっそりバイトで補充してくれると言ったので、幾分かは心の重荷は軽くなっていた。




