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天上

 その後。

 再生したヨシユキは、前世で一緒だった女と再会。

 新しい星の衛星軌道に浮かぶ宇宙船。

 地上開発の資材にするため、船体はかなり削られている。

 それでもまだそれなりの大きさのまま残ってる。

 少数ならば再び恒星間飛行が出来るくらいには。

 その中に残ってる再生槽で二人は作られていった。



「やあ」

 先に再生槽から出たヨシユキは、もう一つの再生槽に向かう。

 そこから出てきた相手に声をかける。

「久しぶり。

 そうは感じないかもしれないけど」

 声をかけた彼女からすれば、目覚める前と今の間に境目はないのかもしれない。

 血液やら細胞をとった時の記憶が最後のはずだ。

 記憶を移植する際に、これまであった出来事の説明はされてるだろう。

 だが、時間のへだたりはほとんど感じてないはずである。



 それでも彼女は、自分の前に立つヨシユキを見て涙をにじませる。

 悲哀とも困惑とも歓喜とも賞賛ともいえない表情を浮かべる。

 そして、何もいえないまま抱きつき、

「…………ありがとう…………がんばったね」

 ただそれだけを口にした。



 ヨシユキはその声を聞いて、彼女を抱きしめる。

 それだけで十分だった。

 長く辛い日々。

 何代も何代も存在した別のヨシユキ達。

 その記憶や記録は当代のヨシユキも受け継いでいる。

 いつ果てるともなく続く作業。

 その苦労と先の見えぬ不安。

 本当に意味があるのかと思ってしまう徒労感。

 それらを乗り越え、来たるべき日々に備えてきた日々。

 たった一人で宇宙船の中を駆け巡った毎日。

 それらの苦労が、彼女の短い言葉で報われた。



「俺たちが最後だ」

 彼女に告げる。

「俺たちが、最後に再生された人類だ」

 もう残ってる人間はいない。

 自分と、彼女。

 その二人が再生されて全てが終わった。

 宇宙船建造の真相を知り、その非道さに憤った男のたてた計画。

 心なき者達を葬り、取り残された者に救いを与えるために。

 その計画が成功し、取り残された者達は全て復活した。

「これで、もう終わりだ」

「うん」

 頷く彼女と共に歩んでいく。

 窓のある場所、宇宙船の外が見えるところへ。



 休憩所。

 展望室を兼ねたその場所にある大きな窓。

 そこからは、新たな大地となった星が見える。

 既に海も大気もできあがり、地球と同じように青い星になっている。

 大陸の形は違うが、生きていくのに困る事は無い。

 既に地上で生活してる者達もいる。



「あそこが俺たちの新しい居場所だ」

 窓の外を見ながらヨシユキが伝える。

「設備もそろってるし、もう暮らして行くには問題がない。

 行ってみる?」

「うん!」

 そう言って頷く。

 最後の二人はこうして地上に降りていった。



 悲劇で始まった恒星間飛行。

 それは喜劇で終わる事が出来た。



 その後。

 新しい星で再開された地球文明。

 それは穏やかに続いていく事となった。

 問題が無いわけではないが、以前の地球よりはマシだった。

 少なくとも環境破壊が深刻になるような事はない。



 ただ、万が一を考えて、衛星軌道に残した宇宙船はそのままにする事にした。

 最悪の事態が起こっても、そこに逃げ込めるように。

 その為に、一度資源として使った船体の回復もなされていった。

 宇宙船は元の姿を取り戻していく。



 それと同時に、さらなる展望も考えられていった。

 この星にとどまらず、更に別の星に向けて展開していこうという声が出ていた。

 一度は滅亡したのだ。

 また同じように滅亡がやってくるかもしれない。

 それに備え、別の星にも移民をした方がよいのではないかと。

 種としての人類の存続を考えれば、間違ってはいない。



 また、それとは別の考えも出てきていた。

 地球はどうなったのか?

 既に崩壊してるのは確かだろう。

 だが、崩壊してるにしても、それはどういう状態なのか?

