9話 ナンでお前が返事してンだヨ
――翌朝
「オウ、起きたか。朝だぜ」
「ヒエッ⁉︎」
目を覚ますや否や、フェルズはオレサマの顔を見て悲鳴を上げやがった。
全く……失礼なガキだぜ。
まぁ、おそらく怖い夢でも見たんだろーナ。昨晩は泣いてたしな。ガキが暗闇を怖がるのは当たり前か。
にしても……だ。
あの連中、『商品じゃなければ云々』言ってたが、こんなガキに欲情できるんか? 正直言って、気持ち悪ィゼ。そもそもゴブリンどもでもその辺弁えてるだろうがヨ。
まー、人身売買やってるよーな連中なら仕方がねェ、か?
……それよりも、だ。
これからどーすべきだ?
正直、何も考えてなかったもんナ。
強いて言えば、メシ、財宝、とりあえずの寝ぐら……か。
とりあえずは全部叶っちまったワケだ。
まぁ、しばらくココで暮らすのも悪くは無い、か?
だが……オレサマは真竜王レスィード。飼い慣らされた犬じゃねェ。
そーだナ。とりあえずは魔王の封印を破って竜に戻るのを目的とすべきか。
まずはその為の方法を探すとするか。
――しばしのち
朝食を取り終えたオレサマは、さっそく外に出る準備を始める。
とりあえず、財宝をどうするかだな。
オレサマは隠し部屋へと向かった。
……ふむ。やはり財宝は良い。この輝き……いくら眺めても見飽きることはねェ。
とはいえ、いつまでもこうしている訳にはいかねェんだよナ。
コレをどう持ち出すべきか……。
とりあえず、アジト内を見回り……おっ、あった。
そこそこの大きさの荷車だ。長櫃2つ程度なら余裕で乗るナ。
隠し部屋に戻ると、竜牙兵に手伝わせて長櫃の一つを空にする。
そして、
「“圧縮”!」
呪文一発。これでこの長櫃の容量は数倍になったってワケだ。
そしてコイツに財宝を全量投入。その上で“偽装”の魔法で服やら雑貨が詰まっている様に偽装してやる。
そしてもう一度、“ニオイ”を確認。
……ふむ。これで全部だナ。
そしてもう一つにも“圧縮”の呪文を掛けてやった。
コッチは旅に必要な物資を入れる。
まずは着替えだ。
チェストを漁り、服を拝借。まぁ、持ち主は二度と着るコトはないワケだしな。オレサマが貰ってやるよ。それらは種類ごとにまとめて袋に入れたあと、長櫃に投入。
そして、夜営に必要そうな生活用品も投入だ。
次は食糧の確保だ。
食糧庫と思しき場所に、干し肉やらドライフルーツやらがあった。そしてワインの入った樽も。おっと。食器もいるな。それらも放り込む。
……こんなモンか?
よし。これで準備万端だ。
「オイ、フェルズ。そろそろ行くぜ」
「えっ? あ……ああ」
声をかける。と、フェルズは挙動不審になった。
物資が長櫃に次々と放り込まれて消えていく光景を目の当たりにし、中ば茫然としていたようだナ。
まぁ、ずっと山賊暮らししていた様だから、こんな高度な呪文は見たことねェか。
さて、と。
オレサマは土魔法を使って洞窟の入り口を開いた。
差し込んでくる朝日が眩いゼ。
オレサマは竜牙兵に荷車を引くよう命じた。
コイツなら疲労を感じるコトもないしナ。
「おっしゃ。じゃあ、行くぜ!」
「あ、ちょっと待って」
と、フェルズ。
……腰を折るのはヤメてくれヤ。
い……いやまさか、ココに残るとか言い出さんよな? 逃さねぇヨ? お前もお宝なんだゼ?
