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巻き込まれて異世界召喚、その果てに  作者: ねむねむ
三章 忠義の在処
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十二話

続きです。

 同時刻。エルミナ王国東域中部フィラクトの町近郊。

 朝日が照らす大地が揺れている。幾つもの馬蹄の轟きは、フィラクトの町に住まう者たちを驚かせていた。

 そんな騒音を響かせながら往くのは軍馬に跨る騎士たちである。彼らが掲げる紋章旗は白地に天を貫く剣。エルミナ王国においてとても有名な旗だ。王国を守護する四人の大将軍、その内の一人である〝王の剣〟のみが掲げることを許された旗――故に彼らが〝王の剣〟直轄の騎士団である〝光風騎士団〟であることが分かる。

 その数一万で、先頭を往く精悍な顔つきの青年に一人の兵士が馬を寄せた。


『クロード大将軍、先ほどバルト大要塞の斥候らしき人影が見えましたが捕らえますか?』

「いや、よい。そのまま行かせるのだ。我らは何も戦うために来たのではないのだからな」


 逆賊シャルロット第三王女を討伐せよ、という命をオーギュスト第一王子から受けたクロードは、悩みに悩んだ。国王の代理人として動いているオーギュスト第一王子の命は国王の命に等しい。それに逆らうことはできない。けれども仕える王家の一員であるシャルロット第三王女を討つこともできない。

 ならばどうするか。クロードは一つの結論を出した。

 

「シャルロット第三王女にご同行を願い、国王陛下の前にお連れする。さすれば陛下はご寛大なる処置を下さることだろう」


 現国王であるアドルフは穏やかな性格の持ち主であり、寛大であると広く知られている。それは直接会ったことのあるクロードもよく知っており、故にオーギュスト第一王子の命を無視してシャルロット第三王女を連れてきてもきっと良くしてくれると考えたのだ。


(陛下はお優しいお方だ。きっとお慈悲を下さることだろう)


 そう考えたからこそクロードはバルト大要塞に一直線で向かっている。姿を隠すこともせず、策をほとんど練ることもせずにだ。

 

『しかし……もしもシャルロット第三王女が投降しなかったらどうされるのですか?』


 クロードの隣を並走する兵士――光風騎士団の副官が問いかけてきた。

 もっともな疑問だったのでクロードは答えることにした。


「その時は……某がシャルロット第三王女をお連れする。無理やりにでもな。そしてそのまま騎士団と共に王都まで撤退するのだ」

『な――それは無謀が過ぎます!お一人では無茶です!』

「某には〝王剣〟がある。この力を使えば人を一人連れ去ることはできるだろう」

『ですが向こうにはあの〝征伐者〟がいます。しかも新たな〝王の盾〟まで居るという話です。いくらあなたさまといえども流石に無謀というものでしょう!』


 あんまりな作戦だったので思わず副官は大声を出してしまう。当然だ、誰が聞いても正気を疑う内容だったし、そもそもそのような物は策とは言えない。単なる博打である。

 けれども他に方法がないのだ。守るべき対象であるシャルロット第三王女を殺すわけにはいかないし、同じ国家に仕える兵士同志に殺し合いをさせるわけにもいかない。たとえオーギュスト第一王子がそう望んでいるのだとしてもだ。それはクロードにとって看過できないことだった。


(大将軍として、それだけは認めるわけにはいかぬ)


 それは意地にも似た想いだった。大将軍という兵士にとっての模範たる者の責務であるとクロードは考えている。

 

「無論、某とて無謀であることは承知している。が、それでもだ。某は決してシャルロット第三王女を討つことはせぬ。そなたらの血を無駄に流すことも看過せぬ」

『しかし!』

「これは命令だ。……どうか分かって欲しい」

『クロード大将軍……』


 尚も言い募ろうとした副官だったが、若き大将軍の横顔に苦渋の色を見て取って言葉を飲み込んだ。彼の葛藤を、苦悩を感じ取ることができる。だから副官はそれ以上何も言わずに頭を下げると後方へと下がった。

 

「……すまぬな」


 副官の言いたいこともよく理解できる。それでもと意見を退けたのは自分の信念を守るためだ。しかしだからといって軽々しく部下に頭を下げるわけにもいかない。

 故にクロードは小さく謝罪を口にした。誰に聞き届けるわけでもない、単なる自己満足と理解し、己を嫌悪しながら……。

 そんな彼の往く手に姿を現す巨大な建造物の輪郭。バルト大要塞が見えてきた。

 覚悟と決意を秘めた若き大将軍は、目的地にたどり着こうとしていた。



*****



 一方その頃――エルミナ王国北域中部ラヴィーネの町。

 基本的にほぼ一年間雪が降り続ける不毛の地、それが北方の評価である。しかしそれは間違いで、中部から南部にかけては肥沃な黒土地帯が広がっており、その肥沃な大地は北方を潤していた。

 それは北方の盟主レオーネ家の本拠地であるこのラヴィーネの町周辺も同様で、穀物によって生み出される富が町を支えている。

 そんな町の中心部に位置する城はレオーネ家の当主が住まう場所だ。名は〝白狼城〟、かつてこの地を救った伝説の白き大狼に由来する。

 その城の一角、玉座の間に大勢の人々が集まっていた。彼らは皆北方貴族と呼ばれる特権階級の者であり、そんな彼らが見つめる先――玉座には一人の青年が座っていた。

 

「――それで、()はなんと言っているんだい?」


 眉目秀麗――そう呼ぶに相応しい青年が声を発した。

 その声音は優しげなものだったが、にじみ出る雄々しき覇気は王者のそれである。

 それも当然、彼はこの国の第二王子なのだから。


『で、殿下の申し出をありがたくお受けする、とのことです』


 青年に問われたのは玉座の前で膝をつく一人の男。彼はとある将軍(、、)が派遣した者だった。

 彼は青年が発する覇気に耐え切れずに声を震わせていた。そんな男に青年――ルイ・ガッラ・ド・エルミナは微笑みを向ける。


「そうか、わかった。長旅ご苦労だったね。この後詳細を書いた書状を渡すから、その前に身体を休めるといい――キミ、彼を案内してやってくれ」

『はっ』


 脇に控えていた親衛隊の一人にそう命じたルイは玉座の間を見回す。銀髪銀眼――まるで妖精だとも民衆から評されている秀麗な顔は笑みを崩さない。


「諸君、聞いての通りだ。かの将軍はこちらに付いてくれることを約束してくれた。これでやっとボクたちは動ける」


 その言葉に集っていた貴族たちが喜色を浮かべた。興奮を隠しきれないのか、囁き声が聞こえてくる。

 そんな貴族諸侯の様子を確かめたルイは満足げに頷くと玉座から立ち上がって歩き出す。


「さあ――往くとしようか。誰がこの国を統べるのに相応しいのか、それを知る時が来た」


 その声、その姿はまさに王者と呼ぶに相応しいもので、そんな彼に付き従うのはレオーネ家当主ヨハンを始めとする北方貴族たちだ。

 大勢の権力者を付き従えたルイはいつの間にか腰に現れた一振りの剣、その柄に手を置く。


「やっとキミが活躍できる時が来たよ――〝悪喰〟」


 その楽しげな声に応えるかのように、ルイの腰に吊るされた蒼く透き通った剣が発光した。

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