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第11話 定例会議 第2部

 今回の議題は、昨日読んだ手紙とこの村の今後について正確に理解し合うこと。

 その為に村のまとめ役達にも話を聞いてもらいたい。


「ではまず、昨日読ませて頂いた手紙の内容からご説明します。手紙の内容はこうでした・・」


 俺は自分の出自などをぼかしながら話す。


 日本語の事、漢字の事。この手紙と木箱の秘密。

 手紙と木箱の事は長老も驚いていた。


 なんでも、邪魔だから捨てようかと思ってた事もあったらしい。そうしたら魔物にばんばん襲われてこの村は無かったかも知れないね。捨てなくて正解だ。


 後、俺には特別な力はないが、俺の知恵と経験でこの村を豊かにする事が出来るかも知れない事を伝える。


「村を豊かにといいますと、どのようになるのでしょうか」


「豊かにと言うのは大袈裟かも知れません。ただ、もう少し便利になるというくらいだと思います。

お風呂に行くのに雨でも濡れないとか、家がもう少し立派になるとか、後は村の拡張、畑の拡張などです。ただ当然俺一人では出来ません。

なので実務を一緒に考えてくれる方にもお話を聞いていただきたかったのです」


「成る程、それは素晴らしいですな。わかりました、ではこの村の若い衆のまとめ役を呼んで参ります故。少々お待ちいただけますかな」


 そう言って長老は今度は自分が家の外に出て行った。どうやら自分で呼びに行くみたいだ。

 今回は中々長老は帰ってこない。


「長老殿帰って来ないね。どこまで行ったのかな」


「ええと、私の予想ですが恐らくダノンさんと副村長のユキムラさんを呼んでくると思いますよ。ユキムラさんは今日は狩りの当番だから山の方で、ダノンさんは今日は畑仕事の番なので村の脇の畑にいるんだと思います。そのお二人を呼びに行ってるので時間が掛かってるんだと思います」


「副村長なんているんだ。昨日の宴にもいた?」


「はい、おりましたよ。ただご婦人達に囲まれていてコースケ様にはお会いできてないかも知れないですね」


「なんでご婦人達に?」


「ユキムラさんは頭脳明晰で思慮深く、誰に対しても思いやりがあり、それでいて増長もせず、顔も男前な方です」


「うん、もういいや。わかった。まさかミコトにそこまで言わせるなんて・・・。相当ないい男なんだね」


「ええ、とても実力のある方だと思いますよ。でもいい男って言われるとどうなのでしょうか。私にはコースケ様が一番のいい男です」


 そこまではっきり言われると照れるな。嬉しいけど。


 でもとりあえずユキムラという人物が頭が良くてイケメンなのは理解した。そして昨日の宴ではご婦人達に囲まれていた。

 俺はなんとなーく嫌な予感がする。

 はぁ、イケメンとの会議なんてめんどくさいなぁと肩を落としていると長老が男達を連れて家に戻ってくる。


 ダノンともう一人、細面の男だ。

 あれがユキムラか?と目線でミコトに問いかけると、そうだとの合図が。

 少し大きめの作りとは言え、5人も入ると長老宅は手狭だ。長老は村の広場を人払いし、そこで話をしないかと言ってきたので全員それに賛同した。



 という訳で村の広場に集まった俺達は、まずは俺とユキムラのお互いの自己紹介から始まった。


 ミコトに予め聞いていた通り眉目秀麗な男だった。

 ただ今のところ特に変な所はなかった。自己紹介で変な所があったらそいつは相当ヤバイ奴だけど。


 そして集まった理由、目的、今後について俺から説明をする。ダノンは特に考える様子もなく頷く。ユキムラは少し考えた後、具体的な例を挙げるように鷹揚に言ってきた。


「コースケ殿、貴方は我々と違う知識を持っていると聞く。では貴方の知識は我々の生活をどのように変えていけるのか、それをはっきりと示して欲しい」


「俺の知識はそんな大したものではないです。ただ今この村にある全ての物を一段階、二段階くらい引き上げる事が出来ます。具体的にはまずは家屋です。藁葺きの家を木造住宅くらいには出来ます」


「成る程、それはありがたい。だがそれは私達も時間を掛ければ出来るはずだ。他に有用なものはないのか」


「色々思いつく事はあります。ただそれには俺は貴方達の生活を知らな過ぎる。だから俺は、この村の生活を実際に感じて、村の人たちの考えを聞いて、それから何をすすめて行くか考えて行きたいと思っています。それじゃダメでしょうか?」


