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1話 ヤらかしちまったゼ……

――戦場

 鬨の声を上げ、雲霞のごとく押し寄せるニンゲンども。

 オレサマは高台に立ち、それを見下ろしていた。

 ケケッ、ニンゲン風情がいくら来ようと、オレサマ――竜種の王が一人、魔竜王レスィード――に勝てるわきゃねーだろがッ!

 大きく息を吸い込むと、喉元に魔力を集中する。

 そして僅かなタメののち、一気に火球を吐き出してやる。

 オレサマ自慢の炎の息(ファイヤーブレス)だ!

 それは、押し寄せるニンゲンどもの真ン中あたりで炸裂し……爆風が巻き起こる。


「ギャァー‼︎」


 絶叫が上がった。

 火球が着弾した地点とその周囲のニンゲンどもが、消し炭と化した。

 見たか! ……まだまだ行くぜェ!

 数発の火球を放ち、周囲を焼き払っていく。

 ケケッ、楽勝ッ、楽勝ォ!

 もはや周囲に動くモノが無くなったオレサマは、ゆっくりと前へと歩を進めた。

 ああ、そうだな。空から本陣に突っ込み、皆殺しにしちまうのもいいかもナ。

 さて、行くぜ!

 オレサマは翼を広げて飛び……


『待て。何をしている、レスィード! 突出しすぎだ!』


 後方からの“念話”。

 この軍の総大将、悪魔王(アークデーモン)ヴォルザニエスからだ。

 ケッ、あ〜のボンボン育ちがヨ。このまンまジッとしてろってか? だーかーらテメェはダメなんだゼぇ?

 そンなんだから、イルムザールとかいうニンゲンなんぞにしてやられるんだヨ。ソイツは千年前に魔王を倒した勇者の末裔らしいが、所詮ニンゲン風情だ。その“力”なんぞ、たかが知れてらァ。


『これからオレサマが敵陣中央を焼き払ってやろうってンだ。テメェはおとなしくそこで眺めてナ』


 手柄を上げたきゃ自分で動くしかねぇんだヨ。コマのまんまじゃロクに戦えんウチに戦が終わっちまうだろーが。……にしても、正直イマの魔王軍は慎重すぎるんだよナ。ナニ考えてるか知らねぇが、みすみす勝機を逃すようなマネは幾ら魔王サマでも見過ごすワケにゃいかねェ。

 とはいえ所詮、今のオレサマは分隊長の一人っていう待遇だ。そのせーで魔王に直訴するにゃあ少々手続きがメンドウだ。

 だから、手柄を立てるしかねェ。手柄を立てりゃあ、誰にもモンクは言わせねぇ。たとえ魔王サマでもな。

 オレサマは地を蹴り、悠然と空へと飛び立った。



――敵陣中央

 オレサマが吐き出した数発の火球がニンゲンどもを焼き払う。生き残ったヤツらは逃げ惑い、オレサマを迎撃する余裕も無ェ。

 ケケッ、大将はドコだ? オレサマが直々に引き裂いてやるヨ。

 と、その時、

 オレサマの胸元に、何かが命中した。少々チクチクとしやがる。

 ドイツだ? よほど死にてぇらしいナ。

 視線を巡らすと、弓や弩を構えた兵が数人見える。

 ヤツらか……。

 マズはテメェらから血祭りにしてやんヨ。

 咆哮を上げ、ヤツらに火球を叩き込むべく、顎を開いた。

 が、舌や頬の内側にかすかな痛みが走った。

 ……チッ!

 口中にも数発当てやがったな。ウゼぇ。

 が、終わりだ! 火球をくれてやる。消え……

 ン? 何やらアゴのあたりが少しシビれるナ。

 まさか、毒かナニか塗ってやがったか⁉︎

 だが、構わねぇ。少々の毒じゃ、オレサマは止められねぇゼ。

 喰らいなァ!

 火球を叩きつけてやる。

 そして、爆発。

 ザマぁみやがれ。まとめて消し炭になりやがったな。どれ……

 視界が晴れる。

 ……ン?

