日常4(国王との対面)
マリアがカークス邸から戻ってきてから、ヴァリーとミュゼルを鍛えると言って張り切っていますが、いったいどうしたのでしょう。
それがヴァリーとクストの仲を改善させるための一番手っ取り早い方法だというのです。全くもって意味がわかりません。
「マリアさんが楽しそうだからいいのではないのでしょうか?」
セーラがそのように言っていますが、楽しければいいのでしょうか?
「駄犬も坊ちゃま達が強くなることに対しては文句はいわないでしょう。強さは正義です!!」
セーラ。何か違うと思うわ。
でも、いつも側にいてくれるマリアがいないとなんだか寂しいわ。
いえ、セーラが駄目だとは言ってないのよ。今日行くところはセーラが付いて来てくれる方がいいのでしょうから。
そう、今馬車に乗って移動中なのです。いつもはマリアが私に付いていますが、今日はセーラが付いて来てくれています。マリアも今日はセーラが適任だと言って送り出してくれましたが、なんだか心細いです。
「奥様。愚兄に会うのは嫌ですよね!このままぐるっと第一層を一周して帰りましょう!」
「そ、それは駄目よ」
セーラが愚兄と呼ぶ人物。それは国王陛下です。今日は陛下との謁見が予定されており、作っている列車の進捗状況の報告に行くのです。
はぁ。なんだか段々と憂鬱になってきました。国王陛下と直接会ったのは謁見の間でクストと結婚の報告をした以来です。それもかなり距離がありました。しかし、今回は会議室でといわれました。
逆らえない権力者と面して話をするというのは·····
ぶるりと体が震えます。嫌なことを思い出してしまいました。蓋をしましょう厳重に記憶に蓋を。
ガタンと振動とともに馬車が止まりました。もう着いてしまったのですか!心の準備がまだできていません。
セーラが馬車の扉の前に移動し、外から扉が開けられます。
「駄犬!なぜここにいるのです!ここは王城です!警備は近衛騎士の担当ですので駄犬は詰め所に戻りなさい!」
セーラが外に向かって、そのような事を言っています。クストが来てくれているのですか。その事を聞いて、ほっとため息がこぼれでます。
「あ?ここの近衛全員より俺の方が強いんだ。俺がユーフィアの側にいるのに何も問題はない!」
そ、それは流石に誇張しすぎるのでは?全員は無理があるでしょう。
「まぁ。そうですね。それは否定しません」
セーラ!否定しないの?え?本当にここの近衛騎士を相手にして勝てるの?
「奥様。駄犬が迎えに来てしまったので、仕方がないので一緒に愚兄の元に参りましょう」
セーラはとても残念そうに言います。セーラの言葉だけを聞いていると、まともな人がいないように聞こえてしまいます。国王陛下に謁見することに間違いはないのですよね。
そうして、一つの扉の前に連れて行かれました。王城の中は何処かのところとは違ってギラギラしていたり、割ってはいけなそうな壺があったり、よくわからない絵が飾ってあったりという事はありませんでした。
シンプルに飾り気のない廊下に木の扉。まだナヴァル家の屋敷の方が色々飾り気があるように感じられるほどでした。
扉の中の部屋もそのような感じです。大きな円卓にその周りに並べられた椅子。そして、大きな窓。ただ、それだけの部屋でした。まぁ。会議室と言われていましたから飾り気というものは必要ないのかもしれませんが、少し、物足りないと感じてしまいました。
「よく来てくれた」
大きな窓を背にして一人の人物が座っており、その横にはその人物の背後に控えるように立っています。
「堅苦しい挨拶は良いから、座ってくれたまえ」
セーラと同じ金髪に翡翠のような瞳。大きな三角の耳に背後にはいくつあるのでしょうか、尻尾が見えます。国王陛下は九尾の狐と言われているので、恐らく尻尾は9本あるのでしょう。
セーラが椅子を引いてくれましたので、陛下に向かって一礼してから腰を下ろします。
「さて、私も忙しい身だから、単刀直入に尋ねよう。列車という物はどれぐらいに出来上がる?冬の祭りにはお披露目できそうか?」
冬!冬ですか!今は春が終わり夏に入ったぐらいです。
頭の中で組み立てていきます。
多少なりとも、私が自由にできる小さな工場があります。そこに線路となる石版を作ってもらうでしょう?
