4つの告白(10)
本日3話連続投稿します。
これは3話目です。
「はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
その日の夜のことだ。
「ど~~~~すんだよも~~~~~~~~」
朗太は自室のベッドでぐったりとしていた。
仰向けに倒れ、蛍光灯のついていない天井をぼんやりと眺めていた。
全てが暗中模索だった。
三人の告白で、もう自分が心が分からなくなっていた。
『好きって言ったら驚く?』
『先輩、……好きです』
『だから朗太、私もアンタのこと好きよ』
三人に言われた言葉が、グルグルと脳内を回っていた。
……というかそもそもなぜ、自分は彼女たちの想いに気が付かなかったのだろう。
「……」
朗太は黙って虚空を見つめた。
考えればすぐに理由など分かった。
自分という人間は、全ての価値を小説に置いてきたからだろう。
そして、自分に作家の才能が欠片も無いからだろう。
だからこそ、そんな自分を好く人間など、いるわけがない。
そう思っていたのだ。
そのネガティブな意識こそが、痛烈な思い込みこそが、『そんな訳がない』と思い込ませたのだ。
それほどに自身にネガティブな印象があるからこそ、周囲の言葉に欠片も取り合わず、戦いをビーチフラッグ程度に歪ませ認知し、自身をそのフラッグ程度の価値に歪曲し押し込めていたのだろう。
それに、原因はそれだけではない。
朗太は先日の件を思い出す。
自分は自分という人間が傷ついていることにも気が付かなかった。
文化祭の一件で傷ついたことにも、気が付かなかった。
ただただ落ち込んで、事が終わってからようやく自分が傷ついていたことを認識した。
ということは、自分という人間は、それほど自分自身に、自分自身の感情に、鈍感だったということだ。
つまり――
朗太は思う。
――この五里霧中の胸中。
この、三人の想いを知ってぐちゃぐちゃになった、自分でも訳が分からなくなった胸の内にも、あの三人のうちの誰かが好きだという意識は、きっとあるのだろう。
だが、落ち込んでいた自分の気持ちに気が付かなかったように、今の自分には分からない。
なら、取れる行動は一つしかないように思われた。
◆◆◆
そして翌日の放課後のことだ。
「は~~~~?!?!?! 今は答えられない~~~~~!?!?!?!」
「ごめん!! 本当にごめん!!!」
朗太は直角に腰を折り頭を下げていた。
本気の謝罪である。
「少し自分に時間を下さい!!」
教室には姫子たち三人の前で深々と頭を下げ叫ぶように自分の想いを訴える朗太がいた。
事の経緯は数分前に遡る。
放課後、朗太は姫子・風華・纏の三人を呼び出していた。
なぜ三人纏めて呼び出したかと言えば、それは今朝の登校時間帯でのことだ。
偶然? 朗太が歩いていると纏、風華、姫子の順で合流し、その偶然に気まずいものを感じていると姫子が「私も、昨日言ったわ……」とぼしょぼしょと白状し始めたのだった。
「あ、姫子もやっぱり言ったんだ」
「そ、そりゃ、アンタたちが言ったら言わないわけにもいかないでしょ。アンタたち相手じゃいつ振り落とされてもおかしくないんだし」
「そうですよ風華さん、風華さんが告白しちゃったら私たちが告白しないわけにはいかないですよ」
「そーよ、アンタが告ったらこうなるに決まってるじゃない」
「いやでも私もだいぶ我慢したんだからおあいこよ。姫子が復活するの待ったぐらいなんだからむしろ感謝して欲しいくらいだわ。それに始めたのは姫子でしょ?」
「え、私?!」
「そーよ姫子でしょ。聞いたわよ姫子この前」
そのような会話を三人が朗太の背後で堂々と繰り広げている時に
「あ、あの、今日さ」
気まずいことこの上ない。朗太が切り出したのだ。
「放課後、空いてるか?」
そして放課後、誰もいない教室に三人が揃うと
「あ、あのこの前の件なんだけど……」
朗太は顔を赤くしながらおずおずと切り出し
「ごめん、少し時間を下さい!!!」
ガバッと腰を90度に折り頼み込んだのだった。
「ごめん! 今は答えられない…………!」 と。
「は~~~~?!?!?! 今は答えられない~~~~~!?!?!?!」
朗太のセリフに姫子は目くじらを立てた。
そして今に至る。
朗太は続きの言葉を放っていた。
