A組
初めまして。椎茸トマトと申します。
沢山の方に読んで頂きたいと思い投稿させて頂きました。
ストーリーを完結させるまで続けようと思いますので、どうか宜しくお願い致します。
それは決して押してはいけない禁断のボタン。
だが、人類は押してしまった。
1度押してしまったら、もう後戻りは出来ない。
世界戦争が始まり、世界は瞬く間に破壊された。
世界遺産、観光地、建造物、公共施設、野生生物、あらゆるものが消えた。
報復の連鎖は最後まで続いた。
歴史を振り返ると、国ごとの争いは人類が存在する限りいつまでも続いている。あるところでは資源の奪い合いがあり、あるところでは権力者の利害のため、そして自国を守るため。
人類は祖国を守るために戦う兵器を創ることにした。
時を振り返る。
20XX年。ある国が、存在してはいけない大量破壊兵器を創りあげてしまった。この兵器を開発後に各国は大量破壊兵器創りの研究を開始した。よって大量破壊兵器は競争化する。
自国を守るために大量破壊兵器を創る。
他国を牽制するために大量破壊兵器を創る。
外交の駆け引きのために大量破壊兵器を創る。
開発当初、国民は猛反対だった。
戦火が大きくなれば世界大戦が始まるのだから。
実験が行われ環境が破壊される。
国民にとっていつ戦争が始まるかわからない。各地でデモが起こった。しかし、どの国も大量破壊兵器創りをやめることはなかった。
不安に思っていた国民は大勢いたのは間違いないが、時間が不安を解消する。
大量破壊兵器が創られ100年、多くの国民は大量破壊兵器を使うことはないだろうと根拠のない自信を持つ。
大量破壊兵器が創られ1度も使うことがなかったのだから。
21XX年。大量破壊兵器開発から163年が経った。
遂に大量破壊兵器発射の“ボタン”が押された。
最初の1発目から100日足らずで世界は終わった。
西暦2599年。
終末戦争で世界中の国が破壊されたが、奇跡的に無傷の街が何箇所かあった。現在は東地区と呼ばれるこの場所もそのうちの1つだ。東地区は元々大きな国だったのだが、ほとんど破壊されてしまった。現在も復興に向けて前に進んでいる。
東地区中心部にある街、森ノ宮
森ノ宮にある名門校“なみはや学園”。
学園の教室内、2年A組。
「以上。これが実際に起こった世界大戦よ。終末戦争から奇跡的に生き残った僅かな人達のお陰で、私達は今日も生きています」
担任の狭山先生が教える世界史の授業。教室は呼吸音しか聞こえない静寂に包まれている。大量破壊兵器の恐ろしさ。終末戦争から生き延びた人達がいなければ、自分はここにいないのかもしれない。復興に尽力していただいた祖先に感謝しかない。
脳内で思考が回転する。
「貴方達は家族や親戚から世界大戦があったということを教えてもらった人がほとんどだと思うの。池田さんはどう感じた?」
「え!?うち?ん〜そうやな。戦争のことは正直まだよくわからんけど、人間ってほんまに怖いと思ったわ」
「その通りよ。人間は本当に恐ろしい生き物なの」
狭山先生とクラスメイト飛鳥の意見のやり取りを聞いていた他の生徒も共感し頷く。
「もう一人の意見も聞こうかしら。」
そう言いながら、狭山先生の視線がクラスメイト全員に移る。狭山先生はユウキと目が合った。ユウキは飛鳥と同じく無難に答えようとするが、ちょうど授業終了のチャイムが鳴る。
「チャイムが鳴ったわね。守口くん、次の授業までに考えてきてちょうだい」
授業終了の挨拶を済ませて、狭山先生は教室を後にする。隣の席の夏季は少しホッとした様子であった。
午前の授業が終わり昼食の時間になり、各々食事の準備を済ませる。
「ちょうど渚が起きたみたいやで。寂しいやろうから、保健室に行って一緒に弁当を食べるわ」
飛鳥は渚と保健室で昼食をとることになったので、ユウキと夏季が2人で昼食をとることになった。
12:05 教室内
お昼休みに入り賑やかになる。学食で食べる生徒、中庭で食べる生徒、教室内で食べる生徒と分かれる。いつもは4人グループでお昼を楽しむのだが、先ほど飛鳥が保健室で渚と食べると言っていたので、ユウキと夏季はそのまま教室に残り、男2人で話しながら食べることを選択した。