「いや、至極まともな判断だろう。分かった、貴方の知恵に期待しよう。それで、その為に我々は何をすれば良いか。我々の生活を貴方に伝える為にどうする事が最適か」


「そうですね。先ずはいくつか聞きたい事があります。この村の生活ルールなどです」


 俺が聞きたかった事は次の事だ。


 この村の人数。その中で力仕事が出来る人数。この村の収穫物全て。水の確保。汚水の処理方法。


 後は困っている事をそれぞれ村人から聞いて行きたいと思う旨を伝えた。


 生活のルールは一緒に暮らしながら覚えたいという事も伝えた。狩猟や畑仕事も一緒に行う。

 その中で俺が不便と感じた事、改善の余地があるものを逐次提案をして行く方向で話はまとまった。


「基本的な改善の方針として、まずは衣食住を優先します。

食事は今は足りていると思うので、住まいの改善を進めましょう。その次に衣服ですね。もちろん最終的に食事も今よりも充実させます。

衣服は現在、他の村からの交換に頼っているとの事なので、これも自作出来るようにしましょう。全て同時に進める必要はないですが、同じ時に作業しなければならない事もあります。後は一緒に生活を始めて見て考えます。

一週間後にまたこの集まりを開くという事でどうでしょうか」


「俺は構わないぜ。今度狩猟を教えてやるって言ったんだ、旦那、一緒に行くのを楽しみにしてな!」


「私もそれで構いません。貴方が一週間の間でどの様な改善案を出してくれるか期待しています」


「そうか、ではそのようにするとしよう。コースケ様、それでは宜しくお願い致します。何か必要な物や人があれば遠慮なく申してくだされ。出来る限りのご協力を致します故」


「ええ、皆さんありがとうございます。では今日は一日村の中を見させて頂きます。明日は狩りに行かれますか?」


「おう、明日は俺の班の順番だ!一緒に行くかい?」


「ええ、是非お願いします。迷惑掛けないように頑張りますね」


 今まで普通のサラリーマンだったのだ。

 突然狩猟になんか出かけても何の役にも立たないだろう。せめて迷惑にならないようには頑張らねば。


 ミコトは狩りの事は詳しいのだろうか?

 分かるのであれば後でミコトにこっそり聞いておこう。



 第一回の定例会議が無事に?終わり、俺はミコトに村の中を案内して貰った。


 先程の打合せでユキムラが俺に対して冷たい対応をしていたと思う。

 いや、違うな。取ろうと思ったが予想と違いまともな意見が出たから普通に接したに近いかな。

 もしくは元々誰に対してもああいう態度の奴とか。


 少し癪に触ったが、内容自体に変なところはなかったのでユキムラとは今後も普通に接していくつもりである。なんか腑に落ちないが。

 ゆくゆくユキムラに対しての態度は考えよう。


 さあ、まずは昨日の宴の会場になった村の広場の視察からだ。


 村の広場には石造りのお立ち台みたいな物がある。普段は朝晩の食事の炊き出し用の棚に使われているだけらしい。


 また、この村は生活用水に井戸水を使用している。

 これもその昔の黒鎧の男が残していったもののようだ。

 それまでは裏の山から流れ出る湧き水を都度汲みに行っていた為、この井戸は当時では革新的だった事だろう。その井戸が近い為、この広場で炊事や洗濯等がまとめて行われている。


 この村の住人は全部で83人、俺を入れて84人だ。その中で力仕事の出来る男は約30人。これを二つの班に分けて活動しているそうだ。


 食料確保の為の狩りは二班が1日交代で毎日行い、狩りをしていない班は畑仕事の日、村の雑用の日という仕事の割り振りの仕方になっているらしい。

 二班を率いるのは先程の打合せに参加したダノンとユキムラだ。


 ダノンの班は狩りが得意で、ユキムラの班は村の雑用を上手くこなすらしい。

どちらにも特徴があるので、これから俺が進める計画には色々な事を出来る人間が望ましい。その中でダノン班、ユキムラ班はそれぞれの分野で活躍してくれる事だろう。


 住居は全て竪穴式住居だ。全部で30棟以上ある。

 予備の分や、前に人が住んでいたが怪我や事故で亡くなってしまった人たちのものがそのまま残されていたりするらしい。

この全てを近代建築とは言わないまでも、木造住宅でもう少し立派なものにしたい。せめて2、3人寝ても足を伸ばして寝られるくらいにはしたいかな。

 というか予備の家があるなら俺にそっちを貸してくれれば良かったのに。

ミコトと同じ家に住むのに不満なんてないけどね!


