巫女と姫、準備する
87-①
巨竜を討伐すべく、ショバナンヒ砦を出発した武光達を見送った後、ナジミとミトは広場に戻って、武光に言われた通り、祈りの儀式の準備を始めた。
まずは武光に渡されたメモに描かれた図を見ながら、広場に煉瓦を並べて巨大な守護神の紋章を描き出すのだ。
煉瓦に関しては、広場に隣接する倉庫に砦の防壁補修用の物が掃いて捨てる程あったので、ナジミとミトはそこから煉瓦を運び出しては並べ、運び出しては並べを繰り返し、紋章を完成に近付けてゆく。
紋章が半分まで完成したあたりで、ミトは不安げにナジミに聞いた。
「……ナジミさん、こんな事で本当に武光は力を得られるのかしら? 今からでも追いかけて行って討伐隊に加勢した方が良いのでは……」
「私は……武光様を信じます」
それだけ言って、黙々と作業を続けるナジミを見て、ミトは拳をきゅっと握った。
そして、そんなミトを見て、宝剣カヤ・ビラキは思った。
あっ……これ、放っておいたら砦を飛び出して武光さん達を追いかけるヤツだ!!
せっかく武光さんが姫様の身を案じて、あんな嘘を吐いてまで姫様をここに留めたのに……この紋章作りも姫様達を少しでも長くこの場に留めるための時間稼ぎに違いない、姫様の為にも、武光さんの為にも、後を追わせる訳には行かない!!
宝剣カヤ・ビラキは、内心めちゃくちゃ慌てながらも、平静を装いミトに語りかけた。剣とは言え、淑女たる者、人前で狼狽えた姿を見せる訳にはいかないのだ。
〔ナジミさんも本当は追いかけたいでしょうに……武光さんの事を信じてるんですね。深い愛を感じます……ねぇ、姫様?〕
「わ、私だって……!!」
〔ふーん『私だって……』何です?〕
「な、何でもないわよ!!」
ドスドスと足取り荒く作業に戻ったミトを見て、カヤは心の中で(よっしゃっ!! やったっ……私エライっ!!)とガッツポーズを取った。
それにしてもまぁ……普段は直情径行に手足が生えたような方なのに……武光さんの事となると、どうしてああも素直じゃないのか。
先程までとは打って変わって、猛烈な勢いで煉瓦を並べてゆくミトを見て、カヤ・ビラキは大きな溜め息を吐いた。
87-②
作業を始めておよそ一時間半、ナジミとミトは遂に守護神の紋章を完成させた。
「ふぅ……ナジミさん……遂に完成しましたね」
「ええ、でも本当に大変なのはこれからです。武光様達がクラフ・コーナン城塞に到達するまでまだ少し時間があるはずです。今のうちに少しでも休息しておきましょう」
二人は、近くにあった大きな石に腰かけた。
「ナジミさん、守護神の加護を得る為の儀式……武光はそう言ってましたけど、異世界の神とはどのようなものなのでしょう?」
「うーん、武光様が言うには、巨大な蛾のような姿で、極彩色の羽根を持ち、モッフモフらしいです」
「モッフモフ!?」
「その気になれば水中でも超高速で活動出来るらしいです」
「蛾なのに!?」
「あ、あと……時空を超えてカッチカチになるって言ってました!!」
「時空を超え……って言うか、カッチカチになるって何!?」
「さ、さぁ……私にもよく分かりません」
二人は思った。『怖い!! 異世界の神、超怖い!!』……と。
しかし、自分達は今からその守護神の加護を得る為の舞と唄を、武光達が戻って来るまで、雨が降ろうと槍が降ろうと、何が何でも只ひたすらに奉納し続けるという荒行に挑まねばならない。
儀式を前に、ナジミはミトをジッと見て、思う。
(……武光様は言ってました、『この儀式は清らかなる魂を持つ巫女と高貴な血を持つ淑やかなる乙女が必要だ』と……高貴なる血はともかくとして、姫様のお淑やかさが圧倒的に足りてない。だから……私が頑張らなきゃ!!)
そしてミトもまた、ナジミをジッと見て、心の中で思っていた。
(……武光が言っていた、『この儀式は高貴な血を持つ淑やかなる乙女と清らかなる魂を持つ巨乳の巫女が必要だ』と……清らかなる魂はともかくとして、ナジミさんの胸が絶望的に足りていない。だから……私がしっかりしないと!!)
ナジミとミトは強い決意を胸に秘め、互いに頷き合った。




