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第34話 子どもによる職場見学はする側よりもむしろされる側の方がテンションが上がっていたりする

累計PVが10,000を突破しました。ありがとうございます。

今回は最新話と同時に、帝国宇宙軍の艦艇部隊に関する組織図を、本章の先頭に合わせて投稿します。

今後の展開に関係することが予想されますので、よろしければご覧ください。

『護衛艦隊、襲撃された艦隊がいずれも敗北!!』

『公国軍に非難の声、集まる 防衛計画に狂い』

『帝国軍 公国の防衛に参画意欲か? 元軍務次官に聞く公国の防衛戦力』


 公国のジャーナリズムは、空前ともいえる活況のさなかにあった。メディア各社は仕入れた情報をもとに競って分析を加え、大量のコストをかけながら情報の伝達に躍起になっていた。当然、5つの護衛艦隊が同時に被害を受けた情報などは、格好の特ダネとして紙面をにぎやかしている。


「まったく…。悪運だけは強くなっていくな」


 対人民連邦との戦闘にて、最前線となることが予想されるヴェンツェル子爵の邸内の一室。私は新聞を眺めながらため息交じりに内心つぶやいた。


「ご無事で何よりでございました。以前の件がございましたので、一報を聞いたときは肝を冷やしたものです…」


 机をはさんで反対側に座るヴェンツェル子爵が、心底ホッとしたようにそう述べる。私の身に万が一のことがあれば、自身の責任も追及されかねないがためのことであろう。もっとも、そういった保身的態度に私は腹を立てることはない。…むしろ、申し訳なさの方が先に立っていた。


「今回の視察もそうであるが、…色々と迷惑かけてるからな」

「い、いえ。当然の務めでございますので…」


 私の言葉にそう返さざるを得ないヴェンツェル子爵の歯切れはしかし悪い。現在進行形で大迷惑をかけている張本人が言うのであるから、当然の反応であろう。


 そもそもなぜ私が最前線になることが予想させるヴェンツェル星系にて視察を行っているのか。まずそこから説明する必要がある。

 確かに、公爵家に連なる私がただ単に移動するだけでも周囲の負担は大きい。単純に護衛の手間がかかるし、万が一危険があれば責任問題も問われる。そこまでしてわざわざ視察におもむく理由は、あくまで国民ないしは帝国に向けたアピールの意味合いが強い。


 様々な複合的要因(予算とか労働力不足とか宇宙海賊とか)から、防衛網の構築は今でもなお困難を極めている。これに対して当然不安を覚える国民も出てくるし、実際にアウステルリッツ公国から流出する人口もバカに出来ない規模になりつつある。領地の広さ、資源の豊富さと並び、人口の多さも貴族の『格』とする帝国の常識と照らし合わせれば、それは由々しき事態であった。なにせ、人口が多ければおおいほど、人口比別によって選出される帝国議会の衆民院にて、より強力なプレゼンスが発揮できる。より多くの反物質燃料を獲得するうえでこれほど手っ取り早い手段はないからこそ、今まで大量の人口獲得に務めてきたのに、これを流出させるのはまさに国富の損失といって等しい。


 そういった政治的都合から、公国は防衛網の充実を強調する必要があった。つまりは体のいいパフォーマンスである。公爵家に連なるVIPは危険なところに行かない。という前提がまずあったとして、これを裏返して言えばつまり、(公爵家の嫡男)が赴く場所は安全が確認された場所である、という結論につながる。バカバカしいパフォーマンスと単純に切り捨てていい問題ではないのだ。


「しかしこれで一安心でございますね。公子閣下がいらしてくださったおかげで、国民の不安も払しょくできます。…これでようやく仕事がやりやすくなる」


 ヴェンツェル子爵のこっそり発言は、机をはさんだこちらにまで普通に聞こえていた。

 ユーライヒ城伯もそうであるが、星系を直接的に管轄する立場にある伯爵~子爵相当の貴族は、えてして公国内部での板挟みに合いやすい傾向があった(そもそもの頭数が多いため例外も多いが)。貴族であっても中間管理職に相当する立場は当然存在する。結果としてユーライヒ城伯のような苦労人タイプが量産される下地がそこにあった。


「上に立つべき立場の者が、それにふさわしい責任を背負うのは当然であり、誇るべきことでありますからね」

「なんでここにいらっしゃるんですかね王女殿下」


 座席の隣でさも当然と発言するのは、どこか捉えどころのない態度を貫くコーネリア王女殿下であった。


「何をいまさら。公国と王国の親善関係をアピールするのに、これほど手っ取り早い手段はありませんでしょう。逃げた先がまた攻略されてしまっては、いよいよ王国の進退も危うくなってしまいますゆえ」