「今日のお弁当担当は夏季か?」
「ああ。いつもなら姉さんが今日の担当だったんだが、昨日の疲れがとれないようなので俺が作ってきた」
「ははは……昨日は狭山先生と飛鳥が活躍してたもんな。おかげで俺も夏季も美味しい鮭の切り身だよ」
「まあな。2人の活躍で報酬の鮭のおこぼれをありがたくちょうだいできた。ユウキはおにぎりにしたんだな。切り身をバラバラにしてご飯に混ぜて握ったのか。そっちにしとげば良かったぜ」
「洗い物がいらないからおすすめだよ。もう一つのおにぎりの中身は鮭マヨ。自炊が苦手な俺でも、これなら苦労はしない」
守口ユウキ。
社交性がよく、誰とでもすぐに打ち解ける人の良さを備えている。特に夏季、飛鳥、渚とが良い。4人グループで行動をともにしている。
狭山夏季。
学園で1番といってもいいぐらいクールなイケメン。高身長で口数が少なく金髪がよく似合う。遠目に見ても格好いいので、女子からの視線が熱く、女子から話しをかけられることもしばしば。けれど、自分から女子と話しかけるのはあまりない。
夏季の姉は担当の狭山冬美先生。狭山先生も顔立ちやスタイルは文句なしの美貌。女子も男子も先生に憧れを抱いている。姉弟揃って美男美女。なんとも羨ましい話だ。
「というか、さっきの授業終了間際。先生は夏季に当てようとしてなかったか?」
「――そうか?」
「今の間は何だよ。先生は先に夏季の方を見てたけど……お前は俺の方に指を指してただろ?結局次の授業で答えないといけないじゃん」
「やっぱりバレてたか。姉弟とはいえ、授業中の姉さんは俺も苦手だ」
「バレバレだよ。」
「俺だって答えるのは嫌だったんだ。ダメ元だったが、まさかユウキに当ててくるとは。ふふ」
「思い出して笑うなよ。後で飲み物を奢ってくれよ」
「了解」
雑談から授業の振り返りはいつものこと。
お昼を堪能していると2人のスマホから着信が鳴り、飛鳥からグループメッセージが届く。『渚は元気で可愛い(*´ω`*)』
相変わらず面白い文面である。この手の内容はいつも通りで、渚の体調が回復したのだろうと2人は解釈する。
12:05 保健室。
12:00のチャイムが鳴ったと同時に起きた渚は少しだけ頭がぼーっとしていた。起きてすぐ飛鳥に『今起きたよ(╹▽╹)』とメッセージを送信したらすぐに『保健室で食べるで(*´ω`*)』と早い返信が来た。ベッドの上で体に伸びを入れる。
交野渚。
小柄で歳下に間違えられる。お人好しで優しく可愛らしい容姿で、飛鳥からよく抱きつかれる。生まれつき身体が弱く、授業を抜けることもしばしば。それでも、皆に追いつこうと頑張っている。
「ん~。やっぱりこの身体で日常を過ごすのは厳しいよ。また飛鳥ちゃんにノートを見せてもらうことになるよね。いつもありがとう」
授業を抜けてる日は、飛鳥のノートを借りるのを日課となっている。やがてノック音が聞こえてきて、扉の先の声が飛鳥と分かり、保健室の扉が開き、渚の目に飛鳥が映る。
「お待たせ〜!さあお昼食べるで」
「うん。起きたばかりだから……まだ眠いかも」
「あくび姿も可愛いとか犯則やん。まだ寝てくれたら寝顔を撮ってたのに」
「やめてよ〜。飛鳥ちゃんは相変わらず元気なんだから」
「それがウチの取り柄やからな。ほなウチラ女の子同士で弁当を食べるで」
池田飛鳥。
1年生の途中、西地区の学園から転入してきた。持ち前の方言でコミュニケーションをとり、初日から人気者になった。赤みがかった茶色いショートボブヘアがよく似合う。1年編入時、たまたま隣の席の渚が体調を崩して、保健室に連れて行ったことが理由で2人の距離は近くなった。
渚が体調を崩して保健室で休む時は、飛鳥が保健室まで行き、一緒に食べることは日課である。お互いの鞄の中からお弁当箱を取り出し、そして蓋を開ける。
「渚の弁当、めっちゃカラフルやん!卵焼きにブロッコリーにポテトサラダ、うわっ!貴重な鮭もいれて!」
「鮭は昨日飛鳥ちゃんが手に入れてくれたものだよ?」
「ん?あ……そうやった!ウチの腕にかかれば朝飯前やで!」
「昨日の仕事でボケちゃった?ふふふ。」
「そ、そういう日もあるやん。それはそうと、ウチの弁当も鮭入れてるけど、なんか茶色いねんな……」