「俺は自分が傷ついていることにも気が付けない大馬鹿者だ! だから、都合が良いのは分かっている! 自分の心の中が分かるまで少し待って欲しいんだ! 気持ちの整理がつくまで少し待って欲しい! お願いだ!」
それは朗太の必死な頼みだった。
朗太の懇願が夕日の刺す教室に木霊した。
すぐに返事は来ない。
じりじりと身が焼かれるような思いが朗太を襲う。
だがしばらくすると
「つまり、それまではお預けってこと?」
冷徹ではあるが姫子の声が返ってきた。
「え……」
「え、じゃないでしょ。アンタ相当なこと言っているわよ」
「は、はい……」
「本当よ、反省なさい」
「はい……」
「これには私もびっくり」
「はい、驚きです」
「はい……すいません……」
風華の言葉は、そして先日の告白の一件を経て、纏の言葉は、余計に刺さる。
朗太は呻いた。
「はぁ~~~~~~~~~~~~~~」
だが三人は揃って大きなため息を吐くと
「ま」「でもね」「はい……」
と、呆れつつも同調し始め
「正直こうなる気はしてたわ。こんなタイミングで告れば」
「私もです。三人でいったらこうなる気しかしませんでした。というか私からすれば結果だけみれば、やはりここしかなかったという感じですけど」
「うん、私もそう思ってたけど、まさかこんな思った通りになるとは」
などと言い始めたのだった。
どうやら朗太の反応もまた彼女たちの読み通りだったらしい。
「そ、そうなのか」
「そーよ、この鈍感ヘタレデリカシー皆無男」
朗太が恐る恐る口を開くと姫子はピシャリといった。
「そうですよ、三股先輩」
「さ、三股とは違うだろ」
「何が違うんですか。殆ど一緒ですよ」
「うん、これに関しては弁解の余地がないよね」
(ひ、ひどくない……?)
だが朗太に言い返す権利はなく、ややしんみりとした空気が流れ始めるが
「で、アンタたちはどうするの?」
ふと姫子は腕を組みそんなことを尋ね始めたのだ。
「なんなら私がこの糞男引き取ってあげても良いけど」
「「「………………」」」
その我田引水なセリフにその場にいた全員が閉口した。
だが皆が黙ったのは束の間だった。
「ハっ、要らないなら姫子が降りなさいよ? 凛銅くんの魅力なら私が十分分かってるから別に姫子が要らないなら私が貰うし」
「そうですよ姫子さん! 要らないならさっさと降りてください! そうしたら私と風華さんの一騎打ちです! ここまで来れば姫子さんは邪魔なだけなんで、要らないならさっさと降りてください」
彼女たちはすぐさま口を開き、その欠片も物怖じしない態度は姫子に青筋をたたせていた。
朗太が、彼女たちはまだ自分を見捨てないでいてくれるらしいと、じんわりと心に温かいものを感じている一方で、姫子は腸を煮えくり返らせていたのだ。
「私からの心暖かい最後通牒だったのだけど、棄却するってわけね……」
「ハ、だから認識が甘いのよ姫子。今更最後通告だなんて意味ないでしょ。もうとっくに皆覚悟済みよ」
「そうですよ、もう覚悟は出来ています! もう後は、相手を殺すか、自分が殺されるかです!」
そして後から思えば、この会話が本当に最終通告になったのだろう。
「へぇ? なら良いわ。叩き潰してあげる。どっちが上か、分からせてあげるわ?」
姫子は気炎を吐きだし
「望むところよ姫子」
「はい、絶対に負けません!」
風華、纏も言い返し、三人の間でバチバチと火花が散り始める。
こうして朗太を他所に彼女たちの戦いは幕を上げたのだった。
そして、その光景を(めっちゃ自分蚊帳の外で話進めてる……)と思いながら朗太が目の当たりにしていると、ひとしきり嬉しい一方で朗太の胃が相当痛くなるような言葉の応酬を繰り広げた風華はというと、バトルが終わると「ま、そういうわけで」と前置きをすると朗太へ向き直り
「振られたわけじゃないなら良かったわ。今まで以上に本気で行くから覚悟してね凛銅君!」そう言って快活な笑みを浮かべた。
「お、おう……」
その笑みはやはりとても魅力的で、どころか告白を経て今までよりさらに魅力的に見え始め、胃に穴が開きそうなやり取りの後だと言うのに朗太の心臓をこれまで以上に高鳴らせる。
それにもう風華の好き放題にさせておく彼女たちではなく
「そうです! 絶対に振り向かせて見せます!!」
「そ、そうか……」
纏も握りこぶしを作り朗太にせっつき、先日の告白を経て風華に負けずとも劣らない魅力を得たその姿は朗太を心底焦らせ、姫子の「フン……、ちょっとモテたからって調子のんじゃないわよ!」と強がる姿も何やら魅力的に見え始め、朗太はあまりの気恥ずかしさで赤面し俯くよりなかった。