「その……ちょっと」
そう言うと、フェルズは洞窟の前にある塚へと向かった。そして何やら祈る様な素振りを見せる。
……ああ、ナルホド。
そして振り返ったフェルズは晴れやかな笑みを見せ、
「さあ、行こう」
『御意』
「……⁉︎」
いや待て。ナンでお前が返事してンだヨ竜牙兵ッ⁉︎ つか、勝手に歩き出すんじゃねェぇッ!
俺は慌ててその後を追った。
――ガルンダール街道
オレサマたちは、アルタワールからリシュートを経て東方へと向かう街道を歩いていた。
アルタワールへ行っても良いんだが、顔を覚えられていたらマズいからな……。
情けねェが反対側のリシュートへ向かうことにした。
ココには魔王軍先遣部隊の大本営が置かれていたしナ。もしかしたら仲間が見つかるかもしれねェ。
「そういえば、リシュートに入るには関所を通らなきゃいけないんだけど……」
と、フェルズ。
「ン? ナンだ? 通行証ならちゃんと持ってきてるゼ?」
オレサマをバカにしちゃいけねェ。懐から、連中が持っていた通行証を取り出して見せる。勿論三人分だ。その辺、オレサマに抜かりはねェ。二度と同じミスはしねぇヨ。
「あ、いや……そっちが」
しかし、フェルズは竜牙兵に視線を向けた。
「ン? どーいうこった?」
「人間じゃないんで、警戒されるんじゃないかな……」
「お……オウ」
それもそーか。オレサマとしたことが。
現状、顔は陶器製の人形の様なアリサマだ。流石にコレでは誤魔化せねぇナ。
もうちょい魔力を注げば人間そっくりに擬態できるんだが、今のオレサマじゃ力不足だ。
「ふ〜む。顔を隠すか?」
「ダメだよ。武装してる時点で色々調べられるし」
「チッ……それもそーか」
う〜む。現状、鎧も身体の一部だしな。脱げる構造にはなっちゃいねェ。
だからといって牙状態に戻すにしても、荷物がな。どーしたモンか。
いや、待てよ。コイツがいたか。
「手はある。オレサマをナメちゃいけねぇ」
「え? ど、どうするのさ」
「フェルズ、ちょっとばかし“力”を貸せ」
「……へ?」
「いいからよ!」
右手でその手を掴んだ。
と、膨大な魔力がオレサマに流れ込んでくる。
なかなか凄ェな。ナンでこんなのが山賊に飼われてたんだヨ? あの連中の見る目のなさは異常かもしれねェ。まぁ、おかげでオレサマはこんなお宝を手に入れられたワケだがナ。
それはともかくとして、だ。これなら十分行けそうだナ。
フェルズからもたらされた魔力を“練る”。
そして、
「……こうすんだヨ!」
左手で竜牙兵を掴んで、二人分の一気に魔力を込める。
『……!』
と、眩い光が弾ける。
ややあってその光が収まると、竜牙兵の姿が見えてきた。
「えっ……アレ?」
「ふ……フン。オレサマにかかればこんなモンさ」
その姿を見、驚愕するフェルズ。
まぁ、俺自身も内心驚いたワケだがョ。
彫像っぽい姿から、完全なよりニンゲンっぽい姿になってやがる。
象牙色の肌と、銀白色の髪。顔立ちは、完全に女っぽいな。どことなくフェルズと似ているナ。
う……む。フェルズの魔力を使ったせいかも知れん。
「鎧は脱げるか?」
「御意」
そう答えると、竜牙兵は兜を脱ぐ。
と、銀白色の髪が流れた。
ふ〜む。そういえばフェルズもそうだったな。
そう思いつつ目をやる。と……
「お母、さ……」
ナンか茫然としてやがるナ。
「ヲイ……どーした? カーチャンの乳が恋しくなったか?」
「え゛⁉︎ そんな……そんなコトは、ないぜ!」
へっ、強がってやがる。ニンゲンの年齢はよくワカんねェけど、コイツは多分乳飲み子みてェなモンか?
まー何にせよ、お宝レベルまで育つのが楽しみってモンだ。