「茶色い方が手間が少ないからね。昨日の飛鳥ちゃんはお疲れだったししょうがないよ」
「昨日の仕事はウチにはキツ過ぎるで。はぁ……期待されるのは嬉しいけど……あと、今日の内容な。っと、その前に、いただきます!」
「いただきます」
互いのおかずに舌鼓を打つ。料理の感想などを述べる。飛鳥は食事をしながら、今日の授業内容とまとめたノートを渚に見せる。渚は記憶力がすごく良くて、飛鳥の書いたノートの中身を全て理解する。そのスキルに羨ましがる飛鳥である。
「さっきの授業はなかなかキツいもんやったわ。元々知ってたけど、改めて授業でやると……重いわ」
「そうだよね。人類が滅亡してもおかしくはない話だし……」
「冬姉に意見を求められたけど、無難な回答しかできひんかったわ……というか、今日の冬姉は少し怖かったで……あれ何やったんやろうか……まあええわ。あ、思い出した!ユウキも当てられてん。その時の『あ、当てられた』という顔がおもろかったわ。本人は表情に出んように振る舞ってたけどバレバレや」
「ユウちゃんはそのへんは不器用だよ。ふふ」
談笑が楽しくなり、気がつくと12:50となり、午後の授業が近づいてきた。渚の身体が回復したため、午後の授業に出席する。身体が弱い渚は、少し休めば回復をする。
12:55 教室内
ユウキと夏季はトイレで用を済ましたあと、午後から始まる授業の準備をする。ちょうど渚と飛鳥が教室に戻って来て、夏季とユウキの席に寄る。
「渚が戻ってきて、4人グループ集合やな。寝起きの渚可愛かったで。こっそり撮った写真を後でお二人に贈るわ」
「えぇ~!実は撮ってたの!?それは恥ずかしいよ!」
「嘘嘘。撮ってへん。」
「なんだ、撮ってなかったのか。残念だ」
「夏季くん!?」
「次は頼むよ飛鳥」
「ユウちゃんも!?もぅ〜」
渚が戻ってきて、4人はいつもの盛り上がりで笑い合う。この光景もクラス内は見慣れたものである。去年の授業で、男女混合でペアを組むことがあった。仲良くなった飛鳥と渚が、ユウキと夏季を誘ったことがきっかけで、現在のグループに至る。
それは飛鳥が編入して次の日の出来事である。
「そうだ。忘れてたよ。昨日もらった鮭美味しかったよ。昨日は焼き魚にして、今日のお昼は鮭フレークをご飯に混ぜておにぎりにしたよ。ありがとう」
「あぁ。脂が最高にのっていたな。姉さんも箸が止まらなかった」
「あれは冬姉の助けがあったから手に入れたようなもんやし」
「それもあるけど、やっぱり飛鳥ちゃんの才能は目に見張るものだよ」
「自分らめっちゃ褒めるやん。けど何も出されへんで〜。そろそろ時間やから席に戻るわ。るんるん♪」
「私も戻るね」
ご機嫌よく飛鳥は席に戻る。渚もそれに続く。
「ご機嫌だね」
「姉さんにいっぱい褒められたからな」
13:00 教室内
午後のチャイムが鳴ると同時に狭山先生と、何故か副担任柏原優一先生も入室。2人の入室は、入学や始業式、終業式の日程では2人揃うことはあったのだが、午後の授業が始まるタイミングで副担任が入室することは1度も無かった。その光景にクラスメイトは異変を感じながらも午後の準備を始める。
柏原先生はクラスメイトに配る資料なのであろう、教卓の上に置く。狭山先生は、着席後に準備をしていた生徒を一瞥し口を開く。
「午前の続きと思うけれど、今は必要ないわ……これから説明することを聞いて頂戴。私語は謹んで」
何か狭山先生の雰囲気に違和感を感じた。入学してから1年経ったクラスの現在。優しくも厳しくもある狭山先生の開口一番に何か不穏な空気を感じられた。それが違和感の正体。
「な、なんや、冬姉。何か様子がおかしい――」
「これから説明することを聞いて頂戴。分かった?」
「あ……はい……」
静かに気迫がこもった狭山先生は飛鳥の言葉を最後まで言わせない。数分の間沈黙が訪れた。今の狭山先生のオーラで生徒たちは、恐怖を感じて喉を鳴らす生徒、冷や汗が出る生徒、震えて萎縮する生徒もいるが、話す勇気は誰もいない。隣に立っている柏原先生は無言で基本姿勢のままである。弟である夏季は、何か事情を知っているのであろう。その表情は決意の表れを感じる。
この教室は午前とは別の世界になった。
