第12話 破魔の小刀
ミコトは露骨に嫌そうな顔をした。
そりゃそうだ、うら若き乙女だ。好き好んでトイレに案内する子なんていないだろう。
でもこの村の為に必要なことだ。
「ええと、それは必要なことなんですよね?いまコースケ様がトイレに行きたいとかではないですか?」
「トイレに行きたいと言っても結局案内してもらう事になるからな。この村のトイレの仕組みを教えて欲しい。そして、一応見ておきたい」
昨日の宴では小さい方しか催さなかった。今朝もそうだ。
小さい方は村はずれで済ませてしまったので、村で使っている場所を見ていなかったのだ。
「あの、決して行きたい訳ではないですが、これはコースケ様のお考えの中で必要な事ですよね。ただ私と一緒にトイレに行きたいとかではないですよね?」
「もちろんさ!俺にそんな変態的趣味はない、それは安心して欲しい。実演とかは望んでいないから心配しないでくれ」
「トイレの実演ってなんですか・・・。では参りましょう、あちらですよ」
やはりというか、トイレは村外れに設置してあった。
なんて言うんだろう、工事現場用の仮設トイレが3つくらい繋がった建物があり、それが100メートルくらい離れて二つある。
仮設トイレの入口から反対側には穴が掘ってある。その穴は蓋がしてあり全ては見えないようになっていた。おそらく、あそこが排泄物の集積地だろう。
建物が二つと言うことは男性用と女性用かな。
「村のトイレは全てここになるのかな?」
「ええ、そうですね。今はここだけです」
「今は?」
「あの穴が満杯になるとまた別の穴を掘ってトイレごと移動するんです。大体はこの近くに作りますけどね。掘る場所がなくなると大幅に移動したりしますよ」
「その満杯になった穴はどうするんだ?」
「土で埋めますよ。固く踏みしめて人が落ちるのを防ぎます。あと、埋めた所には目印になる木を植えてますね」
そうか、今まで肥料は埋め殺しか、勿体無い。
でもその知識がなければ仕方のない事か。
「勿体無いな。その排泄物は実は農作物の肥料になるんだ。今まで作物に肥料を与えていたかわからないが、これからはこの排泄物を肥料にする仕組みを作れば肥料を用意する手間が省ける。野菜も良く育つようになるはずだ」
「そうなんですかぁ・・・。これが肥料に。コースケ様は何でもご存知なんですね。でも少し知りたくなかったかも・・・」
そりゃそうか。
人のう◯こやお◯っこが肥料になるって聞いたらやっぱりいい気持ちはしないよな。
ゆくゆくきちんと理由を説明していこう。
「なんとなくこの村の仕組みはわかってきたよ、ミコトありがとう。今日のところはこれくらいでいいかな。後はそうだな、狩猟の事はミコトはわかるか?」
「狩猟の事ですか?大まかには理解しているつもりですが、コツとか極意はやはりダノンさんとかに聞かないとわからないですね」
「いや、大まかな部分で構わないよ。ミコトが狩猟の達人だとは思ってないし、もし達人ならここにいないで獲物を狩ってきた方がいいだろうし。まずは狩猟の流れを教えてくれるか?」
トイレから離れながら狩猟の事についてミコトに確認をする。
ミコトは勉強という事で狩猟に何回か同行した事があるらしい。
なんと、その何回かの同行で見事に鹿を一頭仕留めた事があるそうだ。
巫女の力を使い精霊に頼んで鹿の動きを止めたところに、ズドンっと大きな一発を決めたらしい。
それ以降ミコトは狩猟への同行を認められなくなったそうだ。
・・・大きな一発ってこの子は何をしたんだろうか。
狩猟は、日が昇る前から出発し森の中を4人1チームで探索して回る。
3人は森の入口で連絡・交代班として待機、残り12人で計3チームを作る。そのうちの1チームは罠猟を行う。
映画とかで見るトラバサミの様なものが想像されるが、この村ではトラバサミが作れないので主に縄である。
