1-77.決着
「ほう。『月光』を使うつもりか。ちと強引だな。もう少し、武良の構えを崩してから、使う方が効果的かと思うが」
開祖シンは、つぶやく。
東郷は、ギョッとした表情で、開祖シンを見る。
『月光』とは、こちらから打ち込みながら相手の刀をすり上げ、空いた胴を斬る奥義だ。
開祖シンは、真円流八代目惣領なのだから、そりゃ奥義に詳しいよね。
「……ではシン様は、この場面ではどの『奥義』を?」
「残念ながら、父上と武良との力の差は、明らかだ。私なら『引き波』から入る」
『引き波』とは、相手の力を利用して、反撃する真円流奥義だ。
「なるほど」
東郷は、『引き波』から入る戦いのコンビネーションを考え始める。
◯ ◯ ◯
「なぁ、東郷……あ、向こうに居るのか」
天然ボケ気味なスナイパーのラルフは、ここに居ない東郷に、つい奥義の解説を求めて振り向き、彼が居なかった事に改めて気が付く。
「居ても、答えてくれないさ。『黒い風』の『奥義』なんて」
スポッターのハリーは、肩をすくめる。
「東郷の親父さん、追い詰められて居る」
マイクは無表情で、ボソリとつぶやく。
「そうね。さっきは照美さんも危なかったし」
キャシーは、心配そうな表情でつぶやく。
照美にはジャムった銃を始め、動作不良の機器を何度も、魔法使いの様に、最高の調子に整備してくれた。
◯ ◯ ◯
喰らえ!奥義『月光』!!
東郷は、魔力をまとわせ紅く光る刃を、武良の『銀鈴鬼』に潜らせ『銀鈴鬼』を撥ね上げ、空いた胴を切り上げ様とする。
シャキィイィィン
しかし武良は、スイと身体を引き、東郷の刃の勢いを間合いの外へ受け流す。
『銀鈴鬼』の鈴の様な美しい響が、優雅に響く。
なっ!?『引き波』だと!!??
東郷父は、内心驚く!
「え?『引き波』?!」
アメリア司令も、思わずつぶやく。
「確かに、『引き波』ですな。それも見事な」
副司令アライも、同意する。アライ自身も、師範代の試験で悩んだ技だ。
「ひ……『引き波』だよな今の!」
「……そうだ。見事な……」
「「「「「……」」」」」
黒色強化服達も、昇段試験で悩まされた技なので、見間違い様が無い。
◯ ◯ ◯
「ぬわっ!ととと」
武良の『引き波』で、タタラを踏んだ東郷父は、隙が出来た自分の左側に勇者の剣先が刺さるのを覚悟した。
が
東郷父が慌てて勇者を見ると、正眼の構えを取り、自分を待っている。
「ぬっ!」
完全に、遊ばれている。
東郷父の頭に血が登り始め、ガムシャラに攻め込もうとする。
『ちょっと!カツヤッ!!ナニ、やってんのよ!!!』
「うぇっ」
東郷父であり東郷照美の夫、つまり東郷勝也のキモは照美の罵声で、一瞬で冷える。
◯ ◯ ◯
「あぁ、母さん……大丈夫そうだね」
殺しても死にそうにない聞き慣れた母の罵声に、母の無事を感じ安堵する。
ビミョ〜な笑顔に、成ってしまうが。
「あぁ、照美さん」
光子も、ビミョ〜な笑顔に成る。
「えーと。やっと、お出ましかな?」
開祖シンは、ビミョ〜な苦笑で、つぶやく。
『そうですね。やっと『話が通じる』方が、出て来ましたね』
武良も、ビミョ〜な苦笑に成る。
◯ ◯ ◯
『勝也ッ!勇者様は、理由不明でも『真円流』上級者と認めなっ!!』
「お、おぅ」
『骨は拾ってやる!悔いの残らぬ戦いをしな!!』
「お、おおぅ」
◯ ◯ ◯
「あぁ、いつもの照美さんだ」
ラルフは、ビミョ〜な表情になる。
「あー。いつもの照美さんだ」
キャシーも、ビミョ〜な表情になる。
「流石に照美さんの一喝は、現場が『引き締まる』なぁ」
ハリーは苦笑する。
「……俺も、照美さんには、かなわん」
マイクはますます、仏頂面に成る。
◯ ◯ ◯
ヒュン
東郷は刀を右手で片手持ちし、一振りする。
「待たせたな。再開しよう」
「応」
武良は右手の銀鈴鬼を、正眼に構えなおす。
「今度は、私からゆこう」
正眼に構えていた武良の姿が、銀鈴鬼の刀身に隠れて、消えて行く。
そして、銀鈴鬼の輝きだけが、闇に浮かぶ。
こ、これは!?