「失礼。とはいっても、一方的に私が話すだけでは意味がないので、私から貴方達に振ってみた時に答えて頂戴。それ以外は我慢して下さい」
ようやく話を始めた狭山先生に誰も途中から会話を投げることはない。
「貴方達はこのクラスに所属し1年が経って、現在は2年目。ということは言うまでもないのだけれど。そうね、この1年で何を学んだか覚えてるかしら?池田さん」
「え、と。そうやな。うまく言われへんけど、基礎中の基礎を学びました。2年生になると基礎を応用した授業が絶対来ると分かってたので、必死に基礎を体に叩き込みました!」
「言葉が色々足りないけれど正解よ。さっきの授業は終了時間のため聞けなかったので、改めて守口くんに質問よ」
ここで質問されるユウキ。さっきの授業で早く当ててほしかったと振り返る。ユウキは席を立ち上がり、狭山先生と対面で対立する絵になる。ユウキも1年間で学んだことを真剣に答える。
「2年生以降、何を自覚してこのクラスで学んで欲しいか分かる?」
「1年生になりたての頃に教えてもらった覚悟だと思います」
「よく覚えているわね。正解。入学して初めての授業でお伝えしたわ」
「その覚悟というのはどういう意味ですか?」
「そのままの意味よ。何か不満でも?」
狭山先生の圧に少し間が開くユウキ。気圧されそうになる。が、ユウキは一度目を瞑り息を吐く。
「不満はありません。俺は今日に至るまで真剣に学んでいました。ここにいるみんなもそうです。休みの日は遊んだりしてリフレッシュはしますが、締めるところはしっかりやっています。午前の授業から先生から何か感じるものがありました。今のままだと、この先死ぬ運命が待っているように聞こえるのです」
ユウキは感じたままに答えを伝えただけであるが、『死』というワードにクラス内の空気が少しざわめく。柏原先生もユウキの答えに僅かながら反応していた。ユウキのただならぬ答えに、狭山先生も間をおいて答える。
「死ぬ運命は貴方が仰ったとおり、貴方達次第で決まるわ。それが今のままだと言う意味。今のままだと死ぬわよ。」
「じゃあ何故死ぬのですか?僕たちは死にたくはありません。それを回避するためには何をすればいいのですか?」
ユウキの物応じしない態度に周囲は驚愕する。クラス中はおろか仲の良いグループの飛鳥、渚、夏季も初めて見るユウキの姿に別人が憑依したと思うだろう。ユウキは普段、優しく穏やかだ。
狭山先生も毅然とした態度で答える。
「2年生になったら、貴方達も戦いに参加してもらうからよ――」
「嫌だ!戦いたくない!」「そうだよ!私達はまだまだなのに!」「在学中になんて聞いてないぞ!」「何で2年生になってからなんだ!?」
ゆうきの問いに狭山先生は答えるが、『戦い』の言葉に一部の生徒たちは、狭山先生の会話の途中でも我慢ができずに、横槍の言葉を入れる。1度火がついたらすぐに連鎖し、怒号に近い大声に発展する。その時、机を大きく叩く音が聞こえた。驚きと同時に音が消える。机を大きく叩いたのは、ユウキの隣の席である夏季であった。
「みんな、静かにしろ。姉さんは大事な話をするんだ。……驚かせてすまない」
夏季は1つ呼吸を整え、クラスメイトに謝罪する。
「続けるわね。守口くんは座ってもらって結構よ。今の貴方達の実力では魔族には勝てない。その事実を受け止めて。だからこのままでは死ぬのよ。2年生になったら戦いに参加してもらうと言ったけど、今すぐというわけではないの。けれど、そのうち参加しなければならない運命がやってくる。そのためには、貴方達の実力を強化しなければならないの。ここまでは理解できた?」
クラスメイトは静かに首を縦にふる。先程の夏季の迫力を踏まえ、刺激的な発言も控える。
「学園入学前から知ってる者もいると思うけど、私達が戦う相手魔族は強敵なの。では何故、2年生から戦いに参加しなければいけないのか分かる人はいる?手をあげた都島さん」
狭山先生からの問いに手をあげたのは、一番後ろの席で中央に座る、クラス委員長の都島日和。色気のある泣きぼくろと黒縁眼鏡がよく似合う女の子。高い包容力で母性を感じる。
