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二百四十九話 俺もちょっと甘く考えていた

 ヴィノンが連盟本部に向かい別行動となり、残された俺達は全員で王都の市場に向かうことになった。


「今回ばかりはヴィノンさんがいてくださって感謝しなくてはなりませんね。私ではアルエット様をお守りできなかったかもしれません」


「あの、ホリプスという精霊術師が勇者だからか?」


 俺達の後ろを歩いているアルドとシアさんがさっきの一件について話をしている。


「ええ、しかもあのお方は二つ名持ち勇者(ネームド)でフィブレ伯爵家の当主ですからね。最も伝統ある血筋の勇者のひとりでもありますから…… 素行が多少悪い程度の事では問題にすることは難しいです」


「あの男の態度はそれを理解した上でのことだと?」


「どうでしょう…… 全てご自分の思い通りに行くような環境で育ってきたような方ですからね」


 それはそれでタチが悪いな。

見た目は大人、中身は幼稚園児の精神構造ってか?

なまじ貴族や勇者としての教養を仕込まれている分、始末に負えない可能性がある。

二人の話に聞き耳を立てながら、ホリプスをそんな感じに評価してみた。


「初めて会った時からそうだが…… ますますヴィノンという男が分からなくなってくる。余所者の俺達に良くしてくれて、悪いやつではないとは思っているが…… 二つ名持ち勇者(ネームド)にあそこまでやれるなんて実際の所、何者だ?」


 それな!

それは俺もとても気になっている。

シアさんはヴィノンの出自についてなんか知っているのか?


「すいません…… それは私の口からはちょっと…… 私もあの方の全てを知っているわけではないので…… 出来ればご本人から聞いてください」


 やはり、この人は何か知っているのか……。

でも、無理に聞き出して彼女との関係を悪くすることも、情報漏洩で彼女の立場を悪くすることも得策ではない。


 ヴィノンが何者であったとしても、今のところ俺達にとってデメリットは全くない。

ヴィノンの正体については当分棚上げにしてもかまわないだろう。


「俺もあの状況を収める方法が全く思いつかなかった。もし、あそこに俺が居合わせた場合、ホリプスが輪切りになった後、ハルトと王都を突破して一緒に逃げてやるくらいしかできなかっただろうからな」


「ちょっ…… アルドさん! 演技でもないことを言わないでよ。そんなことになったら私はどうしたらいいの? ハルト達と一緒に逃げるにしてもどこに? 勇者殺しなんて、連盟は絶対に許さないわよ? 逃げ場所なんて世界のどこにもありはしないわ」