◯ ◯ ◯
「『宵闇』だ。刀身に自身を隠して、攻める『奥義』だね」
「初耳です!」東郷は驚き、開祖シンに迫る。
「八代目の俺の時の『奥義』は20だっだ。十一代目の武良までに『奥義』が増えないとでも?」
真円流惣領八代目『海良 真』こと、『侍』の開祖シンは、ニヤリと笑う。
◯ ◯ ◯
東郷勝也は焦る。
こ、こんな技は、初めてだ。
ヒュン
「うわ!」
ガキンッ!
鋭く飛んで来た銀鈴鬼の輝きに、気配だけで攻撃をかわす『心眼』と、かわし技の『引き波』の『奥義』の合わせ技で、かろうじて受け流す。
「ほう。流石だな」
「……御前は、何者だ?」
「真円流十一代目惣領、笹木武良」
「な、何!?じゅ、十一代目!?」
「八代目の時の師範代『東郷三郎』殿の時より、『奥義』は増えて居る。これからも代を重ねれば、増えて行くだろう」
「……ならば、なおさら、引く訳にイカンな!真円流、東郷勝也!まいる!!」
「応!!」
キキュルーン!!!
東郷勝也は、ベルトのパワーを最大限に解放すべく、特注のダブル風車を最大限に回す!
喰らえ!『百鬼夜行』
東郷勝也の刀身は、百近い斬撃を、送り出す。
ガガガガガガガ!!
しかし武良の銀鈴鬼も、遅延無く百近い打撃を繰り出し、東郷勝也の『百鬼夜行』をことごとく受ける。
クソっ!この上だ!!
「うおおおおおおおおお!!」
東郷勝也は吼える。
キュキュィイイイイイイィイン!!!
更に回転を早める、ダブル風車のベルトは、紅色から青白い色へ輝き出す。
◯ ◯ ◯
「親父……」
東郷は、父親の死を覚悟した『あがき』を、最後まで見届けるつもりだ。
「ほう。風車をダブルにする事で、設計性能限界を超えるか……だがなぁ。生命力を吸い取られるにしては、攻撃力は上がらないぞ」
黒色強化服の設計者の片割れの開祖シンは、懸念をつぶやく。
「東郷父様は、越えられませんか?」光子は、残念そうに言う。
「無理だ。見てみろ」開祖シンは、東郷父の変化を、見て取る。
『キュキュィイイイイイイィイン!!!』
派手な音を立てて、東郷父の瑠璃色強化服は、青白く光って居る。
見れば、瑠璃色強化服のヘルメットの穴からのぞく、黒髪のハズの東郷父の髪は、みるみる銀髪に変わって行く。
「おそらく、ヘルメットの中の東郷父上は、老人と化して行く」
「くっ、親父!!」
◯ ◯ ◯
よし!『千鬼騒乱』!
東郷勝也の剣は神速に振るわれ、千の刃と成り、武良を襲う。
しかし武良は、銀鈴鬼をドッシリとした正眼に構えたまま、つぶやく。
「真円流、究極奥義『真円』」
シャリーン
バキン!
シャリーン
ガキン!