列車は馬車を作っている業者の方に頼んでいますが、如何せん馬車より大きな物になりますので、作成にはかなりの時間を要するでしょう。
線路が出来上がれば、石畳を剥がして石版を代わりに敷いて、上手く稼働するか微調整を······た、足りないわ。冬までに出来上がる要素が全く見いだせないわ。
「申し訳ございませんが、何分初めての事が多く、半年後の運開というには無理があります」
「それはできなくもないという事か?」
そ、それは出来るできないかと問われたら、今の状態では無理だと答えるしかないわ。魔導師の確保も10人がやっとでしたし、列車を作ってもらっているところも、ナヴァル家で贔屓にしている馬車業者に頼んでいるだけですから。
そもそも冬の祭りって何かしら?そのような言葉初めて聞いたわ。後ろにいるセーラを手招きをして聞いてみる。
「コソ(セーラ、冬祭りって何?)」
「コソ(奥様。冬は建国祭です。有名な武術大会があるお祭りです)」
!!!
そ、それは大事なお祭りじゃない!武術大会っていう物があるのね。それも初耳だわ。
「くくく。流石、魔女の名を持つナヴァル夫人だな。国事など関係がないということか」
へ、陛下に聞こえいていた!コソコソ話をしていたのに!!獣人だから?
「ということだから、お披露目には打って付けであろう?で、間に合うのか間に合わないのか?」
こ、これはプレッシャーでしょうか。目の前に陛下はニコニコと笑っていらっしゃいますが、威圧というか、出来るという言葉しか受け入れないという感じ。
「無理に決まってます!」
「セーラ、お前には聞いていない」
「無理なものは無理です!そうやって人の困っている顔を見て内心、楽しんでいる癖に!」
困っている顔!私、顔に出ていました?
国王陛下を見てみますとニヤニヤと笑っていらっしゃいます。
うー。
「陛下。ユーフィアで楽しむのはやめていただけませんかね」
隣から聞こえてきたクストの声がいつもと違う感じがします。流石に国王陛下の前だからですか。
「楽しんでいないよ。いやー。僕の前でピリピリするクストを見て楽しんでいるだけだよ」
え゛?国王陛下。さっきとなんだか雰囲気が違い過ぎますよ。威厳というか王らしさというか、そんなものが無くなってます。って結局、楽しんでいるではないですか!
は!そう言えば現状報告としては何もしていませんでした!
「あの〜」
私が声を出すと皆の視線を集めてしまいました。うっ。なんだか恥ずかしいです。
「現状では冬までというのが難しい状況です。第一に列車本体を作るのに一業者に任せていますので、分担制にすればもう少し早くなるとは思います」
「分担制とは?」
「例えばこちらが用意した規格通りに座席を作る業者。窓枠を作る業者。外装を作る業者と分けることができれば、断然に早くなります。魔導師もこちらで確保した人数では難しいです」
「無理は承知の上だ。いやー。彼女からの催促が酷くてね。『いつまで私のルーちゃんを南地区まで歩かせる気だ』という身勝手な言い分で拳を振るってくるんだよ」
彼女?!陛下は確か王妃様もお子様もいらっしゃいますのに彼女がいるのですか!いえ、悪いことではありませんよ。ええ、王様ですからね。
「歩くのが嫌なら、馬車を使えばいいと言えば『庶民にパンがなければお菓子を食べればいいみたいな事を言うな』と言われる始末だし。そこまで酷いことは言ってはないのに殴ってくるんだよ横暴だよね」
とある国の王妃の有名な言葉ですよね。その王妃は処刑されましたが····あれ?その話はこの世界にはない国の話ですよね?
それにしても、彼女さんは殴ってくるのですか?とても暴力的····いいえ、私は関わりないことですので、これ以上突っ込みませんよ。
「ぷぷぷっ。流石の兄様もお困りの様子」
「質が悪い脅しだよね。捉えようよれば、お前の国もグローリアのようになりたいのかと言われているようなものだからね。考えすぎだろうけど、彼女の後ろにあの勇者がいると思うと肝が冷える思いだよ」
ん?彼女さんはあの関西弁の勇者の方とお知り合いなのですか?
「だから、僕の生命が掛かっているから、早めに完成させて欲しいのだよ」
いのち!!なんでそんな大げさな話になっているの!
「協力は惜しまないよ。必要な人材は提供しよう。ついでに第6師団の力の有り余っている者たちも扱き使うといいよ」
「ぷぷぷっ!生命が掛かっているとお兄様も必死ですね」
ですから、なぜ列車を走らせるかどうかが、国王陛下の生命に関わってくるのですか!セーラも笑ってないで私に説明してよ!
私、責任重大ではないですか!!!
