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大阪弁と転生と竜  作者: 椋
一章
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紅玉の炎雷と会った



 色とりどりの草葉が綾なす木々の間を、もくもくと歩く。

 人型をとった俺の質量は、体積に見合ったものになっているため、子どもの足に踏まれた枯れ枝が、パキリと軽い音を立てた。

 隣を歩くルビィは、先ほどから何やら唱えている。どうやら詠唱魔法を行っているらしい。

 今日も艶姿を陽の下に惜しげもなく晒し、ゆるりと掴み所のない雰囲気を醸し出している。

「アダマス様?どうかなさいました?」

 じっと見ていた俺に気がついた彼女が、豊かな赤髪を揺らして振り向いた。

「なんでもないで。ルビィは、こうげきまほうがとくいなんやってな?」

 女性に向かって、観察していたと正直に言うと気を悪くするかもしれない。俺はふるりと首を振って、話題を変えることにする。

 サファが水や風関連、ラルドは植物や大地、そしてルビィは炎と雷の魔法に特化しているのだと、アレキッサに教えて貰った。ちなみに、アレキッサはオールラウンダーだが、強いて言えば治癒魔法を得意としているらしい。

「はい。私の得意魔法は、比較的攻撃力の高いものが多いですね」

 そう言って、手のひらを上に向けたルビィは、瞬く間に赤く燃える火の球をいくつか出した。まるでお手玉をするような気軽さで、それを少し離れた岩場にぶち込む。

 激しい音を立てて崩れた岩は黒く焦げついていて、その威力の高さを物語っていた。

「すごいなぁ、ルビィ」

「なんのこれしきの事。身に余るお言葉でございます」

 からからと笑う彼女は、続けて先ほどから練っていたらしい魔法陣を前方に浮かび上がらせた。

 赤い光線が縦横無尽に張り巡らされ、蛇が巻き付いたような紋様を創り出している。

「では、アダマス様。これより私が眷属召喚をやって見せますので、よくご覧下さいね」

 眷属召喚、つまり部下を呼び出すということだ。

 こくりと頷いた俺を見て、ルビィは魔法陣に向き直った。

「フォルグネシス・シンザリーム、来たれ我が僕たちよ。主の御前に顕現せよ」

 軽く手をかざして唱えた瞬間、まばゆい赤色の光が辺りを包んだ。ルビィの髪が強い風に煽られて、靡いている。



 その光が収まった時、魔法陣は消えていた。代わりにそこに跪くのは、二人の男。

 一人は、橙色の短髪を持った男。髪に合わせるように、全体的にオレンジを基調とした服装をしている。

「我が君、紹介致します。私の眷属で、炎竜王ガーネットです。以後お見知り置き下さい」

 ガーネットと呼ばれた男は、ルビィに促されてゆっくりと頭を上げた。

 意思の強そうな、燃えるような朱色の瞳。やんちゃそうな青年、といった見た目に反して、その瞳はどっしりとした静けさを湛えていた。

 この男、間違いなく強い。


「ふぅん、アンタがアダマス様か。まあ、一つ宜しく頼むよ」

 不遜な態度をとってはいるものの、瞳は油断なくこちらを見定めているのが分かる。

 ルビィが怒りに目を吊り上げてガーネットの方に向かおうとしたのを制し、

「かまわへん。ぼくにはまだじつりょくがともなってへんのはホンマのことやしな。じぶんのめで、つかえるにあたいするそんざいか、みさだめたらいい」

 そう言った。あどけない口調にしかならないのがもどかしいが、あの家庭教師が言っていた王者覇気を意識して出してみる。


 瞬間、ガーネットが面白そうに目を細めた。

(年端も行かぬ幼竜に、ここまでのオーラが出せるとはな……。そしてこの大人びた口調、膨大な魔力。金剛竜というのは、間違いないらしいな)

 ニヤリと笑ったガーネットは、再度その場で跪いた。

「ご無礼をお赦し下さい、アダマス様。

……いやー、アンタなら楽しくやっていけそうだ」

 ニヤニヤと笑うこの男に、俺はとりあえず認められたらしい。

 その後、堪り兼ねたようにルビィがボコボコにしていたが。

「ほんの冗談じゃないか、姐さん。ちょ、ま、やめ……!」

 断末魔のような悲鳴が聞こえたが、知らないふりをして隣に控えているもう一人の男に目をやる。


 金髪というよりは黄色に近い、不思議な色合いの髪を持つその男。濃く日焼けした肌に、彫りの深い顔立ち。元の世界でいうところのアラビア系の人々を彷彿とさせる、エキゾチックな雰囲気を纏っている。

 無表情でガーネットがぶちのめされる様を見ていたが、すっと視線を外し、こちらを向いた。

「同胞が失礼を致した。我が名は雷竜王ゾス。ルビィ様より玉石を賜りし者」

 ゾスと名乗った男の瞳は、ガーネットと同じように強者のそれだった。

「かしこまらんと、ふつうにしゃべってな。さっきのガーネットといい、おうってついてるぐらいや、うえにたつものなんやろ」

「……そうか、貴方がそう言うなら普段通りにいかせて貰おう。して、今日は何用で我らを?」

「それをせつめいしてくれるはずのルビィがいってもたし、いそがしくなかったらぼくにいろいろおしえてもらってもかまへんか?」

「問題ない。その膨大な魔力も、使い道が分からなければ宝の持ち腐れというもの。我で良ければ幾らでも付き合うぞ、我が君」


 精悍な顔つきを緩めて、太陽のように朗らかに笑ったゾスとの、魔法特訓が幕を開けたのであった。



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