 村では狩りで取れる動物以外では、畑で野菜や果物を少し育てている。

少しと言うのは畑の拡張が思うように進まず耕作面積を増やせない為、住人全員が満足する量を収穫出来ていないという事らしい。

 その為に定期的に、村で取れた動物と他の村で取れた野菜を交換しているみたいだ。


「主にどこの村に交換に行くの?」


「その時必要なものによって場所は変わりますが、馬車で一日くらいで着く場所が多いですね。野菜ならここから南東に向かったマツドという村や、衣類なら北西に向かったメグロという町が多いです」


「交換には誰が行くことになるの?」


「それもその時で変わりますが、食べ物と交換しに行く時はダノンさんの班の方が、衣類の時はユキムラさんの班の方が多いです。ただそれも狩りの具合や村の状況で変わるので絶対にこの人という決まりはありません。私も何回かお出かけしたことありますよ」


「そうなんだ、ミコトはどういう時に出かけたの?」


「巫女服がほつれてしまった時に、それの為の糸や生地を選ぶのに同行しました。毎日身に付けるものなのでやはり素材が確かなものでないとすぐにダメになってしまいますからね。しっかり吟味して選びましたよ」


 ミコトは自分が着ている巫女服を見せつけるようにクルリとその場で回りニコっとした。アイドルか。


 巫女服の作りは現代の袴みたいな作りで、よく想像されるあの服を考えて間違いない。


 ただ、下は袴に見えるスカートなのでクルリと回った時に真っ白な太ももがチラリとする。

 くそっ、しゃがんでおけばよかった。


「コースケ様、どうされましたか?」


「いや、なんでもない。自分の行動を反省していたんだ。あの時こうしておけば良かったってね」


「昔の事を思い出したのですね。コースケ様の様な立派なお方は色々大変な思いをされて来たのでしょうから。心中お察しします」


 そんなダイナミックな話じゃないんだ。

 しゃがんだかしゃがまなかったか、ただそれだけなんだ。


 でもそうか、他の村か。まだこの村の事すらよく知らない。ただそのうち規模を大きくするのであれば他の村の事もよく知らなければならないな。

 そこは忘れずに考えておこう。


「なるほど、交換する物によって場所を選ぶのか。そう言えば近くにウエノの町があるんだろ?あそことはそういう付き合いはないのか?」


「ウエノは少し特殊な場所なのです。あの町は古代の遺跡があり、住民もそれを利用して住んでる人が多いのです。

なのでウエノの町では狩猟や耕作をあまりせずに、遺跡から発掘される物を他の村と交換していますよ。

うちの村も付き合いはありますが、鉄と物を交換して欲しいとなると、鹿や猪等とんでもない数を要求されるます。

ですからうちの村はウエノの町には積極的に関わらないようにする、という事に決まっているのです」


 おお、なんかテンプレ的な展開だ。

 限られた資源だから仕方ないのかも知れないけどな。


「なるほどね。ウエノには積極的に関わらないか。でもこれからこの村が発展したらきっと嫌でもあちらから絡んでくるだろうな。それは気をつけなきゃね」


「いくら発展したとしても、あちらの町からすれば全然規模の大きさが違います。多少裕福になったとしてもあちらがこの村にそこまで関心を示してくるとは思えませんが・・」


「今はまだそうだろうね。ミコトの考えもそうだろうし、おそらくユキムラさんあたりもそんな風に思ってると思うよ。でも俺の頭の中ではウエノなんて全然目じゃない、最高の街にするつもりで考えてる。だからミコト、一緒に頑張ろうな」


「は、はい!精一杯コースケ様のお力になれるように頑張ります!私に出来ることであればなんでも申し付けくださいね」


 驚きとそれ以上の喜びを込めてミコトは返事をする。ミコトの想像以上の街にして、その喜びをぬか喜びにしないように努力しないとな。


「ああ、期待しているよミコト。じゃあもう一つ案内して欲しいところがあるんだが・・・」


「ええもちろん、どこでもご案内致しますよ!」


 俺は非常に言いにくい場所へミコトに案内して貰おうとしている。

 むしろミコトに案内してもらう必要はないんじゃないか。俺も積極的に見たい場所ではないからな。


 でも、それでも!やっぱりミコトに案内してもらう事にしよう。



「じゃあ案内してもらおうか。トイレに・・」


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