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あのあと国王陛下の後ろに控えていた近衛騎士隊長の人から、先日ルジオーネさんに渡したメモの魔道具が欲しいと言われたのです。
色々管理することがあるそうです。『フラフラと陛下がいなくなるから余計に仕事が増えるのです』と疲れた顔で言われると、近衛騎士と言ってもこの王城を護るだけではないということなのでしょう。
セーラは面白い愚兄を見ることができたとご機嫌でお茶を入れてくれていますが、溢れているわよ、セーラ。
マリアは嬉々としてヴァリーとミュゼルを鍛えています。ヴァリーが『嫌だー!』と逃げ出しても首根っこを押させて訓練場に投げ込んでいます。
その姿をみて、ルジオーネさんは懐かしいですねと言っていまが、クストは不機嫌にそっぽを向いています。ルジオーネさんにとってはヴァリーの姿が誰かと重なるのでしょう。
「クスト。魔道列車の核となる魔石をどれにしようか迷っているのよ。やっぱりドラゴンがいいかしら?」
「デート!ユーフィア、ドラゴンを狩りにデートに行こう!」
クスト。まだ、ドラゴンにするか決めてないのですが。
「ですから、なぜ、デートが魔物狩りなのです?」
ルジオーネさん、ため息を吐くことではないと思いますよ。行きたいところに二人で出かけかけるのがデートだと聞いた事がありますから、間違いではないはずです!
しかし、ドラゴンの魔石だと質が良過ぎるような気がします。高魔力なのはいいのですが、列車を走らす安定性がないように思えます。
列車を安定的に走らす。断続的に魔力を供給しても安定している魔核を持っている魔物は····。
「ゴーレム!ゴーレムはどうですか?でも、ゴーレムなんてどこにいるか聞いたことがないわ」
私がそう言うと、クストとルジオーネさんが揃ってそっぽを向きました。これは珍しいことです。
「どうしたのですか?」
「ユーフィア。ドラゴンでいいんじゃないのか?」
「ドラゴンでいいと思いますよ」
二人からドラゴン推しの発言ができました。これはいったいどうしたのでしょう?
「奥様。お二人は南のダンジョンに行かれるのを怖がっているのです」
セーラがケラケラと笑いながら、そう言いました。南にダンジョンがあるのですか!初耳です!
「怖くは無いぞ!」
「そうです!あのダンジョンがおかしいのです」
な、何がそのダンジョンにあるのですか?ゴーレムがいるのですよね。二人が戸惑う姿なんて初めて見ました。
「あはは!『愚者の常闇』ダンジョンは一度入ると中々出られないと聞きますからね。二の足を踏んじゃいますよね」
ああ、奥が深いダンジョンなのですね。それで中々出られないとくれば、師団の仕事に支障をきたしてしまいますものね。
セーラ。これ以上はお茶はいりませんよ。受け皿まで満杯になっているではないですか。
仕方がありません。今回は私一人で行きましょうか。ゴーレム。どんなモノか楽しみです。
そうして、私がゴーレムのを倒しに行くのは別の話。
ここまで読んでいただきましてありがとうございます。
日常1と日常2はユーフィアの振り切った感の話でしたが、
日常3と日常4はユーフィアの闇と周りに視点を向けた話となっております。
読まなくてもいい構成ですが、今までの補足という感じでもあります。
補足として、ユーフィア視点からでは絶対にわからないことを補足させていただきます。
騎士養成学園について、近衛と第1〜第2師団が騎士の位置づけで、第3〜第10師団が軍という位置づけです。
学園出身者で近衛、第1〜第2師団がかためられ、それ以降は幹部候補となる教育機関となります。
ユーフィアは軍のことについても全く興味はありません。
クストの爺様について、クロードは巨大な黒狼に獣化が出来るので、クストに修行だといって、もてあそんで、逃げ出すクストを咥えて、連れ戻し修行の続きをするという日課でした。
獣化出来るので、遠くの国に行くのも普通よりも断然早く移動することができます。
金髪の少女と弟の父親について。ところどころに出ては来ていますが、二人の父親は違います。
シェリー → 関西弁の勇者
ルーク → 麗しの魔導師
ですから、二人の父親に対する意見は違います。
国王をおどしているのは勿論シェリーです。国王の彼女ではありません。
王城が質素というか飾り気が無い理由ですが、意味がないからです。獣人の国であるシーラン王国は問題があると力を示して解決をしようという性質があります。セーラが言っていた『強さが正義』それが国民の心に根付いています。ですから、何かと破壊されます。
南のダンジョンについて····獣人である彼らが苦手としている構成をしているダンジョンであるため、行きたくないと言っております。
今後出すかなぁ。出さないかなぁ。わからないので、説明はこれぐらいで止めておきます。
一応、物語的には重要施設です。
あと、誤字脱字はいつもどおりすみませんm(_ _)m
楽しんでいただけたのなら嬉しいかぎりです。
数ある小説の中からこの作品を読んでいただきまして、本当にありがとうございました(>ω<)
そして、読者様に忘れられた頃にまた更新をすると思います。
有難う御座いました(*´∀`*)
 




