14.進出
クリアストリは今日も大勢の信者達でにぎわっている。勿論皆が皆現役の信者という訳では無い、とっくの昔に限界を感じ引退した者もいれば、そもそも信者ですら無い者達も多く住む。そういった現役の信者では無い者達には現役時代に蓄えた貯蓄で余生を過ごす者や新しい店を構える者まで、それぞれの暮らしがある。
「わぁ…!お店がいっぱい!」
「いらっしゃいいらっしゃい!!そこのお兄さん天門焼きはいらんかね~!!」
「ナギ・ユキヤさん監修新式巡礼装備!!入荷してるよ~~!!!」
二人は天門商店街に立ち寄っていた。ここには様々な店がずらっと並んでおり巡礼用の装備から食事、はては賜物まで何でもそろうクリアストリ観光名所の一つだ。少しでも立ち入ろうものならたちまちのうちに良い香りや珍しい物に誘われて散財してしまう。
「すごい…!わぁ~っ…!」
『……』
エルは人混みに揉まれそうになりながらもグウィンドの後ろにしっかりと付いていく。もしはぐれたとしてもこれだけデカい男が居ればすぐに見つけられるのだが。余談だがグウィンドは人混みを歩くとき非常に気を使って歩いている、もし躓いたり他人の足を踏んでしまおうものなら相手は確実に身体の一部を失う事になるからだ。
「グウィンドさん!何を買いに来たんですか?」
『…………』ボソボソ
人混みにより声があまり通らない為少し大きめの声で話すエルだったが、失念していた。そう、グウィンドはヘルメットを常時装着している上にぼそぼそ喋る為声が全く聞こえない問題だ。もはやここでは意思疎通出来ないと判断したエルはあきらめて付いていく事にした。
「はぁ…そういえばグウィンドさんの家って静かだから普通に話せてたけど…」
『…………』ボソボソ
エルは考える。環境音が大きい場所でも今回のように意思疎通ができなくなる可能性がある、それをどうにかしないと…とそこまで考えた所で、その思考がこれからもグウィンドと共にいる前提の懸念だった事に気が付いて少し恥ずかしくなる。
「…(いつまでもグウィンドさんがどうにかしてくれる訳じゃない…しっかりしなきゃ)」
『………』ぼそぼそ
「んきゃっ!?…いってて」
突然目の前の壁…大きすぎる背中が急停止したことにより衝突するエル。少々痛む鼻っ面を撫でながら前を見ると、グウィンドが中腰になって露店で何かを見ていた…視線は追えないのだが。
「これは…なんですか?」
『…"勝負師の三厄避け"という賜物だ』
グウィンドが中腰になったおかげで声の発生源が近くなり声が聞こえる。スリリング、そう呼ばれていた賜物が入っている箱をエルは覗き込む。
「わぁ…!」
箱の中には大量の指輪が入っている。パッと見ただけでも数百個はあるだろう、しかも一つ一つの値段が非常に安い。全部同じ見た目で不思議な模様だ。その中から一つグウィンドが選んで店主に金を払い購入した。
『…肌身離さずつけておけ』
「ええ!頂けるんですか!?ありがとうございますっ!!」
エルは渡された指輪型の賜物を指に着ける。サイズがすこし大きかったので親指に着けた。グウィンドさんからは色々と貰ってばかりだなぁと考え、いつか必ずこのお礼は倍にして返すと心に誓ったエルであった。
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鳥も朝鳴きに疲れて休む頃、二人は商店街を抜けて協会に到着していた。勿論来る時にグウィンドだけ石橋を渡れないという問題が発生したがグウィンドにとってはいつもの事なのでどうという事も無かった。
「あ、そういえば私の服干しっぱなしだった…まぁ帰ってきた時でいっか!」
『……』
物干し竿で風になびいて居る服を見つけてそういえばと思い出すが、今持って行ってもかさばるので回収は帰って来てからにすることにした。
二人は物干し竿を通り過ぎて協会の中へ入る。昨日と同じくこの時間はあまり信者がおらずすっからかんだ、それでも暇そうな受付は必ず一人居るので問題は無い。
『…巡礼だ』
「おはようございますグウィンドさん、巡礼ですね。そちらの…」
「エルです!わたしも巡礼です!」
受付は少し驚いたような表情をするも手続きを始めてくれる。
「こんな幼い子が…登録したのはエルレンですね…はぁ…何考えてるのかしら」
「あのっ!エルレンはわるく、ないんですっ!」
「うーん…」
そうは言いつつもしっかりと手続きを済ませる辺りはマニュアル人間なのかもしれないが、エルにとっては好都合であった。
「エルちゃん、本当にいいの?ヘヴンは…」
『…目的地は祝福の園だ。それに…私が付いている、問題無い』
「う…まぁそうですね。では気を付けて行ってくださいね、グウィンドさんどうか守ってあげてください」
受付は渋々納得した様子で協会の奥にある一際大きい扉を開く、昨日から気にはなっていたがどうやらこの先に天国門があるようだ。
「おおぉっ…これが…天国門…!」
一際大きい扉が開かれるとその奥にはクリアストリからも見えていた巨大な亀裂が姿を現した。黄金に煌めく扉は圧倒的な異質感を発しているが、同時に神聖さも感じさせる。
『…来い』
「はいっ!」
グウィンドが先に天国門の先へ進む、グウィンドの大きな背中は一瞬で光の向こうへ消えてしまった。そしてそれに続いてエルも高鳴る心臓を抑えながら天国門を通った。
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さっきまで少し肌寒かったのが嘘のように暖かい。だが熱すぎることも無く丁度良い暖かさだ、きっとここで昼寝でもしたらさぞかし気持ちいいだろう。風も穏やかで心地良いし。
『…どうだ』
「はい…凄く……美しいです」
目を開き天国を見渡す。薄い金色の雲に、光が零れる大岩、輝く実を成す木々。空は穏やかな光に包まれている。…確かにここは。
「祝福の園…本当に名前通りですね…!」
『…ああ、本当に』
そしてグウィンドは続ける。懐かしむように、思い出すように、恨むように。エルに聞こえないほどの小さな声で。
『…………』




