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二百五十二話 何とも味気なくあっさりしたものだ

 今、俺の目の前に立っているのは間違いなくホリプスなのだが、一瞬、本当にそうなのかわからなかった。

なんせこの男、なぜか全身包帯グルグル巻きのミイラ男みたいなありさまになっていた。


一体どうしたんだ?

討伐依頼にでも失敗したのだろうか?


「えっと…… その恰好は一体どうしたのかと素直に聞いてもいいものなのだろうか?」


「ふんっ! 君は何を言っているんだい? 僕がこんな目に遭ったのはそこにいるヴィノンがグランツにあることない事、吹き込んだからだろう!」


 忌々し気にそんなセリフを吐いて、後ろにいるヴィノンをキッと睨みつけた。


「はぁ…… ホリプスの方こそ何を言っているんだかね……。僕はあることしか言ってないよ。てかさ。勇者が二人いるパーティーメンバーの契約精霊を無理やり奪おうとして、その程度で済んでいることに驚いたよ。さすが二つ名持ち勇者(ネームド)にしてフィブレ家のご当主様だ。あり得ない程に優遇されているじゃないか」


 ヴィノンがなんか野良猫でも見るような目でホリプスを見てそんなことを言う。


「全く、グランツも僕の言い分も聞かずに…… 容赦なくここまでの暴力を振るうなんて……。もし、僕が死ぬようなことになったらどうするんだ!」


 どうやら、この男をこんな目に遭わせたのは、ヴィノンから報告を受けた序列(カレッジ)1位のグランツ自身か……。


やはり勇者の序列(カレッジ)は絶対に近いものだとみてよさそうだ。

おそらく序列一桁(シングル)二つ名持ち勇者(ネームド)>それ以外の勇者で明確な上下関係があるんだろうな。

上位貴族家当主で二つ名持ち勇者(ネームド)にここまでの事をしても一切問題なしとは……。

グランツがマジで世界最高の権力者かもしれないという俺の認識はあながち間違いでもなさそうだ。


「僕はもう君が墓の下にいる可能性も十分あり得ると思っていたんだけどね? グランツのやさしさに感謝すべきだよ」


「君のおかげでグランツに変に目を付けられてしまって、ハルト君の精霊を契約委譲してもらえなくなってしまったよ。これが精霊術士全体にどれほどの損失なのか理解できないとは悲しい限りだよ…… はぁっ……」


 そんな捨て台詞を吐いて少し恨めしそうに、肩を落としてトボトボと式典参加者の人混みの中に消えていった。


ホリプスについては連盟 ……というかグランツの鉄拳制裁+睨みで十分な抑止力が効いているようだ。

とりあえず、これ以上俺やピリカに火の粉を掛けてくる心配はしなくてもいいだろう。

まぁ、しばらく最低限の警戒だけは必要かもしれないが……。


 ……。


    ……。


 しばらくして、新たに就任した勇者としてアルド達がグランツから式典参加者に紹介された。

俺はパーティーメンバーとしてヴィノンと共に列席者の中に立っているが、式典自体には自分でもびっくりするほど興味が無かったので、壇上で権力者の面々が入れ代わり立ち代わり垂れ流している口上も全く記憶に残っていない。


アルドもアルも立場上、勇者としての立ち位置が必要だし、俺もその恩恵のおこぼれでヒキオタライフを送ることを目論んでいる以上、この催事が必要なものであることは理解している。


 とはいえ、ただこうして無為に突っ立っていても暇だし、脳内PCに記録してある図書館の本を読んでいる。


「なぁピリカ」


「ん? どうしたの?」


 俺の肩の上に跨っているピリカが返事をする。

もちろんその姿は俺以外の誰にも見えていないが、ここには勇者や日輪級冒険者が多く集まっている。


 案外、ピリカの存在を知覚している奴も結構な人数いるかもしれない。

この状態のピリカはあくまでも存在を俺の魂の影に隠しているだけで、認識阻害の効果はほぼ無いらしいからな。


「【ラライエ創成記】に【勇者連盟】って、大昔に暴君ディランとの戦いで生き残った48人がその始まりって書かれているけど、そもそもこのディランって奴…… 実在したのか? これが史実だとすれば、今でいう勇者相当の手練れ500人相手に戦って、死ぬまでに452人ぶっ殺したって事だよな? これが本当だとすれば、このディランって奴はシュルクが問題にならないくらい強くね?」


