第63話 エピローグ1 〜後片付け〜
次回最終回です。
戦いは終わった。
攻めて来たウエノを打ち滅ぼし、その頭領であるゴンザの死亡により、イリヤ側の勝利で幕を引いた。
戦いから一夜明け、少しだけ落ち着きを取り戻して周りの状況を確認する。
やはり、この戦いで残された爪痕は大きかった。
イリヤの村では長老が死亡し、戦いの怪我で亡くなった者も多数出た。
戦いの準備の為とはいえ、村の周りには巨大な防壁が立ち、今まで住んでいた家も軒並み解体されている。
鉄を手に入れる為、リエを守る為とはいえ無視出来ない犠牲が払われたのだ。
また、ウエノ側はより大きな被害が出ている。
300人程で攻めて来た軍勢は、そのほぼ全てが死に絶えた。
残った何人かはゴンザが倒れた時に逃亡した様だが、物資も武器も持たずにウエノに無事に辿り着けるとは思えない。
ただし、これは後日談ではあるがウエノはゴンザの死亡により圧政から解放され、以前の様な活気のある町に戻りつつあるとの事だ。
皮肉な事に、ウエノの住人を救ったのが襲われたイリヤの村だった。
まぁ俺としては人々が幸せに暮らせるのであれば、それは誰が行っても良い為政だと思っているが。
さて、まずは村の中の整理をしなくてはならない。
戦いには勝てたが、村人を始め俺達はこれからも生きていかなくてはならないからな。
村の集会所の前でユキムラが大きな声を挙げている。
「村人達よ、これからこの戦いで亡くなった者達の葬儀を執り行う。是非この集会所へ集まってくれ!」
ユキムラの掛け声に村人達はゾロゾロと集会所へ向かう。怪我をしている者や、家族を亡くしたのか泣きじゃくっている者もいる。
葬儀というものは、そういう人達への心のケアなのだ。いつか付けなくてはいけないケジメを、付け易くする為の行為なのだ。
何よりもまず村人の事を考える、ユキムラらしい判断だ。
俺も流れに逆らわずに集会所へ向かう。
集会所には既にミコトとコトネ、そしてダノンが作られた祭壇の前に立っていた。
誰よりもこの村の事を考えている者達だ。恐らく今回の葬儀もその面子で決めた事だろう。
残念ながら俺は余所者なので、集会所の端で葬儀が始まるのを待っていた。
葬儀はユキムラの発声から始まる。
戦いに散って行った者への哀悼、村を守り切った事への感謝。そして今回の功労者として俺が紹介された。
正直、俺のワガママから始まった今回の戦いで功労者と評されるのは心苦しい。仮にそれを受けるとしても、せめて一言事前の相談くらいは欲しかった。
公式の場で発表されてしまった手前、いなくなるのもバツが悪いので渋々ではあるが祭壇まで赴く。
ユキムラの隣にならび、まるで英雄かの様に囃し立てられると居心地の悪い事この上ない。
しかし俺もここは我慢して真面目な表情で村人達へ向き合った。
ユキムラから村を救った英雄として一言と言われた。本当は断りたかったが、それでも俺も思う所があったので一言言わせて貰う事にした。
「村の皆さん。今回の戦いはお疲れ様でした。皆さんの頑張りのお陰で無事、ウエノを退ける事が出来ました。そして、すいません。俺がもう少し後先考えれば、もう少し相手の事を理解していればこんな戦いにはならなかったかも知れない。そして、これからもこんな戦いになる事があるかも知れない。そうなった時、そうならない為に皆さんは他の町や村と良好な関係を作っておく必要があると思います。だからこれから村の皆できちんと今後を考えていきたいと思ってます。協力宜しくお願いします」
この場に俺が言った事を本当の意味で理解している者は少ないだろう。
だが、俺の偽らざる本音だ。村の皆が一人一人自分で考え行動する力を持って貰いたい。
