斬られ役、親玉を斬る
36-①
ラトップ遺跡内は重苦しい雰囲気に支配されていた。
自分達の大将が討たれ、タイラーファミリーの連中は呆然とする者、嗚咽を漏らす者、力無く項垂れる者と様々だった。
「もうダメだ……タイラーファミリーはおしまいだ!!」
誰かが発した一言で動揺が広がってゆく。
「に、逃げるんだ……この街から逃げるんだ!!」
「そ、そうだ……俺は逃げるぞ!!」
「おう、命あっての物種だ!!」
「……待てッッッ!!」
武光は声を張り上げた。まだ幻璽党の親玉は生きている。ミトの話だと奴の周りには常に屈強な護衛が付いている。奴を確実に討つ為には戦力が必要だ。今ここでこいつらに逃げられるわけにはいかない。
「お前達……幻璽党の主力は壊滅させたんだぞ!! もはや残っている敵の数は俺達より少ねえ!! それなのにさっきから聞いてりゃ……」
武光はタイラーファミリーの連中をぐるりと見回した。
「これだけの人数が雁首揃えて……お前達の中にはシジョウの仇を取ろうっていう気骨のある奴はいねぇのか!! 幻璽党を潰して一気に成り上がってやろうっていう野心のある奴はいねぇのか!! お前達の中に……男はいねぇのか!!」
武光の一喝で、動揺していた残党達が静まり返った。
「……お、俺はやるぜ!!」
誰かが発した一言で熱気が広がってゆく。
「おう!! ボスの弔い合戦だ!!」
「そうだ、奴らを潰して名を上げるんだ!!」
「やってやる……やってやるぞ!! 幻璽党の息の根を止めてやる!!」
タイラーファミリーの男達が次々と立ち上がる。
「よし!! 行くぞお前らぁぁぁっ!!」
武光の檄に、雄叫びを上げて男達が応える。タイラーファミリー残党を引き連れて、武光は最後の戦いの場へと歩みを進めた。
36-②
血のように赤い夕日が、武光率いるタイラーファミリー残党とライチョウ率いる幻璽党を照らす。
両軍の距離はおよそ20m、両軍は街の大通りで対峙していた。ライチョウが声を張り上げる。
「負け犬どもが……何しに来やがった?」
「ライチョウ=トモノミナ、お前を……斬りに来た」
武光が、背中のイットー・リョーダンの柄に手を掛け二、三歩前に出ると、すぐさま護衛の兵がライチョウの周囲を囲んだ……なるほど用心深い。奴を斬るには何とか護衛を引き離さねばならない。
武光が更に歩みを進めると、幻璽党の一団の中から一つの影が飛び出してきた。ミトである。
「……私の雇い主に手は出させません!!」
「……死にたくなければそこを退け」
「貴方との因縁に今日こそ決着を付けます!! 皆さん……手出しは無用です!!」
「良いだろう……お前ら、手ぇ出すなよ!!」
ミトと武光は互いに背後に控える両軍に言った。両軍が見守る中、武光とミトは1mの至近距離で向かい合った。お互いに剣の柄に手をかけたまま、ピクリとも動かない。その場にいた誰もが息を呑んだ。
「………………………………………………………………つぁぁぁっっっ!!」
「………………………………………………………………たぁぁぁっっっ!!」
長い長い間の後、二人の剣がぶつかり合った。二人は互いに飛び退くとすぐさま攻撃に転じた。
一合……二合……三合……両者の剣が激しくぶつかり合う。十五合目、武光のイットー・リョーダンによる真っ向斬りをミトがカヤ・ビラキを頭上に掲げて受け止めた。ミトが素早く身体を引き、両者は肩で競り合う状態となった。
「……ふんっ!!」
「くっ!?」
武光は、零距離ショルダータックルでミトを弾き飛ばして、突きを繰り出したが、ミトは嵐のような連続突きをギリギリで躱す。
「……こんのおっっっ!!」
「なんのっ!!」
ミトが繰り出した反撃の水平斬りを、今度は武光が片手側転で回避する。
「…………ふぅーっ」
「…………はぁーっ」
両者は息を吐きつつ距離を取り、構え直した。
……かくして、場面は本章冒頭に戻る。
沈みゆく夕日を背に、武光とミトが対峙している。武光は重心を深く落としてイットー・リョーダンを正眼に、ミトはカヤ・ビラキの切っ先を下げて、下段に構えた。
二人の後ろでは幻璽党とタイラーファミリー……二組の荒くれ者集団が、目を血走らせながら口々に『ぶっ殺せー!!』や『殺っちまえー!!』などと喚いている。
「おい、逃げるなら今の内だ……今度は泣いても許さねぇぞ?」
「ふん、泣いて命乞いをするのはそちらの方です!!」
二人が、じりじりと間合いを詰める。二人の間に、ひとひらの枯れ葉が舞い落ちた。
「……………だぁぁぁぁぁっっっ!!」
「……………はぁぁぁぁぁっっっ!!」
刹那、二つの影が交差した。
暫くの間、二つの影は地面に縫い付けられたように、微動だにしなかったが、不意に一つの影が崩れ落ちた。崩れ落ちた影を塗りつぶすかのように、地面に赤黒い染みが広がってゆく。
ミトは、地面に倒れ伏し、ピクリともしない武光を一瞥すると、武光の後ろに控えていたタイラーファミリー残党に剣を向けた。
「さぁ……残りは雑兵ばかりです、全員っ……斬り捨てなさいッッッ!!」
ミトの号令で幻璽党の兵隊達がタイラーファミリー残党に襲いかかった。
用心棒の武光がやられて動揺した残党達は蜘蛛の子を散らすように逃げ出し、幻璽党がそれを血眼で追いかけ回す。そこは正に修羅場であった。
「貴方達も何を木偶人形のように突っ立っているのです!? 今こそ、将来の禍根を完全に断つのです!!」
ミトに言われて、ライチョウの周囲を囲む護衛達はライチョウの方を見た。
「良いだろう……お前らも行け!! タイラーファミリーの連中を一人残らず地獄に叩き込んでやれ!!」
護衛達とミトが、逃げた残党を追って走り去り、一人残されたライチョウは高笑いをした。
「はははははは……これで……俺の天下だぁーーーーー!!」
ひとしきり笑った後、ライチョウは地面に倒れ伏しているタイラーファミリーの用心棒に近付いた。
「フン、テメェのおかげで随分と兵隊が減っちまった。この……ゴミクズがぁぁぁっっ!!」
ライチョウは倒れている武光の頭を蹴り上げようとしたが、蹴ろうとした瞬間、軸足を掴まれ引き倒された。
「ぐっ!?」
「ようやく二人っきりになれたなぁ……」
付き合いたてのカップルみたいな台詞を吐きながら、倒れていた武光が “ばっ” と勢い良く飛び起きた。
「なっ!? て、テメェ……生きて……!?」
当然ながら武光は死んではいない、斬られた芝居をしただけだ。地面に広がる赤黒い染みも血糊である。全てはライチョウの周囲から護衛を引き離す為の武光とミトの作戦だったのだ。
「19の頃から各地を転戦……刀を振るう事六十数戦……ただひたすらに斬られ続けてきた俺の演技を……嘗めんなボケェェェェェ!!」
“すん”
袈裟斬り一閃、イットー・リョーダンの一撃によって、幻璽党の親玉、ライチョウの身体は文字通り真っ二つに両断された。