「ホーラ、また姫子素直じゃなーい」
「ホント、これは重症ですね」
「あ、アンタ達、こいつ調子のっちゃっても良いの!?」
だが混乱する朗太を他所に、何やらまた彼女たちは言い合いだし、そのわいわいしている光景を視線の端に捉えながら朗太は思うのだった。
姫子の母親である妃恵は言っていた。
今は学生生活に注力した方が良いのではないかと。
本当に、その通りだったと思う。
受験や勉強、そしてなにより小説など、自分は様々大事にしてきたものがあるが……
今は……、『今は』、彼女たちと向き合うのが何よりも先決だろう。
こんな自分を好いてくれた彼女たちと、そして自分の内面と、
自分は向き合わないとならない。
自分が、姫子、風華、纏のうち、誰が本当に好きで、誰と本当に付き合いたいのかを判明させるのだ。
朗太は何やら言い合う三人を前にし、そう思った。
こうして4人の関係は、嘘偽りのない真の交友関係は、始まったのだった。
時は12月。
すぐ後にクリスマスがあり、三学期には修学旅行にバレンタインデー、ホワイトデーなどイベントが控えていた。
彼らの関係がどうなるかなど、もう誰にも分からない。
「朗太聞いてんの?!」
物思いに耽る朗太を姫子がなじった。
「アンタ誰とクリスマス過ごすってか聞いてんのよ!!」
対する朗太はというと、もうこう答えるしかなかった。
「え、こ、今回は流石に、もう、全員一緒しかないだろ…………」
「「「ええええええええええええええ?!?!!?」」」
三人の絶叫が教室に木霊した。
そして第7章開始の『体育祭(1)』冒頭に戻る、ということになります。
はい。というわけで、これにて第9章『4つの告白』編は終了となります。
批判は受け付けています。無いわけ無いと思うので。
まぁこれで物語序盤は必要で、今は不要となった朗太の『鈍感』という枷が外れ、彼女たちも自分の想いを伝えたので容赦なくバトルさせられるわけです。はい。本文中で述べた通りで、戦いはここからという感じですね、はい。
こんな女いねーよ、というツッコミや、創作の範囲でも、いやこれはねーよ、というツッコミもあると思います。
批判してもらって結構です。当然だと思うので。
ただ、私としては、現代日本が舞台で最終的に誰か一人を選ばねばならない複数ヒロインがいるラブコメ物を書いた場合、その主人公がもし鈍感設定なのだとしたら、このタイミングで鈍感を解除して、ヒロイン全員に告白させることで、ラストまでヒロインたちの好意が確実に主人公に伝わる状態にして、修学旅行やらバレンタインやらがある最終三学期編をがっつり主人公とヒロインたちが絡む、『ラブコメ』としてしっかり盛り上げた上で主人公の決断、ファイナルアンサー! というのが一番良いと思ってこうしました。
他にこのようなラブコメの処理の仕方をしている作品があるかどうかは知りませんが、私なりに熟慮した上での選択です。終盤に近付くにつれヒロインが脱落していくラブコメ、私が一読者として読んでいても悲しくなってしまうので、こうしました。すいません。
この展開ならもう物語が終わる寸前までヒロイン誰一人脱落することなく、また終わる寸前まで各ヒロインの顔が曇ることは(恐らく)ないです。
そのために、本話での朗太の内心をある程度キャラブレなく書けるように書いてたのが第7・8・9章、『体育祭(1)』から始まる一連の話でした。
わざわざこのような展開にしたので、これから始まる冬休み編や、『最終』第三学期編では大いにラブコメをさせようと思っています。
もう枷が外れたので色々とやりたい放題ですよね。
勿論、学園の問題解決ものとしても物語は続いていきます。(一応そっちがメインではある、はず。多分)
まだ解決しないといけない事件や、ぶん投げたまんまの伏線や、朗太の過去なんかがあるんで、それらを回収しつつ物語を進められたら良いなと思っています。
今後の投稿ですが、少しお時間を下さい。この章に全力だったのでストックがないので……(本当に何度も書き直した……)
出来る限り早めに再開したいと考えております。
というわけで……
これからも明るめのラブコメを書いていけたらなと思っているので、今後とも読んでいただけると嬉しいです!
宜しくお願い致します!!
では!!