足を入れると縄が締まり釣り上げられる簡単なものだ。あまり大物には向かず、せいぜいタヌキとか小型のイノシシまでくらいを対象に捕獲する罠だ。
その他の2チームは弓・槍を使った猟を行う。
弓の射程は長くても50メートルで、それ以内に近づかないと獲物に当たっても致命傷にならず逃げられてしまう。
だから狩猟では弓の腕前もそうだが、気配を消して獲物に近づくという技術がとても重要になってくる。
ダノンのチームはその技術がとても上手く、獲物を見つけたらほぼ百発百中で仕留めてくるそうだ。
これは明日の狩りでは収穫ゼロかも知れないな。
狩猟素人の俺が一緒だし・・。
あんまり邪魔になる様であれば早々にお暇した方が良さそうだ。
「でも、狩猟では動物を仕留めるのもそうですけど山菜の収穫とかもしていますよ。だから狩りが上手くいかない時は山菜を沢山取って帰ってくるという事もありますし。コースケ様が初めてで上手く行かないのは仕方のないことです。だから明日の狩猟では気負わず山菜を沢山採ってきて下さいね。具沢山のお鍋とかも美味しいですしね!」
失敗前提で話をされてる気がする。
いや、まぁね。仕方ないんだけど。狩りの達人とかって何年も山に篭って身につける技術なんだろうから、ぽっと出のサラリーマンの俺がそんな事出来るわけがないのは分かってる。
それでも、それでも少しだけは期待して欲しかった・・・!
明日は意地でも山菜は採ってこないようにしよう。
「あ、それとコースケ様。明日狩りに行かれるのであれば小刀をお貸ししますね。獲物を解体するのに必要だと思いますので」
そういうとミコトは首から下がっていた黒く光るペンダントを渡してくる。
「これは・・?」
「ええ、私の小刀です。黒曜石で作られていて、切れ味抜群ですよ!なんでもこの小刀は魔物も斬りふせる事ができるそうです」
魔物を斬りふせる事が出来る小刀って普通狩猟ではいらないよね。
それって何かしら特別な力が込められてて、儀式に使う物とかだよね。黒曜石で出来てるし。
この子はこの小刀の価値が分かっていないのだろうか。
「・・・ミコト、この小刀はどういう経緯で手に入れたものなんだ?」
「ええ、先代の巫女である私の母から譲り受けました。なんでも代々巫女に受け継がれるものだそうで、母もそれは大事そうに使っておりましたよ。これを使えばどんな固い南瓜でも一発で真っ二つです」
あ、使い方間違ってないんですね、失礼しました。
でもそれは多分お母さんが間違ってるよね。魔物も切れる小刀、大事にしようよ。
「そうか、お母さんからか。じゃあ大切にしないとな。この小刀借りてしまっていいのか?」
「もちろんです。でもちゃんと返して下さいね?そのうちコースケ様専用の小刀とかも用意しなくてはなりませんね」
「そうだな、そういうのも必要になってくるな。じゃあ有り難く明日は借りる事にしよう。この小刀の出番がちゃんとあるように祈っておいてくれ」
「はい、もちろんです!」
俺はニコニコしてるミコトを連れ立って村の中心に戻って行く。
村に戻った俺はやる事がなかった。
ちょっと違うな、やるべき事は沢山あるのだが今この瞬間に慌ててやるべきではない事だ。
この村では食事は朝晩の二回。
男は狩りか畑仕事。
女は子育て、食事の準備と保存食の作成、それと男手が必要となるだろう村の雑事は女が纏めておく、という事をしている。
ミコトは普段であれば女性陣と一緒に仕事をしている事が多いが、巫女という立場でいつ突発的な仕事が来るかわからず、女性陣の仕事の重要な部分には組み込まれていない。
今は俺という来客がある為、しばらくはこの仕事をやる事はないそうだ。
そうなるといよいよ俺にはやる事がない。
畑を見たい気もするが、中途半端に時間が過ぎている為今から行っても少ししか作業が出来ず冷やかしに終わってしまう可能性が高かった。
なので俺は温泉に入りに行く事にした。





