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大阪弁と転生と竜  作者: 椋
一章
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翠玉の地樹と会った



「あー……ケーキくいたいわ。ほんまこっちきてからとうぶんぶそくでしゃあない」

 自分では声に出したつもりは無かったが、しっかり心の声が漏れていたようで、離れた所に優雅に腰かけていたアレキッサが反応した。

「けーき、とは何でございますか?」

(せやった、こいつら食べ物を摂取する必要が無いんやったな。この鉱山に居れば体力を失っても自然に回復するから殆ど不老不死やし、しかも魔量が最大ってなんやねん。アホみたいな理不尽さやな)

「しこうひんのいっしゅでな、あまいもんや」

「嗜好品………でございますか。けーきなるものは初めて耳にしました。我が君は、我々の智見では遠く及ばぬ深い造詣を湛えていらっしゃるのですね」

 ニコニコして何故か凄く褒められたが、ケーキの話をして造詣が深いと言われたのは初めてだ。

「いつかくわしたるからな」

「私にも頂けるのですか?はい、勿論お待ちしております」

 目をキラキラさせる美女に癒やされつつ、岩場から下方を見下ろす。最初に竜たちに紹介された時、彼らが集っていた広場が眼前に広がっている。ゴツゴツした岩肌が周りを取り囲み、どこかの要塞やアジトに見えなくもない。俺の姿を見つけて手を振ってくる子どもたちに、人型に変身して手を振り返した。

 ………隣から歓喜の悲鳴が聞こえた気がするが、気のせいだと思いたい。

「人型のアダマス様………、嗚呼なんて素晴らしいのでしょう。眼福、眼福だわ!」

 気のせいじゃなかった。

 ブツブツ言っている残念美女は置いておいて、また思考の海に沈む。


 玉竜をはじめとした七竜族たちは、各々オルキア鉱山帯の内部に住処である洞窟を持っており、普段はそこで暮らしている。だがこの種族はかなり交流が盛んなたちらしく、昼間などは、多くの竜たちが広場に出てきて日光浴(岩盤浴?)をしているのだ。子どもたちは皆、魔力向上の練習をしたり、人型で走り周ったりと賑やかだ。そこには性別、年齢、性格、魔力量の隔たりは存在しない。文字通り、全員で家族のようなものらしい。

(ええファミリーやな、ここは)

 しみじみと感慨に浸っている幼児。側から見たら相当変だろう。何故誰も可笑しいことに気がつかない。俺にとってはやり易くて有り難いけれど。

 というか、さっきのケーキのくだりも、何故殆ど生まれたばかりに近い幼竜がそんなことを知っているんだというツッコミが不在だった。アダマス様なら何でもご存知で当たり前とか思われてそうだ。怖い。


 俺は身震いして、そっとアレキッサから離れた。彼女は良い女だが、こと俺に関することは盲目になるので、たまに困る。今日はゾスとの訓練は休みなので、ラルドの手伝いでもしに行くか。

 あ、ラルドを覚えているだろうか。緑色の人だ。彼はこの周辺の結界を維持してくれている。オルキア鉱山帯の番人とも呼ばれているナイスガイなのだ。



 さて、そんな訳でラルドを探すこと数分。

 鉱山とその周りを囲む森の境目で、その姿を見つけた。精悍な顔立ちは凛々しく真摯で、男の俺でも惚れそうなカッコ良さだ。

「ラルド、いつもわるいな」

「おお、我が君。久しくお会いしていませんでしたが、お変わりありませんか?」

「おかげさまでげんきにやってるで。そっちはどないや?」

「勿体なきお言葉。恙無く暮らしております」

「かたくるしいのはなしにしようや。なにかてつだわせてくれんか?」

「では、少し魔力の上乗せをお手伝いして頂けますか?今、結界の綻びを繕って強固にする作業を行っているのです」

「わかった、ちょくせつけっかいにそそぎこめばええんか?」

「はい、先ずは少量ずついきましょうか」


 両の手をかざすラルドの斜め後方に立って、少しずつ魔力を注ぎ込む。ライトグリーンの光線に、絡んでまとわりついていく銀色の光。ラルドはそれを、緻密な操作で結界の修復に当てていく。

 暫くお互いに集中して作業をしていたが、ラルドの終了を告げる声に、結界がひときわ明るくパアァッと煌めいて、光が霧散した。キラキラと輝きながら、結界の残滓が光の粒となって舞い落ちる。それはとても幻想的な眺めだった。


「ありがとうございます、アダマス様。おかげで作業効率がぐんと上がりました」

「やくにたてたんならよかったわ。じゃましてわるかったな」

「いえいえ、とんでもない。大助かりですよ。

 あ、少しお待ち頂けますか?我が眷属たちが、アダマス様にお目通り願いたいと申しておりました」

「かまへんで、ぼくもあいたいとおもってたところや」

 残るは地竜王、樹竜王だったな。

 毎度お馴染み、眷属召喚の魔法陣が消えた時、そこには薄い黄色の着物を纏った、好々爺といった雰囲気のお爺さんと、背の高い、痩身の男。


「我が君、初めましてですじゃ。儂は地竜王ヘリオ。ラルド殿にお仕えせし、老いぼれ爺ですじゃ。困ったことがあればお力になりましょうぞ。何せ、歳だけは無駄に食っておるのでな」

 ふぉっふぉっふぉ、と笑う彼は、たっぷりと蓄えた白髭とニコニコと柔らかなオーラが、仙人やサンタクロースを思い出させた。比較的小柄だが、背すじはしゃん、と伸びており老練の達人、といった印象を受ける。

「ヘリオ、よろしくたのむ。ぼくはむちゆえ、じょうしきはずれなことをするやもしれない。そんなとき、きちんといさめてほしい」

「何と、勿体なき役目を頂いてしもうたわい。ふぉっふぉ。しかしこのヘリオ、ご期待に添うべく、老体に鞭打つ所存ですじゃ」

「むりせぇいうてんとちゃうねん」

 思わずツッコんでしまうほど、爺さんが張り切り始めた。頼んだのはこちらだが、倒れられても困る。

 適度に頑張ってくれ、と言い含めてもう一人の男に目を移す。


 良く言えばすらりと細く、悪く言えばひょろい。特徴的な糸目は常に弧を描いており、笑っているように見える。どことなく狐に似た細面に、整った鼻梁。薄紅を刷いたように色づく唇。彼も竜族の例に漏れず、イケメンである。目が美男美女に見慣れてしまった。恐ろしいことだ。

 一本の細い三つ編みにした黒髪を後ろに垂らし、チャイナ系統の黄緑の服を着ているものだから、カンフー映画に出てくる人にしか見えない。


「初めまして、アダマス様。へぇ、カワイイじゃない。アタシの好みよ」

…………………………幻聴だろうか。

 柳腰をくねらせてこちらに歩いてくる彼、いや彼女?は俺の全身を見回して、蛇のようにチロリと舌舐めずりした。

 ゾワリとした。さぶいぼモノである。あ、さぶいぼとは鳥肌のことだ。いや、今はそんなことどうでも良い。

 樹竜王は、オカ………ごほん、オネエさんらしい。


 そのあと暫く話してみると、頭もキレるし、なかなか面白い奴だという事が分かったが、何しろファーストインパクトが強烈すぎた。

 

「樹竜王、リドよ。宜しくね」

「ああ、よろしくな……っておい!ベタベタさわんのやめろや!」

「いいじゃない、減るものじゃないし」

「おまえあいてやとなんかがへるわ!」



 ヘリオに、リド。何とか仲良く?やっていけそうである。




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