第61話 最終決戦
火球が通り抜けた後の惨状は言葉で表すには難しい状況だった。
草原が幅30メートル程焼け焦げ、そのまま門からウエノ陣営方面に向けて一直線に伸びている。
剥き出しになった地面は、以前見た時の様にどろりと溶けていた。
ウエノ陣営で固まっていた者達は、その影を残して殆どが消えてしまっていた。
火球の比較的熱量の小さい部分にいた者達は形は残っている。しかしそのことごとくは炭となり、元人だったという事しか分からない。
火球が直接触れていない者達が一番悲惨な目に合っただろう。
近かった部分は焼け焦げ煙を上げている。
火球から離れていた部分も服に引火し、消火もままならない。そのまま地面をのたうち回るも、地面も沸騰する程に熱せられており苦痛を増幅していた。
生きたまま焼かれる痛みを気絶する事もなく受け続け、やがて力尽き息絶える。
ゴンザの一撃でこれだけの人間が行動不能になり、姿を消し、死に至った。
たまたま正面に返す事が出来たが、これを防ぐ事が出来なければあの惨状はイリヤの村で繰り広げられていただろうと思うとゾッとする。
ゴンザの一撃でウエノ陣営はほぼ壊滅した。
まともに立っている人間は10人にも満たないかも知れない。
肝心のゴンザはと言うと、生きていた。
先程火球を放った場所に、真っ黒になり立っていた。
乗っていた馬は蒸発して影も形もないのに、なんという丈夫な体だ。
真っ黒に焦げた体をワナワナと震わせてこちらを睨みつける。
「お、お前らぁあぁぁぁ!!絶対に、絶対に許さんぞぉおぉおぉぉ!!お前らには死すら生温い!!!」
怒り狂ったゴンザは煙を上げて吠えている。
アレは焦げた体から出ているものか、それともゴンザの生命の力なのか。
「あ、アイツまだ生きてるのかよ……。どんだけ丈夫なんだ。それだけでも化物だな」
俺達はゴンザのタフネスぶりに無言で頷きあう。
「でもコースケ、アレで仕留められないのであれば正直厳しいぞ。アレ以上の破壊力をもつ攻撃なんてオレにはない」
「リエチー、ゴンザは多分自分の精霊の力だから多少は耐性があるはず。他の、コトネ達の精霊の力なら通用し易いと思うよ!」
「でも、それならどんな精霊を使えば……」
「それは俺に考えがある。ミコト達は防衛に専念してくれ。ウエノ陣営はほぼ壊滅だろうから、ミコトは怪我をした人の治療に当たって貰えないか?コトネとリエはサポートを頼む」
「分かりました。では私は治療に向かいますね。コースケ様、どうぞご無事で」
そう言いながらミコトは俺の事を正面から抱き締めてきた。そして一度離れると、今度は頬に口付けをする。
「巫女のおまじないです。続きは無事に戦いが終わったら、お願いしますね」
ニコっと微笑みミコトは踵を返して怪我人の元に走り去る。
思わずぽけーっとしてしまった俺を二対の冷たい視線が貫いた。
「コースケ様、現役の巫女が隣にいるから。おまじないなんていらないから」
「お、オレはああいうのはしないからな!」
「い、今はそう言う時じゃないから!後でな、後でっ!!」
ミコトの突然の行動に全員の行動が乱れてしまうが、慌てて立て直しゴンザに対峙する。
黒焦げになったゴンザは怒りで黄色く濁った眼をこちらに向けながら、足を引きずり歩いてくる。
口元がモゴモゴ動いているのは、こちらに対しての怨嗟だろうか。声が聞こえないのは、もうそんな力も残っていないという事だろうか。
「これで仕留められるかな。お願いっ……!」
コトネが精霊を使役する。今回は水の精霊の力だ。
コトネの目の前に突如現れたスイカ大の水の塊が、渦を巻きながら螺旋に絡まっていく。
やがてそれは一つの槍になり、矛先をゴンザに向けると鋭い音を立てて飛び立つ。
