手下、逃げ出す
35-①
最初にやたらとふてぶてしい態度を取っておき、最後の最後で心底自分に惚れ込んだと思わせて相手の心を掴む……名付けて《地獄のツンデレ作戦》で、武光はシジョウからまんまと護衛を引き離した。
武光は街の南西にあるラトップ遺跡で、幻璽党が来るのを待ち構えていた。ラトップ遺跡はバスケットボールのコート2つ分程の広さがある地下遺跡で、太古の墓とも、食料などの貯蔵庫とも言われているが、実態はよく分かっていない。
遺跡の中央には服を着せた等身大の案山子や藁人形が何体も並んでいる。近くで見ればバレバレだが、遺跡内の明かりを行動出来るギリギリまで落として薄暗くしておけば、入り口付近に立った時、十数名の人間が、こちらに背を向けて、屈みこんでいるように見えるはずだ。
幻璽党の連中が押しかけてきたら……四方八方から矢を射かけ、敵が浮き足立った所に突撃をかけて一気に勝負をつける!!
ミトからの通信によれば、数分前に幻璽党の部隊がカラマク寺院を出たらしい、幻璽党の残存兵力の半数以上がこちらに向かっているとの事だ。残念ながら、ライチョウは罠にかからなかったようだが、こいつらを壊滅させれば幻璽党の勢力は一気に弱まる。
武光はタイラーファミリーの連中に向かって檄を飛ばした。
「良いかお前達、もう少しで幻璽党の連中がここに来る!! タイラーファミリーが栄えるか滅びるか……ここが正念場だ、一人たりとも生かして帰すな!!」
タイラーファミリーの連中は『応ッ!!』と鬨の声を上げた。
「よし……全員隠れろ!!」
武光の指示で、タイラーファミリーの連中は物陰に身を隠した。
準備は整った。あとは……斬って斬って斬りまくるだけだ……
武光は、イットー・リョーダンの柄を強く握り締めた。
35-②
「ゥオアアアアア!!」
タシテ=シタパは仲間と共に、雄叫びを上げてラトップ遺跡に突入した。
薄暗い遺跡の中で、タイラーファミリーの連中が屈みこんで何かをしている。きっと宝を採掘しているに違いない。
「くたばれぇぇぇっ!!」
「死ねぇぇぇ!!」
「おらぁぁぁっ!!」
こちらに背を向けて屈みこんでいる男達の背に、仲間達が次々と剣を突き立てる。タシテもすぐそばにいたの男の背に剣を突き立てた。だが……感触がおかしい。
「何だこりゃ……人形!?」
「……放てぇぇぇッッッ!!」
声が響いた。風を切るような音と共に、周囲に立っていた仲間が突然倒れた。体に矢が突き立っている。しまった!! これは罠──
「……放てぇぇぇッッッ!!」
二度目の風切り音と共に、また仲間が倒れた。四方から矢が飛んで来る。幻璽党は混乱状態に陥った。
「全員……斬り捨てろぉぉぉッッッ!!」
雄叫びを上げながら、タイラーファミリーの連中が物陰から飛び出して来た。剣と剣が激しくぶつかる音、怒号、悲鳴がそこかしこで飛び交う。
「ぎゃあっ!!」
「た、助け……うわぁっ!?」
「痛ぇっ……痛えよぉぉぉ……」
一人……また一人と味方が倒れてゆく。
「畜生ぉぉぉっ!! 来るな……来るなぁぁぁっ!!」
タシテは半狂乱になりながら、無茶苦茶に剣を振り回し、襲い来る敵と刃を交えた。
左肩を斬られた……とんでもなく痛い。
右脇腹を敵の槍が掠めた……焼けた鉄棒を押し当てられたみたいだ。
とうとう剣が折れた……駄目だ……もう力が入らない。
ぼやけ始めた視界で周囲を見回す。残っている味方は最早4〜5人だけだ。もうだめだ……俺は死ぬのか。
タシテが死を覚悟したその時、一人の男が大慌てで遺跡に飛び込んで来たのが見えた。どうやらタイラーファミリーの奴みたいだ。
飛び込んで来た男が、震える声で叫んだ。
「大変だ……ボスが……ボスが殺られた!!」
タイラーファミリーに激震が走った。動揺するタイラーファミリーの隙を突いてタシテは駆けだした。助かるとしたら今しかない!!
入り口付近の敵を体当たりで弾き飛ばし、地上に向かう。
必死で駆けた。背後で仲間の断末魔の悲鳴が聞こえたが、振り返る体力すら惜しい。
汗の一滴、血の一滴すらも残らず絞り出すかのような疾走だった。
タシテは にげだした!