 どーいうこった? ヤツらピンピンしてやがる。

 ン? ……まさか、結界⁉︎

 かすかに前方から感じる魔力。よく見りゃ透明な壁が弓兵ドモとオレサマの間に立ちはだかってやがる。

 ……チッ! 手練れの魔導師がいやがったか⁉︎

 ドコだ? ブッ潰してやらァ。こんな風にナ!

 オレサマは尾で結界を水平に薙ぎはらってやった。

 その一撃で、結界はもろくも砕けた。待ってな。テメェらもこうしてやんヨ!

 首を巡らし……

 直後、首元で爆発が起きた。


「ゴァアッ!」


 チッ! 情けねぇ悲鳴をあげちまった。

 魔導師の魔法か⁉︎ ケッコー痛かったゼぇ? ニンゲン風情にしちゃあ、やるじゃあねぇかヨ。

 ケド……オレサマを怒らせたナ⁉︎ 今度はテメェらが悲鳴をあげる番だゼ!

 魔力の残滓をたどり、敵のありかを探る。

 ドコだ? ……いた! 敵陣の後方に、数人のローブをまとった影がある。

 ケケッ、イマサラ抗魔呪文を唱えても間に合わねえヨ! 喰らいなッ!

 咆哮を上げ、また火球を……


「“光弾”!」


 白い光が閃き……


「ゴァアッ‼︎」


 オレサマの口中で大爆発が起きた。強烈な熱射はオレサマ自身の口腔を灼く。

 コ……ノ……ヤロウがッ! どいつだ⁉︎

 痛ェじゃねぇか!

 ……チッ! 暫く火球は使えねぇな。だが、どうってコトねぇゼ。

 ヤったのはどいつだ? あの魔導師連中じゃねェ。

 魔力の残滓は……右か!

 振り向くと、馬に乗った一人の男がやってくるのが見えた。そしてそれに続く、数人の影。

 先頭に立つのは、きらびやかな鎧をまとった銀髪の男だ。その姿は、軍議で聞いたある男のモノと一致する。

 ホウ……アレが噂のイルムザールってヤツか! ケケッ、望むところだ。オレサマが直々に引き裂いてくれるゼ!

 俺はヤツに向けてツメを振り下ろす。

 しかし……、

 ナンだと⁉︎

 ヤツはいち早く身を翻した。

 そして一気に馬を走らせると、オレサマの脇腹に槍を突き立てやがった。


「グオォォッ!」


 ふ、深々とえぐりやがったなァ!

 オレサマの脇腹からどっと血が溢れる。

 クソッ、こんなん傷のウチにゃあ入りゃしねェが、それでも痛ェ。

 テメェ!

 尾でなぎ払ってやる。……が、すぐに槍から手を離し、尾の届く範囲から脱出しやがった。

 あンの、ヤロウ!

 なら、空中から攻撃してやるゼ!

 また一つ咆哮をあげると、翼を広げて宙に舞う。

 しかし、


「“風陣”!」

「ゴォアッ⁉︎」


 魔法で巻き起された突風によって地面に叩き落とされちまう。唱えたのは、どうやらイルムザールの背後にいたヤツの一人らしい。

 クソがッ! どいつもこいつも……

 そして、


「“迅雷”!」

「グオーッ!」


 イルムザールが放った雷光が脇腹の槍を撃った。

 腹の中を稲妻が駆け巡り、臓腑が沸騰しそうだ。傷口から湯気が出てやがる。


「ゴ……ア……」


 ヤ、ヤロウ……竜族をナメンなよ。

 オレサマは脇腹の槍を引き抜いた。

 ドっと血が溢れる。

 だが、構いやしねぇ。今の屈辱に比べりゃあ、こんなんカスり傷も同然だ。

 そして引き抜いた槍をヤツに投げつけるてやる。

 しかしその槍は、大きくそれた。

 チッ。ハズしちまったが、そこらの兵を串刺しにしたのはヨシとするか。

 じゃあ、今度は本気(マジ)で行くぜェ!

 オレサマは体内の魔力を頭部から生えた黄金の角に集約し、そして天に向かって放出する。


『喰らいやがれ……“轟雷”!』


 捲き起こる暗雲。そして、そこから放たれる、幾条もの雷霆。

 逃げ惑うニンゲンども。イルムザールのヤロウはうまいコト効果範囲から逃げやがったが、かなりの兵を仕留めるコトが出来たゼ。

 おっと……そろそろ喉も回復してきたか?

