第6話 支払いを渋る大人
ギルド施設内で、言い合いをしている感じの声が聞こえた。女性と男性の声だ。女性の方は、どこかで聞いたことのある声だった。
遥は、ニヤニヤしながら「男女のもつれ話かな?」って言ってきた。好奇心旺盛な女の子だなと思う事にしよう。じゃなきゃ遥に対して、酷い表現をしてしまいそうだったからだ。
姿は見えないが、二人の声が近づいてくる。あっアリスさん…声の主を思い出したと同時に二人の姿が現れた。やはり声の正体はアリスさんだった。男性はごつく、見るからにパワータイプの男だった。アリスさんと目が合うと、こちらにやってきた。
「ギルド長、こちらが先ほど話した二人です。ユウとハルカが、ハヤテの捕縛を成し遂げました」
俺達は、ギルド長と呼ばれた偉い人に軽く会釈すると、アリスさんとギルド長が、また揉めだした。
それと同時に受付のお姉さんが戻ってきた。お姉さんが俺にどうかしたんですか?と小声で。
ハヤテの捕縛は、どうやら正規の手続きを行わないで、アリスさんが捕まえたらしい。
ギルドで依頼受注→依頼遂行→依頼達成→ギルドに報告→報酬の受け取りが流れらしい。
ギルド長が言うには、依頼受注していない。そのうえ、ハヤテの捕縛はAランクの依頼でCランクのアリスさんはおろか、俺達はランク的に依頼受注ができない。
しかもこのハヤテという殺人犯は、5年間逃げ回っていたらしい。
「君たちが勝手に捕まえた、だから報酬は出せない。規律を乱せば、他の冒険者に示しがつかない。
そもそもこの子供たちが、捕まえたのも胡散臭い」
遥は、ギルド長の思惑に気づいたらしく。 「つまり、勝手にやったから報酬は払わないと?」
「……そうだ、正規の手続きを行ってから、依頼をこなして報酬が発生する。君たちのやった事は、ただのボランティアだ」
「ギルド長……あなたはギルド長になってから何年経ちましたか?」
「あん?…10年は経つが、それがどうした?」
「なるほど10年ですか?冒険者殺しの事件は5年前…。なるほどなるほど……」
「それがどうした?」
イラつくギルド長と、まるで推理小説で犯人を追い詰める時みたいに、推理ムーブをかます遥。
でもとっくに犯人捕まえているんですけどね、殺人犯を捕まえているんですけどね。
遥の一言で周りが静まり返る。さぁどんな推理が繰り出されるのか?
「ギルド長、あなた…。殺人が起きてからの5年間、何をやっていたんですか?私たちが殺人犯を捕まえるまでの5年間」
「ギッ…ギルドの仕事だ…」
圧をかける遥と、あかるさまに疚しい事があるギルド長。
「仕事?仕事ですか…?あなたの仕事は、人より遅く出勤をして、何時間も部屋にこもって、出てきたと思ったら誰よりも早く退社」
あれ?遥、ギルド長と知り合いなの?初対面だよね?
「たまに視察という名目で、外に出てはそのまま直帰していますよね?いったい何の視察ですか?何の成果を得たのですか?給料泥棒じゃないって否定できますか?」
推理じゃなかった…。俺と遥は初めてバレッタの町にきた。故にギルド長とは初対面だ。彼の情報は【ギルド長】って事しか知らない。遥も同じはずだ、今まで一緒に行動していたのだから。
つまりこれは推理でも何でもない。偏見による暴言だ。
ギルド長は、職員たちを見て圧をかけた。激しく首を横に振る職員たち。
図星かよ……。子供の戯言で、うろたえるなよ。
「日々安全な場所で余生を過ごしている、あなたと違ってこちとら毎日、命を懸けているんですよ?」
注・俺たちは、まだギルドの仕事をしていません。
遥は、ふざけた顔をしてギルド長の真似をした。
「『お前たちは勝手に捕まえてきた、報酬は払えねぇーなぁー。装備を整える前に、身だしなみ整えろよ、汗臭いんだよぉー。ぼぁっはっはっはー』じゃないわよ」
遥は、ギルド長を利用して、ギルドに居た他の冒険者を罵倒した。余程、臭いがストレスだったらしい。
しばらく話が終わる気配がなく、早く仕事して宿に寝たい俺は、二人の会話に割って入った。
「ギルド長?報酬はダメでも、謝礼という形で出せば良いんじゃないですかね?形はどうあれ、5年間逃げ回っていた殺人犯を捕まえたわけですし」
「なんでお前が決める?判断をするのはギルド長である、俺だ。それにどんな卑怯な手を使った?お前たちが捕まえたってのが一番怪しい」
それを聞いた遥は、『じゃあ実演してやろうか?』と言わんばかりに、ギルド長に向けて構える。
すぐさま、遥を羽交い絞めして抑える。少し遥の事が分かった気がする…嫌いな人間は、とことん嫌いだ。容赦しない…黙っていれば穏やかで、かわいい子なのに…もったいない。
俺は、殺人犯…ハヤテの手配書を受付けのお姉さんから借りた。
「依頼ランクA、名前に、罪状に、報酬5000万……特に書いてないですね」
「何がだ…」 ギルド長はそれがどうしたと、言わんばかりの顔に。
「剣を使って捕縛、魔法使って捕縛、一人で捕縛、二人以内で捕縛、…捕縛条件書いてないですけど?」
「そんなこと書いてあるわけないだろう」
「そうなんですか? やたらと、お前たちが捕まえたのか?とか、どんな手を使った?とか疑っているからてっきり…」
「………」 ギルド長の顔を見る限り、俺の意図は伝わったみたいだ。
「勝手な事とはいえ、5年間も逃げ回っていた殺人を捕まえたんですよ?ここにいる他の冒険者ではなく。彼女たちが……。ギルド長として、いや人としてまず労いの言葉は無いのですか?やることもやらない、これじゃ本当に給料泥棒って言われますよ?」
「………感謝する」 その顔は納得はしていない、不服な顔だった。
静まり返るギルドに、ギルド長の言葉が静かに響く。
周りは俺に注目する。言いたいことを言ってやったという高揚感と、さらには…なんというか調子に乗ってしまったんだと思う。うん…普通気に気になるじゃん。
「…報酬5000万。浮いたお金ってどこに行くんですかね?」