 いけしゃあしゃあと言い放つツィアマト家のお姫様一行の処遇については、まず公国政府と帝国政府が紛糾した結果『当事者が引き取るのが一番良い』ということで、まず公国の預かりとなった。一応、帝国政府の方でもあらたに内務大臣管轄の外交機関が設置されたが、潜在的に王国の存在に対して不信感を抱く議会の一部保守派がなかなか首を縦に振らないがために、対等な国家としての条約調印などの話などについては、まったくと言っていいほど進展はない。


 そして公国である。一応、グリーゼ王国亡命政府の首班はこのコーネリア王女となっている。本来であれば適当な伯爵家あたりに対応を任せておくべきであるのだが、あいにくどこの家も折からの激務を理由に厄介ごとを抱えたがらない。結果として、十分な立場でありながら実質的には暇(=激務に追われた他の貴族目線)である私にお守り役が回ってきたわけだ。


「まぁ…。公子さまは割かし顔がいいので問題ありませんわ。ソレリアちゃんも一緒にいて可愛いですし」


 というのは、阿鼻叫喚であった議会対応ののち、正式にお守り役としての任を受けた私に対する王女殿下のコメントである。うむ、緊張感がない。








「本格的な星間国家同士の大規模武力衝突がいかなる趨勢を迎えるのか。いかに分析を加えたとしても、結局は想像の範疇にすぎません」 


 大気圏航行能力を有する駆逐艦の会議室内にて弁をふるうのは、今回案内役を務めるリヒター中佐であった。

 確かに星間国家同士の戦争なんぞ、人類史上初の経験である。ましてや、敵国の素性も分からないまま戦争の準備をするのも、やっている当事者からしたら空をつかむような話である。それでも、領邦貴族である以上は自信が領有する星系を守らねばならない。公国中枢の恐怖はむしろ、人民連邦による軍事的侵攻以上に公爵家の権威失墜に対して向けられていた。

 

「ですが、単なる星系への侵攻としてこれを捉えましたら、歴史上前例、少なくない前例がございます。実際に、宇宙海賊の星系侵攻に備えた対宙施設などは各惑星ごとに設置されています」

「我がグリーゼ王国も、初戦では地上配備された対宙砲台が目覚ましい活躍を示しましたわ」

「公国では実際に使用されたことは無いがな」

 

 私はモニターに映し出された施設群を眺めながら小さくつぶやいた。


「若様のおっしゃる通りです。ですが、開祖ジークフリートさまの時代、宇宙海賊や他の星系国家による星系侵攻が現実的な脅威として認識されておりました。これに対して、対宙施設の設置が有用な抑止力として機能したのも事実です」


 私の発言を拾ったリヒター中佐が補足を加えた。

 対宙砲の歴史は古い。宇宙開拓時代の初期、隕石などの迎撃を目的として設置された対宙砲台は、すぐさま防衛用の兵器としての真価を発揮した。まずもってして、宇宙艦船よりも地上の方が大量の電力を確保しやすい。大量の電力を確保しやすいということは、それだけ大質量な実体弾を長射程で以て投射できるということでもある。また、宇宙空間では反動制御などの理由から強力な実体弾を発射しずらい事情もある。そういうこともあって、基本的に地上対宇宙では地上の方が有利というのが軍事上の通説である。


 基本的に対宙砲はローレンツ力を用いた電磁式が用いられるため、対宙砲台を指して「電磁対宙砲」のカテゴリーに入れることも多い。また、混同されることも多いが「対空砲」と「対宙砲」では微妙に意図するニュアンスが異なる。基本的に、大気圏内での防衛を目的としていれば「対空砲」、大気圏外への防衛を目的としていれば「対宙砲」となる。ちなみに宇宙世紀の今でも「対空砲」は普通に製造されている。対宙砲は基本的に大型の設備となるため、鉄道路線や反重力コンベアなど特殊な手段を用いなければ移動できない。それに対して対空砲は威力が落ちる分、道路などを用いた機動力を発揮できるため、双方ともに運用の棲み分けがなされているのである。

 

「基本的に、公国統合参謀本部が立案した防衛網構築についても、対宙砲台の増設に重点おいております。艦船の増産よりも、コストの面で効果が期待できますからね」


 そう。なによりもコストが大きな問題となる。そもそも、ヴェンツェル星系が人民連邦の侵攻の対象となるかはあくまで予測でしかない。ヴェンツェル星系が属するワグナー辺境伯宙域が、グリーゼ星系にもっとも近いがために警戒がなされているが、それに対して人民連邦は先制攻撃場所を選ぶ権利を有している。結果として、広大なアウステルリッツ公国領外延部のほぼ全域に防衛網を構築せねばならない深刻な理由がそこには存在した。予算はどうにかなるとしても、精密機械部品や各種建材。また労働力の不足も懸念されている。