 今更確かめてもどうしようもない。

 だが、気にはなる。

 なので、地球の今を調べてみたい。

 単なる感傷に過ぎないが、そういう声もあがっていた。

 あるいは好奇心と言うべきか。



 そういった意見を受けて、新たに二つの宇宙船が作られる。

 一つは移民船。

 人類滅亡を回避するために、別の星を目指す船。

 もう一つは調査船。

 脱出した故郷の今を探りにいく船。

 その二つが用意された。



 どちらもそれほど大きくはない。

 全長500キロほど。

 小さいとはいえないが、ここに来るまでに使った船ほどではない。

 移民船の方は、遺伝子情報だけを乗せるので、人を収容する場所を考える必要がない。

 調査船は、それこそ調査だけなので、移民のための設備がいらない。

 調査機器と、結果を送信するための通信設備は必要だが。

 目的を考えれば、そう大きな船は必要なかった。

 そうして二つの船は飛び立っていった。

 未来への希望を乗せて。

 過去への追憶を求めて。



 それらを衛星軌道から見つめる。

 新しい宇宙船の建造も、衛星軌道で行われていた。

 この星にやってきた宇宙船を建造基地にして。

 その方が手間も少なくて済む。

 使えるものはとことん使おうという意見のためである。

 実際、作業時間も労力もかなり削る事が出来た。

 資源は新たな大地から採掘しなければならなかったが。



 おかげでヨシユキはまた宇宙船に戻る事になった。

 宇宙船の権限を持ってるので、いないと話にならないのだ。

 おかげで何度も何度もクローン再生している。

 権限を他人に譲れば良いだけではあるのだが。

 その権限を誰も求めようとしない。

 下手に手に入れると、様々な面倒を抱える事になるからだ。



 中には、我こそは、と名乗り出る者もいる。

 だが、そういう人間ほど問題を起こす。

 事前の適正検査でも良い結果は出てこない。

 そういう人間はさっさと分子単位に分解して、物資にして有効活用する事になる。

 なお、面倒なので生きたまま処分している。

 馬鹿げた悪意にふさわしい処遇として。



 そんなわけで適任者もおらず。

 まれにいる託すに足る者ほど、巨大な力にまつわる責任を考えて辞退していく。

 おかげでヨシユキは未だ強力な機能を持つ宇宙船の権限を手にしていた。



 それは移民船と調査船にも言える。

 移民船の船長には、ヨシユキのクローンが。

 調査船の船長も同じく、クローンが。

 結局、他の誰かが代わりになる事もなく。

 引き続きヨシユキがそれらの責任者をやる事になった。



 更に、それならば宇宙船にいてくれた方が良いという事になり。

 宇宙船にいる時間の方が長くなってしまっている。

「これはどうなんだ?」

 確かに宇宙船の方が便利だ。

 快適ですらある。

 しかし、現状に納得がいかないものもあった。

 諦めてはいるが。



 そんなわけで、ヨシユキはだんだんと地上から離れた暮らしをするようになっていった。

 天空から地上を見守る事が仕事になりつつある。

 具体的に何か介入する事はほとんどないが。

「神様じゃあるまいし」

 本当にこれでいいのかと思ってしまう。



 だが、一人ではない。

 同じように再生してくる女房がいる。

 孤独ではない。

 かつて宇宙船内で走り回っていたときと違って。

 それだけで落ち着いていられる。

「まあ、これはこれでいいか」

 本当にこれでいいのかどうか。

 そうは思うが、問題があるわけではない。

 一応は平穏な生活をおくっている。

 だったら、それを下手に壊す必要もない。

「いつまで続くか分からないけど」

 やがて終わりが来るかもしれない。

 だったら、その日までこの生活を続けていれば良い。

 そんな事を考えてもいた。



 確かに今は退屈だ。

 だが、絶望の中でかすかな希望にすがってるわけではない。

 退屈なくらいに穏やかな毎日の中で、やる事に追い立てられる事もない。

 したい事も特にないが、しなくちゃならない事もない。

 そんな、堕落したような毎日が続く。

 その幸せを感じながら、衛星軌道で惰眠をむさぼる。

 こんな贅沢が出来るだけでも十分幸せだ。



 既に遠い記憶なので、ヨシユキ本人も忘れている。

 それこそが、かつて地球で必死になって働いていた頃、痛烈に求めたものだと。

 それを今、共にいる者と一緒に享受している。

 夢見た世界にいる。

 だからだろう。

 これでいいのかと思いつつも、ヨシユキは十分に幸せだった。

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