水の槍はゴンザに向かいながら矛先をいくつにも分裂させ、その一つ一つが極細の刃物となり全身を貫くべく突進する。
ゴンザは右手をそっと槍に対して掲げ、力を放つ。
右手から放たれた力は火の障壁を展開し、コトネの放った水の槍を正面から受け止める。
水の蒸発する音と大量の水蒸気を吐き出しながらゴンザはコトネの攻撃を受け切った。
「まだだ、コトネもう一回やってくれ!」
リエがコトネに催促する。
もう一度コトネが力を使い同じ水の槍を繰り出す。
リエがそこに風の力を重ね、槍に回転を加える。
回転の加わった槍は凄まじい勢いで推進し、側から見ると槍ではなくレーザー砲の様に見えた。
二人の力が合わさったレーザー砲は真っ直ぐゴンザに突き進む。
流石に脅威を感じたのか、ゴンザは腰を落とし両手を前に突き出す。
体の前で障壁を幾重にも展開し、二つの力が衝突する。
水のレーザーはゴンザの障壁を易々と貫通する。
何重にも張られた障壁を、威力を落としながら貫き、ついにゴンザに辿り着くかと思ったその時、ゴンザを中心に大爆発が起きた。
この時俺達は気付かなかったが、水のレーザーがゴンザに当たるその瞬間にゴンザは自分とレーザーの間に火球を生み出していた。
その火球が水と接触し、大量の水を一気に蒸発させ水蒸気爆発を起こしたのだった。
もうもうと煙が立ち込め、ゴンザを見失う。
コトネとリエも攻撃の手を休めゴンザの動向を伺う。
一瞬、煙が揺蕩うように見えた次の瞬間には、煙を貫いて火の矢が雨の様に襲って来た。
矢は水平の軌道を保ったまま俺達のいる防壁まで達し、リエの左肩を穿つ。
俺はコトネとリエを抱え込み防壁の上を転がり矢を躱す。
「リエ!大丈夫か!?」
「…ああ、大丈夫だ。大丈夫、擦り傷だ……」
擦り傷と言う割には弱々しい声で返答が来る。
それもその筈で、矢はリエの左肩に大きな穴を開けている。
シンゲンやダノンと同じく、穴の空いた筈の場所からは血が出ておらず、その代わり肉を焼いた臭いと煙が立ち込める。
「コトネ!リエの治療を!!」
「わかってるよ、コースケ様!」
俺が言った時には既にコトネはリエに寄り添い治癒術を施していた。
俺はゴンザの様子を見る。
爆発の煙が晴れ、ゴンザの姿を目視する事が出来た。
服は焼けて落ち、体はさっきから真っ黒に焦げていた。
先程の爆発の衝撃でだろうか、左腕は肩から先が無くなっていた。
それでもゴンザはそこに立ち、未だに俺達を仕留めようと睨みつけている。但し、戦いの疲労は間違いなく溜まっている様で、大きく肩で息をしてすぐには行動を起こしてこない。
この時間は果たしてあちらに味方をするのか、俺達の有利になるのか。
「……コトネ、ゴンザの攻撃が来たら防げるか?」
「特大の火球は無理だけど、さっきの火の矢くらいなら大丈夫。こっちも水の障壁を張ればいいしね!コースケ様、どうするの?」
「ちょっと切り札を取りに行ってくる。それまで凌いでおいてくれるか?」
「それがあればゴンザは倒せるの……?」
「多分……。いや、絶対だ。絶対に俺が倒してみせる!!」
「分かった、コースケ様を信じてるよ!任せて、ここはコトネが守るから!」
俺とコトネは見つめ合い頷く。
コトネとリエを防壁の上に残し、俺は最後の切り札を取りに向かう。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
間もなく完結予定です。
最後までお付き合い頂けますよう、宜しくお願い致します。
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