第62話 決着
防壁を駆け下り、ダノンやユキムラがいるはずの集会所へ滑り込む。
予想通りそこでは怪我をした村人達の治療が行われていた。
怪我の酷い者はミコトの治癒術で、程度の軽い者は包帯などで治療される。
ダノンやユキムラも、自身も怪我をしているが村人を優先して治療にあたっていた。
「ダノンさん、忙しい所申し訳ないんですが、アレをください!」
「あ!?旦那!戻っていいのかよ!?アレってなんだ!?」
「今コトネとリエで防いで貰ってます!すぐに戻らないと!アレです、前に俺が作った鉄の弓です!」
ダノンは俺の言葉で状況を悟ったらしく、一つ頷くと痛む足を引きずりながら自分の家に走って行く。
俺もダノンを追いかけ鉄の弓を受け取ると、自分の工房へ行きいざという時の為に作った大きな矢を取り防壁へ向かう。
鉄の弓で放つ鉄の矢。そのサイズは通常の矢の3倍程ある。重さに至っては10倍で効かないだろう。
限界まで薄く研ぎ上げた鏃、回転を付け直進性を上げる螺旋の模様。そして貫通力を上げる為に調整した重量配分。
通常であればこんな弓も矢も使えないだろう。
だが今は使うしかない。自分の持てる力全てを使ってゴンザを討ち亡ぼす!
弓と矢をしっかりと握り防壁を駆け登って行く。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
防壁ではコトネがリエを守りながらゴンザの火の矢を防いでいた。
自身とリエの体をバリスタの盾の後ろに隠し、その周りを水の障壁で守っている。
体のあちこちが赤くなっている所を見ると、防ぎ切れなかった矢が体を掠めていったのかも知れない。
「コトネ、待たせたな!大丈夫か?」
「コースケ様、待ってたよ!早くアイツをやっつけて!」
俺はコトネの横に並び身を隠し、反撃のタイミングを計る。
ゴンザはまだまだ余力があるのか、火の矢を連発してきている。その一本一本が凄まじい威力を持ち、ゴリゴリと盾の表面を削っている。
ほんの僅かな時間、ゴンザからの攻撃が緩んだ。
俺はそのタイミングを逃さず盾から身を出し、鉄の弓を構えて狙いをすます。
「これでも喰らえぇぇえぇ!!」
無意識に絶叫して番えた矢を放つ。
俺のスキル、道具の効果を最大限に引き出す力を使い放たれた矢は有り得ない速度でゴンザに向かう。それはさながらライフル弾の様だった。
矢がゴンザに届くかと思われた時、ゴンザはその矢を片手で事もなく受け止めた。こちらの攻撃を簡単にいなした事にゴンザが遠くからでも分かる程ニヤリと笑う。
「はぁーっはっはっはぁぁあ!!どうした!?お前達の攻撃はこれでお終いか!!こんな物効かぬ!後は俺にイビられてお終いだな!」
ゴンザの高笑いがこちらを嘲笑してくる。
「コースケ様!全然効いてないじゃん!アレだったらコトネの方が強い攻撃を出せるよ!!」
「いや、これで良いんだ」
俺は一言だけコトネに返すと、もう一本の矢を弓に番える。
「コトネ、リエ。これで最後にする。だから二人の全力をこの矢に注いでくれ」
「それは分かったけど、それで大丈夫なの……?」
「ああ、任せろ!俺も全力でいく!」
「終わったら立てなくなってるかも知れない。それくらいの覚悟で行くからな。オレの全力を受け取れ!」
コトネとリエの力が俺の矢に注がれて行く。
リエは風の力を、コトネは持てる精霊の力を複合させて俺に力を注ぐ。
「おい、クロスケ。出番だぞ」
「おうよっ!オラに任せろ合点承知!!」
俺の全身からも力が迸る。
黒い力の奔流が渦巻き、やがてその力は弓矢を包み込む。コトネとリエの力と合わさり、俺の弓矢は七色に輝く。
「ゴンザ、あんた凄い強かったな。どんな奴かほとんど知らないけど、あんたの力を出来れば真っ当な事に使って欲しかった。これで終わりだ」
俺は誰に言うわけでもなく小さく呟いて弓を引き絞る。
俺の行動に気付いたゴンザも負けじと火の矢を連続して放つ。その何本かは俺の体を掠めたが、溢れ出る精霊の力に包まれている俺には直撃はしなかった。
「本当に最後だな、じゃあなゴンザ!」
引き絞った弓の弦を慎重に狙いを定めて離す。
プンッと軽い音を立て放たれた矢は先程までの攻撃の比にならない速度と質量を持って飛翔する。
それは普通の矢ではなかった。
最初から最大速度で放たれたはずの矢は、ロケットの様に徐々に加速し、周りの空気を押し退けて真っ直ぐゴンザへ向かって行く。
ゴンザは先程の様に片手で受け止める様な真似はせず、しっかりと腰を落とし障壁を張る。
コトネの水のレーザーの時よりも多い程だ。
幾重にも重ねた障壁の一番後ろに、火球を平べったくした火のクッションも用意している。
多重に展開された障壁を矢はどんどんと貫いて行ったが、最後の最後、残り何枚かの障壁と火球のクッションを貫くには至らない。
これを受け止められたら終わりだ。
俺にも、みんなにも余分な力なんて残ってない。
「クロスケ、頼むっ!!」
「あいさ、相棒!!オラっ!!!」
クロスケの威勢の良い掛け声と共に、七色の矢は質量を増す。
これがクロスケの本質、黒の妖精の力だ。
今回はこの矢の質量をどこまでも増加させた。
本来何グラムもない矢が、妖精の力により何キロにも、何百キロにも膨れ上がる。
「こんな、こんなものにーっ!こんな所でーっ!!やられてたまるかぁぁあぁぁぁー!!」
ゴンザは最後の力を振り絞り正面から矢と対峙するが、矢の勢い、各精霊の力、俺の生命エネルギーとクロスケの能力が合わさり、七色の矢は轟音と共に立ち塞がる全ての物を貫いた。
ゴンザの障壁と火球、その身体ごと貫き地面の奥深くまで抉ってゆく。
「…………やったのか……?」
誰ともなく呟く声が聞こえる。
俺達は全ての力を出し尽くし、立っている事さえ出来ない状況だ。
這い蹲って防壁の上からゴンザを見ると、その上半身は切り取られたかの様に消滅し、下半身だけがその場で立ち尽くしていた。
「……あいつ、すげえ根性だ。あんな状態になってもまだ立ってる。敵ながら本当に天晴れな奴だったな」
俺は心の底から感心していた。
今回この戦いに勝てたのは偶々だ。実力からしたらウエノ勢、特にゴンザの力は飛び抜けていた。
正面からまともに戦ったら万に一つも勝つ可能性はなかっただろう。
防壁を作り、バリスタを作り、その全てを全力で運用してもぎ取った勝利だ。嬉しくないはずはない。
だけど、何か心に引っかかるものがある。
この戦いは避けられなかったのか。他にもっとやり様があったんじゃないか。
勝ったからこそそんな悠長な事を考えていられるが、それでも考えずにはいられない。
ただ、それでも。
それでも俺は、自分が大切だと思うモノを守り切る事が出来たはずだ。
それだけは間違いない。
おはようございます。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
お陰様で間も無く完結を迎える事が出来ます。
皆様のお陰でここまで書く事が出来ました。本当にありがとうございます。
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