第14話 空拳 裏拳 鉄拳
巨大な斧を肩に担ぐ屈強な男、周囲は『やべぇ。殺される』などと、被害者はこっちなのに、加害者のことばかり気にする。何だろうこの理不尽さ?
助けた女性が小声で。
「お兄さん、不味いですよ。あの人、Dランク冒険者ですよ。逃げましょう」
この人たちの戦闘力の基準は、冒険者ランクなの?でも、さっきの小物二人とは格が違うのは分かる。
女性に小声で『離れてて』と指示を出し、ワンチャンやり過ごせると思い、痛がる演技を続行。
「おまえかぁぁ!!俺の子分をやりやがったのは、ぶっ殺してやる!!」
こいつ嘘だろ?俺が痛がっているの見えないの?それに、子分が勝手に自爆しただけなのだが。
俺、悪くないし…悪くない…し…。俺は薄目で、近づいてきた大男を見ると、巨大な斧を振りかぶっていた。ダメだな…こいつ絶対に、死んでいる相手にも切り刻むタイプだ。
ブォン!ドゴッ!! 空を切って、地面に突き刺さった斧。俺は余裕をもって躱し、大男の背後へ回り込んだ。服の埃を手で払い、面倒臭そうに大男を見た。
「ひどくないですか?痛がっているところを追い打ちで、切りかかるなんて。丸腰相手に斧を振り回して、恥ずかしくないんですかね」
「てめぇ何者だ?あいつらに、何をしやがった?」
「あなたの子分に殴られた、一般市民ですけど?何故、あんなに痛がっているんですかね?」
「ふざけるなぁー!!俺の攻撃を躱した事と言い、お前が何かやったんだろう?」
あ~もう面倒くさい。そして、また切りかかる大男。普通に躱す俺。
「大体何故、殴ってきたんですかね?岩を見たら、素手で殴るんですか?あなたの子分は、岩の硬さが分からないんですか?相手の力量も測れないんですか?」
などと煽っていると、ギャラリーをかき分け女の子が出てきた。
女の子は『ゆう君?』と発した。思わず視線を向けてしまった。大男はこの機を逃さなかった。俺にではなく、女の子…遥に斧を勢いよく投げた。
前にもあったこの光景、あの時は魔法で足止めしたけど今回は…。
『逃げろ遥』その声は空しく、 ブォーン… ガン!! シュルシュル…ドゴン!!っと、どこぞの建物に直撃した。
俺も、大男も開いた口が塞がらなかった。
遥は斧が当たる直前、斧の側面を裏拳で殴り、弾き飛ばしたのだ。
そして俺たちのところへやってきた。
「ゆう君、これ持っていて。おじいちゃんが、あとで一緒に食べなさいってくれたの」
遥から紙袋を受け取ると、中には果物らしき物が…。紙袋に視線を奪われていると、ドンっと破滅音がした。慌てて音のする方に目をやると、遥の鉄拳が、大男のみぞおちに炸裂していた。
「すいませーん。さっき私に向けて何投げたんですか?」
大男は遥の問いに答えられない。腹に激痛が走っているからだ。涙、鼻水、脂汗、呼吸困難、敵ながら、少々可哀想になってきた。大男は力を振り絞って…。
「はぁっはぁっ…こ…こんなことして…タダじゃ済ませ…」
「ん~?タダじゃ済ませないって?どうなるんですか~?誰か報復に来るんですか~?
いつ来るんですか~?今来るんですか~?それとも、お前を殴り殺せば…現れるんですか?」
満身創痍の大男の胸ぐらを掴み、拳を振り上げる。
殺さないのは分かっているけど、恐怖を植え付けるのうまいな~っと感心していた俺。
ギャラリーも増え、そして今更やってきた巡回兵。
巡回兵にその場で聞き取りをされた。すると、いつからそこに居たのか、フィルさんまでご登場。
そしてギルドの小部屋で、フィルさんと巡回兵、テーブルを挟み、俺と遥と被害に遭った女性。
事の経緯を話すことになった。
「まず、絡まれていたという報告は、周りの住民からの聞き取りで間違いなしと。
そして、ユウ君は、一方的に殴られた…何故か殴った相手が重傷っと。
あとから現れた。ガジゲゾが斧を振り回し、遥さんに斧を投げて、弾き飛ばし、民家の半壊させたと」
フィルさんが読み上げた、報告書を淡々と聞いていた俺は、2つ引っかかっていた。
あいつ…ガジゲゾって名前なのか…濁点多いな。まあそんなことはどうでも良いのだが。
問題は遥が斧を弾き飛ばして、民家を半壊させた。この請求は、こっちに来るの?
「ところでユウ君?どうして巡回兵に連絡しなかったの?」
「…この町に来て3日間、巡回兵の姿を見ていません。存在自体、知りませんでした。例え知っていても、いつ来るか分からない者に期待などもてません」
「きっ貴様!!我々が仕事をしていないというのか!!」
そりゃ怒るだろうな、あんたら仕事をしていないんだろうって聞こえるよな。
フィルさんは、巡回兵をなだめる。怒りが収まらない巡回兵。そしてフィルさんは、巡回兵に問う。
「因みにあなた達は、どういった経緯で現場に来られたのですか?」
「私たちは、巡回中に住民から直接報告があり、駆け付けました。その時にはガジゲゾは倒れていました」
巡回兵が説明を終えると、被害に遭った女性が、静かに声を上げた。
「あっすいません。えーと記者のミラール=フォーカス…です。この記録玉を見てください」
【記録玉】ビデオカメラみたいなものだ。説明されていないが、周りの雰囲気でそう思った。
記録玉には、この彼女が絡まれているところ、そして俺が男たちに殴られるところ。
(嘘だろ?俺、こんなに演技が下手だったのか?悲鳴なんか棒読み出し、吹っ飛ばされるタイミングがズレている。こりゃ誰も心配しないな俺の事。…遥?笑ってんじゃねえよ)
そして、物陰から喧嘩を見ている、巡回兵の姿がばっちり映っていた。
「因みに私は、ユウ君がガジゲゾに絡まれているところから居ました。でも、ギルドの事務員に喧嘩を止める義務はありません。あなた達、巡回兵はどうですか?」
居たんかい?義務は無くても助けんかい!!って思ったけど、そんな空気じゃなかった。
巡回兵、不味いんじゃないの?こんなのバレたら住民から『お散歩兵』なんて嫌味言われちゃうぞ。
だんまり決め込む、お散歩兵。
「ミラールさん、あとで記録玉の映像を貸してもらえますか?抗議しますので…。ユウ君が気になっているであろう、民家の賠償はガジゲゾが負担って事で大丈夫よ」
よかった~ただでさえ、所持金が底を突きそうだったんだ。そして気を抜くと余計なことを言ってしまう俺。あかるさまに、肩を落としている巡回兵に励ましの言葉を送った…つもりだった。
「今日は、お散歩兵だったけど、明日から巡回兵として、頑張れば良いじゃないっすか」
ミラールさんは、何かのメモを書き。フィルさんは、俺の事ジト~って見るし。
遥は笑いを堪えながら、俺の肩をバシバシ叩く。
よし一件落着だ。これから宿を探すぞ。