 ところが、俺とアルドはすでにその勇者殺しだったりするんだよなこれが……。


「アルエット様の仰る通りです。冗談でも笑えませんね。そんなことになったら、お二人は乱心したと報告し、アルエット様をお守りするためにお二人を切り捨てます」


「それでいい。その時は俺とハルト、ピリカの三人でなんとかする」


「いやいや、その時はアルドも俺を切り捨ててくれていいんだぞ?」


「俺はもうお前達と一蓮托生だと思っている。同じ大陸から来て、同じ業を背負う者同士だろ?」


 確かに…… リコが殺された時、自分達の身の安全を最優先にして逃亡していれば、勇者殺しにはならなかっただろうな。

だが、単純な我欲のためだけにリコの命を踏みにじったセラス達を許せなかったわけで……。

そういう意味では俺もアルドも望んで勇者殺しの業を背負ったという見方も出来るかも……。


「ああ、そうだ…… そうだったな ……すまない」


 俺の返事にアルドは納得したように、穏やかに笑った。


「な、なによ! なんか二人だけで分かり合ったような空気出して! 私だってハルトを見捨てるようなことはしないんだからね!」


「いけません、アルエット様。もし、そのような事態になった時はハルトさんの言う通り、ご自分のお立場と安全を最優先に行動なさってください」


「いやよ!」


 シアさんとアルの議論は平行線になりそうだ。

これは収集が付かなくなるな。


「まぁ、今回は何とかなりそうなんだ。時間が勿体ない。みんなで王都を見て回ろうぜ。ピリカ、行くぞ」


「はーい」


 こう言って半ば強引に、話を切り上げさせて王都の市場に向けて歩き始めた。



  ……。


    ……。



 上流階級のセレブ街を抜けて歩くことしばし……。

大きく視界が広がる場所に出てきた。


「ここが王都の西広場です。ここに隣接している区画はほぼ全て商業地域ですね。区画ごとに店に特徴があるので、目的に応じて回られてはいかがでしょうか」


 王都に土地勘のあるシアさんがさらっと市場の概要を説明してくれた。

食品店、装備品、服飾系など…… 大体似たような店舗が固まって軒を連ねているわけか。

日本でも似たような形態を持つ地域は確かにあったな。

オタクに馴染みのある所だと東京の秋葉原とか大阪の日本橋オタロードとか……。


「シアさん、あれは?」


 俺は視界に入った広場沿いの一角に大きく大きな建造物について聞いてみた。

明らかに、商業施設とは異なるであろう箱ものが気になった。

なんか、宗教的な施設だろうか……。

ネットでなんちゃら大聖堂などのワードで画像検索すればヒットしてきそうな感じの外観だ。

ラライエに来てからこっち、この様式の建物は初見だな。

この世界は宗教的な概念がかなり薄く感じるところがあったから、そういう意味でも少し興味を引いた。


「あ、あれは国立の図書館ですね。世界最大の蔵書量と言われています」


「へぇ…… あれが…… 誰でも入れるのか?」


「ええ、入館料を支払えば蔵書の閲覧は出来たはずです。ですが、日輪級のギルド証が発行されれば無償で入れますよ」


「そっか……」


 想定していた答えではなかったが、それでも十分に興味深い。

ここは機会があれば来ようと思っていた場所の一つでもある。

日輪級のギルド証が発行されるまではまだもう少し日数がかかるはず。

それまで暇を持て余すのもなんだし、入館料を払ってでも近いうちにまた来ることにしよう。

もともと機会があれば行っておきたかった場所でもあるしな。

今日の所は脳内PCのマップに図書館の場所をプロットだけつけておいた。



  ……。


    ……。



 アルのお目当ては当然、服飾関連の店が軒を連ねるエリアだ。

まぁ、わかってはいたけどな。

俺とアルド、そしてピリカの三人は店の軒先で座り込んで他愛のない話をしながら目をキラキラさせて、服やアクセサリーを選ぶアルの気が済むのを待っている。


 やはり異世界でもこういうのが好きな女子の買い物は恐ろしく長い。

シアさんは役目上、アルに付いているのでどうだかわからないが、ここでたむろしている俺達はこういうのにあまり興味を持てないグループというわけだ。


「アルドが勇者になるにあたって伝えておきたい事がある」


「どうした急に?」


 アルド、オタクとしてはそのリアクションはとても親しみが湧くぞ。


「俺達がセラスを手に掛けた【勇者殺し】だということを連盟は知っているのは前に話したよな?」


「ああ」


「はっきりと言葉にはしなかったが、序列(カレッジ)一番、グランツの言葉は予想通りだったよ」


 これ以上問題を起こさなければ、連盟はセラスの件を追求しないと暗に言っていることに間違いないということを伝えた。


「……そうか」


「もう一つ、ピリカの事だ」


「ん? なぁに?」


 話題が自分の事になって、ピリカが反応する。


「俺もちょっと甘く考えていた。まさかピリカを狙ってくるバカが勇者にいるのは想定外だった」


「俺も精霊術師の事はよく知らないが…… 最強の精霊術師と言われるような二つ名持ち勇者が絡んでくるとなると、やはりピリカは相当に強いんだろうさ。強力な精霊は世代を超えて精霊との契約を代々継承していくような話を聞いたことはあるな」


「なるほど…… ホリプスが契約の移譲しろとか言っていたのはそういうことか。ふざけやがって…… 俺からピリカを奪いたければ、俺を殺してからにしろってんだ」


「ホントだよ! ハルトを殺したければピリカを殺してからにしろってんだ!」


 なんかピリカが俺の言葉をまねした感じを出しているが、その意味は少し違う気がする。

いずれにしても奴が俺とピリカを引き離すことは無理ゲーだということは変わらないけどな。


「三年近くかけてこんな所まで来ておいてなんだけどさ…… 俺は今の人類社会でお気楽スローライフを目指すことよりも、ピリカと一緒に生きていくことの方が大事だ」


「それは、お前を見ていればわかる。いまさらだな」


「だからピリカといる事で連盟や人類社会を敵に回すようなことになった時は、俺は迷わず全てを投げ捨てて故郷に戻る。そして二度と出てこない…… アルドは俺のためにこんな所まで一緒に来てくれたんだ。もし、俺がそんな決断をした時、アルドはどうするのか…… そこは気にしておいてほしい」


「ああ、わかった。だが、俺に黙っていなくなるのはなしにしてくれ。その時、俺がどうするのか決めるためにもな」


 アルドは俺の決断を聞いて怒るでもなく、静かにそう答えた。


「ああ、わかった。約束する」


「あら、こんな所で男二人座り込んで……  って、ピリカは違うわよね。何を話し込んでるの?」


「えっと、ハルトとピリカはずっと一緒にいようねって話」


 まぁ、別に間違いではないが…… ちょっと要約しすぎじゃないのか?


「またこの子は……」


「買い物はもういいのか?」


「ええ、別に王都にいるのは今日だけじゃないしね。シアさんの話じゃ、まだ一か月以上王都にいる事になりそうだって……」


「マジかぁ…… でも、勇者の叙任式は一週間後ぐらいだって……」


「はい。でもアルエット様は伝統ある【セントールの系譜】ですからね…… 勇者となられたとあれば、色々と面会の申し込みなどもございますので…… 皆様には申し訳ないとは思いますが、お付き合いいただければと」


 そういうことね。

二つ名持ち勇者(ネームド)【裂空剛拳】のガルバノという名はそれほどだったいう事か……。

それならそれで俺としては王都で色々とやれることがありそうだ。


 なんとか休日返上して仕事した分の代休が取れたので

なんとか一話投稿するチャンスが作れました。


 前話投稿したとき、久しぶりに1いいねいただきました。

とても嬉しかったです。

 ありがとうございます。

これだけで、読んでくれている方がいると分かってとても

励みになります。


 結局のところ、私自身の精神構造が単純なので

ブックマーク・評価ポイント・いいねなど反響いただければ

それだけでこの上ないモチベーションになります!


 四章の本筋に入るまで感覚的にあと三話ぐらいでしょうか……。

その辺からちょっとストーリーのテイストが変わってきますので

引き続きよろしくお願いいたします。

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