「戦う人間が圧倒的に少ないからだと思います。しかし、この学園に入学してすぐには戦力になりません。魔族と対等に戦うには体力も必要ですし、何より魔力が絶対的に必要なのでしょう。この1年間は蓄えに必要な時間でした。狭山先生は現状の私達を見て、戦場に駆り立てられても無駄死になることを予期しています。さっき言われていた、このままでは死ぬと言うのも納得です。守口くんが仰っていたように、私達は手を抜いてきたことはありません。A組に入る覚悟は入学式での説明を理解したうえで入りましたから。私達A組は戦力にならないクラスメイトでしたか?」
狭山先生の質問を受けて流暢に返す都島に対し、狭山先生は微笑む。
「ふふ。流石クラスをまとめるだけのことはあるわ。今のクラスでは魔族はおろか魔獣にも勝つことも難しいわ。柏原先生はどう思いますか?」
ここで柏原先生に視線を向け話を振る。しばらく静かに拝聴していた柏原先生は入室後初めて口を開く。軽く咳払いをして間を開ける。
「狭山先生がお伝えしたことは事実です。私からお伝えすることはほとんどないけれど、今からでも間に合うと思うんだ。それと……交野さん、体調は大丈夫かな?」
「は、はい。午前の授業は保健室で休んでいましたが、もう大丈夫です」
「それは良かった。今の話が終わったら魔族と魔獣の歴史を説明するね。午前中の終末戦争の話は後で復習してくれると助かるかな」
「分かりました。宜しくお願いします」
このあと魔族と魔獣の説明がセットでついてくる。なんとも億劫な時間であると何人かのクラスメイトは感じたに違いない。
「話を戻すね。現状、君たちの実力は、並の魔獣は倒せるレベルではあるんだ。しかし、魔族となると話は変わる。並の魔族が相手でも、君たちが束になっても勝てるかは分からない。魔獣も高レベルに遭遇したら、逃げることも難しい。そこで、明日から毎日『アリーナ』で特訓してもろうよ」
アリーナで特訓。クライメイトが絶望的に嫌いなワードである。落胆の表彰を浮かべても絶対に避けれない。これがA組の使命である。
「今日は情報量が多くて厳しいのは分かる。けれど、時間がないの。A組だけしか出来ないことなの。明日からの特訓は強制しない。しかし、その時はA組を降りてもらう。入学式から伝えた約束は覚えてるわね?」
「もちろん覚えとるで!うちはA組に選ばれて良かったと思ってる。うちらは残された人類の希望やねん!覚悟は出来てる」
飛鳥は力強く答える。このクラスで結果を出しているのは自他共に認めている。
A組は魔族たちに対抗できる力を持つことが出来るクラスの編成である。が、現状は対抗できないと担任、副担任は判断した。そのためにも半ば強制的にアリーナで訓練する必要がある。人類の存続のために。
「その覚悟。絶対に無駄にしないで。他になにか質問はある?無いのであれば、魔族·魔獣の歴史をお伝えするけど、本当にない?」
「じゃあ質問していいか?」
「松原くん。どうぞ」
窓際の一番後ろの席。身長が夏季より高くてガタイがよく、厳つい声で手を上げた松原竜馬。クラスメイトで1番鍛え抜かれた身体は岩のようだ。
「俺は明日からアリーナに参加するつもりだ。仮にA組を降りたと仮定するが、降りたら今後マジックパウダーは貰えないのか?」
「質問を答える前に言わせてもらうけど、いい加減言葉遣いを直す気はないのかしら?」
「あっはっはっはっはっ!先生、すみませんでした〜。これでいいですか?」
大きく笑い手を叩く。松原は入学から丁寧な言葉遣いをしていない。何度か注意されてはいるが、本人は変える気がないし、いちいち煽る。
「時間の無駄だからこのまま進めるけど、A組を降りたらマジックパウダーは貰えない。」
「そりゃそうか。雑魚に配るもんじゃねえしな」
「貴重な魔力の素を大事に使いたいからよ。他に質問はある?」
狭山先生は、松原の荒々しい態度は慣れたものであり、流暢に返答する。他に質問はないかと、クラスメイトたちは目を配る。狭山先生は、間が長くてもう質問する気配は無くなったと判断した。柏原先生と目を合わせ、お互いに頷く。
「それでは魔族·魔獣の歴史資料を配るね。少し長いけど、小休止もいれるので、できる限り覚えてください」
柏原先生が資料を配る。
この先、2年A組は本当の覚悟を経験することになる。