第13話 温泉リターンズ
昨日はお客様用の温泉に入ったが、今日は村人用の温泉に行ってみよう。
この村の人たちは男なら狩りから戻った時や畑仕事が終わった時、女なら夕食が済み片付けが終わった後に入るのが一般的らしいので、今向かえば村人用であっても貸切で入れるみたいだった。
「ミコト、俺は今から温泉に向かおうと思うんだがミコトはどうする?」
「えっ!?こんなに明るいうちからですか?コースケ様は積極的ですね・・。私はコースケ様から求められればいつでも良いのですが、本音で言えば暗くなってからの方が色々準備も整えられるのでそちらの方が・・。」
これはあくまでも温泉に入るか入らないかの話だ。なんとなく会話が噛み合ってしまうのが恐ろしい。
「で、どうするんだ?今日は村人用に入れてもらえれば嬉しいんだが。」
「もちろん私もご一緒させていただきます!私のお役目ですので!」
頬を上気させてついてくるミコトが可愛らしい。
お風呂セットを持って、村から裏山の温泉に向かう。昨日も通った道だが、2回目となると周りを少しは見る余裕が出来てくる。
道は村人達が何度も往復しているのでしっかり踏み固められている。
しかし周りは野原しかなく、雨風が強い日は温泉に辿り着くまで、もしくは温泉からの帰り道にビショビショになってしまうだろう。せっかく温泉で温まった体が台無しだ。
この部分は必ず改善しよう。
裏山の麓につく。
温泉までの道は少し広めの獣道である。やはりここも踏み固められているが温泉までの近くはない道程で、足元が滑ったり動物が出てきたりと危険はあるだろう。ここにも何かしらの壁や柵が欲しいところだ。
麓から50メートル程で村人用のお風呂についた。
意外と風呂場は整備されており、脱衣場もしっかりと棚が据えられている。ただ足元は板が敷いてあるだけなので改善の余地大だな。
昨日の様にお風呂に入ろうとする。流石に今日はミコトは脱がそうとしてこない。
俺は自分が脱いでる途中にちらっとミコトを見ていたが、『女の子の何処で覚えたか分からない特技その①』大事な所を見せずに着替える!を発動させ、気づいたらタオルを巻いた姿になっていた。
よくよく考えればこの姿も十分扇情的だよな。あのタオルの下は何も身に付けてないんだもん。
…いかんいかん、何も身に付けていないのはこちらも同じだった。体積変化で心情がバレてしまうのはこちらの方だ。
心を落ち着けろ、明鏡止水。
さて、気を取り直してお風呂に入ろう。
もちろん入る前には体を洗うよ!
ミコトが黙って隣にきて、お湯を用意する。
「コースケ様、お背中お流ししますね。」
「今日もしてくれるのか。ありがとう。でも無理しなくていいんだからね。」
「無理なんかじゃありません。私のお役目ですし、この事にとても誇りを感じております。」
「そうか、ありがとう。ミコトは優しいんだね。じゃあ今日は前も洗ってね。隅から隅までくまなくお願いします。」
「はい、わかりました。ではコースケ様、タオルを取って頂けますか?コースケ様の事、裏から表までくまなく満足させてみせますね。」
淀みない手つきでタオルを取ろうとしてくるミコト。
えっ!ちょっと待って!心の準備がまだ出来てないの・・!
「どうされました、コースケ様?まさか冗談とは言わないですよね。純潔の乙女に自身の象徴を洗わせようとしてらっしゃるんですもの。その覚悟はおありですよね?」
「えっ、いや、あのぅ・・。もう少し準備させてください・・・。」
「・・・ふふっ。コースケ様は本当に可愛らしいですね。なんとなくコースケ様がどんな方かわかった気がします。からかってしまってすみません。でも、ありがとうございます、私の事気遣ってくださって。続きはもっとお互いの事を理解し合えた時にお願いしますね。」
そう言うとミコトは離れた場所に自分の身体を洗いに行った。
呆気に取られてしまい、その様子をじーっと見てしまっていた。ミコトは肩越しに振り向いて
「やっぱり続き、しますか?」
なんて嘯いてくる。
くそっ、俺がしてやられてどうする。咄嗟に顔を背けてしまった。
小さな声で「今度な」って言うのが俺の精一杯の反撃だった。
微妙な敗北感を味わいながら今日も一緒に湯船に浸かる。
村人用は客人用よりも浴槽が大きく、20人くらいなら同時に浸かれそうだ。
「皆さん狩りや畑仕事から帰ってきて疲れてますからね。早くお風呂に入って疲れを取りたいだろうと言う事で村人用は大人数で入れるようになってます。」
「男と女で一緒に入ってもいいの?」
「もちろん構わないですよ。家族みんなで入る事もありますからね。ただなんとなく夕方が男性、夜が女性と決まっているだけで明確に決められている訳ではありません。ただ、そうですね。年頃の男性と女性が婚前に一緒に入る事は少ないかも知れませんね。」
「ミコトは年頃だろ・・?」
「ええ、もちろん。花も恥じらう18歳の乙女です。そんな乙女にあんな事こんな事をさせようとしているコースケ様はとんでもない方ですね。」
「うう、すまん。ちょっとからかっただけなんだ。」
「ふふふ、わかってますよ。昨日も言った通り、自分の父親以外の男性とお風呂に入ったのはコースケ様が初めてです。とても緊張しました。でもとても楽しかったです。いつもお風呂は村の女性達と入っていました。年上の女性と入るのはとても勉強になりました。お肌や髪のお手入れの方法や男性へのアプローチの仕方なんかを教わりましたよ。でも、なんて言うのでしょうか。お風呂ってリラックスする為の所なのに、女性の方々と入るととても緊張するのです。女性独特の緊張感っていうんですかね、空気がピリピリしてるんです。だからコースケ様と入ったお風呂はとても楽しくて、緊張したんですけどリラックス出来ました。ふふ、言ってる事が矛盾してますね。でも本当なんです。私って変ですか?」
「そっか、それがミコトの本音なら俺も嬉しい。俺も緊張したけど楽しかったよ。嘘じゃない。これからも出来るんだったらずっと一緒に入りたいと思ってる。」
「・・それは卑猥な意味で言ってないですよね?」
「・・・・・言ってない。」
「その間が気になる所ですが、今は信じますね。私もコースケ様の事をからかってしまったので。」
「じゃあお互い様という事で。これからも変わらず頼むよ、ミコトさん。」
「承知致しました。コースケ様も色々我慢出来なくなったら言ってくださいね!私で出来る事ならなんでもしますからね。」
この流れでそんな台詞は酷くずるいと思う!なんの事言ってるかわからないよ!
まぁミコトの事だから他意はないと思うけどね。
さて、今日もお風呂が気持ちよかった。
ここの景色はやはり上の風呂に比べると劣ってしまうな。あの草原の情景は特別な物なんだと思うが、それを村人が見て悪いはずもない。
ここからの景観確保も改善の一つとしよう。