「ピリカもそこはわかんない。人間同士が争って何人死んでも、別に興味ないし……」


 なかなかにクールな回答が帰ってきた。

何となくそんな答えが返ってくる可能性もありそうな気もしていた。

ある意味、想定の通りの返事なのかもしれない。


「ラライエの生物は皆、固有特性が発現する可能性を持っているからね。天文学的確率だけど【常時超人的な力を発揮できる】なんて固有特性が発現する可能性もゼロじゃないから、多分、そういう人間が現れたんじゃない?」


 なるほど……。

それがピリカの見解か。

暴君ディランはラライエの世界においてはあくまでの人類史の一幕に過ぎないというわけか……。

たった一代限りで、平家物語を実践して見せた。

そんな感じな気がする。

こいつを討ち取った48人の末裔が【勇者連盟】の屋台骨を担い、その数を増やしたり減らしたりを繰り返しながら今に至る……。

そんなところかな。


「そういえば……」


 ピリカがディランについて何か思い出したようだ。


「ん? どした? なんか思い出した感じか?」


「確か、そのディランって人間の国は今も大陸の北に残っているって……。昔、人間達がそんなことを言ってたよ」


「え? そうなのか?」


 脳内PCから地図のデータを引っ張り出してきて確認する。

中央大陸全土の地図は手元にはないが、すぐ北ということは国境の向こう側の記載を見れば……。


 ティラール帝国……


「確かに国の名前に暴君と呼ばれた男、【ディラン】の名残が残っている感じがなくもないな」


 とりあえず、今の俺にはそこまで重要な情報ではない。

マメ知識程度に記憶の片隅に残っていればいいだろう。


  ……。


    ……。


 そんな感じで【ラライエ創成記】を冒頭に近い部分を読み返しているうちに式典はつつがなく終わったみたいだった。


 これでアルドは序列(カレッジ)98、アルの序列(カレッジ)202の勇者となった。

通常、新しい勇者の序列(カレッジ)は末番になるらしい。

実際、ここに来ていた他の二人の勇者の序列(カレッジ)405・406だった。

正直、全然興味も無かったのでこの二人の名前すら確認していない。


 ヴィノンの話だと二人がいきなりこんな序列(カレッジ)になるのは極めて異例の事。


本来、アルは【セントールの系譜】なのでガル爺の序列(カレッジ)を継承して22番になるはずなのだが、シュルクが倒されたことで【セントールの系譜】としての責務が失われている。


 しかしながら、ガル爺と共に国家存亡の脅威であるシュルクと戦いこれを討伐した戦果・アルドはそれに加えてペポゥ討伐の実績が評価されてこの序列(カレッジ)ということらしい。


 まぁ、連盟の本当の所の思惑は良く分からないのだが、今の俺達にはこれを受け入れる以外の選択肢は無さそうだ。


 ……で、俺とヴィノンの冒険者証はアルド達とは違って、今持っている冒険者証と交換で日輪級の橙色の冒険者証を別室で渡されてそれで終了した。


 何とも味気なくあっさりしたものだ。

日輪級とは言っても、勇者とそうでない者とではここまで扱いの差があるのか。

それでも、日輪級は充分に特権階級の冒険者ということなのだろうが……。


 別室から広間に戻ると、新たに勇者となった4人の周りにはそれぞれ人だかりができていた。

特にアルドとアルの二人に集まっている人数が多いようだ。


 おそらくこの大陸の有力者が新しい勇者達とのコネクションを構築しようとしているのだろうな。

この辺りの事は本人たちに任せておこう。


「予想通りの光景だね。二人には今日の所は適当に愛想笑いだけして流しておくように言ってあるから大丈夫だとは思うけどね」


 隣でヴィノンがそんな事を言ってる。


「律儀に彼ら全員と面会や招待に応じていたら、何年も王都から出られなくなっちゃうからね。帰ったらシアさんと僕で、面会に応じる相手を厳選するよ。あんまり評判の良くないのもちらほらいるみたいだし……」


 ヴィノンは二人の周りに集まっている人だかりを、少し冷めたような目で見ている。

これはもう、ヴィノンのチェックが始まっているポイな。

ヴィノンとシアさんに任せておけば、とりあえずあの二人にとって有害な人物が関わってくるリスクは低減できそうだ。


 長らく投稿できなくてすいません。

新しい部署が有る事業所が遠くって、通勤時間だけで往復4時間……。

地味にこれがキツくって……。

これだけで時間と魂がゴリゴリ削られていきます。

ホントに仕事って収入を得るだけの人生の浪費かもって、

思っちゃいますよね……。


 とはいえ、何とかお盆休みは九連休確保できました。

ここで何とか数話投稿できるように頑張ります!!


 引き続き、よろしくお願いいたします。

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