第十八話
異様な二人に気持ちが落ち着かない中、飛行船が着陸し、乗客は感想を述べる声でガヤガヤと賑やかに降りて行った。私も後に続いたが、気持ちはあの曇り空に置き去りだった。
そんな私を現実に引き戻したのは発着場で待っていたあのボサボサ頭の、寝不足でトロンとした目をして、ポリポリと顔を掻いてこちらを探す冴えない顔をしたオズワルド刑事だった。この街にふさわしい顔だ。
「ああ、ブライトさーん。あれ? おーい」
「……ああどうも、奇遇ですね。こんな所でどうしたんですか?」
「ブライトさんを探しに来たんですよ。事務所に行ったらジン君がここだと言うので」
「はあ。そう言われても刑事さんが私に会いに来る理由なんて無いと思いますけど。最近は誰も殺してませんし」
「刑事に向かってなんてこと言うんですか。あ、良かったらこのパン一つ食べます? さっきそこで買ったんですよ」
オズワルド刑事はニコニコしながら紙袋からパンを一つ取り出した。どうやら彼は私の冗談が通じる数少ない理解者の一人のようだ。私は貰ったクロワッサンを頬張った。うん、美味しい。
私達は発着場のデッキの休憩スペースのベンチに腰を下ろした。先程パンを食べたのでお互い売店でコーヒーを買った。
「実はブライトさんの力をお借りしたいと思いまして」
「依頼ですか」
「ええまあ。探偵好みの依頼ですよ」
「何でしょうね。密輸犯の摘発ですか?」
「怪盗です。探偵といえば怪盗でしょう?」
私は首を傾げた。でしょう?と言われても困る。そんな事は初耳だ。泥棒を捕まえるのは警察の仕事だ。探偵は何かを探す地道な職業では無いのか? 探偵といえば猫探しでしょう?なら分かる。どこの世界に探偵が警察を差し置いて怪盗と対峙し、彼等を捕まえようとするのだろう?
「よく分かりませんが……その怪盗を捜してくれって事なんでしょうか?」
オズワルド刑事は私の反応に見るからにガッカリしたようだった。
「うーんまあそうなんですが。この前ですね、うちに予告状が届いたんですよ! ほら見てください! ほらほら!」
「はあ」
私は彼から手紙を受け取った。何やら銀色の、バラのような植物の葉が開いた大きなイラストが背景に描かれた手紙だ。
「これはバラ、ですかね」
「レタスだそうです」
「はあ? レタス?」
大根の次はレタスか。嫌な予感がする。オズワルドは頷いた。
「そう、これは魔法使いの泥棒なんです」
ほら来た。八百屋じゃなければ魔法使いだ。
「魔法使いには魔法使いを、というのが私のモットーでして」
「この前までは存在も知らなかったくせに」
「まあアルベルトさんみたいな災害級魔法使いじゃなければ私達でも対処できるんですが、対面するまではどんな魔法か分かりませんし。今回は狙われた物の価値が高くてですね、上があらゆる力を使って阻止しろと言う物ですから」
「それで私に?」
「もし今担当している仕事に差し支えなければ、ご協力いただけないでしょうか?」
まあ飛行船で遊覧しているのを見れば、入っている仕事は無いのが一目で分かるのだが。彼は私に一応礼儀を尽くしてくれたようだ。
怪盗と泥棒の違いは何なんだろう? 予告状の有無か? しかし予告状を出した所で物を盗めば泥棒には変わり無い。そこには何か手品師めいた響きを感じる。馬鹿馬鹿しい。見つけたら引き金を引けばいいだけだ。
「分かりました。お役に立てるかは分かりませんが、銃口は多い方がいいですもんね。お話を詳しく伺いましょう」
「何か物騒な事考えてませんか?」