昔訪れた黒鎧の英雄の力に頼るのではなく、努力と工夫で手に入れた力でこの世界を生きて行って欲しい。
その後、葬儀はつつがなく終わり亡くなった人々は合同で火葬される。
ミコトとコトネで祈りを捧げている姿は中々に幻想的だ。
二人とも戦いの疲労を感じさせる事なく、祈り、舞い、亡くなった人の魂を昇華させてゆく。
亡くなった本人、そして遺族の心の傷も二人の祈りで癒されていく様だ。
◆◆◆◆◆◆◆
火葬も無事に終え、一度自分の家に帰る。
毎日いるはずの家だが、凄く久しぶりに感じるのは昨日一昨日の戦いが準備も含めてそれだけ大変だったからか。
家の自分の工房で武器や道具を置きながら一息付く。
鉄の弓はダノンに使って貰おうと思ったが結局自分で使った。
鉄の剣はユキムラに贈ったが、結果としてゴンザを刺激するだけで、実戦ではその威力を発揮出来なかった。
自分の中では一生懸命に準備をしたつもりであったが、あまり効果のあるものは無かったのかも知れない。
そんな事を考えて一人で塞ぎ込んでいると、部屋の扉をノックされた。
「コースケ様、私です。ミコトです。入っても宜しいですか?」
俺は無言で扉を開く。
そこには巫女服を脱ぎ、部屋着に着替えたミコトがいた。
「ミコト、どうしたんだ?」
「いえ、葬儀の時もコースケ様がお元気ないようでしたので。もしかしたら戦いの傷が癒えてないのかもと思いまして伺いました」
「ミコトは優しいな。俺は大丈夫、怪我も痛みもないよ」
「そんなハズはありません。私が診断しますので、どうぞそこにお掛けになってください」
優しい口調とは裏腹に、ミコトの言葉には有無を言わさぬ力を感じる。
工房の長椅子に腰掛け、ミコトに背中を向ける。ミコトが隣に座り、俺の背中をまさぐるように触る。そしてそっと額を背中に付ける。
「コースケ様、今回の戦いは本当にお疲れ様でした。貴方が居たから私達はこうして生きています。亡くなった方も勿論いますが、それよりも貴方が守った多くの命の事をもっと考えて下さい」
「……でも、そもそもその原因を作ったのが俺が」
「そんな事ないですよ。コースケ様が原因ではないのです。コースケ様は自分を責めていらっしゃいますが、私や村の皆は本当に感謝しております。自分を責めるなとは言いませんが、私達の感謝の言葉だって受け止めてくれてもいいのではないですか?」
「そうは言ったって……」
「コースケ様。謙虚は美徳ですが、度を過ぎれば私達の意見を否定するだけでなく、ご自分の価値をも下げてしまいますよ。どうかご自分のやられた事、守った命の事をもう一度考えて見て下さいね」
そこまで言ってミコトは頭を離す。そこには俺を諭すかの様に見つめる、限りなく優しい笑顔があった。
「コースケ様、巫女のおまじない効きましたか?」
「あ、ああ。こうして無事だった訳だからな。効果は実証済みだな」
「ふふ、それは良かったです。これからも何か困った事があれば巫女のおまじない、沢山してあげますからね」
ミコトの言葉に俺は面食らって一瞬固まってしまう。
その隙をついて距離を詰めてきたミコトは、両手で俺の頬を挟み、そのままの勢いで唇を重ねて来た。
不意を突かれた俺は何も抵抗出来ずにされるがままだ。
「コースケ様、これで暫くは巫女の加護が続きますよ。これからもミコトをお側に置いてくださいね」
イタズラっぽくウインクをしてくるミコト。
巫女の加護とやらはどうやら強力過ぎて、俺には手に余るかも知れないなと、そんな事が頭をよぎった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
次回最終回になりますのでお見逃しなく!!
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