 既に痛みは引いた様だナ。ヨシ、行けそうだ。

 フルパワーの火球だ! “結界”も役に立ちゃしねぇゼ!

 しかし、その時、


「!」


 イルムザールから感じる、強烈な“力”の高まり。

 ナンだ? イヤな予感がする。

 ……ケッ! ソレがナンだ? どーせニンゲン風情にゃオレサマを倒せるワザなんて持ってやしねェ。

 喰らいなッ!

 オレサマの口から巨大な火球が迸る。

 直後、


「!」


 イルムザールが“力”の籠った剣を振り下ろした。

 一体ナンのマネだ? などと思う間もなく……


「グォォォオォ!」


 強烈な衝撃波が俺を襲った。

 ヤツの放った衝撃波はオレサマの火球をいとも容易くハネとばし、オレサマの身体をも襲いやがったのだ。


「グ……ア……」


 な……ナンだ、今のは⁉︎

 流石のオレサマも、膝を屈するしかねェ。

 魔力でもなかった。にしても、ニンゲン風情にあんな技を放てるヤツがいようとは……。

 見ると、オレサマの自慢の黒曜石の如き黒、そして月光の如き銀の鱗がはがれ、深々と傷が穿たれていた。

 ……気にくわねぇ。オレサマの美しいカラダに醜い傷跡つけやがって!

 殺してやる。この爪で引裂き、火球で焼き尽くし、これ以上ないほどの惨たらしい死をキサマにくれてやるぞォオ! このニンゲン風情がァッ!

 オレサマは怒りの咆哮を上げると、イルムザールに向かって突進し……


「グオッ⁉︎」

『そこまでだ』


 何者かがオレサマの首根っこを掴みやがった。

 気がつけば、強力な“結界”がオレサマを包んでいやがった。敵の攻撃は防げるだろうが、ここまで強力だとオレサマも攻撃できねぇ。

 誰だ⁉︎

 なんとか首を捻じ曲げ、背後を見る。

 そこにいたのは、見知った悪魔王(アークデーモン)


『ヴォルザニエス⁉︎ テメェ……』


 総大将がナンの用だ? それよりオレサマのジャマをするんじゃねぇ……ふげっ⁉︎

 ヤツは俺様の頭をブン殴りやがった。

 そしてイルムザールに向き直る。


『ここまでだな。戦場はこの愚か者のせいで無茶苦茶だ。決着は後日にしよう』


 後日って……バカなコト言うんじゃねぇ! ココでヤツをブッ殺しゃあそれで終わりじゃねぇか!

 抗弁しようとするが、また首を押さえ込まれた。

 ケッ……臆病者が。

 心中で悪態をつき、何気なく周囲を見回す。

 ……ゲッ。

 いつの間にか、敵兵どもが集まってやがる。それどころか、かなりの魔力の高まりも感じた。魔導師も相当混じってんな。

 ……クソッ、ニンゲン風情にしちゃ強力な魔力を持ってやがる。下手すりゃコッチもヤバかったってコトか。

 血の気が引くのがわかった。ヤらかしちまったゼ……


『では、帰還する』


 ヴォルザニエスはオレサマの首根っこを掴んだまま飛翔した。

 追撃は……こない。

 そしてこれが、魔王軍でのオレサマ最後の出撃となった。

登場人物・用語など

・魔竜王レスィード

 魔王軍配下の武将。竜族の王の一人。魔王の采配に疑念を抱き独自の行動をとるが、勇者イルムザール率いるガンディール王国軍との戦いで一敗地に塗れる。その後上官の悪魔王ヴォルザニエスから鉄拳制裁を受け、更に魔王の裁断により人間の姿に変えられて軍を放逐された。その後、魔王軍の敗北により魔界への帰還方法を失い、人の姿のまま地上を放浪する羽目になった。一人称は「オレサマ」だが、自信がないときには「オレ」になる。

・ヴォルザニエス

 レスィードの上官。種族は悪魔で、悪魔王と呼ばれる最上位種。魔王軍南部方面部隊司令官を務める。

・イルムザール

 人族側の武将。

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