シャリーン
ピキィイィィン
銀鈴鬼の切っ先が、綺麗な『真円』を描く。
その度に、東郷勝也の強剣は、間合いの外に弾き飛ばされる。
銀鈴鬼の『真円』の動きは、それだけでは無い。
ドコン
「うわ!」
東郷の強い斬撃を受ける、と、東郷の斬撃の勢いをそのまま攻撃に転じながら、確実に面やコテを打ち据えて来る。
ただ単に、切っ先を『真円』に動かして居るだけなのに。
◯ ◯ ◯
「『真円』は知っているだろう?」
「はい。真円流の名にも成っている、奥義中の奥義ですよね」
「うん。その『真円』の動きから繰り広げられる『攻守一体』の技だ。そして武良の『真円』は、敵の攻撃を受けたままの勢いで攻撃に転じる、工夫がある」
そして、東郷を見る。
「『百鬼夜行』も『千鬼騒乱』も素晴らしい斬撃だ、しかし守りに弱い」
◯ ◯ ◯
「むん!!」
バキン!
「うわっ!」
ついに瑠璃色ヘルメットが吹き飛び、東郷の素顔が見える。
すっかり髪は真っ白だ。
ふらり
東郷はふらつく。
もう、このまま倒れてしまいそうだ。
『カツヤッ!!!』
また照美の、気合がこもった激が、飛んで来る。
カッと目を見開いた東郷は、ただ一本の、気迫のこもった面を繰り出す。
ピキィイィィン!
ドコン!
銀鈴鬼は真円を描き、東郷の気迫の面を打ち返す。
そのままむき出しの、東郷の右首筋に、銀鈴鬼の『峰打ち』が決まる。
東郷も、武良も、動きが止まる。
ふらり
からり
東郷はゆらぎ、彼は剣を取り落とす。
ぐわしっ
何を思ったのか武良は、峰打ちの銀鈴鬼を東郷の右首筋に押し当てたまま左手で、すっかり変わり果てた東郷の白髪を鷲掴む。
◯ ◯ ◯
「え!?」
「まさか」
「首を取るのか?」
黒色強化服達に、動揺が走る。
東郷照美は、両手を強く握りしめる。
◯ ◯ ◯
「ワードマンさん」武良は、ワードマンを呼ぶ。
『ここに』守護天使ワードマンは、すぐに現れる。
「勝敗が付いたら彼の称号は、どのようになりますか?」
『武良様の御希望のままに、『所有』および『隷属』と、書き換えられます』
「私の希望という事は、所有も隷属も、拒否出来るのですか?」
『できます』
「では、拒否します」
『かしこまりました』
「では彼に、回復魔法をかけます」
『どうぞ』
「では、リ・フレッシュ!と、ヒーリング!」
ブワッ
東郷と武良は、青白い『聖なる光』に、包まれる。
フワリ、と東郷父はたったまま、少し浮かび上がる。
みるみる、東郷父の白髪が、見事な黒髪に戻って行く。
「よし」
武良は、銀鈴鬼を無限収納へ収納する。
そして東郷勝也を、ゆっくり地面に横たえる。
武良と東郷を包んでいた青白い光は、ゆっくりと消えて行く。
すっかり黒髪に戻った東郷に、医師免許を元にした簡易診断を、手早く行う。
「よし」
ただ、失神して居るだけと診断し、立ち上がる。
「では……東郷照美さん。こちらに来てくれますか?」
呼ばれるなり照美は、強化服の跳躍力で、あっという間に東郷の元に飛んで来る。
そして、東郷の頭をかき抱く。
武良は微笑みながら、うつむく彼女に声をかける。
「東郷照美さん。少しお話があります。御時間いただけますか?」
「……」
照美は、うつむいたまま、答えない。
「東郷照美さん?」
「よがづだぁああぁあああああぁん!うわああああああん!!」
東郷照美は勝也の無事を、ただただ喜び、泣き叫ぶ。
その姿に、敵味方関係無く苦笑を浮かべ、皆戦いが終わった事がわかる。
御読み頂き、ありがとうございます。
次回投稿は、7月31日(日)を予定して居ります。