「ただ、やはり防衛の主軸は宇宙艦隊による防衛が主になると考えられております。理由は、もちろんお分かりですね」

「都市部への被害だろう。人民連邦がどういう艦船を繰り出してくるかはわからないが、洒落になりかねないかな…」

「ご明察の通りでございます若様。もちろん、対宙施設が展開されている半径100km以内での民生用施設の構築が厳重に禁止されておりますが、宇宙艦隊にとってみれば、どれだけの距離を開けようと指呼の間隔でしかありません。ですので、あくまで防衛の主軸は宇宙艦隊で無ければなりません」 


 そう。あくまで対宙砲の活躍は最終手段と心掛けなければならない。惑星上空での艦隊決戦がどのような悲劇をもたらすのか、それを人類に知らしめた『ジン・ヴィータの悲劇』は、人類史上空前の大被害をもたらしたことで悪名高い。もっとも、とある試算によるとジン・ヴィータがペルセウス連邦の中枢として300年以上に渡り地方星系から搾取してきた富と人命は、ジン・ヴィータの悲劇のおよそ800回分に相当するとのことらしいが。

 

「星系の防衛は、首都惑星だけで整備するには当然不十分です。このヴェンツェル星系ではこのヴェンツェル=3を含めて全部で5つの岩石型惑星を抱えておりますが、防衛網自体はその最外延部惑星であるヴェンツェル=5にも構築されております」

「ヴェンツェル=5自体は、入植はされていなかったはずであるな」

 

 ソレリアから事前に受け取った資料をもとに、私は質問を行う。公国が領有する星系の惑星全てに開発が施されているわけではない。基本的に、一つの星系に一つか二つの有人惑星というのが基本だ。ここのあたり、土地や資源の事情から、最外延部の惑星すらも入植用に開発する必要があったグリーゼ王国とは異なっている。


「左様です。ですので、ヴェンツェル=5に構築されている防衛戦力は基本的に対宙施設群が中心となっております。艦隊運用に不可欠である補給や修理を行う設備自体は、ヴェンツェル=4からヴェンツェル=3まで、計14か所分構築されております」

「確か、構築以前であれば…」

「えぇ。防衛計画の発令以前であれば、宇宙艦隊の港湾施設はヴェンツェル=2、ヴェンツェル=4、ヴェンツェル=3の軌道上、および、ヴェンツェル=5の衛星上の計7か所が全てでございましたから、ちょうど2倍の増設となります。もちろん全ての施設は、無補給でおおよそ半年以上行動ができるよう計算されたうえで設計されております」

「鉄壁といっておおよそ差支えはないか…」

「航路帯の防衛を担う上で、必要な措置となります」

 

 リヒター中佐は胸を張って星系防備の鉄壁ぶりを誇った。確かに、戦略上の観点でいえば航路帯と生産設備の死守を担うヴェンツェル星系が果たすべき責任は重い。ヴェンツェル星系に接続している航路帯は3本。もし、この星系が陥落した場合、人民連邦軍はさらに多くの進軍先の選択肢を得ることができてしまう。


「宇宙戦力自体は、護衛艦隊を再編したものが主になります。基本的に重巡航艦を中枢に据えた編成となりますね。ここの部分の詳しい部分は後日、改めてご説明いたします」

「ヴェンツェル星系の場合…、確か第二護衛艦隊も防衛用の宇宙戦力に編入されているはずだな」

「左様でございます。戦隊司令官のシューゲン准督は歴戦の猛者。さらに、ワープ航法を用いた奇襲戦術に対応できた数少ない公国軍人です」

「それに、私にとって命の恩人だからな」

 

 私は若干顔をほころばせながらそう返した。もっとも、航路防衛を主任務とする護衛艦隊が、いきなり拠点防衛に駆り出されるというのもなかなかの話である。帝国議会にて、帝国軍の動員命令が下されるように話は進んでいるはずであるが、決して現状が万全であるとは言い難かった。


めちゃめちゃいまさらですが、この時代の軍隊における階級には『将』と『佐』の間に相当する『督』が存在します。上級大佐の一つ上は『准督』、准将の一つ下は『上級大督』となっています。多少の差はありますが帝国、人民連邦、その他貴族軍も基本的に『督』の階級が存在します。

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